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1089ブログ

本館3室と11室で善光寺本尊について考える

長野・善光寺の本尊は絶対の秘仏で写真さえありません。
7年に一度御開帳があるのは、実はお前立ち(本尊の身代わり)で、本尊の厨子が開くことはありません。

お前立ちは鎌倉時代の作。本尊と同じ姿と言われていますが、確認はできないのです。

けれどもお前立ちと同じ姿の像は関東地方を中心にたくさん残っています。
善光寺の本尊は、日本で最も古い仏像と信じられていたので、仏教の原点に帰ろうという気運の盛り上がった鎌倉時代にその模造が大流行したのです。

本館3室<仏教の美術>に展示されているいわき市の阿弥陀三尊像はその典型的な作例です。


銅造阿弥陀三尊像(善光寺式)鎌倉時代・13世紀  福島・如来寺旧蔵  福島・いわき市蔵

一つの光背に三尊がおさまる形式、中尊は左手の第2・3指を伸ばし、ほかの指を曲げる形、両脇侍が胸の前で両手を重ねる形に注目してください。

本館11室<彫刻>に展示されている阿弥陀三尊像(列品番号C-93)は、光背、台座がなくなってしまいましたが、そのほかは同じでしょう。


重要文化財 阿弥陀如来および両脇侍立像 鎌倉時代・建長6年(1254) C-93

この像は背中に字が刻まれていて、善光寺如来を模して建長6年(1254)栃木県の那須で造られたことがわかります。

実は、11室では現在もうひとつこの形式の像を展示しています。ふだん法隆寺宝物館で展示している三尊像(列品番号N‐143)に出張してもらいました。

比べてみてください。


如来および両脇侍像  朝鮮三国時代・6~7世紀 N‐143

こちらは6~7世紀のおそらく朝鮮半島の作。善光寺本尊にとても近い時期の作です。
多分、この三尊像(N‐143)と善光寺の本尊はとてもよく似ているだろうと思います。

この朝鮮半島の三尊像と日本の善光寺式阿弥陀三尊像の細部を比べてみましょう。

まずは中尊の左手。

  
善光寺式(いわき市)             善光寺式(C-93)             朝鮮半島の三尊像(N‐143)  

脇侍の手はどうでしょう。

  
善光寺式(いわき市)             善光寺式(C-93)             朝鮮半島の三尊像(N‐143)  

そして、脇侍の宝冠です。

  
善光寺式(いわき市)             善光寺式(C-93)             朝鮮半島の三尊像(N‐143)  

 よく見ると違う点もありますね。 

それは秘仏本尊をごく短時間拝することを許された人(夢に見たということになっています)のスケッチがわかりにくかったからかもしれません。
また、顔や服の着方も違います。模像の方は、ほぼ鎌倉時代の様式で造られているためです。

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posted by 浅見龍介(東洋室長) at 2011年05月28日 (土)

 

初物尽くし!「手塚治虫のブッダ展」

特別展「手塚治虫のブッダ展」(~ 2011年6月26日(日)まで )が 現在、本館特別5室にて好評開催中です。

 トーハクの長い歴史の中でも、漫画を展示するのは今回がはじめてのことです。
しかも、漫画と仏像とを並べて展示するのは、他の博物館でもあまり例のないことですから、今回の展覧会は、まさに初物尽くしともいえますね。

会場では、まず手塚治虫の原画に注目。漫画は、印刷されてしまうと平板な感じに見えがちですが、それが原画となると、細部の描写や微妙な陰影まで、くっきりと目にすることができます。原画を間近でみつめていると、まるで手塚治虫の息遣いが聞こえてくるようです。

 仏像も、粒よりの傑作がそろっています。中でも、東京調布市にある深大寺の釈迦仏倚像は、教科書にも載るような白鳳仏の傑作です。奈良国立博物館の出山釈迦像は、とても珍しい作例で、展覧会関係者の中でもこの仏像のファンになる人がたくさんいるんですよ。

  会場全体は、森林をイメージした、さわやかな緑色で統一して、周囲の壁面には、葉や木が揺らいでいる様子も表現しています。
どんな手法を使っているのか、そんなところにも着目してみてください。

ブッダ展会場風景1   ブッダ展会場風景2

カテゴリ:研究員のイチオシnews2011年度の特別展

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posted by 松本伸之(学芸企画部長) at 2011年05月09日 (月)

 

