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1089ブログ

書を楽しむ 第19回「青山杉雨の篆書」

書を見るのは楽しいです。

より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第19回です。

いま、特別展「青山杉雨の眼と書」を開催中です!

青山杉雨(あおやまさんう)、
昭和から平成にかけて書家として活躍、中国書法の普及にも功績のある方です。


「相変」(左)、「黒白」(右)
黒白相変 青山杉雨筆 昭和63年(1988) 東京国立博物館蔵

右上の文字は、ポスターやチラシ、図録の表紙に使われています。
見たことがありませんか?

でも!
読めますか?
私は、読めませんでした…。

右から「黒白相変」(こくびゃくそうへん)と読むそうです。

そして、筆順(書き順)がわかりません…。
勝手に予想してみました。


黒白(杉雨の書)、黒白(恵美の予想)


相変(杉雨の書)、相変(恵美の予想)


これは、篆書(てんしょ)という書体です。
中国で紀元前から使用されてきた古い書体で、
日本でも印鑑の文字などに見られるものです。

篆書も、ちゃんと筆順が決まっているそうです。
正しい筆順を、青山杉雨門下の高木聖雨(たかきせいう)先生に教えていただきました!
(高木先生、ありがとうございました!)


黒白(杉雨の書)、黒白(正しい筆順)


相変(杉雨の書)、相変(正しい筆順)

私の予想は、ずいぶん間違っていました。
大きな間違いは、
まるく書いているように見える部分です。
じつは、一筆のまるではなく、何筆かにわけて書かれているのです。

たしかに、「黒」の字をよ~く見ると、
まるい部分がデコボコしています。

むずかしい。
でも、筆順を考えるのは楽しかったです!

それと、「黒」の字は、人間のようにも見えませんか?

筆順を考えたり、絵のように想像して眺めたり、
篆書もじっくり見てみてください。

カテゴリ:研究員のイチオシ書跡2012年度の特別展

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posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2012年08月06日 (月)

 

中国山水画の20世紀ブログ 第3回-中国近現代絵画の「選択的受容」

台湾大学芸術史研究所に留学していたころ、ある台湾の老先生が
「若い頃はよく『真美大観』で勉強したもんだ」と言って、驚いたことがあります。

『真美大観』は日本で明治32年(1899)にその第一冊が出版され、以後10年をかけて20冊が刊行された、
アジアの美術全集としては最も早い出版物の一つです。
『故宮名画三百種』(1948)をはじめ、1950年代以降の大陸や台湾で続々と美術出版が行われる以前、
日本の美術出版は、中国文化を理解しようとする人たちにとって、重要な役割を果たしていました。
その一つの例が陳少梅「秋江雨渡図」(1941)です。


秋江雨渡図(左) 陳少梅筆 1941 中国美術館蔵 (中国山水画の20世紀にて展示中)
風雨渡水図(中) 呉亦仙筆 明時代 (『真美大観』
(右) 12巻 審美書院 1904)
精緻な筆使いからは、画家のたゆまぬ努力の跡がうかがわれます。


この作品は、『真美大観』所載の呉亦仙「風雨渡水図」(桑名鉄城蔵〔当時〕)を写しています。
陳少梅はそのほかにも梁楷「六祖截竹図」(東京国立博物館蔵〔現在〕)も写していますが、
陳少梅は来日したことがないため、これらも『唐宋元明名画大観』(昭和4年(1929)刊)など、
当時の日本の出版物から写したものでしょう。


重要文化財 六祖裁竹図(右) 梁楷筆 南宋時代・13世紀 東京国立博物館蔵 (展示予定は未定)

当時故宮文物はすでに四川地方に南遷し、北京に古画はほとんど残っていませんでしたが、
日本からの美術出版物がこの画家の渇望を満たしたのです。
これより以前、金城が来日したおりも、東京でたくさんの美術書を買い求めた記録が残っています。
これら日本の最新の美術出版物は、陳少梅も参加した北京の中国画学研究会において披露されていたに違いありません。


