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特別展「レオナルド・ダ・ヴィンチ -天才の実像」

  • 『レオナルド・ダ・ヴィンチ「受胎告知」(部分) 1472~73年 ウフィツィ美術館蔵Su concessione del Ministero per I Beni e le Attività Culturali』の画像

    レオナルド・ダ・ヴィンチ「受胎告知」(部分) 1472~73年 ウフィツィ美術館蔵
    Su concessione del Ministero per I Beni e le Attività Culturali

    本館 特別5室/平成館 特別展示室
    2007年3月20日(火) ~ 2007年6月17日(日)

    レオナルド・ダ・ヴィンチの「受胎告知」(ウフィツィ美術館蔵)が日本初公開されます。「受胎告知」はダ・ヴィンチの数少ない真筆のうちのひとつ。20代の若きダ・ヴィンチが渾身の力を傾けて描いた、天才の出発点ともいえる作品です。このほか、ダ・ヴィンチの残した手稿を元に制作した模型や映像を展示し、芸術から科学に及ぶ万能の天才の創造世界に触れていただく展覧会です。

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特別展「レオナルド・ダ・ヴィンチ -天才の実像」の入場者が2007年5月18日(金)、50万人に達しました

開催概要
会  期 2007年3月20日(火)~6月17日(日)
会  場 東京国立博物館 本館特別5室・平成館特別展示室(上野公園)
開館時間 9:30~17:00
(会期中の土・日・祝日は18:00まで、毎週金曜日および、4月27日(金)~5月6日(日)までは20:00まで開館。(入館は閉館の30分前まで)
休館日 月曜日(ただし2007年4月30日(月・休)は開館。)
観覧料金 一般1500円(1300円/1200円)、大学生1200円(1000円/800円)、高校生900円(700円/500円)
中学生以下無料
( )内は前売り/20名以上の団体料金
障害者とその介護者一名は無料です。入館の際に障害者手帳などをご提示ください。
前売券はJR東日本の主なみどりの窓口・びゅうプラザ、電子チケットぴあ(Pコード:前売=687-199、当日=687-200)、ローソンチケット(Lコード:30000)、CNプレイガイド、イープラス、JTB、サークルK、サンクス、 セブンイレブン、イーテックス、および東京国立博物館 正門観覧券売場(開館日のみ)にて、2007年3月19日(月)まで販売。
東京国立博物館キャンパスメンバーズ会員の学生の方は、当日券を、1,000円(200円割引)でお求めいただけます。正門観覧券売場(窓口)にて、キャンパスメンバーズ会員の学生であることを申し出、学生証をご提示下さい。
特別展「レオナルド・ダ・ヴィンチ -天才の実像」 会期終了後の2007年6月19日(火)~7月8日(日)まで、本特別展半券を当館正門 観覧券売場にてご提示いただければ、当館平常展を半額の割引料金でご覧いただけます。詳しくはこちら
交  通 JR上野駅公園口・鶯谷駅より徒歩10分
東京メトロ銀座線・日比谷線 上野駅 、千代田線 根津駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15分
主  催 「イタリアの春 2007」実行委員会、東京国立博物館、朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション
特別後援 イタリア共和国大統領
後 援 外務省、文化庁、イタリア外務省、イタリア文化財・文化活動省
特別協賛 日立グループ
協 力 アリタリア航空、JR東日本、三井住友海上
お問い合わせ 03-5777-8600 (ハローダイヤル)
展覧会サイト http://www.leonardo2007.jp/
展覧会公式サイトは会期終了時をもって終了いたしました。
関連事業
  記念講演会
レオナルドの精神 画家の空間-時間/時空間から光の生み出す陰影へ
平成館 大講堂 2007年3月21日(水・祝) 13:30~15:00 受付終了
講師:本展企画監修者・フィレンツェ科学史博物館館長 パオロ・ガルッツィ 氏(イタリア語・日本語逐次通訳つき)
レオナルドで知るルネサンス―波乱の生涯と、激動の時代の魅力
平成館 大講堂 2007年4月21日(土) 13:30~15:00 受付終了
講師:日本側監修者・恵泉女学園大学准教授 池上 英洋 氏
  レオナルド・ダ・ヴィンチ誕生日記念コンサート
受胎告知~レオナルド・ダ・ヴィンチ時代のマリア賛歌
表慶館 2007年4月15日(日) 11:00~ チケット完売
出演:ヴォーカル・アンサンブル カペラ
レオナルド・ダ・ヴィンチ時代の宮廷音楽
表慶館 2007年4月15日(日) 14:00~ チケット完売
出演:古楽アンサンブル アントネッロ
  N響メンバーによるダ・ヴィンチ展記念コンサート
N響メンバーによるダ・ヴィンチ展記念コンサート 管楽の調べ
平成館 大講堂 2007年5月16日(水)、5月17日(木) 15:30~16:00 受付終了
N響メンバーによるダ・ヴィンチ展記念コンサート 弦楽の調べ
平成館 大講堂 2007年6月13日(水)、6月14日(木) 15:30~16:00 受付終了
展覧会の構成と主な展示作品
第1会場|本館特別5室
 レオナルド・ダ・ヴィンチの様々な活動の出発点となった「受胎告知」を、1974年に「モナリザ」を展示した本館特別5室で特別公開します。
受胎告知ポイント紹介
*数字をクリックするとそれぞれの解説をご覧になれます
  受胎告知 (じゅたいこくち)
レオナルド・ダ・ヴィンチ
1472-73
ウフィツィ美術館蔵
Su concessione del Ministero per i Beni e le Attività Culturali


