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1089ブログ

中村不折と高島菊次郎~中国書画への熱い思い~

20世紀の初め、清朝から中華民国へと変わる辛亥革命の前後に、中国書画の多くが海外に流出しました。所有者の中には、この動乱に貴重な書画を失うよりは、中国の伝統文化を大切に継承する国に残したいと、あえて日本に流出させる場合もありました。
日本での良き理解者たちが、中村不折(なかむらふせつ、1866~1943)であり、高島菊次郎(たかしまきくじろう、1875~1969)でした。年齢は不折が9歳年上ですが、ほぼ同時代に活躍しているため、収集した時期や入手先なども、重なる部分が少なくありません。

中村不折 泰山刻石
(左)中村不折
(右)泰山刻石― 一六五字本 ― 中国 原碑=秦時代・前219年 台東区立書道博物館蔵


中村不折は、画家を志すべく小山正太郎(こやましょうたろう)に師事し、後にパリへ留学して洋画家としての地位を築きました。同時に、あくまでも余技に過ぎないと称してはばからなかった書においても第一線で活躍し、潤筆料から資金を捻出して、書に関する作品を収集、やがてその膨大な収蔵品を公開するために書道博物館を創設しました。思い立ったらどこまでも突き進んでいく、情熱的な人物だったのです。
収蔵品の白眉は「泰山刻石(たいざんこくせき)」で、宋拓の165字本、明拓の29字本、清拓の10字本があります。秦の始皇帝が天下を統一した際に、自らの功績を称えるために建てたこの碑は、2000年以上に及ぶ歳月の流れの中で少しずつ毀たれ、やがて倒壊し、現在は10字の断片となっています。不折の収蔵品の3種は、時代とともに文字が剥落する様子がわかる、実に興味深い拓本なのです。なかでも165字本は、明時代の大収蔵家であった華夏(かか)の旧蔵で、名品中の名品として知られています。

高島菊次郎 漢婁寿碑
(左)高島菊次郎
(右)漢婁寿碑 中国 原碑=後漢時代・熹平3年(174) 高島菊次郎氏寄贈


高島菊次郎は、東京高等商業学校(現在の一橋大学)を卒業後、大阪商船株式会社・三井物産を経て王子製紙に入社、数々の要職を歴任後、社長に就任しました。実業家として日本の製紙業界に貢献するかたわら、中国の思想や美術にも造詣が深く、余暇に漢籍を研究し、書の稽古に専念しながら、大いなる熱意をもって中国書画の収集に努めました。
こちらの逸品は、漢時代の儒者である婁という人を称えた「婁寿碑(ろうじゅひ)」でしょう。宋時代には原石があったようですが、すでに碑文の傷みがひどく、文字が判読できなかったとも言われています。石碑はいつしか失われ、この宋拓一本のみが伝存し、古くから天下の孤本として珍重されてきました。これも上述した華夏(かか)の旧蔵品で、拓本の後ろには、明の豊坊(ほうぼう)、清の朱彝尊(しゅいそん)、潘祖蔭(はんそいん)、銭大昕(せんだいきん)、何紹基(かしょうき)など、錚々たる文人の題跋が錦上に花を添えています。

実作家の中村不折と、実業家の高島菊次郎。境遇は異なっても、中国の伝統文化に魅了され、中国の書画を心から愛した気持ちは同じでした。是非、会場に足を運んで、質の高い名品の数々を収集した二人の偉業に思いを馳せてください。

特集陳列「中村不折と高島菊次郎」
東洋館 8室   2014年2月4日(火) ~ 2014年4月6日(日)

※台東区立書道博物館では、3月23日(日)まで、企画展「中村不折のすべて-書道博物館収蔵品のなかから-」を開催しています。不折自身の書画作品が展示されていますので、あわせてご覧ください。

カテゴリ:研究員のイチオシ

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posted by 富田淳(列品管理課長) at 2014年03月07日 (金)

 

お姫様のお嫁入り道具、貝合せをつくりました

恒例のワークショップ「貝合せに挑戦」を開催しました。

貝合せに使う蛤の貝殻は、もともとペアだった殻としか合わないようにかたちができています。
どんなに似ていても、他の貝とは合わないのだそうです。
そのため夫婦円満の象徴として、江戸時代のお姫様がお嫁に行くときの行列の先頭は貝合せをいれた貝桶だったとか。

