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1089ブログ

展示の舞台裏の話~額縁修理の巻~

みなさま、本館特別1室の「グラスゴーから来た西洋画―博物館草創期の国際交流1 」(2012年11月13日(火) ~ 12月24日(月・休) )、ご覧いただけましたでしょうか。
あれ?西洋美術館に来ちゃったかしら?と思われるような、当館ではちょっと異質な空間です。2次元の平面に3次元世界を展開する油絵の技法は、明治時代の日本ではとても珍しいモノでした。美しい装飾の額も目を引いたに違いありません。

さて、これらの作品はグラスゴーからの長旅に耐え、当館では130年以上も保存されてきました。今回この作品たちにスポットライトをあてるべく、展示計画を中心的に行なった遠藤楽子研究員はいろいろな情報を集めるために奔走しましたが、いざ展示となると、すべての作品の額が劣化して壊れていたり、作品が額の中でずれていたり、画面には汚れが・・・。

でも、大丈夫、トーハクには文化財の救急隊が常駐している保存修復課があります!
意外に思われるかもしれませんが、スタッフの中には、油彩画の修復を専門とする職員がいます。さっそく展示室という晴れ舞台に立たせるべく、ありったけの知恵と技術を総動員させて、作業を展開しました。
今回は、館内の募金箱からの御芳志もいただき、外部からの援軍参加もあり、無事オープンに間に合いました。
掲載の画像はすべて処置前と処置中の様子です。処置後の様子は直接展示室でご覧ください!



左は「橋の風景」(原本=クロード・ロラン筆 18~19世紀 グラスゴー博物館寄贈)、
右は「海の風景」(筆者不詳 18~19世紀 グラスゴー博物館寄贈)の処置前。
白い部分は石膏の装飾が破損してしまった部分。
材料が経年劣化してもろくなります。展示のすべての作品の額にこのような傷がみられました。
また、画面も汚れのベールに覆われていました。

 

 
表面をクリーニング中。上にあるサイコロは天然ゴムのスポンジ。明るい部分が処置済みの箇所です。「クリーニングの窓」と呼んでいます。   額のクリーニング途中。金が油性メッキされていたので、綿棒を濾過水でしめらせて、表面の汚れを除去しました。

 

 
これ、綿棒や脱脂綿についた汚れです。
100年来のすす汚れ…?!
  シリコンゴムで型をとって、石膏やエポキシ樹脂をつかって欠損部分を復元しました。こんなにたくさん!

 

左の画像は、欠損していた部分に新たに作ったパーツを接着したところ。
右の画像は、白い石膏地に下塗りをしたところ。ここに金箔を貼って、水彩絵具等で古色付けをします。

 
「チャールズ王子」(ロナルド・ロバート・マクイアン筆 19世紀 グラスゴー博物館寄贈)処置前。右上の昔の修理跡の様子。変色して、空の表現部分になんだか違和感のあるシミが目立っていました。   「チャールズ王子」処置中。変色した昔の修理跡の上に、補彩用の絵具を用いて目立たないように色を重ねました。本格的に修理をする際には、作品を傷めることなく除去できる絵具です。




展示直前の修理室。さながら額工場。
芸大の油画保存修復研究室の西川竜司研究助手も応援に駆けつけてくださいました。



これ、展示当日の壁付ケースの中。なんと、展示中に白い石膏露出部分発見。
その場で水彩絵具を用いて目立たないように補彩(汗)。


関連事業

東京国立博物館140周年月例講演会「博物館草創期の国際交流」
2012年12月15日(土) 13:30 ~ 15:00 平成館大講堂
聴講無料(ただし当日の入館料は必要)

 

 

カテゴリ:研究員のイチオシ

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posted by 土屋裕子(保存修復課主任研究員) at 2012年12月08日 (土)

 

生まれ変わった東洋館―陶磁器を観る

「やきものってどう観たらいいんでしょうか?」という質問をいただくことがあります。
陶磁器の見方がわからない。それはごく当たり前の感想だと思います。そもそも陶磁器は眺めるためではなく、
使うために作られたものだからです。