 「受胎告知」は、1人前の画家すなわち「親方」として認められたばかりの若きレオナルドが手がけた最初の単独作品であり、実質的なデビュー作といえます。この作品にはその後のレオナルド作品に見られるあらゆる要素の、いわば「雛形(ひながた)」が盛り込まれています。
模写修行の名残   1. 工房での模写修行の名残(なごり)
 レオナルドが10代から過ごしたと言われるヴェロッキオの工房。現代のような美術学校のない時代、工房での修業は親方の作品を模写するところから始まります。プロの仕事を真似ることにより学んでいったのです。「受胎告知」で聖母マリアの前にある書見台(しょけんだい)は、師ヴェロッキオがメディチ家のために制作した彫刻作品とほとんど同じ意匠で飾られている。当時レオナルドはまだ20歳を過ぎたばかり。工房での模写修業の名残がこんなところに表れています。
    2. 秩序正しいシンメトリー構図
 ルネサンスが美術にもたらしたものに、シンメトリー(左右均衡)と遠近法があります。横長の画面に展開される「受胎告知」は、向かって右にマリア、左に大天使ガブリエルを配しています。画面全体は5つの長方形に区切られ、マリアと天使はそれぞれ三角形の構図に収められています。
 秩序正しいシンメトリー構図が美しい。レオナルドはこの後も数的な秩序を生涯追い求めることとなりました。
空気遠近法   3. 遠近法を駆使
 建築物や人の配置から補助線を引くと、画面中央の1点(消失点)に集束する。「1点透視法」という遠近法です。ルネサンス時代の最先端の技法を若きレオナルドはすでに吸収し、自分のものとしていました。
 さらに注目すべきは画面奥に描かれた景色です。遠くにあるものがかすかにぼやけ、やや青白い。これは線の集束によらない遠近法、すなわち大気による遠近法(空気遠近法)です。大気中の水蒸気などによって起こるこの現象をレオナルドは見出しました。それを理論化するにはさらに時間を要し、代表作「モナ・リザ」では幽玄な世界を現出していますが、はやくもデビュー作にその萌芽が見られます。
植物の博物学的観察   4. 植物の博物学的観察
 自然観察の鋭さは植物描写にも発揮されています。天使が手に持つ白ユリはマリアの純潔を暗示しますが、単なる象徴に留まらない存在感があります。足下にこぼれ咲くのは、デイジー、アイリス、ユリ……。前景に描かれた草花や背景の木々など何かすぐわかるほどにレオナルドの自然描写の正確さは際立っていました。
卓越した立体描写   5. 卓越した立体描写
 人物の表情や身動きにはやや硬さが残り、ところどころにレオナルドの若さも見てとれます。しかし繊細な頭髪や重厚な衣服の襞(ひだ)の表現、着衣の下に身体があることが実感できるほどの立体描写などに極めて卓越した技量が発揮されています。20歳そこそこの若さにもかかわらず、ルネサンスの画家としての素養をすでに高い次元で身につけていたことをよく示しています。
第2会場|平成館特別展示室
 人間や自然の真の姿を絵画に表現するため、徹底的な観察や論証を行ったレオナルド・ダ・ヴィンチ。手稿の記述を手がかりに、マルチメディアも利用してレオナルドの広範な精神活動の展開をたどります。
※手稿については展示映像・展示パネルでの扱いとなります。オリジナルは展示されません。
「ウィトルウィウス的人体」のビデオより
「ウィトルウィウス的人体」のビデオから
  「アトランティコ手稿」をもとに制作された「放物線のためのコンパス」の模型
「アトランティコ手稿」をもとに制作された「放物線のためのコンパス」の模型
 