今回は、当日本館に展示している作品のモチーフをつかって考えたオリジナルの貝合せを1組つくるというもの。
まずは本館14室の特集陳列「おひなさまと雛(ひいな)の世界」へ。
雛道具のなかに、貝合せや貝桶がありました。
雛道具は江戸時代のお姫様がお嫁に行くときにもっていった婚礼調度をもとにしているといわれています。
だから貝合せがあるんですね。

雛道具の見学
雛道具の見学

本館8室には江戸時代の貝合せが展示されています。
その大きさ、豪華さにみんなで驚きました。
江戸時代の貝合せ
源氏絵彩色貝桶  江戸時代・17世紀(本館8室にて3月23日(日)まで展示)


雛道具と江戸時代の貝合せを見た後は、本館に展示されている作品から、貝合せのデザインを考えます。
その後、ペンで絵付けをします。参考にした作品と出来上がった貝合せをご紹介します。

袱紗貝合せ
(左)袱紗 萌黄繻子地桜樹孔雀模様 江戸時代・19世紀(本館10室にて4月20日(日)まで展示)
(右)孔雀の羽に注目した個性的な貝合せ

三彩龍文鉢貝合せ
(左)三彩龍文鉢 永楽保全作 江戸時代・19世紀(展示は終了しました)
(右)宙を舞う龍をのびのび表してくれました


貝合せ完成
完成した貝合せをもって親子でパチリ!

貝合せは、貝殻の模様や大きさを見比べて、ペアを探すゲームでもあります。
二枚貝の蛤(はまぐり)の貝殻をふたつに分けます。
片方は「地貝(じがい)」として伏せて並べておきます。
もう片方は「出貝(だしがい)」といい、ひとつずつだして、貝殻の模様や大きさをヒントに、その出貝のペアである地貝を探します。
ファミリーワークショップでは、最後に家族対抗貝合せ大会をして楽しみました。

貝合せ大会
みんな真剣に地貝と出貝を見比べます

ひな祭り目前の週末に開催したワークショップでした。
トーハクで貝合せにこめられている意味や願いを知り、家庭で季節の行事を楽しむことができたでしょうか。

 

カテゴリ:研究員のイチオシnews教育普及催し物

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posted by 川岸瀬里(教育普及室) at 2014年03月05日 (水)

 

特集陳列「東京国立博物館コレクションの保存と修理」

14回目となりました恒例の特集陳列「東京国立博物館コレクションの保存と修理」(3月4日(火)~3月30日(日)、平成館企画展示室)。今回の展示は例年と比べ、分野だけでなく修理の内容が多岐にわたっており、文化財修理の奥深さを見る事ができます。

例えば博物館ニュース2・3月号にも紹介している「応急修理」です。本格修理を病院での大手術に例えると、ホームドクターによる簡易な処置がこれにあたります。我々は健康を維持するにあたり、少し風邪をひいた程度でいきなり大病院にはいきませんよね?とりあえず近所の主治医に見せて判断をあおぎ、負担の少ない処置を施すことで健康を維持します。文化財も我々の健康と同じで、軽微な処置を行うだけで周辺環境を整えられたり、見やすく安全に取り扱えるようになります。その結果、ハンドリング時に起こる事故の確率が下がり、文化財を安全に末永く伝えることができます。当館ではこれらの処置を常常勤のアソシエイトフェローを中心に行なっております。展示では作品とともに修理の内容についても詳細に紹介しています。

その他にも江戸時代に書かれた書物の内容とX線による調査の結果を参考にし、最新の合成樹脂を用いて行われた修理(壷鐙)、大量の書類を短い時間で処理した修理(重要雑録)などの例をご覧いただきます。また、青磁鳳凰耳瓶と東洋館5室で同時期に展示中の砧青磁の名品「馬蝗絆」をご覧いただくことで、同じ症状に対する室町時代の修理と平成の修理を比較することができます。

青磁鳳凰耳瓶  馬蝗絆
(左)青磁鳳凰耳瓶(修理後) 中国・龍泉窯 南宋~元時代・13世紀 松永安左エ門氏寄贈
(右)重要文化財 青磁輪花碗 銘 馬蝗絆 中国・龍泉窯 南宋時代・13世紀  三井高大氏寄贈(東洋館5室にて、5月25日(日)まで展示中)


例年同様に修理で全体が整った作品をご覧いただくだけではなく、皆様のお宅にある、ちょっと風邪を引いたお宝を末永く健康に保つ秘訣を見つける事が出来るかもしれませんよ。
忙しい年度末の短い期間ですがぜひ、足をお運びください。

