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特別展とあわせて見たいトーハクの名品

6月24日(火)から、特別展「台北 國立故宮博物院-神品至宝-」が始まりました。
台北 國立故宮博物院の神品といえば「翠玉白菜」(6月24日(火)~7月7日(月)まで本館特別5室にて展示)ですが、トーハクにも玉器工芸の名品があるのです。

こちらは本物そっくりの石榴。種子の部分にはルビーがはめ込まれています。

瑪瑙石榴
瑪瑙石榴(めのうざくろ) 中国 清時代・19世紀 神谷伝兵衛氏寄贈
(12月7日(日)まで、東洋館9室にて展示)


東洋館9室「清時代の工芸」のコーナーでは、「翠玉白菜」同様、石材がもつ色彩の分布の違いを活かした「俏色(しょうしょく)」という技法による作品をご覧いただけます。


碧白玉双鯉花器(へきはくぎょくそうりかき) 中国 清時代・19世紀 神谷伝兵衛氏寄贈
(12月7日(日)まで、東洋館9室にて展示)



東洋館8室では「日本にやってきた中国画家たち―来舶清人とその交流―」(7月27日(日)まで)というタイトルで、中国絵画の展示を行っています。
江戸時代、長崎を通じて清朝の文化が多く日本に流入し、それらとともに、来日した画人も多くいました。
ここでは、浙江の画風をもたらし、江戸時代の画家に大きな影響を与えた沈南蘋(しんなんぴん)の「鹿鶴図屏風」などを展示しています。

鹿鶴図屏風
鹿鶴図屏風(ろくかくずびょうぶ) 沈南蘋筆 中国 清時代・乾隆4年(1739) 山崎達夫氏寄贈
(7月27日(日)まで、東洋館8室にて展示)



乾隆平定両金川得勝図(けんりゅうへいていりょうきんせんとくしょうず) 中国 清時代・乾隆42~46年(1777~81)
(7月27日(日)まで、東洋館8室にて展示)

こちらは、おそらく初公開となる、乾隆帝が外征の戦勝を記念してフランスで制作させ、天保3年に長崎を通じて流入した銅版画です。
台北 國立故宮博物院にも1セット所蔵されています。
江戸と清の深いつながりを感じさせる作品です。


また、東洋館5室では、「織繡(おりぬい)珍品選」と題し、書画を染織で表現する中国伝統の染織の数々を紹介しています。
台北 國立故宮博物院-神品至宝-」でも展示される「刺繍九羊啓泰図軸」などと見比べてみてください。

織繡
「織繍 珍品選」展示風景
これまであまり展示機会のなかった珍しい作品です



同じ展示室では、特集「日本人が愛した官窯青磁」(10月13日(月・祝)まで)も開催中です。
台北 國立故宮博物院-神品至宝-」では清の宮廷に伝わった貴重な北宋汝窯、南宋官窯の青磁が展示されますが、
こちらでは、日本で守り伝えられた貴重な官窯青磁の名品をご覧いただけます。


官窯青磁 
特集「日本人が愛した官窯青磁」展示風景


「翠玉白菜」だけではない!
台北 國立故宮博物院の至宝の数々とトーハクの名品をあわせて、見比べて、お楽しみいただければ幸いです。
 
 

カテゴリ:2014年度の特別展展示環境・たてもの

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posted by 奥田 緑(広報室) at 2014年06月28日 (土)

 

若き時 持ものとてや びんかがみ

江戸時代までは、鏡といえば銅製が普通でした。青銅(銅に少量の鉛(なまり)や錫(すず)などを混ぜた合金)で鋳造し、鏡面はピカピカに仕上げ、背面にさまざまな文様や図柄を表しました。美術史学や考古学でも、背面の文様の形式や意匠構成は、銅鏡の様式分類のポイントであり、美術館や博物館の展示でも、背面の文様表現を鑑賞いただくことになっています。
現在、本館13室金工の展示室では、8月17日(日)まで、取っ手のついた柄鏡を展示しています。

柄鏡は室町時代16世紀ころより多く作られ始めるようになります。初期の柄鏡は当時の円鏡に、柄を付けたような形式で、径に対して柄が長いものでした。図1は現在展示している柄鏡、図2は柄のない円鏡です。文様構成がよく似ていますね。また、鏡と接する部分で、柄の根元が縁に沿って左右に広がっているのがわかります(「持ち送り」)。