鏡の裏でキスしているのは? ―特集陳列「和鏡」―

4月26日(火)から、本館14室で特集陳列「和鏡(わきょう)-鏡に表された文様の雅」が始まりました。

江戸時代以前は、鏡といえば銅製で、鏡面をピカピカに磨いて像を映し、背面にはさまざまな文様を表すのが常でした。東博は古鏡の宝庫。その中から奈良~江戸時代までの日本の銅鏡35点を選りすぐり、ご紹介しています。

文様の中には、真ん中に亀の形の鈕(つまみ)、その周囲に2羽の鳥が飛んでいる形式のものが多くあります。そこで、展示室では鈕と鳥の位置にぜひ注目してください。

平安時代11~12世紀の鏡

2羽の鳳凰が、中央の鈕(つまみ)を挟んで、ほぼ左右対称に配置されています。


室町時代15世紀の鏡

向かい合う2羽の孔雀は、かなり接近しています。

 

 室町時代15世紀の鏡

鈕の亀と2羽の鶴が、クチバシをくっつけています。
「接吻鶴」(せっぷんづる)ともよばれます。

時代が下るにつれてだんだん接近していき、最後にはキスしてしまうのです。これは、鏡の製作年代を判断するポイントの一つでもあります。

7月10日(日)まで。詳細はこちら

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posted by 伊藤信二(教育普及室長) at 2011年05月04日 (水)

 

4年ぶりの見返り美人

切手でもよく知られる菱川師宣(ひしかわもろのぶ)の「見返り美人図」が、現在本館10室で展示されています。
当館での公開は、実に約4年ぶりとなります。

筆者の菱川師宣(?~1694)は、安房(現在の千葉県)に生まれた浮世絵の祖といわれる人物です。
版本挿絵や肉筆画を手がけた師宣ですが、中でも特に有名なのが、この「見返り美人図」でしょう。

後ろ向きの女性がふっと顔を振り向かせるお馴染のポーズ。
この構図により、「玉結び」といわれる髪型や簪(かんざし)、桜や菊を散らした緋色の鮮やかな着物、そして「吉弥(きちや)結び」の帯までを見ることができるのです。
そんな元禄のお洒落なファッションにも、ぜひご注目ください。


元禄文化の風を今に伝える「見返り美人図」の公開は5月22日(日)まで。
この機会をぜひお見逃しなく。

ちなみに、師宣の作品は、特別展「写楽」でも展示中です。
写楽が鮮烈なデビューを果たした寛政6年(1794)は、菱川師宣が亡くなってちょうど百年後。
写楽展と本館10室を合わせて御覧いただくと、美人画や役者絵の流れをよりお楽しみいただけます。
 

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posted by 大橋美織(絵画・彫刻室) at 2011年05月02日 (月)

 

“いやし”と“パワー”の特集陳列

”いやし”と”パワー”の特集陳列「南太平洋の暮らしと祈り」

南太平洋の人々が使っていた伝統的な生活や信仰にかかわる作品を集めた特集陳列(本館2階の特別2室)が、今週日曜24日に最終日を迎えます。

素朴な造形が見るものをなごませたり、生命力あふれる宗教彫刻からパワーを感じたりと、作品によってさまざまな魅力をお楽しみいただけます。

ここでは、そのなかでもとくに注目の作品をご紹介します。 

まず、木をくりぬいて作ったココナッツジュース容器。

 

前足、後足を広げたトカゲの像がふたにへばりついています。愛らしい表情の顔には、貝殻を削って作った目をはめこんでいます。赤茶色に塗られた容器全体にも、トカゲの目と同じ種類の貝殻で作った飾りをちりばめています。

 

ワニの木彫は迫真の出来栄えです。大きな口からのぞいた牙や、見開いた目は、静かに獲物を狙い定めているようです。それでいてどこか愛嬌が漂うのは、全身のウロコを赤や黄色でカラフルに彩色しているためでしょうか。ワニを祖先として崇拝するニューギニア島の部族が、神聖な建物のなかに安置していたものと考えられます。

 

高さ2メートル40センチを超える大型の木彫は、展示ケースの天井に着きそうなほどです。中心の円盤状部分をはさんで黒い鳥が向き合い、その下には白を基調にした女性像、上には黒を基調にした男性像を配置しています。本作は葬儀のときに祈祷所に立てた飾りで、男女の像はそれぞれ先祖あるいは死者の姿を表したものと考えられます。透かし彫りを随所に施しており、その技巧の細かさには驚かされます。

  

特集陳列「南太平洋の暮らしと祈り」の会期は今週末の4月24日(日)まで。

この機会をぜひお見逃しなく。

リーフレットの表紙

会場では無料でリーフレットを配布しています。

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posted by 川村佳男(学芸研究部保存修復課) at 2011年04月22日 (金)