このページの本文へ移動

1089ブログ

壁画以外にもみどころがたくさん!特別展「キトラ古墳壁画」

特別展「キトラ古墳壁画」(2014年5月18日(日)まで、本館特別5室)は、おかげさまで初日以来、多くのお客様にお出でいただいております。どうもありがとうございます。
今回はこの展示の壁画以外のみどころや周辺のみどころをご紹介いたします。

キトラ古墳というと、どうしても壁画ばかりが注目されますが、副葬品や棺関係資料等の出土品にもみるべきものがあります。例えば、鉄地銀張金象嵌帯執金具(てつじぎんばりきんぞうがんおびとりかなぐ)。難しい名称ですが、大刀(たち)を腰に下げるための金具と考えられています。金線による連続したS字状の象嵌は、所々微妙に太さを違え、変化のある繊細な出来ばえです。

 
出土品や推定復元された黒漆塗銀装大刀の展示


本展覧会では、壁画・出土品の実物資料にくわえて、壁画の取り外し作業で用いた道具、複製陶板、高松塚古墳壁画の模写等が展示されています。いずれも文化財の保存や記録に関わるもので、本展覧会ではこの側面も皆さまにご覧いただきたいと思っています。


壁画の取り外し作業で用いた道具

複製陶板は、壁画取り外し前の高精細デジタル画像(フォトマップ)等の画像データ等にもとづくもので、漆喰の質感や、剥落しかけて浮き上がった漆喰の表現、下書きの際についた刻線等図像の細かな表現や色調が、実物さながらにうつされたものです。


壁画複製陶板

高松塚古墳の模写は、1972年の壁画発見から間もなく国により実施されたもので、前田青邨画伯監修の元、当時、第一線で活躍していた日本画家7名(平山郁夫、守屋多々志、月岡栄貴、近藤千尋、今井珠泉、蓮尾辰雄、若林卓の各氏)が分担し、制作されたものです。

また、本展覧会に関連して、館内の2か所で高精細デジタル画像等を利用したコンテンツをご紹介しています。東洋館地下のVRシアターでは、高精細デジタル画像やVR(ヴァーチャルリアリティ)を用いたVR作品「キトラ古墳」が上映されています。表慶館では、「飛鳥-キトラ2016-」が行われており、キトラ古墳に限らず飛鳥地域の歴史・文化の魅力等が分かりやすく紹介されています。「2016」とは、キトラ古墳周辺地区が国営公園として開園する予定の年度を指しています。この中の「キトラに触れる!」コーナーでは、肉眼ではみられない壁画の世界をサイエンスでみる工夫が凝らされています。

現在、皆さまに長い待ち時間をいただいている本展覧会ですが、私が思う理想的な見学の順序は、(1)VR作品「キトラ古墳」 → (2)特別展「キトラ古墳壁画」 → (3)「飛鳥-キトラ2016-」です。館内各所で繰り広げられる、様々な角度からのキトラ古墳・壁画の魅力を、ぜひご堪能ください!

カテゴリ:研究員のイチオシ2014年度の特別展

| 記事URL |

posted by 建石 徹(文化庁古墳壁画対策調査官) at 2014年05月01日 (木)

 

本館リニューアル─16室「アイヌと琉球」の見どころ

昨年12月まで『民族資料─アイヌ・琉球─』の展示は本館15室で行われていましたが、今回のリニューアルでは展示室を16室に移し、その名を改め『アイヌと琉球』として新たなスタートを切りました。

この16室では、アイヌの人びとの文化と琉球王国の文化をご紹介し、南北に長い日本列島の文化の幅の広さと奥深さとをご覧いただきます。
アイヌ文化は12~13世紀以降、サハリン・千島・北海道・北東北に暮らしたアイヌの人びとが狩猟や漁撈そして植物採集に加え、アムール川下流域や沿海州の人びとや本州の和人との交易をもちつつ育んできた独自の文化です。
一方、琉球文化は、琉球王国が15~19世紀に南西諸島を治め、日本はもとより中国や朝鮮半島そして東南アジアと関係を結ぶなかで、独特な文化をつくりあげたものです。

実は今回のリニューアルで展示室はラウンジ側に風除室を設けたために少し狭くなりました。でもそれを感じさせないのが今回のリニューアルで新しくなった展示室の特徴です。
展示室の壁の色や照明を変えたことによって展示室全体が明るくなり、さまざまな工夫が凝らされた展示ケースは、作品の魅力を漏らさずご覧いただけます。

展示室は入口から出口(その逆からでも)まで見通しができ、どんな作品が展示されているかひと目で分かります。気になる作品があったならば、まずは展示室の中へ足を運んでみてください。

