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書を楽しむ 第30回「ランテイジョ」

書を見るのは楽しいです。

より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第30回です。

特別展「書聖 王羲之」が開催中(~3月3日(日))です。

私が注目しているは、「蘭亭序」です。
というのも、江戸時代の日本人で、
この「蘭亭序」を300回以上臨書した人がいるからです!

松崎慊堂臨「蘭亭序」、『慊堂日録』(1、東洋文庫169、平凡社、1970年)より転載
松崎慊堂臨「蘭亭序」、『慊堂日暦』(1、東洋文庫169、平凡社、1970年)より転載

これは、松崎慊堂(まつざきこうどう、1771~1844)が
臨書したものです。
松崎慊堂は、日記『慊堂日暦』の中で
「蘭亭序」を臨書したことを書いていますが、
最初のころは、一日に約一本のペースで臨書して、
最終的には、313本まで書いています。

なんでこんなに「蘭亭序」を臨書したのでしょう?
よくわからないけれど、私も触発されたので、
エンピツで臨書してみました。

恵美「蘭亭序」臨書

画像は「蘭亭序」の一部です。
「蘭亭序」全324文字をしっかり写したため、
1時間30分もかかりました…。

「蘭亭序」は、
王羲之が永和9年(353)に会稽山の山陰の蘭亭で開いた
曲水流觴の宴(曲がりくねった水路にさかずきを流しながら詩を読む遊び)
で書いた序文です。
王羲之が実際に書いたものは、
唐の太宗皇帝の墓に副葬されて残っていません。
でも、唐時代に多数の模写が作られたり、能書によって臨書されました。
それをもとに石に刻まれて、さらに拓本になって、
たくさんの「蘭亭序」が残されています。

特別展「書聖 王羲之」でも「蘭亭序」はたくさん並んでいますよね。

恵美が臨書したのは、「神龍本」と呼ばれる「蘭亭序」です。
ほかに「定武本」と呼ばれるものも有名です。

定武蘭亭序-呉炳本-
定武蘭亭序-呉炳本- 王羲之筆 原跡=東晋時代・永和9年(353)  東京国立博物館蔵(特別展で展示中)

日本でも古くから王羲之の書は尊重されてきました。
それに加えて、
曲水流觴の宴で書かれた「蘭亭序」は、
古くから日本の年中行事として行われていた曲水宴と関連して、
とくに親しまれてきました。

江戸時代の作品にも、
「蘭亭序」を題材にした書や絵画が、たくさん残されています。


蘭亭序・蘭亭曲水図屏風 東東洋筆 江戸時代・文政10年(1827) 東量三氏寄贈(2月24日(日) まで本館8室にて展示中)


蘭亭曲水図屏風 与謝蕪村筆 江戸時代・明和3年(1766) 東京国立博物館蔵( 2月13日(水)~特別展にて展示予定)

いろいろと「蘭亭序」に関わる作品を見たり、
臨書したりしているうちに、
松崎慊堂が300回も臨書するほどの魅力が
わかってきた気がします。

私もまた、「蘭亭序」を臨書したくなりました。
 

カテゴリ:研究員のイチオシ書跡

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posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2013年01月29日 (火)

 

特別展「書聖 王羲之」の開会式・内覧会を行いました

ついに本日開幕した、特別展「書聖 王羲之」(~3月3日(日) 平成館)。

開幕前日の1月21日(月)には、開会式・内覧会が行われました。


開会式には多くの方にお越しいただきました。

もっとも注目を集めていたのが、唐時代の摸本を展示したコーナーです。
唐時代の摸本は、王羲之の真跡が失われてしまった今、
その字姿をもっとも忠実に伝えていると考えられる一級資料です。
世界にわずか10点ほどしか残っていない貴重なものですが、本展覧会では
皇帝が愛蔵したことを示す印が、華やかに文字を彩る「行穣帖(こうじょうじょう)」、
本展覧会の作品調査で新発見された「王羲之尺牘 大報帖(おうぎしせきとく たいほうじょう)」
王羲之の書が大成した晩年の書とされる「喪乱帖(そうらんじょう)」(展示期間:~2/11)、と見ごたえ十分。
会期後半には、国宝「孔侍中帖(こうじちゅうじょう)」(展示期間:2/19~3/3)が展示されます。
中でも「王羲之尺牘 大報帖」は、本展覧会が初公開ですので、見逃せません。


行穰帖 (部分) 原跡:王羲之筆 唐時代・7~8世紀摸 プリンストン大学付属美術館蔵 Princeton University Art Museum / Art Resource, NY