陳少梅(1909-1954)と金城(1878-1926)
15歳の陳少梅は46歳の金城が会長をつとめる中国画学研究会に入門し、研鑽を重ねました。


しかし、陳少梅が日本所蔵の宋元画を多く臨模したことには、より積極的な陳少梅の意志を感じることができます。
『真美大観』には中国と日本の絵画が混在して所載されていますが、
陳少梅は当然眼にしたであろう日本の伝統絵画の図版にはほとんど関心がないようなのです。
中国では古来、日本にはより古い中国文化が保存されていると思われていました。
画家たちはより古い中国の文化を追求するために、日本の美術出版物を必死に見つめ、写したのでしょう。
古画の臨模は画家の創作の源だったからです。



会場では陳少梅作品と彼が見たはずの『真美大観』が並べて展示してあります。

日本人が、日本美術史における中国美術との関係を語る際、よく「選択的受容」という言葉を使います。
それは日本美術が中国美術と接した際、決して中国美術をそのまま受容したのではなく、
日本国にないもの、日本のテイストをもとに、必要なものだけを「選択」して「受容」した、と言う意味です。
とかく、日本から中国への「影響」ばかりが強調されがちですが、中国でも同様の
中国の「選択的受容」がなされていたと言えそうです。
このような中国近代美術の重要な特色を、本作品は物語ってくれています。

日中国交正常化40周年 東京国立博物館140周年 特別展「中国山水画の20世紀 中国美術館名品選
本館 特別5室   2012年7月31日(火) ~ 2012年8月26日(日)

 

カテゴリ:研究員のイチオシ2012年度の特別展

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posted by 塚本麿充(東洋室) at 2012年08月03日 (金)

 

ここに注目!「運慶周辺と康円の仏像」

7月31日(火)から9月17日(月・祝)まで本館1階14室で行なう特集陳列「運慶周辺と康円の仏像」からみどころをご紹介します。

今回の展示で見逃せないポイントは3つです。
第1に、運慶作の可能性が高い真如苑所蔵の大日如来坐像をぐるり全方向から観察することができます。
頭上に太く高く結いあげられた髻(もとどり)の背面はどうなっているか?胸の厚みはどうか?背中まで写実的に作られているか?などに注目してご覧ください。

仏像の背面は光背や後ろの壁に隠れて絶対に見られることはないのですが、さてこの像の背中はどうでしょうか。

重要文化財 大日如来坐像 平安~鎌倉時代・12世紀 東京・真如苑蔵
重要文化財 大日如来坐像 平安~鎌倉時代・12世紀 東京・真如苑蔵


第2は、迦陵頻伽(かりょうびんが)です。上半身は人間、下半身は鳥という姿、美しい声で鳴くという鳥です。美声を象徴する楽器を持つことが多いのが特色です。
今回展示する運慶の孫康円の代表作、文殊菩薩像および四侍者像の文殊菩薩の光背に2羽表わされています。

この光背が間近で見られる機会は滅多にありませんのでお見逃しなく。
実はこの2羽、作られた時代が違います。一方は康円作、他方は後世補ったものです。なかなかうまく作っているのでちょっと見ただけではわからないかもしれません。
楽器で顔が隠れていますから横から見て、顔、髪の表現、目や耳の形を比べてみてください。

また、正面ではあまり気になりませんが、斜めや側面から見ると後補の像は不恰好です。どちらが康円作かは皆さんが実際に見て判断してください。

重要文化財 文殊菩薩騎獅像 康円作 鎌倉時代・文永10年(1273) の光背部分の迦陵頻伽
重要文化財 文殊菩薩騎獅像 康円作 鎌倉時代・文永10年(1273) の光背部分
 

第3は、文殊菩薩が乗る獅子の岩の下です。中国山西省の五台山が文殊菩薩の聖地として信仰されていました。
その五台山から日本にやって来たことを示すなにかが描かれています。これも展示でご覧ください。

重要文化財 文殊菩薩騎獅像 康円作 鎌倉時代・文永10年(1273)
重要文化財 文殊菩薩騎獅像 康円作 鎌倉時代・文永10年(1273)


残念ながら展示を見に来られない方のために、8月下旬のこのブログですべて写真入りで解説します。

カテゴリ:研究員のイチオシ彫刻

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posted by 浅見龍介(東洋室長) at 2012年07月31日 (火)

 