本館16室

さて今回の展示のテーマ「アイヌの祈り」です。その見どころは、祈りの場面で使われたさまざまな道具です。アイヌの人びとの祭りや葬儀の際には欠くことのできないイナウ(儀礼用の木幣)やイクパスイ(儀礼用の箆)をはじめとし、人びとが身に着けた冠や首飾りなどの装身具に加え、イオマンテ(クマの霊送り)に使われた道具などをぜひご覧ください。

 
(左)イナウ(儀礼用の木幣)やイクパスイ(儀礼用の箆)など儀礼用の道具
(右)シトキ(首飾り) やサパンペ(儀礼用の冠) などの装身具



16室では7月6日(日)までは「アイヌの祈り」の展示を行い、その後は「琉球の工芸」(7月8日(火)~9月28日(日))、「アイヌの狩猟と漁撈」(9月30日(火)~12月23日(火・祝))、「アイヌの飾り」(2015年1月2日(金)~3月22日(日))という順番で展示を行います。

 


 

カテゴリ:研究員のイチオシ展示環境・たてもの

| 記事URL |

posted by 品川欣也(考古室研究員) at 2014年04月30日 (水)

 

まわす!さぐる!デジタルでトーハクをいじりたおそう

本館19室の「みどりのライオン 体験コーナー」では3Dのデータを自由に動かしてみることのできる「トーハクをまわそう」と、大型タッチモニタで気軽に高精細画像を楽しめる「トーハクで国宝をさぐろう」を新たに設置しました。
これまでにも、3Dデータはコンピュータグラフィックス動画を館内のモニターで上映し、また高精細画像は「e国宝」ウェブサイトを閲覧できるパソコンを設置していました。今回のリニューアルではより親しみやすく、楽しくご覧いただけるよう、専用のシステムを開発しました。





トーハクをまわそう

展示ケースの中にある文化財、その「底」はどうなっているんだろう?上面は?裏側は?
普段、動かすことの出来ない文化財を自由に動かしてみませんか?

トーハクをまわそう

「トーハクをまわそう」では、マウスやキーボードを使わず、空中で手を動かすことでスクリーンに投影された三次元データを回転させたり、拡大・縮小させたり、移動させたりしながら、作品を立体的に把握することができます。
またモノクロ表示に切り替えることでカラーではわかりづらかった表面の凹凸、例えば鑿の跡や刻まれた銘文を鮮明に見て取ることができます。あるいは、ドット表示にすることで反対側を透かして見える形にして、よりはっきりと立体構造を認識することができます。
このように、実物や写真だけでは見えてこない様相を観察できるのは、デジタルならではの面白さです。

トーハクをまわそう イメージ画像 トーハクをまわそう イメージ画像

トーハクでは以前より文化財の三次元計測に取り組んでまいりました。
立体的な形状の精密な計測によって得られたデータは、文化財の「現時点での状態」を記録するアーカイブとしても有意義ですし、さまざまな調査研究にも活用できます。
しかし、これまで来館者の皆さまに向けては映像にして流すだけで、「自由に」ご覧いただくということができていませんでした。以前、スマートフォンアプリの「e国宝」をリリースしたときにも、「今度は彫刻や立体物を3Dでぐりぐり動かしてみたい!」というお声がありました。
「トーハクをまわそう」では、今回マウスやキーボードでもなく、タッチパネルでもない、新しい入力デバイスとして「Leap Motion」というモーションセンサー(手などの動きを読み取るセンサー)を使っています。空中で手を動かしてデータを操作するというのは、新しい感覚です。慣れるまで少しかかるかもしれませんが、コツは少し体をセンサーから離すことと、ポイントするときは指を一本にすることです。操作をつかめてきたら、思う存分「ぐりぐり動かして」みて下さい。

トーハクをまわそう イメージ画像



トーハクで国宝をさぐろう
2010年3月からウェブ版、iPhone版、Android版とリリースしてまいりました、「e国宝」。
東京・京都・奈良・九州の4つの国立博物館所蔵の国宝・重要文化財の高精細画像を多言語の解説と共にご覧いただけるデジタルコンテンツです。
今回のリニューアルでは、そのe国宝を大きなタッチパネルで操作・閲覧できる新型を開発しました。

トーハクで国宝をさぐろう トーハクで国宝をさぐろう

まずはとにかく触ってみてください。
そこには一日あっても見切れないほどたくさんの作品が皆様を待っています。
作品全体にピントの合った高精細画像を拡大していただければその綺麗さに驚いていただけるはず。
細かすぎて展示ケース越しではよく見えなかった部分もはっきり、くっきりご覧いただけます。
検索機能もウェブ版・アプリ版のe国宝同様ご利用いただけますので、気になった時代や地域、分野などでどんどん検索をかけてください。