王羲之の最高傑作として名高い蘭亭序は、全20件を展示。名家が競って集めたという写本や拓本が一堂に会します。
蘭亭序は、詩会で詠まれた詩の、作品集の序文として作られましたが、自然を愛でつつ、世のはかなさを綴った名文でもあります。
会場では、その誕生の舞台となった詩会の情景を描く画巻を3D映像にして、大型スクリーンで放映しています。
映像でイメージをふくらませて、様々な蘭亭序の作品をご堪能ください。

今後も王羲之の書、そして本展覧会展の魅力をブログでご紹介していきます。
展示とともにお楽しみください。

カテゴリ:news2012年度の特別展

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posted by 林素子(広報室) at 2013年01月22日 (火)

 

生まれ変わった東洋館─「中国の青銅器」曲面ケースができるまで

【図1】 東洋館5室「中国の青銅器」の曲面ケース
【図1】 東洋館5室「中国の青銅器」の曲面ケース

これまで当ブログでも何度か取りあげられてきた曲面ケースですが、今回はこの独特な形の展示ケースが生まれるまでのいきさつをご紹介したいと思います。

東洋館の耐震補強工事にともない、各展示室もリニューアルすることになって間もない頃、中国考古の作品を展示する東洋館5室のケース配置の試案を1枚の紙に書き留めました(図2)。
 
 【図2】 東洋館4室・5室ケース配置の試案(2009年1月15日作)
【図2】 東洋館4室・5室ケース配置の試案(2009年1月15日作)

向かって右上の4室から5室に入ると、壁から伸びた横長のケースが視界に入るようになっています。
5室は入って壁沿いに直進すると、そのまま出口に抜けてしまう構造になっています。
ケースを壁から突き出したのは、観覧者が直進することなく、U字状に進むように促すためでした。
メモの内容から、当初はこの横長ケースにやきものを陳列し、U字状に進んで突き当たった壁付ケースに青銅器を並べるつもりだったことがわかります。

横長ケースは背中合わせの構造になっていて、唐時代以前の作品を陳列する反対側に宋時代以降の作品を展示する計画でした。
そこでお互いの鑑賞を妨げないように、ケースのなかに間仕切りを設けるつもりでした。
しかし、この案をデザイン室の矢野賀一氏に見せたところ、問題点を指摘されました。
展示スペースを区切るために間仕切りを立てる方法や、5室の壁に対して直角か平行にケースを並べる配置のパターンは、図3のように従来の東洋館5室ですでに行ってきました。
せっかくリニューアルしても、あまり変わり映えのしない展示空間になってしまうのではないか、と。
 
【図3】 入口からみた旧東洋館の5室(2009年6月4日撮影)
【図3】 入口からみた旧東洋館の5室(2009年6月4日撮影)

矢野氏は入口から5室全体を出口まで見渡せるように、間仕切りの取り下げを提案してきました。
それでいて、5室に入った観覧者をU字状に歩かせるように促しつつ、斬新なデザインのケースを図に書いてきたのです。
それはゆるやかな孤を描いた、これまで見たこともない形をしたケースでした(図4)。
 
【図4】 第1回ヒアリング後の5室ケース配置図(2009年4月26日、矢野氏作)
【図4】 第1回ヒアリング後の5室ケース配置図(2009年4月26日、矢野氏作)

このケースを5室入口の斜め上方から見たイメージのイラストが図5です。
 
【図5】 図4の曲面ケースのイメージスケッチ(矢野氏作)
【図5】 図4の曲面ケースのイメージスケッチ(矢野氏作)

ご覧のように5室に入ってすぐ正面に曲面ケースが立っています。
しかも、全面ガラスなのでケースの背後にある出口を含めて部屋全体を見通すことができ、5室が本来もっている広さや開放感を堪能することができます。
この時点での曲面ケースは小口が5室の壁についた状態でした。
しかし、曲面ケースを壁に接したままにすることは、運用上さまざまな困難が予想されました。
また、全面ガラス貼りで見通しのよい曲面ケースの反対側に、別のケースを近くに置くと、互いに調和することなくよさを潰しあうことになる恐れがありました。
そこで図6のように曲面ケースを壁から離し、壁と曲面ケースのあいだに別のケースを置くことで、曲面ケースの個性と5室全体の展示空間がバランスよく調和できるようにしました。
これも矢野氏との話し合いのなかで出てきたアイデアでした。

