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日本国宝展の見方 ~名品を間近で~

絵画を担当している沖松と申します。
開催中の「日本国宝展」では、掛け軸装の絵画作品ほとんどを奥行き20センチの薄型ケースで展示しています。
開幕時のブログでも触れられていますが、名品にこんなに近づいてご覧いただける機会は滅多にありません。

細かい描写や繊細な表現を特徴としている作品では、細部を見る楽しみというものがあります。
特に、細かな描写や微妙で美しい色使い、金箔を細く切った截金(きりかね)や彩色による繊細精緻な文様表現が見所のひとつといえる平安仏画は、間近に寄らないとその造形的魅力はなかなか伝わらないと思います。
仏画のコーナーは、展示の高さも普段より低めになっているので、ケース前に規制用の白線が引かれているとはいえ、細かい描写や表現もいつもより、かなり見やすくなっているはずです。

仏画会場

11月11日(火)からの後期展示作品の中では、形や色彩に対する造形感覚の繊細さという点で「虚空蔵菩薩像」が一押しです。
金箔のみ、銀箔のみ、金と金の間に銀を挟み込んだもの、というように色味の違う截金を、全体の描写の中でかなり意識的に使い分けたり、組み合わせたりしているらしいことが、近年の東京文化財研究所との共同調査によりわかってきています。

虚空蔵菩薩像
国宝 虚空蔵菩薩像 平安時代・12世紀 東京国立博物館蔵 2014年11月11日(火)~12月7日(日)
同 左膝部分の拡大 撮影:城野誠治(東京文化財研究所)

ほかに、第4章 多様化する信仰と美の会場でも絵画作品の多くを薄型ケースで展示しています。
北宋時代の仏画の名品である仁和寺の「孔雀明王像」(11月11日(火)~12月7日(日))、
京都国立博物館の雪舟筆「天橋立図」(11月26日(水)~12月7日(日))、
そして南宋絵画の名品である当館の「紅白芙蓉図」(11月11日(火)~12月7日(日))もすべて、
手に取るような距離で見ることができます。

紅白芙蓉図
国宝 紅白芙蓉図 李迪筆 中国・南宋時代・慶元3年(1197) 東京国立博物館蔵
2014年11月11日(火)~12月7日(日)

どうぞこの機会を逃さず、名品中の名品たちを間近でお楽しみください。

 

カテゴリ:研究員のイチオシ2014年度の特別展

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posted by 沖松健次郎(保存修復室主任研究員) at 2014年11月10日 (月)

 

研究員のイチオシ作品! ~東アジアの華 陶磁名品展・日本編~

ほほーい! ぼくトーハクくん!
今日は、2014年日中韓国立博物館合同企画特別展「東アジアの華 陶磁名品展」の会場から、
日本の注目作品をリポートするほ。
この展覧会を担当した横山研究員に案内してもらうほ!




トーハクくん、こんにちは。展示室へようこそ!

横山さん、よろしくお願いしますほ! (でれでれ)



展覧会がはじまって1ヵ月以上経つけど、何で日本、中国、韓国が一緒に展覧会を
開催することになったんだほ?

3ヵ国の国立博物館(東京国立博物館・中国国家博物館・韓国国立中央博物館)は、
約2年に1回のペースで館長会議を開催しています。
前回の会議の折に「今度は一緒に展覧会を企画しましょう」という話が持ち上がり、
日本開催となる今年の会議にあわせて、展覧会をトーハクで開くことになりました。

なるほー! 記念すべき第1回なんだほ。

そうなんです。だからこそ、3ヵ国それぞれで長い歴史があり、古くから親しまれていて、
お互いの影響も大きい「陶磁器=やきもの」がテーマに選ばれたんです。

3ヵ国のやきものが一度に見られるなんて、すごいほ!

会場に入っていただくと、まず3館の紹介するパネルがあって、振り返ると各国の代表作が
皆さんをお迎えします。
そして、展覧会全体をどーんと見渡していただけるような展示室になっています。



おぉ! これは圧巻だほ! それに、赤い台が中国、緑が韓国、青が日本の作品と区別されていて、
わかりやすいほ。

中国韓国の作品については、三笠さんが青磁への愛情たっぷりに解説してくれたので
今日は主に日本の作品についてご案内しますね。
日本の作品は、縄文時代の土器から江戸時代の陶磁器まで、日本の陶磁史をダイジェストで紹介する
構成になっています。
それぞれが各時代を代表する名品ばかりなのですが、今日は「茶陶」に注目しましょう。



ちゃとう・・・?

