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研究員のイチオシ作品! ~東アジアの華 陶磁名品展・韓国編~

2014年日中韓国立博物館合同企画特別展「東アジアの華 陶磁名品展」
見どころのひとつとして、韓国国立中央博物館から出品された
高麗(こうらい)(918~1392)の貴重な青磁が挙げられます。

日本において貴族に代わり武士が台頭し、政治や文化の担い手として動き出した12世紀、
中国と朝鮮半島では格調高い青磁がつくり出されました。
それが、北宋(960~1127)の汝窯(じょよう)青磁、そして高麗の「翡色(ひしょく)」青磁です。

「翡色」青磁について有名なエピソードがあります。
1123年(宣和5)、北宋末の皇帝、徽宗(きそう)の時代。
徐兢(じょきょう)という人物が高麗を訪れ、見聞を記しました(『高麗図経』)。
このなかで彼は高麗には青くて美しいやきものがあり、「翡色」と呼ばれていると
驚きをもって伝えたのです。

朝鮮半島において青磁が焼かれるようになったのは、およそ9世紀の頃。
中国江南の越窯の技術が導入されたと考えられています。
今回、中国国家博物館から出品された2級文物「青磁碗」。唐(618~907)の宮廷に納められ、
「秘色(ひしょく)」と呼ばれたこの美しい青磁を焼いたあの越窯です。
初めは中国の技法に倣った製品がつくられていましたが、次第に独自に洗練された姿となりました。
飲食の器、祭器、文房具、化粧道具など種類は多岐にわたり、高麗の高貴な人々に大変愛された
器であったことがわかります。
そして、その美しさは青磁を生んだ地、中国の人々をも驚かせるものであったのです。

それは天下の汝窯青磁とならび称されました。
特別展「台北 國立故宮博物院―神品至宝―」に出品されていた汝窯青磁と比べてみると、
白玉にたとえられる汝窯青磁の釉色とは異なり、「翡色」青磁の釉色はつややかで
透明度が高く、それでいて深みのある青色。落ち着きがあって気品漂う色調です。

精巧な形もまた魅力的です。いかにも貴族好みの薄く軽やかな形(写真1)や、
可塑性をいかして獅子や麒麟、亀、龍などの形をした器(写真2、3)もつくられました。


(写真1) 青磁輪花皿
伝黄海北道開城付近出土 高麗時代・12世紀
韓国国立中央博物館蔵



(写真2) 国宝96号 青磁亀形水注
黄海北道開城付近出土 高麗時代・12世紀
韓国国立中央博物館蔵



(写真3) 青磁双龍筆架
黄海北道開城付近出土 高麗時代・12世紀
韓国国立中央博物館蔵


このようなきわめて複雑な形の器は、中国青磁の模倣から解き放たれ、
自由で充実した造形感覚をもってうみ出された高麗青磁独自の姿といえます。

高麗青磁の特性は、装飾にもみてとることができます。
線刻や貼付け、鉄絵を施したものがみられますが、とりわけ注目されるのは
素地に彫り文様をあらわし、凹部分に白や赤(黒色を呈する)の色の異なる土を埋めて
青磁釉を掛けて焼きあげる象嵌(ぞうがん)青磁。


青磁象嵌牡丹文枕
黄海北道開城付近出土 高麗時代・13世紀
韓国国立中央博物館蔵


金工の技法を青磁に応用したもので、12世紀後半~13世紀に盛期を迎えたこの象嵌装飾は、
洗練された形、静謐な翡色の釉調と見事に調和しています。

汝窯や官窯、龍泉窯など釉調にこだわり、その色や表情、質感を追求した中国青磁と、
さまざまな技法をもちいて器面を華麗に装ってゆく高麗青磁。
東アジアではこのように性質を異としながらも、権力者はじめ多くの人々を虜にした
きわめて美しい青磁がまさに同じ頃に花開いたのです。


陶磁器の研究もさかんに行なわれている韓国国立中央博物館

今回の展示は小規模ながら、このように見どころのある高麗青磁の名品を
お借りすることができました。
「翡色」青磁の生みの親ともいうべき、中国・越窯の「秘色」青磁とならんで
展示されるのも、3国合同企画ならではのこと。
またとない貴重な機会、ぜひお見逃しなく。

カテゴリ:研究員のイチオシ2014年度の特別展

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posted by 三笠景子(保存修復室研究員) at 2014年10月31日 (金)