関連事業

「東京国立博物館コレクションの保存と修理」
平成館 企画展示室  2014年3月4日(火)   14:00 ~ 14:30
「東洋書画の修復と保存」
東洋館 TNM&TOPPAN ミュージアムシアター  2014年3月11日(火)   14:00 ~ 14:30
「展示を支える修復技術-マウント、書見台、保存箱」
東洋館 TNM&TOPPAN ミュージアムシアター  2014年3月25日(火)   14:00 ~ 14:30
 

カテゴリ:研究員のイチオシ保存と修理

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posted by 荒木臣紀(保存修復課主任研究員) at 2014年03月04日 (火)

 

特集陳列「本州最西端の弥生文化-響灘と山口・綾羅木郷遺跡-」の見どころ(魅ドコロ・・・)3-交流トピック編

特集陳列「本州最西端の弥生文化-響灘と山口・綾羅木郷遺跡-」[2013年10月29日(火)~2014年3月9日(日)]ものこすところ、あと3週間たらずとなりました。

左)展示入口サイン、右)響灘沿岸部遺跡分布図
左)展示入口サイン、右)響灘沿岸部遺跡分布図

今回は、当館の収蔵品にはないため、普段お目にかけることができない展示品に注目して頂きたいと思います。
それぞれの見どころやまつわるエピソードをご紹介しつつ、弥生時代前期の響灘沿岸地方の人々がたずさわった朝鮮半島や山陰・瀬戸内地方との交流の歴史も考えてみたいと思います。


まず、綾羅木郷遺跡を有名にしたのは、なんといっても最初のガイダンス(響灘の弥生文化)コーナーに展示されている「土笛」です。
すぼまった上部に小さな口縁部をもつ中空の倒卵形で、高さ8センチにも満たない小さな土製品です。

響灘の弥生文化[甕・壺(綾羅木Ⅲ式)と土笛・武器形磨製石器・玉類] 土笛[正面・高7.1㎝]
左)響灘の弥生文化[甕・壺(綾羅木III式)と土笛・武器形磨製石器・玉類]、右)土笛[正面・高7.1㎝]

口縁部の周辺をやや欠いていますが・・・、両手で持つとちょうど手の平にスッポリと納まる大きさです。
正面には四つ、背面には二つの孔が開けられ、実に不思議な形をしています。

1967年、発掘担当者であった国分直一博士は、古代中国・殷代の礼楽器の陶塤(とうけん)に似ていることから口縁部を吹口、側面の孔を指孔とみて、農耕儀礼(?)に使った楽器の一種ではないかと考えました。
また、これを知った地元の画家・松岡敏行氏が粘土を焼いて製作した模造品で実験を行った結果、草笛に近い音色でメロディーを奏でることができることが判りました。
ちなみに松岡さんは芸大・日本画のご出身で、卒業制作では当館で見た弥生土器と埴輪をあしらった静物画を描いたそうです。

その後、復元品を松岡氏の個展で見て深く興味を覚えた、これまた地元の作曲家・町田洋氏が演奏活動やリサイタルを続け、1978年には(ついに!)LPレコード(東芝EMI)を出すなど、広く知られるようになりました。


さて、このような「土笛」は近年の発掘調査の進展で、弥生時代前期~中期にかけて響灘沿岸部や山陰・京都北部地方に広く分布することが判ってきました。
とくに山口県下関市周辺、島根県松江市から鳥取県米子市にかけての一帯、京都府峰山町などの丹後半島一帯の3地域で集中的に出土しています。なかでも、島根県西川津遺跡とタテチョウ遺跡では、それぞれ約20点も出土しています。

一方、西方の九州では福岡県福津市・宗像市域を西限として、いずれも響灘沿岸部に止まっています。
日本列島で最初に稲作文化が根付いた玄界灘沿岸より西側では、(なぜか・・・)出土していませんし、朝鮮半島でも未発見です。

 
上)弥生時代前期 綾羅木式土器・土笛等 分布図

綾羅木式土器の文様[Ⅱ式:山形重弧文・Ⅲ式:貝殻重弧文]
上)弥生時代前期 綾羅木式土器・土笛等 分布図、下)綾羅木式土器の文様[II式:山形重弧文・III式:貝殻重弧文]

そこで分布図をよく見てみると・・・、その分布範囲は独特な山形重弧文や各種の貝殻文で知られる「綾羅木式土器」の分布圏とピッタリ重なっていることが判ります。
どうも九州の響灘沿岸部から山陰の日本海側の弥生文化に共有されていた特有な文物で、独自の儀礼を伴う稲作文化であった可能性も指摘されています。
日本最古の農耕文化が成立した玄界灘や有明海沿岸などの北西部九州地方とは異なった地域文化の存在と、北東部九州と山陰地方の人々の交流が浮かび上がります。