図1、図2
左:図1 橘鶴亀柄鏡  室町時代16世紀 東京国立博物館蔵
右:図2 橘鶴亀鏡  室町時代16世紀 東京国立博物館蔵(この作品は展示されていません)



戯作者(げさくしゃ)として有名な山東京山(さんとうきょうざん、同じく戯作者山東京伝(さんとうきょうでん)の弟 1769-1858)の著作に『歴世女装考』があります。鏡、櫛(くし)、簪(かんざし)など女性の装身具について述べた書で、戯作というより、歴史や由緒に分け入った考証学の感があります。その一節、「柄鏡」には興味深い記述も。たとえば平安時代『枕草子』の柄鏡の記録。あるいは中国・宋時代の「持ち送り」のある柄鏡の例を引いて、日本の柄鏡との影響関係を示唆し、その銘文に「整衣冠」(いかんをととのえ)云々とあることから、冠や襟などを見るために柄を付けたのだろうと考証します。

ただし、京山は「今のように鏡といえば柄があるようになったのは、わずかに100年来のことである。古い柄付の鏡はみな小さい。これを鬢鏡(びんかがみ)といい丸いものを紐鏡(ひもかがみ)という」とも述べ、柄鏡の流行は近年のものであること、時代の古いものは径が小さく、鬢(頭の左右の髪)を見るためのものであったとしています。

京山の時代、柄鏡の背面には有力者から庶民まで、広く人々の趣向を反映して、花鳥山水や人物故事など、バラエティにとむ図柄が表されるようになりました。径は大きく、対して柄は短くなっていきます(図3)。これは太平の世に、髪型がいっそう技巧的になるにつれて、鏡面を大きくしていったためといわれています。手持ちするには重くてやや使いづらかったのでしょうか、鏡掛にかけて使っていたようです(図4)。


梅竹柄鏡 銘「天下一津田薩摩守」 
図3 梅竹柄鏡 銘「天下一津田薩摩守」 江戸時代・18~19世紀 東京国立博物館蔵


浮世七ツ目合 寅申
図4 柄鏡の描かれた浮世絵
浮世七ツ目合 寅申 喜多川歌麿筆 江戸時代18世紀 東京国立博物館蔵(この作品は展示されていません)

 

カテゴリ:研究員のイチオシ

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posted by 伊藤信二(広報室長) at 2014年06月13日 (金)

 

日本人が愛した官窯青磁

官窯(かんよう)、ここでは皇帝の命によって青磁を焼造したと考えられる窯を指します。

この特集「日本人が愛した官窯青磁」(2014年5月27日(火)~10月13日(月・祝)、東洋館5室)は、中国・宋時代の官窯の器を、この一世紀のあいだ、日本人がどのように考えてきたのか、という問題についてとりあげたものです。特別展「台北 國立故宮博物院―神品至宝」が開催される本年、日本所蔵の汝窯青磁の盤や、国宝の下蕪瓶など貴重な作品が東洋館にならび、夢のような展示が実現しました。

ちょうど私が大学で青磁の勉強をはじめた2000年代の初めごろ、中国・河南省で北宋時代の汝窯青磁に関わる発掘調査が行なわれていました(清凉寺窯・張公巷)。汝窯は、古い文献に「汝窯は宮中の禁焼なり」という記述があることから北宋の皇帝にまつわるものとして注目される窯です。また浙江省では、南宋の古都杭州において官窯があったと推測される地点より窯址が発見されました(老虎洞窯)。こうした考古学的な発掘調査の成果によって、官窯青磁研究は活況を呈していました。

そして私が博物館に着任した2006年、中国で開催された「中国古陶瓷学会」のテーマは「青磁」でした。この学会に参加して、杭州市博物館や浙江省博物館、南宋官窯博物館を訪問し、市内から発見された大量の官窯青磁片を観ることができました。

そこで観た陶片は一つ一つ形も色もさまざまでした。「官窯」という言葉からは、徹底した管理のもと、決められた材料で規格化された器がつくられ、納品される。そんなイメージを持っていましたが、どうもそうではないらしい。ということがわかりました。じつは「官窯」の実体はよくわかっておりません。生産体制の全容がわかる発掘調査報告はまだなされていませんし、古く南宋時代の文献に登場して以来、今日まで語り継がれてきた北宋と南宋の「官窯」ですが、それらを語る言葉の裏側には文人や鑑定家などさまざまの眼が複雑に絡み合っているということを忘れてはなりません。