茶の湯に関するやきもののことね。

たくさんある日本のやきものの中で、なんで茶陶が注目なんだほ?

それは、茶陶が日本国内でどんどん発展していった特に「日本らしさ」の強いものだからなの。

日本らしさ…?

室町時代から安土桃山時代にかけて茶の湯が盛んになったことで、
日本の陶磁器づくりにも大きな影響を及ぼしました。
日本の陶磁器は、中国や朝鮮半島からの技術や様式の移入によって発展してきた背景が大きいのだけれど、
お茶に関わっていくなかで、茶人たちは「こういうお茶碗がほしいな」とか
国内各地で独自性が強く発展したのよ。
茶陶はそうした背景をふまえつつ、豊かな想像力でバラエティに富んだ創造性を発揮していくのです。

たとえばこのお茶碗。

  
重要文化財 黒楽茶碗 銘ムキ栗   (底裏)
長次郎 安土桃山時代・16世紀
文化庁蔵


わ、四角いほ!

これは、千利休が長次郎に作らせたといわれる茶碗なの。本来であれば「丸い」お茶碗の概念を超えて、
誰もが目を引く、四角というかたちが斬新でしょう?

“あばんぎゃるど”だほ。

それでいて角ばっていなくて、てのひらに優しく収まるという作りをしています。
使う人ならではの発想なのです。

結構考えられているんだほ。

美濃や唐津では、日本で初めて下絵付けを施したやきものが作られるのですが、
その新たな技術をおしみなく発揮して、懐石のうつわがのびやかに作られています。

                
重要文化財 鼠志野草花図鉢        重要文化財 銹絵芦図大皿
美濃 安土桃山~江戸時代・16~17世紀    唐津 江戸時代・17世紀
文化庁蔵                 文化庁蔵

それから、この蓋物のような織部は、「桃山様式」と呼ばれる独創的な茶陶の代表選手といえます。


織部扇形蓋物
美濃 江戸時代・17世紀
東京国立博物館蔵


緑色の部分と茶色い模様が交互になっていて、おもしろいほ。
扇のかたちも、すごく日本らしいほ。

そう、そうなの! トーハクくん、いいところに着目しています!

そんなに褒められると照れるほ~(でれでれ)。

緑色のくすり(釉薬(ゆうやく))と茶色(鉄絵(てつえ))の技術はずっと前からあるものだけれど、
これを「片身替わり」と呼ばれる、染織や漆工で流行していたデザインにならって表しているの。
扇というかたちも、先ほどの茶碗同様、うつわの基本的な「丸」のかたちにとらわれない奇抜さで個性的でしょ。

(ほめられて良い気分~♪)なんだか、「ちゃとう」がとっても好きになってきたほー。

そう言ってもらえると、展覧会の担当者としてとってもうれしいです。ありがとう!



(笑顔が素敵すぎるほ~!)三笠さん、横山さんのお話をまとめると、
今回の展覧会はそれぞれの国らしい陶磁器が出ているってことなんだほ?

そうですね。出品作を選ぶにあたっても、そういうところを大切にしました。
各館の陶磁器コレクションの特徴を知ってもらいつつ、
技術や様式の伝わり方、影響なども感じてもらえるといいなと思います。
3ヵ国合同の企画という、意義のある展覧会としてたくさんの方に見ていただきたいです。

横山さん、ありがほーございました!

カテゴリ:研究員のイチオシ2014年度の特別展

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posted by 横山梓(特別展室研究員) at 2014年11月07日 (金)

 

研究員のイチオシ作品! ~東アジアの華 陶磁名品展・韓国編~

2014年日中韓国立博物館合同企画特別展「東アジアの華 陶磁名品展」
見どころのひとつとして、韓国国立中央博物館から出品された
高麗(こうらい)(918~1392)の貴重な青磁が挙げられます。

日本において貴族に代わり武士が台頭し、政治や文化の担い手として動き出した12世紀、
中国と朝鮮半島では格調高い青磁がつくり出されました。
それが、北宋(960~1127)の汝窯(じょよう)青磁、そして高麗の「翡色(ひしょく)」青磁です。