トーハクで国宝をさぐろう トーハクで国宝をさぐろう

スマートフォン版「e国宝」は、美術や歴史がお好きな方ならもはや定番アプリにもなっています(よね?)。今回の取り組みは、今までそのどちらもご存知ではなかった皆さまや、利用できるツールをお持ちでなかった皆さまにも気軽に触って知っていただけるよう、視覚的にも楽しい工夫を盛り込んでおります。壁面のスクリーンにも映し出されますので、お気に入りのあの作品のディティールを大画面で見ることもできます。
「機械とか難しそうで苦手なのよね」という方も、リラックスして触れてみていただければと思います。
 

カテゴリ:研究員のイチオシ展示環境・たてもの

| 記事URL |

posted by 村田良二(情報管理室長)/和久井遥(情報管理室) at 2014年04月29日 (火)

 

本館19室が「みどりのライオン体験コーナー」として生まれ変わりました!

本館19室「みどりのライオン体験コーナー」は、博物館をより楽しんでいただくための教育普及スペースとして生まれ変わりました。
入り口では、トーハクの教育普及活動のシンボルマークの「みどりのライオン」と、ボランティアが、皆様をお出迎えします。

本館19室

この部屋では、「トーハクをさわろう」「トーハクでデザインしよう」「トーハクをまわそう」「トーハクで国宝をさぐろう」「トーハクで○○のできるまで」の5つのコーナーをご用意しています。
そんなみどりのライオン体験コーナーの楽しみ方は、これです。

1.いろいろ体験してみる
この部屋では、さまざまな体験をすることができます。
興味をもったものをじっくり体験してもよいですし、時間があれば、全部体験してみてもよいかもしれません。どれも、お気軽にお試しいただきます。

まずは「トーハクをさわろう」。
博物館の中で、モノにさわるなんてダメでしょ?いいえ、ここでは、むしろ触れてみてください。これは、さわってわかる本館の地図なのです。
1階の地図では、仏像や刀、やきものなど、ホンモノと同じ材料や技法のピースがはめ込んであります。2階の地図は、クイズのようになっています。渦巻きで縄文時代を表したり、畳の縁でお茶室をあらわしたり。次に行く展示室や見てきた展示室は、どれかな?
トーハクをさわろう


次に「トーハクをまわそう」。ここでは、センサーの上で手をかざしたり、動かしたりすることで、スクリーンに映ったトーハクの作品をまわしたり拡大したり、白黒に色を変えたりすることができます。展示では決して見られない角度に作品をまわしたら、何か新しい発見があるかもしれません。
トーハクをまわそう


「トーハクで国宝をさぐろう」では、国立博物館4館(東京・京都・奈良・九州)の国宝と重要文化財をご覧いただけます。タッチパネルを気軽にさわってみてください。作品の細かい部分まで、拡大して見ることもできますよ。
トーハクで国宝をさぐろう


そして、「トーハクでデザインしよう」。本館の展示室でみられるような日本の伝統模様のスタンプをご用意しています。トーハクを訪れた記念に、オリジナルのポストカードを作って、お友達やご家族にに手紙を出してみてはいかがですか?
トーハクでデザインしよう


2.じっくり見て、思いをめぐらせる

「トーハクで○○のできるまで」のコーナーは、一つの作品ができあがるまでの過程をご覧いただけます。
博物館で展示している作品は、どんな技法や材料を使って作られたのか、まだはっきりわからないものもあります。今回は、「突起装飾坏」を調査し、どうやって形作り、装飾をしたかといった工程を、東京藝術大学大学院インターンシップの12人の学生が作りました。球の作り方、青い突起の付け方など、考えられるさまざまな可能性を試してみました。東洋館で展示している原品とも比べてみてください。
期間中には、ギャラリートークもあります。

トーハクで○○のできるまで
この展示は、さわることはできません。


3.また展示を見に行ってみる

みどりのライオンでリラックスし、ワクワクした後は、ぜひまた、展示室をめぐってみてください。まだ見ていない展示室も、きっと、さらに楽しくご覧いただけますよ。

明日の1089ブログでは、「トーハクをまわそう」と「トーハクで国宝をさぐろう」について、もう少し詳しくご紹介します。
 

カテゴリ:研究員のイチオシ教育普及展示環境・たてもの

| 記事URL |

posted by 鈴木みどり(ボランティア室長) at 2014年04月28日 (月)

 

龍が、二龍になりました! でも一流の水墨画です!!