でも、最近はプラスチックの器のほうが手軽で便利なため、陶磁器を使うことがない、という人が増えているそうです。
陶磁器の魅力をお伝えするために、できることならば、ぜひ手にとってみていただきたい、というのが私たち研究員の本音です。
なぜなら、重さや触感のように手でさわって得られる情報は、時に真贋に関わるほど、とても大切なものだからです。

 
(左)白釉黒地白花牡丹文枕 磁州窯 北宋時代・12世紀 横河民輔氏寄贈
(右)青花龍涛文壺 景徳鎮窯 元時代・14世紀
(2013年1月2日(水)~5月6日(月・休) 東洋館5室にて展示)


新しい東洋館の展示では、世界に誇る中国の陶磁器コレクションをまるで「手にとるように」感じていただけるよう、
あちらこちらに工夫を凝らしました。
低い大きなケースでは、作品を上から覗いてみることができます。器の内側や裏側はもちろん、文様の細部までよく見えるようになりました。きっと、一点一点の作品に向き合って、ゆっくりご覧いただくことができると思います。

はたしてこの器は、どんな人がどんな道具で作ったのだろうか、そして誰のために作ったのだろうか。
長い時間のあいだに、どんな人たちがどんなふうに使ってきたのだろうか。


五彩金襴手花卉文水滴 景徳鎮窯 若州酒井家伝来 明時代・16世紀 広田松繁氏寄贈
(2013年1月2日(水)~5月6日(月・休) 東洋館5室にて展示)


よい器というのは、観ているうちにこうした疑問が自然に心に湧いてきて、次から次に想像をふくらませずにはいられない、そういうものではないでしょうか。

生まれ変わった東洋館5室にお運びいただいて、すばらしい器の数々と一緒に楽しい時間を過ごしてみてください。

カテゴリ:展示環境・たてもの

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posted by 三笠景子(保存修復室研究員) at 2012年12月05日 (水)

 

書を楽しむ 第27回 「絵の中の書」

書を見るのは楽しいです。

より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第27回です。

書、以外の分野でも、書はあります。
今回は、絵画の中にある書をさがして、
久しぶりにデジタルカメラを持って、展示室をまわってみました!
(デジカメの撮影なので、画像が暗くなってしまい、ごめんなさい。
東博では、「撮影禁止」マークのない作品は撮影できますが、 
フラッシュ撮影はできません。)

まずは、本館3室(仏教の美術)
国宝の「十六羅漢像」の中にありました。

国宝 十六羅漢像
国宝  十六羅漢像  平安時代・11世紀 
2012年11月20日(火) ~ 2012年12月24日(月・休) 本館3室(仏教の美術)にて展示

右の上の方の白い枠の中(色紙形・しきしがた)に書かれています。
とてもしっかりした書で、
平等院鳳凰堂にある色紙形の書(源兼行筆)にも似ています。

3室(宮廷の美術)では、
重要文化財「後三年合戦絵巻」の詞書(ことばがき)がありました。


重要文化財 後三年合戦絵巻 巻上  飛騨守惟久筆 南北朝時代・貞和3年(1347)
2012年11月20日(火) ~ 2012年12月24日(月・休) 本館3室(宮廷の美術)にて展示

絵巻の詞書も、能書(のうしょ、書の上手な人)が書いている場合が多いです。

3室(禅と水墨画)では、
絵の上の方に、賛(さん、絵などを褒めたたえる詩文)がありました。


(左)白衣観音図  鎌倉~南北朝時代・14世紀
(右)重要文化財  蘭蕙同芳図 玉畹梵芳筆 南北朝時代・14世紀

2012年11月20日(火) ~ 2012年12月24日(月・休) 本館3室(禅と水墨画)にて展示

禅僧が書いたものが多く、
とても味わいのある書です。

さて、
本館7室、8室では、
署名を加えているものが多いです。


(左)紅白梅図屏風 山田抱玉筆 江戸時代・19世紀 長谷川巳之吉氏寄贈
2012年11月27日(火) ~ 2013年1月14日(月) 本館7室(屏風と襖絵)にて展示
(右)梅鴛鴦若松春草図  田中抱二筆 江戸時代・19世紀
2012年11月27日(火) ~ 2013年1月14日(月) 本館8室(書画の展開)にて展示