次は、そのお隣の「磨製石剣・石鏃」を挟んで展示されている小さな玉類に注目してみましょう。
ホントに小さな出土品(3は直径2mm!)ですので、ウッカリ見落としてしまいそうですが・・・。
実は今回の展覧会の“白眉”ともいえる存在です。

左)装身具展示状況、右)勾玉・丸玉・小玉[上:アマゾナイト製、下:貝製]
左)装身具展示状況、右)勾玉・丸玉・小玉[上:アマゾナイト製、下:貝製]

まず、小さな白い貝製小玉は貝珠とも呼ばれ、二枚貝を加工して作られています。
縄文時代晩期から弥生時代前期にかけて、朝鮮半島南部と五島列島、および北部九州や中国地方の一部に分布しています。
一般的な日本列島出土品より朝鮮半島南部出土品は大型で、響灘沿岸部の出土品はとくに繊細で小型といった地域性もあります。

一方、鮮やかな緑色の玉はアマゾナイト(天河石)という珍しい石で、朝鮮半島の青銅器文化にしばしば登場する石材です。
獣形・半環状などの独特の垂飾類が発達しますが、綾羅木郷遺跡出土品は形態や石材が大変よく似ています。日本列島では弥生時代前期から中期にかけて、まだ10数例しか知られていません。
ほとんどが北部九州地方に偏って分布することも特徴で、大陸からもたらされた青銅器文化と共に運ばれてきた可能性が高い文物と考えられています。
これらの玉類は、朝鮮半島と日本列島の人々の文化交流を如実に物語るものでしょう。


もう一つ、ケース中央に展示している二つの小さな土器に注目して頂きます。
装飾的でひときわ大型の土器が多い綾羅木III式土器の中で、文様もなく(何の変哲もない?)かなり“地味~”な土器です。
口縁部の対称的な位置に2孔一組の孔が空いた土器が無頸壺(4)で、口縁部に三角形状の突帯をもつカップ形の土器が無文土器(2)です(ホントにかわいらしい土器ですね)。

左)綾羅木Ⅲ式土器、右)無頸壺(4)と無文土器(2)
左)綾羅木III式土器、右)無頸壺(4)と無文土器(2)

無頸壺は、北部九州から瀬戸内海地方で弥生時代前期後半に現れた土器です。
中期に盛行することから、地方色が顕在化する中期弥生文化を象徴する存在とも考えられています。
綾羅木式土器が分布する瀬戸内海地方との交流が背景にあったことがうかがわれます。

一方、無文土器はもともと朝鮮半島の青銅器~初期鉄器時代の農耕社会で使用された土器です。
胎土は弥生土器と似ていますが、とくに甕形土器は指ナデで造るために凸凹(デコボコ)が著しく、弥生土器には見られない口縁部粘土紐や円板底の底部などが特徴です。
弥生時代前期後半から中期にかけて、北部九州地方を中心に近畿地方まで分布し、渡来人の直接的な影響の範囲を示すものとして注目されています。


ところで、綾羅木III式期(前期末頃)の綾羅木郷遺跡は、2~3重環濠に囲まれた集落が最大になった時期で、近畿北部や四国北西部地方にまで綾羅木III式土器が拡がった時期です。
綾羅木郷遺跡の人々がもっとも活動的であった時代といえるでしょう。

左)綾羅木Ⅲ式土器、右)無頸壺(4)と無文土器(2)
左)無頸壺[高10.2㎝]、中)無文土器[高12.6㎝]、右)綾羅木壕遺跡の環濠集落(西部地区)

1974年、同じ前期末頃の福岡県師岡B遺跡の発掘調査では、弥生土器よりも多くの無文土器を使用する人々(渡来人?)の集落が営まれていたことが判明して関係者を驚かせました。
また、少し後の中期初頭には、対馬海峡を挟む韓国・釜山の莱城(ネソン)遺跡で出土土器の90%以上が弥生土器という特異な住居跡も見つかっています。
ひょっとして、中世の中国や東南アジアに建設された「日本人町」を彷彿とさせるもの(?)かもしれません・・・。