ご好評いただいている特別展「栄西と建仁寺」も、会期半ばを過ぎ、4月22日(火)から後期に入りました。サッカーにたとえるならば前半終了、出場選手もかなり入れ替わりました。読者の皆さまはすでに、脆弱な文化財を守り後世に伝えるため、展示期間に制限を設けていることをご承知のことと思います。作品の中には、かなり高齢の選手もおりますので。

それはともかく、とくに大きく変化した「第3章 近世の建仁寺」から、建仁寺本坊の大方丈の障壁画を公開している展示室について、話題にしましょう。

建仁寺大方丈6室のうち仏間を除く5室は、海北友松の障壁画(襖絵、壁貼付画)によって囲まれていました。ところが、昭和9年(1934)の室戸台風で方丈が倒壊したため、これら襖絵や壁貼付画は、50幅の掛軸に改装され、以降、京都国立博物館に保管されるようになったのでした。現在、方丈にはその高精細デジタル複製画がはめ込まれていますが、本展に出品されているのは、もちろんオリジナルの方で、すべて重要文化財です。


本坊方丈襖絵(高精細デジタル複製画)


大方丈障壁画は、中央の部屋の「竹林七賢図」、北西の部屋の「琴棋書画図」、南西の部屋の「山水図」、北東の部屋の「花鳥図」、南東の部屋の「雲龍図」で構成されます。これらについて、前後期おおよそ半分ずつ選手交代し、ご覧いただいているわけです。部屋の雰囲気もずいぶん変わりました。




これらの作品は、彼の代表作であるばかりでなく、日本の水墨画の名作としても知られています。なかでも有名な場面が、比類ない雄渾さをしめす水墨の「雲龍図」8幅(元襖8面)でしょう。



重要文化財 雲龍図 海北友松筆 安土桃山時代・慶長4年(1599) 京都・建仁寺蔵
[展示期間 8幅のうち 左4幅(上):3月25日(火)~5月6日(火・休) 右4幅(下):4月22日(火)~5月18日(日)]

前期には、口を閉じた龍4幅(元西側4面)が展示されていましたが、展示替えで口を開いた龍4幅(元北側4面)が登場し、二龍が向き合いました。二龍ですが、画は一流です!!縦2メートル近く、横は4面で5~8メートルずつ。迫力満点の大画面です。5月6日まで全8幅を展示、この期間、向き合って視線をぶつけあう二龍の姿をご覧いただけます(5月8日以降は、口を開いた龍4面のみを展示)。


海北友松(1533~1615)は、琵琶湖の東岸で、浅井氏の家臣、つまり武家の子として生まれ、戦国の動乱期、幼くして京都・東福寺に入り禅林で過ごしました。40代で還俗して武道に励み、50~60代から画家として本格的活動に入ります。「剣」を「筆」に持ち替えた人と言ったらよいでしょうか。その画の迫力には、どうも武人のDNAが関係しているように思えてなりません。友松が描いた龍の画が朝鮮国にわたり、彼の地の人々にも鑑賞され、その名が伝わっていたという事実も知られています。それにしても50~60代から83歳で没するまでの画業、高齢社会の今日、希望と勇気を与えてくれる画家ですね。じつは建仁寺大方丈の障壁画制作は、慶長4年(1599)67歳のときで若描き(!?)なのです。

海北友松は、日本美術史の教科書では、狩野永徳・狩野山楽・長谷川等伯・雲谷等顔とならぶ桃山絵画の巨匠と記されます。しかし永徳や等伯と比べると、知名度はまだ高くなく「かいほくともまつ??」などと読まれてしまいそうですが、この機会にぜひ「かいほうゆうしょう」という読み方とともに、その切れ味満点の水墨の魅力を知っていただきたいと思います。


ところで、ふつう日本の絵は、画面を寝かせて描くのですが、この「雲龍図」は、立てかけて描かれたようです。あちこちに水気の多い墨が縦方向に流れているのが分かります。
それから「画龍点睛」も。龍に命を吹き込む瞳は、丸い点「●」ではなく、力をこめ二画ではねた「∨」で表されています。


雲龍図(部分)

龍の画のなかで、この龍がいちばん引き締まった表情をしていてカッコいい、と私は思うのですが、その理由のひとつはこの眼にあるでしょう。丸い瞳では、可愛くなってしまうでしょうし。龍が巻き起こす大気の描写もすばらしい。とても力強く、龍が現れた瞬間を劇的に演出しています。ともかく墨の色が深く、濃淡の諧調が美しいのです。ぜひ実作品の前に立って、これらのことを確かめてみてください。

 

カテゴリ:news2014年度の特別展

| 記事URL |

posted by 山下善也(当館絵画・彫刻室主任研究員) at 2014年04月27日 (日)