左は「抱玉筆」、右は「抱二筆」です。
どちらも、酒井抱一(さかいほういつ、1761~1829)の弟子なので、
名前に「抱」という字を使っていますが、
「抱」の書き方が似ていると思いませんか?
二人とも、
師匠の抱一の署名を真似ているようです。

右の画像の、赤いまるい印章の字も、
筆の字のような雰囲気で、素敵です。
これも、師匠の抱一が押していたものと似ています。

さいごの本館10室です。

9室から入ると、
絵ではありませんが、振袖の中に、書がありました!


振袖 白絖地楓竹矢来文字模様 江戸時代・18世紀
2012年10月23日(火) ~ 2012年12月24日(月・休) 本館10室(衣装)にて展示


左上は「若」、右下に「紫」が見えます。
源氏物語の「若紫」をモチーフにした文様です。
工芸品の中にも、書があるんですよね。
浮世絵の中はどうでしょうか?


(左)假名手本忠臣蔵・五段目 葛飾北斎筆 江戸時代・19世紀   
(右)高名美人見たて忠臣蔵・六だんめ 喜多川歌麿筆 江戸時代・18世紀
2012年11月27日(火) ~ 2012年12月24日(月・休) 本館10室(浮世絵)にて展示


女性が持っている巻き物には、なにが書かれているのでしょうか?


今回、酒井抱一の絵は展示されていませんでしたが、
抱一の絵の繊細さが好きです。
その弟子が、師匠の署名まで真似ているのがわかって
面白かったです!

好きな画家、好きな絵があったら、
その画家がどんな字を書いていたのか、
確かめてみませんか?
その人の字を見ると、
その人に近づいたような気がしてきます。

カテゴリ:研究員のイチオシ書跡

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posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2012年12月02日 (日)

 

特別展「中国 王朝の至宝」―不思議な形の動物たち―

中国の考古・美術の展覧会といえば、青銅器などの難解なものが並んでばかりで、愛好者でないと親しみにくいという声を耳にすることがあります。
しかし、特別展「中国 王朝の至宝」(2012年10月10日(水)~12月24日(月・休)、平成館)の会場には、誰がみても理屈ぬきであっと驚くような作品がたくさん展示されています。
この世のものならぬ不思議な形をした動物の作品の数々は、その代表的な例といえるでしょう。

まず、この顔をご覧ください。


一級文物 鎮墓獣(ちんぼじゅう)(部分) 
木・漆・鹿角  戦国時代・前4世紀 湖北省荊州市天星観1号墓出土 荊州博物館蔵


首の長い動物が舌を出しています。頭には大きな鹿の角が生えています。
奥にも、やはり角の生えた頭部がみえます。
この動物の全貌はいったいどのようになっているのでしょうか。


鎮墓獣(ちんぼじゅう)全体 
高144cm 長150cm


四角い台座の真ん中からこの動物の胴体がのび、途中で手前と奥に枝分かれしてそれぞれ鎌首をもたげています。
木彫漆塗りのこの動物は、今から約2400年前の大きな墓のなかから出土しました。
魔除けの一種として墓に副葬されたもので、鎮墓獣といいます。
双頭の異様な形、ヘビのようにもたげた鎌首、吐き出した赤い舌、大ぶりな鹿の角は、すべて悪い邪気を墓から追い払うための威嚇だったのです。

余談ですが、閉館後に消灯して真っ暗闇となった会場をある同僚が懐中電灯で点検していたとき、鎮墓獣のケースの前で立ち止まると身の毛のよだつほど怖かったと述懐していました。
もともと鎮墓獣は真っ暗な地下のお墓のなかに置かれていたものです。
その意味で、同僚は本来のとても正しい鑑賞の仕方をしたといえなくもありません…。