 【図6】 5室図面(2009年12月11日、矢野氏作)
【図6】 5室図面(2009年12月11日、矢野氏作)

ただ、この図面を書いた時点で曲面ケースの適正な向きを決めることはできませんでした。
そのため、図面にはいくつかの向きで曲面ケースが描かれていますが、結局、もっとも太い線で描かれた曲面ケースの向きを採用することになりました。

同じころ、私は新しい東洋館の展示準備を進める一方、特別展「誕生!中国文明」を担当していました。
この特別展ではぜひやってみたいことがひとつありました。
それは青銅器を単独でなく、群としてまとめて見せることでした。

中国の青銅器のなかには、ひとつひとつ鑑賞しても見ごたえのあるものがたくさんあります。
しかし、中国古代の青銅器は酒や料理を盛って神や先祖に供えたり、宴席で用いたため、異なる種類のものを複数組合せることが普通でした。
そこで、発掘調査によりまとまって出土した4種類計28点もの青銅器を、特別展会場に作ってもらった単独の大型ケースで展示することにしました。
しかも、そのケースは支柱など視界をさえぎるものは極力抑えた造りにしてもらいました。
まとまりとしての青銅器が醸し出す森厳な雰囲気を邪魔したくなかったからです。
 
【図7】 特別展「誕生!中国文明」大型ケース内での青銅器の一括展示
【図7】 特別展「誕生!中国文明」大型ケース内での青銅器の一括展示

青銅器をまとめて展示することで発揮できた迫力は予想を上回るものでした。
私はこの手ごたえを今度は東洋館5室の曲面ケースでの展示にも生かそうと思うようになっていました。
こうして、やきもの用の横長ケースから発展した曲面ケースは、当館における中国の青銅器展示のシンボルとなり、2013年1月2日のリニューアルオープンを迎えました。
 

【図8】 東洋館入口からみた曲面ケース
 【図8】 東洋館入口からみた曲面ケース

【図9】 小口からみた曲面ケース内の青銅器
【図9】 小口からみた曲面ケース内の青銅器

現在、このケースのなかには25点もの青銅器が展示されています。
大きさ、形もそれぞれ異なるバラエティー豊かな青銅器が、正面向かって左から右へ時代順に並んでいます。
時間幅は二里頭文化期(夏時代)から唐時代にかけて(前18世紀~後8世紀)です。
図9のようにケースの小口からみると、まるで白い展示面が悠然と流れる河を彷彿とさせます。
およそ2600年にわたる青銅器の移ろいを、この河の流れのような曲面ケースでお楽しみいただければ幸いです。

カテゴリ:展示環境・たてもの

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posted by 川村佳男(保存修復室研究員) at 2013年01月19日 (土)

 

明日開催!東洋館リニューアル記念講演会

明日、1月19日(土)に、東洋館のリニューアルオープンを記念し、講演会「ドイツ・カナダ所在のアジア美術と展示方法-ベルリンにおける新たな挑戦-」が開催されます。講師は文化庁外国人芸術家・文化財専門家招へい事業により来日されたベルリン・アジア美術館の館長、クラース・ルイテンビーク博士です。

ルイテンビーク博士
ベルリン・アジア美術館のルイテンビーク博士

ベルリン・アジア美術館は2006年に東アジア美術館とインド美術館が統合してできた美術館です。アジア美術館はその名の通り、東洋美術の総合的な収集と研究が行われ、コレクションが形成されています。そのため東洋館のリニューアルオープンを記念して、今回ルイテンビーク博士の講演会を開催することにいたしました。
トーハクが東洋の文化財を保存・継承してきたように、日本の文化財も諸外国で保存・継承されています。(有名なところはボストン美術館やギメ美術館、などでしょうか)

フランス:ギメ東洋美術館外観と日本美術の展示室
(左)フランス:国立ギメ東洋美術館
(右)日本美術の展示室


トーハクがどのように東洋の文化財を保存継承してきたか、作品についてどれだけの情熱をもっているかは、当館の展示をご覧いただいたお客様はもちろんのこと、講演会や列品解説などにご参加いただいたお客様は一層詳しくご存じのことと思います。ですが、日本を含むアジアの文化財が欧米でどのように扱われているのか、そしてそれらがどのような意図で展示されているかは、あまり日本で語られることがありません。

どのような思いでアジアの文化財を展示し、保存継承しているのか、それを第一線でご活躍されている方から直接聞けるというのは、またとないチャンスです。
アジア美術にご興味のある方はもちろんのこと、展示デザインや博物館史などの博物館学分野に興味がある方にも、非常に面白い内容であると思います。(当日のスライドではアジア美術館の展示などを沢山ご覧いただけると思います!)