いずれの遺跡も日本と韓国で、在地の土器とは異なる(当時の)“外国”の人々が使う土器を多数保有する集落です。
交流によって海を渡った人々の生活の痕跡が残された遺跡とみられ、相互に地元では手に入らない資源を求め、交易等を行っていた人々の姿が目に浮かぶようです。
これらの土器は、日本列島に稲作文化が急速に拡大するとともに、新しく大陸からもたらされた青銅器の生産が開始される時代に、綾羅木郷遺跡の人々のアクティブな活動をうかがわせる重要な“証人”でもあるということができます。


ややもすると、装飾豊かな土器や煌(きら)びやかな金属器にばかり目を奪われがちですが・・・、
今回ご紹介したような小さな、ときに地味な造形の中には、しばしば当時の人々のダイナミックな活動がストレートに「記録」されていることがあります。

これらの「小さな造形」に秘められた当時の人々の活躍ぶりと、歴史の大きな“うねり”を感じ取って頂ければ幸いです。
 

カテゴリ:研究員のイチオシ考古

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posted by 古谷毅(列品管理課主任研究員) at 2014年02月21日 (金)

 

トーハクくんの「なるほー!人間国宝展」その3

トーハクくん
ほほーい!ぼくトーハクくん!
今日は東洋館にいるユリノキレポーターと中継がつながっているんだほ。さっそく呼んでみるほ。
ユリノキちゃーん!


ユリノキちゃん
はーい。こちらユリノキちゃんです。私は今、東洋館1階のレストランゆりの木に来ています。
こちらでは、「人間国宝展」特別メニューを食べることができるんですよ。


限定ケーキ
人間国宝展限定「ゆずと苺のムース」
コーヒーまたは紅茶付 900円(税込)
単品 500円(税込)


ご覧ください!とっても美味しそうでしょ!
ゆずと苺の二層のムースが溶け合ってからまって、最高のハーモニー!ん~、まさに国宝級!
これは、柿右衛門様式で特徴的な白磁と鮮やかな赤からインスピレーションを受けたんですって!

展覧会のあとはぜひレストランゆりの木で、作品を思い出しながら至福のひとときをお過ごしください。
それでは、展覧会場のトーハクくんにお戻しします!


トーハクくん

ユリノキちゃん、ありがほー!
さて、今日は特別展室の横山さんといっしょに「人間国宝展―生み出された美、伝えゆくわざ―」を見に行く予定なんだけど、あれれまだ来ていないみたいだほ…

横山研究員(以下ヨ):トーハクくーん!こっちこっち!

トーハクくん あれ、横山さんの声がするほ、どこどこ?

ヨ:ここです!


横山さんとトーハクくん

平成館のエントランスに入って右手奥にある企画展示室では、特集陳列「人間国宝の現在(いま)」を開催しています。
今日はこちらの展示をご紹介しますね。

トーハクくん (でれでれ)いや~横山さん、小憎い演出をしてくれるもんだほ~。よろしくお願いしますほ。
ところで、「人間国宝の現在(いま)」は、特別展示室の「人間国宝展」とはどこが違うのだほ?

ヨ:特別展示室では、すでに亡くなられた人間国宝の方の作品をご覧いただけますが、企画展示室では現在ご活躍中の人間国宝の作品を展示しているんです。
両会場を回ると、工芸分野の全人間国宝(*)の作品を見ることができるんですよ。
(*刀剣研磨、手漉和紙を除きます。)

トーハクくん おぉすごいほ!特別展だけ見て帰ってしまいそうだけど、こっちも見逃してはいけないほ!
さて、この展示のなかで、横山さんのおすすめ作品はどれだほ?

ヨ:ひとつ選ぶのは難しいのだけど、図録の執筆のために最初にインタビューをさせていただいた吉田美統(よしたみのり)先生の作品はとても印象深いです。


釉裏金彩更紗文花器
釉裏金彩更紗文花器 (ゆうりきんさいさらさもんかき)
吉田美統 平成24年(2012) 個人蔵



トーハクくん わー、とってもきれいなお花が描いてあるほ。

ヨ:トーハクくん、これは「描いてある」のではないの。薄く切った金箔が貼られているの。

トーハクくん えっ?きんぱくなの?
でも金箔って薄いから、こんなに細かい模様が切れるわけがないほ。

ヨ:それが出来ちゃうのが人間国宝なのよ。
この作品は出来上がるまでにとても手間がかかっているの。
作品の表面をよく見てみて。うっすらと縞模様になっているでしょう?