中国山水画の20世紀ブログ 第2回-いよいよ来週31日火曜日オープン

中国山水画の20世紀ブログ第1回でもご紹介していますが、
今回集う作品50件は、いずれも20世紀の中国を代表する画家たちの優品、
日本初公開!となる作品が一堂に会す、まさに夢の特別展です。

日中国交正常化40周年・東京国立博物館140周年
特別展「中国山水画の20世紀 中国美術館名品選
会場:本館 特別5室  会期:7月31日(火)~8月26日(日)

ぜひたくさんの方にご来場いただきたいと、
ブログながら開幕直前の本展会場「特5」へご案内します。

会場=特5はどこ?
本展会場は正門を入って正面に構える本館の1階、ちょうど中央に位置する特別5室。
言ってみれば本館のヘソ、通称、「特5」です。


築75年!本館そのものが重要文化財指定


中谷美紀さんのポスターでおなじみ、本館エントランス。特5入口は向かって左手です。(「ここ」の位置)


本館マップ-中央が特5

特5では過去さまざまな企画展示が行われてきました。
記憶に新しいところでは「孫文と梅屋庄吉」「手塚治虫のブッダ展」(2011)、「国宝 土偶展」(2009)、
レオナルド・ダ・ヴィンチ展」(2007)では名画「受胎告知」を展示した会場です。


会場のいま
作品を所蔵する中国美術館のスタッフと協力しながら、
作品の選定から展示にいたるまで、何度となく打合せを重ねてきました。


安全な輸送には時間がかかります。今回の搬入は深夜になりました。

開幕が目前に迫った今週、その集大成となる
作品展示作業が着々と進んでいます。


作品に異状がないか細かく点検します。


作品を間近に楽しむ
本展会場で作品をご覧いただいたとき、
作品までの距離が非常に近いことに驚かれるかもしれません。


掛け軸の作品の展示ケースの場合、作品までわずか20㎝!

絵画の優品ひとつひとつを間近にじっくりご覧いただけるような作り、
画家の手にした筆の運びや息づかいすら感じられるようです。


特5へGO!
7月31日(火)から8月26日(日)まで、たった25日間の会期ですから、
すこしでも興味をお持ちでしたら思い立ったが吉日、さっそくお出かけください。

中国山水画の20世紀」展は、総合文化展観覧券でご入場いただけます。
(一般当日600円、大学生当日は400円、高校生以下は無料)

また、この展覧会を詳しく解説しているカラー16ページの小冊子、
パンフレットを無料で配布いたします。


こちらからパンフレットデータをダウンロードできます。

暑い夏まっさかりですが、画家たちの創作に対する熱い思い、
名品との一期一会を「特5」でお楽しみください!

カテゴリ:研究員のイチオシ2012年度の特別展

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posted by 高木結美(特別展室) at 2012年07月29日 (日)

 

美術解剖学のことば 第7回「<コントラポスト> “人が立つかたち” と “美の基準”」

学生の頃、ヌードデッサンの実技授業がありました。
その授業で大切な事は何でしょう?
それは、人間の身体が、立位(立っている)時に「どのように“重さ”を支えているか」でした。

美術解剖学 -人のかたちの学びに展示されている、黒田と久米のデッサンは、
両者とも見事にその“重さ”を描ききっています。
黒田は身体(からだ)全体のバランスを、久米は骨格と筋肉の構造の成り立ちを、
しっかりと「観察」して、それを画面に「表現」しています。

裸体習作 久米桂一郎、黒田清輝筆 明治20年(1887)
(左) 裸体習作  久米桂一郎筆  明治20年(1887)  東京・久米美術館蔵
(右) 裸体習作  黒田清輝筆  明治20年(1887)


さて、この2枚の「棒を持って立つ裸体デッサン」は、何を表しているのでしょう?
西洋美術の歴史を学ぶと、ひとつの「美の基準」となるキーワードがあるのですが、
それが<コントラポスト>という言葉であり、
その言葉は、すなわちギリシャ・ローマ時代の人体の理想像である、
「カノン」を表す「かたち」のことばなのです。