「官窯青磁とは何か?」
そう思い、あらためて日本国内に所蔵されている南宋官窯の作品を観てみると、薄いもの、厚いもの、軽いもの、重たいもの、黒っぽい胎や白っぽい胎といったように、やはり個々に異なる特徴をそなえていることがわかりました。なかには「米色」と呼ばれる黄褐色を呈した独特の青磁(写真1)もあります。それでもこれらは1点1点、日本人が「官窯」と考えてきた大切な作品です。

米色青磁
1: 米色青磁瓶 官窯 南宋時代・12~13世紀 常盤山文庫蔵

20世紀初頭、清の宮廷コレクションの汝窯・官窯青磁の存在が世界に明らかになったとき、中国や欧米ではこれらをもとに研究が進められました。しかし、この故宮コレクションを間近にすることができなかった日本では、別の視点から研究が進められます。

それは杭州で発見された南宋官窯「郊壇下」窯址で採集され、持ち帰られた陶片資料です。昭和初期、杭州領事をつとめた米内山庸夫(よないやまつねお、1888~1969)は、「郊壇下」官窯址を探査し、大量の陶片・窯道具を日本に持ち帰りました。いわゆる「米内山陶片」です。これらは戦後、繭山龍泉堂と東京国立博物館に分割して収められることになります。

この米内山陶片によって、似た特徴をそなえる作品が日本国内において次々に見いだされてゆきました。その代表的な作品が横河コレクションの「重要文化財 青磁輪花鉢」(写真2)です。これは古い箱に納められ、「高麗青磁鉢」の墨書があることから、早い時期に日本に将来されたものと考えられる貴重な作品です。

重要文化財 青磁輪花鉢
2  重要文化財 青磁輪花鉢  官窯 南宋時代・12~13世紀 東京国立博物館蔵

また、米内山陶片のなかには釉調が黄色を帯びたものが一定量ふくまれており、日本人はこれら「米色青磁」を偶然にできた失敗作ではなく、意図してつくられた南宋官窯の青磁として考え、伝世品を見いだしてゆきます。この米色青磁は清の皇帝によってみとめられることがなかったのでしょう。台北故宮には1点もないといいます。現在、世界に4点しかない完形の米色青磁はすべて日本にあり、そのうち3点が常盤山文庫に収蔵されています。(3点すべて特集において展示中)

日本は古来大量の中国青磁を将来してきました。それは日本人にとってとても貴重なものであり、憧れの器でありました。こうした文化的な背景が日本人の青磁を鑑る眼をきたえてきたのだと思います。


汝窯盤とかつて南宋官窯「修内司」と位置づけられた盤
汝窯盤とかつて南宋官窯「修内司」と位置づけられた盤。文豪川端康成が見いだした究極の美をご堪能ください。
3() 青磁盤 汝窯 北宋時代・11~12世紀 個人蔵(川端康成旧蔵)
4()青磁盤 南宋時代・12~13世紀 常盤山文庫蔵(川端康成旧蔵)


今回出品されている作品のなかには、現在のところ生産窯がわからない作品も含まれています(写真4・5)。出土資料との比較から、どこか似ている特徴があればすべて生産窯をあてはめて考えようという傾向が大勢を占める中国陶磁研究の昨今ですが、たとえ故宮コレクションに無くても、生産窯が見つからなくても、日本人が「官窯」、つまり青磁のなかでも際立ってすぐれていると考え、大切にまもり伝えてきた作品がいま眼の前にあります。この特集「日本人が愛した官窯青磁」は、私はこれらをどう伝えていけばよいのか、自らに問うための展示でもありました。

青磁下蕪瓶
5国宝 青磁下蕪瓶 南宋時代・12~13世紀 アルカンシエール美術財団蔵

この企画にご協力くださった常盤山文庫はじめ、多くの皆さまに深く感謝申し上げます。

 

カテゴリ:研究員のイチオシ特集・特別公開

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posted by 三笠景子(保存修復室研究員) at 2014年06月06日 (金)

 

悪戦苦闘! 文化財取り扱い体験

5月25日はとてもお天気のいい日曜日でした。
この日にトーハクで開催したのが「学芸員に挑戦!」という体験型ワークショップです。
抽選で選ばれた参加者が、学芸員の仕事である展示や調査に欠かせない、「文化財の取り扱い」に挑戦しました。
ところが思った以上に悪戦苦闘!
その様子をご紹介します。