吉田先生作品を見る


これは、まずお皿を素焼きして、さらに高温で本焼きします。
その上に釉薬をストライプ状に塗って、一度焼きます。
その上に淡い釉薬を塗って、また焼きます。

トーハクくん えっと、ここまででもう4回焼いたほ。

ヨ:そうね。ここまで来たらやっと金箔の模様の下図をお皿の上に施します。
その後、模様の形に切った極薄の金箔をお皿に貼り付けていきます。ここで金箔を付けるために一回焼きます。
その上にガラス質の透明釉を塗って、また焼きます。

トーハクくん ああ!6回も焼いているほ!こんなに大変なこと、ボクには出来ないほ!
しかし、どうしてそんなに何度も焼く必要があるほ?

ヨ:金箔って、こすると擦れてきちゃうでしょう?
だから、金箔の上から透明釉をコーティングしてあげるのよ。

トーハクくん なるほ。金箔が釉薬でサンドイッチされているんだね。

ヨ:そう!それが「釉裏金彩」という技法です。
磁器に金箔をつけるのはとても難しい技術なの。吉田先生は、それを飽くなき探求心で成し遂げた方なのよ。

トーハクくん 吉田先生って、お話してみてどんな人だったほ?

ヨ:私のような若輩者にも気さくに、そして丁寧に接してくださる、とても謙虚な方でした。
作品を見ればわかるけど、作品にかける思いは真摯でまっすぐです。


展示風景


トーハクくん それでは恒例の質問だほ!
横山さんがキャッツアイだったら、そうだなあ、やっぱり三女の愛ちゃんがいいかなあ?
じゃなかった、キャッツアイだったらどの作品を盗みたいほ?

ヨ:愛ちゃんいいですね(笑)。
どれか1点と言われてしまうとすごく迷いますが、私は陶磁が専門なのでやはりこの作品を選びます。


白瓷面取壺
白瓷面取壺(はくじめんとりつぼ)  
前田昭博 平成12年(2000) 文化庁蔵



前田先生は、日本人にしか作れない「日本的な白瓷(はくじ)」を追求していらっしゃるの。
日本の絵画は、余白や間を大事にするでしょう?この方はやきものでそれを表現しています。
無駄なところを削って削って、これ以上行き過ぎたらだめ、というぎりぎりのところまで削って、そして全体のバランスを整えていきます。
極限まで研ぎ澄まされ、洗練されたフォルムが美しいですね。


前田先生の作品を見る

トーハクくん でも、冷たい感じがしないね。ころんとしていてかわいいほ。

ヨ:そうでしょ?なんだかタマゴみたいで、親しみを感じるわね。
これは前田先生のお人柄そのもののように感じます。柔和で温かみのある方なんです。


前田先生と
前田昭博先生の工房にて


トーハクくん そうかあ!
今まで小山さん、伊藤さん、横山さんにインタビューしてきたけど、3人とも言っていたのは
「人間国宝は決しておごることなく謙虚で、作品づくりに関してはチャレンジャーで、そしてあったかい人」だってことだほ。
憧れるほー!ボクもそういうかっこいいオトナになりたいほ!

ヨ:そうね。今からがんばれば、トーハクくんもなれるかもね!

トーハクくん うほー!横山さんに応援されたらがんばれちゃいそうだほー!
そういえばね横山さん、レストランゆりの木でね、今なら人間国宝展特別メニューがあるらしいんだけど、よかったらこれからボクと一緒に甘いひとときでもどうだほ?

ヨ:あの、私、今仕事中なんだけど…


ユリノキ怒

ユリノキちゃん ちょっとトーハクくんっ!

トーハクくん げっ、ユリノキちゃん!どうしてここに?!

ユリノキちゃん なによっ!横山さんに甘えた声出しちゃって、どういうつもりっ?!

トーハクくん ユリノキちゃん誤解だほ!これはその、あの、なんだ、一時の気の迷いというか…

ユリノキちゃん 「なるほー!人間国宝展」はこれで終了です。ご愛読有難うございました。ぷいっ!

トーハクくん あれ、怒ってるほ?
やだなあ、笑ってるほうがかわいいほ。ねえユリノキちゃーーん!!

ヨ:あらら。
人間国宝展―生み出された美、伝えゆくわざ―」と、特集陳列「人間国宝の現在(いま)」は、2月23日(日)までです。どうぞお見逃しなく。


横山さんとトーハクくん
横山梓(よこやまあずさ)特別展室研究員。専門は陶磁です。
作品のことも女心も、まだまだ勉強が足りないと思うトーハクくんなのでした。

カテゴリ:研究員のイチオシnews2013年度の特別展

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posted by トーハクくん at 2014年02月18日 (火)