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特別展「中国 王朝の至宝」―不思議な形の動物たち―

中国の考古・美術の展覧会といえば、青銅器などの難解なものが並んでばかりで、愛好者でないと親しみにくいという声を耳にすることがあります。
しかし、特別展「中国 王朝の至宝」(2012年10月10日(水)~12月24日(月・休)、平成館)の会場には、誰がみても理屈ぬきであっと驚くような作品がたくさん展示されています。
この世のものならぬ不思議な形をした動物の作品の数々は、その代表的な例といえるでしょう。

まず、この顔をご覧ください。


一級文物 鎮墓獣(ちんぼじゅう)(部分) 
木・漆・鹿角  戦国時代・前4世紀 湖北省荊州市天星観1号墓出土 荊州博物館蔵


首の長い動物が舌を出しています。頭には大きな鹿の角が生えています。
奥にも、やはり角の生えた頭部がみえます。
この動物の全貌はいったいどのようになっているのでしょうか。


鎮墓獣(ちんぼじゅう)全体 
高144cm 長150cm


四角い台座の真ん中からこの動物の胴体がのび、途中で手前と奥に枝分かれしてそれぞれ鎌首をもたげています。
木彫漆塗りのこの動物は、今から約2400年前の大きな墓のなかから出土しました。
魔除けの一種として墓に副葬されたもので、鎮墓獣といいます。
双頭の異様な形、ヘビのようにもたげた鎌首、吐き出した赤い舌、大ぶりな鹿の角は、すべて悪い邪気を墓から追い払うための威嚇だったのです。

余談ですが、閉館後に消灯して真っ暗闇となった会場をある同僚が懐中電灯で点検していたとき、鎮墓獣のケースの前で立ち止まると身の毛のよだつほど怖かったと述懐していました。
もともと鎮墓獣は真っ暗な地下のお墓のなかに置かれていたものです。
その意味で、同僚は本来のとても正しい鑑賞の仕方をしたといえなくもありません…。

さて、会場では恐ろしい怪獣ばかりでなく、こんなにかわいらしい動物にも出会うことができます。


一級文物 犠尊(ぎそん) 
戦国時代・前4~前3世紀 山東省淄博市臨淄区商王村出土 斉国故城遺址博物館蔵

つぶらな瞳に長い耳。足の先端には二股に分かれた蹄があります。
ブタ?それともウシでしょうか?
何の動物を表現したものなのか、専門家のあいだでも意見がわかれています。
恐らくは現実世界に存在する特定の種類の動物ではなく、架空の動物ではないかと考えられます。
では、どうしてそのように考えられるのでしょうか。

この動物は青銅でできた全身に金銀トルコ石などをはめこむことで、文様を華麗に見せています。
文様はところどころ先端が渦を巻き、まるで山間に漂う雲気のようです。
この文様は天上の世界にすむ仙人や動物を表現した作品によく飾られていて、雲気文と呼ばれています。
文様のほかにも、この動物がただものではないことは顔を見るとよくわかります。


犠尊(顔部分)

なんと、動物なのに眉毛があります。
しかも、眉毛にトルコ石を連続してはめこむことで、顔立ちがシャープにひきしまって見えます。
首輪にもご注目ください。
もともとここに楕円形の銀の珠が16個もはめこまれていました。動物なのにこれほど豪華な作りの首輪を着けていたとは、ますますなぞが深まります。
少し開いた口には孔が開いています。
犠尊と呼ばれるこの青銅器は動物の形をしていますが、中身は空洞で酒を供えるための容器でした。
体内の酒はこの口の孔から注ぎ出したと考えられます。
それでは、酒はどこから体内に入れたのでしょうか。

 図5の補足
犠尊(背中部分)  

動物の背中の部分が蓋になっています。つまみをつかんで持ち上げると、前方に蓋を開けることができます。
ここから酒をなかに入れる仕掛けだったのでしょう。
ところで、この蓋は全体でカモのような水鳥をかたどっています。
後ろを振り向き、扁平なくちばしを背中にぺたんとつけた鳥の姿を表しています。
長い首は蓋のつまみになっています。
羽の模様は銀をはめこんで輪郭を際立たせ、そのなかにトルコ石やクジャク石といった緑色の貴石をあしらっています。

ロバのように長い耳やウシのような蹄をもち、全身には雲気文、顔には眉毛まで表し、水鳥を背負ったなぞの動物。
愛らしい顔立ちからは思いもよらない犠尊の不思議さを、会場でぜひ直接お確かめになってください。

カテゴリ:研究員のイチオシ2012年度の特別展

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posted by 川村佳男(保存修復課研究員) at 2012年11月30日 (金)