「翡色」青磁について有名なエピソードがあります。
1123年(宣和5)、北宋末の皇帝、徽宗(きそう)の時代。
徐兢(じょきょう)という人物が高麗を訪れ、見聞を記しました(『高麗図経』)。
このなかで彼は高麗には青くて美しいやきものがあり、「翡色」と呼ばれていると
驚きをもって伝えたのです。

朝鮮半島において青磁が焼かれるようになったのは、およそ9世紀の頃。
中国江南の越窯の技術が導入されたと考えられています。
今回、中国国家博物館から出品された2級文物「青磁碗」。唐(618~907)の宮廷に納められ、
「秘色(ひしょく)」と呼ばれたこの美しい青磁を焼いたあの越窯です。
初めは中国の技法に倣った製品がつくられていましたが、次第に独自に洗練された姿となりました。
飲食の器、祭器、文房具、化粧道具など種類は多岐にわたり、高麗の高貴な人々に大変愛された
器であったことがわかります。
そして、その美しさは青磁を生んだ地、中国の人々をも驚かせるものであったのです。

それは天下の汝窯青磁とならび称されました。
特別展「台北 國立故宮博物院―神品至宝―」に出品されていた汝窯青磁と比べてみると、
白玉にたとえられる汝窯青磁の釉色とは異なり、「翡色」青磁の釉色はつややかで
透明度が高く、それでいて深みのある青色。落ち着きがあって気品漂う色調です。

精巧な形もまた魅力的です。いかにも貴族好みの薄く軽やかな形(写真1)や、
可塑性をいかして獅子や麒麟、亀、龍などの形をした器(写真2、3)もつくられました。


(写真1) 青磁輪花皿
伝黄海北道開城付近出土 高麗時代・12世紀
韓国国立中央博物館蔵



(写真2) 国宝96号 青磁亀形水注
黄海北道開城付近出土 高麗時代・12世紀
韓国国立中央博物館蔵



(写真3) 青磁双龍筆架
黄海北道開城付近出土 高麗時代・12世紀
韓国国立中央博物館蔵


このようなきわめて複雑な形の器は、中国青磁の模倣から解き放たれ、
自由で充実した造形感覚をもってうみ出された高麗青磁独自の姿といえます。

高麗青磁の特性は、装飾にもみてとることができます。
線刻や貼付け、鉄絵を施したものがみられますが、とりわけ注目されるのは
素地に彫り文様をあらわし、凹部分に白や赤(黒色を呈する)の色の異なる土を埋めて
青磁釉を掛けて焼きあげる象嵌(ぞうがん)青磁。


青磁象嵌牡丹文枕
黄海北道開城付近出土 高麗時代・13世紀
韓国国立中央博物館蔵


金工の技法を青磁に応用したもので、12世紀後半~13世紀に盛期を迎えたこの象嵌装飾は、
洗練された形、静謐な翡色の釉調と見事に調和しています。

汝窯や官窯、龍泉窯など釉調にこだわり、その色や表情、質感を追求した中国青磁と、
さまざまな技法をもちいて器面を華麗に装ってゆく高麗青磁。
東アジアではこのように性質を異としながらも、権力者はじめ多くの人々を虜にした
きわめて美しい青磁がまさに同じ頃に花開いたのです。


陶磁器の研究もさかんに行なわれている韓国国立中央博物館

今回の展示は小規模ながら、このように見どころのある高麗青磁の名品を
お借りすることができました。
「翡色」青磁の生みの親ともいうべき、中国・越窯の「秘色」青磁とならんで
展示されるのも、3国合同企画ならではのこと。
またとない貴重な機会、ぜひお見逃しなく。

カテゴリ:研究員のイチオシ2014年度の特別展

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posted by 三笠景子(保存修復室研究員) at 2014年10月31日 (金)

 

「日本国宝展」10万人達成!