なんといっても、アジア美術館は展示してある作品の分野が東洋館と同じですので、比較してみるのも一興です。(アジア美術館のほうが素敵!と言われてしまったら困りますが…)
 

新しくなった東洋館展示室
新しくなった東洋館の展示室(5室)

トーハクの講演会にいらした事のないお客様も、ぜひこの機会に足をお運びいただけますと幸いです。
みなさまのご来場をお待ちしております!
 

カテゴリ:news教育普及

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posted by 小島有紀子(教育講座室) at 2013年01月18日 (金)

 

新発見「大報帖」 特別展「書聖 王羲之」で世界初公開!

1月22日(火)より開幕する特別展「書聖 王羲之」(~3月3日(日))。
本展覧会は、中国4世紀の東晋時代、従来の書法を飛躍的に高めた王羲之をテーマに、
その書の実像にせまり、歴史的に果たした役割を再検証するものです。


蘭亭図巻─万暦本─(らんていずかん(ばんれきぼん))(部分)
原跡=王羲之等筆 明時代・万暦20年(1592) 東京国立博物館蔵
王羲之の最高傑作「蘭亭序」が生まれた曲水の宴を描いた作品。王羲之の姿も描かれています。


書聖と崇められた王羲之、歴代皇帝も愛好したというその書とはどんなものなのでしょう?
実は、王羲之の真蹟は、戦乱などにより失われているため現存していません。
そのかわりとして、私たちが王羲之の字姿を知るために、もっとも信頼のおける資料となるのが唐時代の摸本です。
とりわけ王羲之の書に魅了され、熱心に王羲之の書を蒐集たことなどで知られる唐の太宗皇帝が作らせたもので、
にじみやかすれ、後世の虫食いの跡まで写し取られた非常に精巧なものです。
それらも世界中で10点ほどしか残されていません。

そんな希少な唐時代の摸本が、本展覧会の出展作品の調査によって日本で新たに発見されました。
「王羲之尺牘 大報帖(おうぎしせきとく たいほうじょう)」です。


王羲之尺牘 大報帖(おうぎしせきとく たいほうじょう)
原跡=王羲之筆 東晋時代・4世紀 唐時代・7~8世紀摸 個人蔵
尺牘とは手紙のこと。つまり、この作品に書かれた3行24字は、王羲之が書いた手紙の一部です。


日本には名筆を集めて台帳に貼りこみ、鑑賞したりお手本にする文化があります。
この台帳を手鑑(てかがみ)といいますが、今回の作品も、そうして長年大切に守られてきた手鑑から見つかったのです。

この作品には、かつて鑑定をした際に小野道風の筆とした極札(きわめふだ・鑑定結果を記す紙片。上の写真の右側についている短冊形のもの)がついており、これまでは王羲之の作と認められていませんでした。
しかし、富田淳列品管理課長らが参加した本展覧会の調査で、
この作品は、極めて精緻な摸本で、唐の宮中で作られた可能性が高いことがわかったのです。
王羲之の筆と判断されたポイントは、次のようなことです。
・文章中に、王羲之の家族の名前や、王羲之がよく使う表現が登場すること
・字の姿が、唐時代に作られた王羲之の摸本に似ていること
・文字の輪郭をとって中を丁寧に埋める「双鉤填墨」(そうこうてんぼく)と呼ばれる技法の跡が認められることや、他の摸本と同じ料紙を使っていること
日本には、遣唐使らによってもたらされたと考えられます。

「王羲之尺牘 大報帖」は今回、世界で初めての公開で、会期中を通してごらんいただけます。
本展覧会では、そのほか4点の唐時代の摸本が出展予定です。(一部の作品に展示替えがあります)
どうぞこの機会に、王羲之の文字を今に伝える作品をご堪能ください。

関連事業
席上揮毫会(書のデモンストレーション)
1月31日(木)  平成館ラウンジ
※どなたでもご覧いただけます。ただし入館料が必要です

ワークショップ「王羲之の複製を作ろう」

2月13日(水) 平成館小講堂
※往復はがきによる事前申込制(1月31日(木)必着)。応募者多数の場合抽選となります
※参加費は無料ですが当展観覧券が必要。半券の場合には別途当日の入館料が必要です

 

カテゴリ:news2012年度の特別展

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posted by 林素子(広報室) at 2013年01月17日 (木)