今回の講師は、工芸を専門にしながら仏教絵画にも造詣が深く、アニメ、映画、音楽、お酒など、さまざまな分野に精通する伊藤信二研究員。
まずは伊藤研究員と一緒に展示室へ。
作品ひとつひとつの解説ではなく、文化財の形や展示方法についてのお話はあまり聞く機会がないためか、皆さん真剣にメモをとったり、展示ケースを覗き込んだり。
伊藤研究員の軽妙なトークが、皆さんの緊張をほぐしていきます。

展示室
掛幅がかけてあるところしか見たことがないし、収納時の形は知らない、という参加者も。

そしてついに、取り扱い体験です。
今回のテーマは4つ。掛幅(掛軸)、絵巻、茶碗、そして刀剣。
皆さんどれも初挑戦だそうですので、伊藤研究員のお手本をじっくり見ます。
 

巻物の取り扱いお手本
伊藤研究員が当たり前のように行う所作ひとつひとつが、初挑戦の皆さんにとっては目からウロコなことばかり。

お手本のあとは、順番に体験しましょう。
ここで実感するのは、「見るとやるとでは大違い!」ということ。
頭ではわかっているのにできない!
緊張しすぎて手の汗が止まらない!
できたと思うけど、何か違う!
といいながらの悪戦苦闘。私も何度も呼び止められ、質問をされました。
私たちに何度も質問しながら、参加者同士アドバイスしあいながら、やり遂げたあとの安堵の笑顔は、まるでこどものようでした。
 

掛軸取り扱い、お茶碗取り扱い
掛幅の取り扱い(左)と、お茶碗の取り扱い(右)

展示をご覧いただく機会が多くても、取り扱いの経験をする機会、学芸員とお客様がこうして話す機会も少ないはず。
そもそも、大人になってから、全く違う職業の技術に挑戦することもなかなかないのでは?
てこずりながらも童心に返ったかのように楽しく過ごしてくださった皆さんが、文化財に対する学芸員の姿勢、展示作業の裏側を垣間見ることで、これまでと違った博物館の楽しみにつながることになればうれしく思います。

 

カテゴリ:news教育普及

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posted by 川岸瀬里(教育普及室) at 2014年05月28日 (水)

 

トーハク新収品紹介

昨年度、新たにトーハクの所蔵となった作品をお披露目する展示「平成25年度新収品」(2014年5月20日(火)~6月1日(日)、本館特別2室)が始まりました。

文化財を収集、保存、研究し、展示公開することは博物館の使命です。
当館においても、収蔵品の充実を図るため、毎年、良質な文化財の収集に努めています。

今回は、彫刻、絵画、工芸、染織、書跡、歴史資料など、幅広い分野から34件の作品を展示しています。
その中から、いくつかご紹介いたします。

如意輪観音菩薩坐像 鎌倉時代・13世紀 x線写真
如意輪観音菩薩坐像 鎌倉時代・13世紀

像高 52.2cmと小ぶりながら、キリっと引き締まった表情が印象的な如意輪観音菩薩です。
X線撮影したところ、頭部内に2体の小仏像が納入されていることがわかりました(写真右、枠内)。


花 黒田清輝
花 黒田清輝筆 大正9年(1920)

黒田と直接交友のあった家に伝えられ、このたび寄贈されたものです。
花を好んで描いた黒田の1920年8月22日~25日の日記には、グラジオラスを描いたとの記述があります。


振袖 鶸色縮緬地桜藤菊尾長鳥模様 江戸時代・19世紀 阿部美代子氏寄贈
振袖 鶸色縮緬地桜藤菊尾長鳥模様 江戸時代・19世紀 阿部美代子氏寄贈

四季の草花を折り枝状に表わし散らした模様は公家女性が着用した江戸時代後期の様式です。
公家の女の子が着たのでしょうか。かわいらしい振袖です。


書状  なほなほ不取敢云々 会津八一筆
書状  なほなほ不取敢云々 会津八一筆  昭和時代・20世紀 堀江きょう子氏寄贈(きょう=冫+恭)

会津八一に師事し、東京帝室博物館・東京国立博物館で書跡部門に属した堀江知彦(1907-88)宛に、
第二次世界大戦後、八一の郷里、新潟から送られた書状です。


展示風景

このほか、屏風や色鮮やかな具足、平安時代の希少な鏡像、近現代の書画などをご覧いただけます。
これらの作品は、今後、さまざまな展示室でお目にかかることができるでしょう。

短い展示期間ではありますが、この機会に、当館の文化財収集事業の一端をご理解いただければ幸いです。
 

カテゴリ:特集・特別公開

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posted by 奥田 緑(広報室) at 2014年05月22日 (木)