さて、会場では恐ろしい怪獣ばかりでなく、こんなにかわいらしい動物にも出会うことができます。


一級文物 犠尊(ぎそん) 
戦国時代・前4~前3世紀 山東省淄博市臨淄区商王村出土 斉国故城遺址博物館蔵

つぶらな瞳に長い耳。足の先端には二股に分かれた蹄があります。
ブタ?それともウシでしょうか?
何の動物を表現したものなのか、専門家のあいだでも意見がわかれています。
恐らくは現実世界に存在する特定の種類の動物ではなく、架空の動物ではないかと考えられます。
では、どうしてそのように考えられるのでしょうか。

この動物は青銅でできた全身に金銀トルコ石などをはめこむことで、文様を華麗に見せています。
文様はところどころ先端が渦を巻き、まるで山間に漂う雲気のようです。
この文様は天上の世界にすむ仙人や動物を表現した作品によく飾られていて、雲気文と呼ばれています。
文様のほかにも、この動物がただものではないことは顔を見るとよくわかります。


犠尊(顔部分)

なんと、動物なのに眉毛があります。
しかも、眉毛にトルコ石を連続してはめこむことで、顔立ちがシャープにひきしまって見えます。
首輪にもご注目ください。
もともとここに楕円形の銀の珠が16個もはめこまれていました。動物なのにこれほど豪華な作りの首輪を着けていたとは、ますますなぞが深まります。
少し開いた口には孔が開いています。
犠尊と呼ばれるこの青銅器は動物の形をしていますが、中身は空洞で酒を供えるための容器でした。
体内の酒はこの口の孔から注ぎ出したと考えられます。
それでは、酒はどこから体内に入れたのでしょうか。

 図5の補足
犠尊(背中部分)  

動物の背中の部分が蓋になっています。つまみをつかんで持ち上げると、前方に蓋を開けることができます。
ここから酒をなかに入れる仕掛けだったのでしょう。
ところで、この蓋は全体でカモのような水鳥をかたどっています。
後ろを振り向き、扁平なくちばしを背中にぺたんとつけた鳥の姿を表しています。
長い首は蓋のつまみになっています。
羽の模様は銀をはめこんで輪郭を際立たせ、そのなかにトルコ石やクジャク石といった緑色の貴石をあしらっています。

ロバのように長い耳やウシのような蹄をもち、全身には雲気文、顔には眉毛まで表し、水鳥を背負ったなぞの動物。
愛らしい顔立ちからは思いもよらない犠尊の不思議さを、会場でぜひ直接お確かめになってください。

カテゴリ:研究員のイチオシ2012年度の特別展

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posted by 川村佳男(保存修復課研究員) at 2012年11月30日 (金)

 

特別展「中国 王朝の至宝」10万人達成!

特別展「中国 王朝の至宝」(2012年10月10日(水)~12月24日(月・祝))は、
2012年11月28日(水)午後、10万人目のお客様をお迎えしました。
多くのお客様にご来場いただき、心より御礼申し上げます。

10万人目のお客様は、埼玉県よりお越しの木村梨奈さんです。ご友人の田中彩香さんと一緒に来館されました。
記念品として、東京国立博物館長 銭谷眞美より、本展図録と展覧会オリジナルの中国茶などを贈呈いたしました。

王朝展10万人セレモニー
左から、銭谷眞美館長、木村梨奈さん、田中彩香さん
2012年11月28日(水) 東京国立博物館平成館にて

木村さんは、大学で受講している中国語の授業で、先生がこの展覧会をぜひ見に行くようにと薦めてくれたとのこと。
「貴重な作品がたくさん展示されていると伺ったので、実際に見るのが楽しみです」とお話いただきました。

特別展「中国 王朝の至宝」は、会期終了まで残り1ヶ月を切りました。
なんとも不思議な形の「羽人(うじん)」や、りりしい姿が印象的な「跪射俑(きしゃよう)」などは必見です。この機会にぜひほんもののパワーを体感してください。
ご来館を心よりお待ちしております。

カテゴリ:news2012年度の特別展

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posted by 小島佳(広報室) at 2012年11月28日 (水)