「パリ手稿」をもとに制作された「飛行船」の模型
「パリ手稿」をもとに制作された「飛行船」の模型
  「アシュパーナム手稿」をもとに制作された「集中式プランの教会堂」の模型
「アシュバーナム手稿」をもとに制作された「集中式プランの教会堂」の模型
 
 
 「受胎告知」に見られる自然に対する高い関心、遠近法や数的秩序などは、レオナルドが生涯にわたって追い求めるものの出発点となりました。やがて、それまで人類が見たこともない知の広がりを手にすることになります。本展では「受胎告知」を象徴的に展示するほか、他のレオナルド絵画作品も高品位のデジタル画像で再現し、原画の重厚な息吹を伝えます。
 レオナルドの創造世界を解き明かすのに欠かせないのが、30歳ごろから手帳に書きためられたメモや素描類、いわゆる「手稿」です。死後かなりの数が失われたとされますが、それでも約8000ページが世界各地で保存されています。
 内容は驚くほど幅広いものです。天文、風や水の動態、動力、鳥の生態、人力飛行機についての考察……。人体や自然を観察した結果を克明に書き写すだけでなく、目に見えないもの、いまだ形になっていないアイデアを視覚化する際にも素描という手段を用いたのです。
 本展では多数の手稿を見やすく描き起こし、また手稿から考証したさまざまな模型や映像をあわせて展示して、レオナルドの思考の展開をたどっていきます。
 レオナルドのフィレンツェ時代の作品の特質はレオナルドらしからぬその巨大さと、野心的な挑戦心にあります。「受胎告知」において予告されているレオナルドの挑戦は、自然への探求へとつながり、人体や自然の間に見出せるアナロギア(類似)の神秘の探求へと発展します。
 その後拠点を移したミラノの大公の求めによる巨大な騎馬像(高さ7メートルを超えるはずだった)の制作ひとつとっても、精確な観察とつきつめた考察を伴う幅広い研究を必要としました。本展では、残された図面に基づき、原寸大の騎馬像を再現します。また膨大な手稿から解明された制作の様子をビデオで立体的に紹介します。
 レオナルドの探求に影響を与えた「先達(せんだつ)」の存在にも光をあてます。例えば、よく知られた「ウィトルウィウス的人体」(人体均衡図)は、古代から続く「人体と建築との類似」の理念をもとに、レオナルドによって「人体=建築=宇宙」というさらに大きなアナロギアまで発展したものです。レオナルド作品と手稿に数多く見出せる、こうしたアナロギアの実例を紹介することも、本展覧会の数多い新機軸のひとつとなっています。
 最新の研究の知見を結集した本展では、レオナルドの広範な思考の記録を立体的に提示しています。絵画のみならず創作・思索のすべての領域に接して初めて「万能の天才」の真の偉大さをより正確に理解できるでしょう。
レオナルド・ダ・ヴィンチの実像 ―ルネサンスの申し子
オナルド・ダ・ヴィンチは1452年、トスカーナ地方のヴィンチ村に生まれました。フィレンツェで絵画および種々の技術に関する修業を積んで20代を過ごした後、ミラノに移住してスフォルツァ家の宮廷で活躍しました。晩年はフランス国王フランソワ1世に招かれてアンボワーズで余生を過ごし、1519年に67年の生涯を閉じました。

『美術家列伝』(1550年初版)で、著者ジョルジョ・ヴァザーリはレオナルドをこう語っています。「同一の人物が、美と優雅さと徳を一身に備えた類まれなる例が、レオナルド・ダ・ヴィンチである。彼はこのうえなく容姿端麗で、その豊かな才能はいかなる難題も易々と解決しうる・・・」 本当にレオナルドは「神にも通じる」人物だったのでしょうか。その人となりについては、彼自身のメモの他に多くの証言が残っています。そこからは、社交的で自信に満ち、知的でユーモアに富んだ優雅な紳士のレオナルド像と、自信に欠け、頑固で禁欲的なレオナルド像が同時に浮かび上がってきます。おそらくどちらも彼の正しい姿なのでしょう。

彼は公証人という知識階級の家庭に生まれながら、非嫡出子のために正規の教育を受ける機会に恵まれませんでした。後に万物の研究に没頭する頃、自らの学問的コンプレックスに悩むようになります。幼い頃に引き離された母親への愛は根が深く複雑で、絵画の主題選択や描写にも母性への渇望が如実に表れています。また生命発生のメカニズムにも関心を払いました。

生涯を独身で通した悩める才人は、戦国時代のあおりで定住がかなわず、才能一つで諸国を渡り歩く旅の人生を送りました。一方で時は大航海時代。地球そのものへの興味を強くすることとなります。

レオナルドはまさに、ルネサンスという激動の時代に振り回され、才を育てられ、発揮する場を与えられた、まさに時代の申し子だったといえます。