この2枚のデッサンには、以下の解説を付したのですが、説明不足でしたね。

立位姿勢では、自然に立脚(より体重を支える側)と遊脚(そうでない側)が生まれ、立脚側の腰が上がり、肩は下がり、バランスをとることで自然に有機的な構成が生まれる。
モデルのポーズの重心の下りる位置を編み棒などで測りながら、立位のバランスを意識する。

 

黒田・久米がルーブル美術館の彫刻をデッサンした時期に描かれた。古代ギリシャの人体の規範となるカノンを示した「槍を持つ人(ドリュフォロス)」を意識したポーズにみえる。


「カノン」は、音楽においても使われる用語なのですが、
美術においては「人体の理想的比例」を表します。
今回の展示では、その「カノン=人体の理想的比例」を表すレオナルド・ダ・ヴィンチの有名な図が展示されています。


芸術解剖 ― ヒトの外形、静止、運動の記載   ポール・リッシェ著  1890年  個人蔵
Anatomie antistique.  Description des formes exterieures du corps humain au repos et dans les principaux mouvements
Paul Richer(1849-1933)


話を<コントラポスト>と「ドリュフォロス(槍を持つ人)」に戻しましょう。
コントラポストは、主に彫刻作品として、
西洋美術を展示する美術館では、度々出会うポーズです。


ベルリン美術館にて

黒田と久米のヌードデッサン話からはずいぶん飛躍しますが、
ではトーハクで<コントラポスト>を見ることはできるでしょうか?

日本美術の殿堂たるトーハクでは、それはなかなか困難なのですが、
あえておススメ作品としてご覧いただきたいのが、
平成館に展示されている、近代彫刻の巨匠・ロダン作『エヴァ』です。


エヴァ ロダン作 19世紀(2012年9月17日(月・祝)まで平成館 彫刻ギャラリーで展示中)

この立脚と遊脚の立ち方による造形は、なんと見事なことでしょう。
ロダンは「立ち足」と「支える足」の平板的な空間だけでなく、
そこに「ねじれ」を加える、複雑な立ち方をまとめあげています。


ギリシャ・ローマ~イタリアルネサンス~近代彫刻に至ってしまったので、
話をぐっと<美術解剖学>に引き戻します。

人間が2本の足で、「立つ」ことを可能にする筋肉を、
久米桂一郎の講義スケッチから紹介しましょう。


(左) 芸術解剖 ― ヒトの外形、静止、運動の記載   ポール・リッシェ著  1890年  個人蔵 より
(右) 美術解剖学 講義用スケッチ 久米桂一郎筆 大正時代・20世紀 東京・久米美術館蔵

この図はポール・リッシェの図(左)を、久米桂一郎が写し取った、
足の筋肉を図解したスケッチですが、
特にお尻の筋肉「大臀筋」に注目してください。
背中をぐっと立たせて、美しく立つ姿勢を保つには、
このお尻の筋肉が発達していなければいけません。

他の足の筋肉も、「立つ」ためにはもちろん必須の筋肉ですが、
このお尻=臀部の大きなふくらみは、
「人のかたち」の、もっとも「ヒトらしいカタチ」なのです。

<コントラポスト> <カノン> <ドリュフォロス> <大臀筋>
などのキーワードを、頭の隅に少しだけ置いてみてください。

自分の身体の「重さ」を感じて、その「重さ」を2本の足で支え、
さらに何かの動きを加えた「かたち」をイメージしてみましょう。

黒田清輝と久米桂一郎が、1887年のパリの美術学校の一室で、
「裸婦・裸体の素描稽古」に明け暮れた、その成果の一端を見比べる事ができるのは、
残りあと2日間(7月28日・29日)です。

ぜひ夏の暑い日、トーハク本館・特別1室をデッサン室に見立てつつ、
「裸んぼ」デッサンを眺めていると、
ふだんは気づかないような自分の身体についての発見があります。



7月の終わりに、展示室にてお待ちしております。
(ただし博物館の中で「裸んぼ」になるのは厳禁です(笑))


特集陳列 「美術解剖学―人のかたちの学び」
本館 特別1室   2012年7月3日(火) ~ 2012年7月29日(日)

カテゴリ:研究員のイチオシ特集・特別公開

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posted by 木下史青(デザイン室長) at 2012年07月28日 (土)