日本国宝展」(2014年10月15日(水)~12月7日(日)、平成館特別展示室)は、
10月31日(金)午後に10万人目のお客様をお迎えしました。
多くのお客様にご来場いただきましたこと、心より御礼申し上げます。

10万人目のお客様は、神奈川県三浦郡葉山町よりお越しの倉田みなみさんです。
倉田さんには、東京国立博物館長 銭谷眞美より、記念品として展覧会図録と、
「縄文のビーナス」ぬいぐるみなどの展覧会グッズを贈呈しました。

10万人目のお客様
「日本国宝展」10万人セレモニー
倉田みなみさん(左)と館長の銭谷眞美(右)
10月31日(金)東京国立博物館 平成館エントランスにて


倉田さんは、日ごろより仏像に興味をもっておられるとのこと。
駅に貼ってある日本国宝展のポスターや看板で、奈良・安倍文殊院所蔵の善財童子立像のすがたに目をひかれ、
現在大学4年生として忙しい日々を過ごしておられる中、展覧会に足を運んでくださったそうです。

いろいろと意見を闘わせつつ、ポスターなどを作ってきた関係者にとって、
なんと心あたたまるお言葉でしょう…(感涙)
倉田さんの注目はやはり、善財童子像とのことです。

また、「国宝がこれだけ出ているのだから、これはぜひ見にいかねばならない!」と思っておられたそうです。
そう、そうなんです!この一言も、私の心をグッとつかんで止みません…(感涙²)


「日本国宝展」での、期間を限定した正倉院宝物特別出品は、いよいよ11月3日(月・祝)までとなりました。
「鳥毛立女屏風 第1・3扇」、「楓蘇芳染螺鈿槽琵琶」など、ご宝物の中でも有名な11件が展示されています。

ぜひお見逃しなく!

 

カテゴリ:news2014年度の特別展

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posted by 伊藤信二(広報室長) at 2014年10月31日 (金)

 

日本国宝展の見方~善財童子~

彫刻を担当している、研究員の西木です。
今日は、「日本国宝展」の最後に展示されている国宝 善財童子立像(ぜんざいどうじりゅうぞう)についてご紹介します。


日本国宝展ポスター


展覧会のポスターにも出ている、合掌する愛らしい子どもは善財童子といいます。
安倍文殊院では、隣に立つ仏陀波利(ぶっだはり)というお坊さんと一緒に、獅子に乗る文殊菩薩(もんじゅぼさつ)の両脇にひかえています。

さらに、その奥で獅子の手綱を引く優填王(うでんのう)という異国の王さま、
そして頭巾をかぶる最勝老人(さいしょうろうじん)の5人セットで、
海をわたる「渡海文殊(とかいもんじゅ)」と呼ばれて信仰を集めています。


安倍文殊院
渡海文殊(安倍文殊院の堂内にて)


なかでも、歩きながら文殊菩薩たちをふりかえる姿が印象的なのは善財童子です。


善財童子立像


絵画作品でも、ひとり先頭に立ち、一団を先導しているようにみえます。


では、なぜ善財童子が文殊たちの先頭をいくのでしょうか。
そもそも善財童子は、文殊菩薩の導きで識者を訪ねてまわり、智恵を得る菩薩です。


華厳五十五所絵巻
国宝 華厳五十五所絵巻(けごんごじゅうごしょえまき)(部分)
平安時代・12世紀 奈良・東大寺蔵 11月11日(火)~12月7日(日)

聖人のもとを歴訪する善財童子。ここでも合掌をしています


まだ幼い子どもなのに、なぜ一団を先導する姿なのか不思議です。
そのなぞを解くヒントは、文殊の乗る獅子と、その手綱をとる異国人の王さまにありました。


もともと、飛鳥時代に日本へ伝わった仮面劇の伎楽(ぎがく)や、行道(ぎょうどう)という仏教のパレードでは、
獣の王者である獅子と、鼻が高い異国人の治道(ちどう)、そして師子児(ししこ)と呼ばれる子どもが、
最初に登場して道を清めたといいます。


治道 師子児
(左)重要文化財 伎楽面 治道、(右)重要文化財 伎楽面 師子児
いずれも飛鳥時代・7世紀 東京国立博物館蔵
11月24日(月・休)まで法隆寺宝物館第3室にて展示



文殊菩薩と一緒になってからも、
魔よけとして先導する役割を期待されたのでしょう。
汚れを知らない無垢な子ども、
だからこその大役といえるのかも知れません。


展示の様子
日本国宝展 展示室の様子
国宝
善財童子立像・仏陀波利立像(文殊菩薩および眷属のうち)
快慶作 鎌倉時代・建仁3年
(1203)~承久2年(1220) 奈良・安倍文殊院蔵

カテゴリ:研究員のイチオシ彫刻2014年度の特別展

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posted by 西木政統(絵画・彫刻室アソシエイトフェロー) at 2014年10月29日 (水)