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1089ブログ

ほほ笑みのお猿 山雪の猿猴図

なんとも愛くるしいおサルさん。ニッコリほほ笑んだ顔がたまりませんね。
2016年1月2日開幕の特集「博物館に初もうで 猿の楽園」で本格デビューした「当館秘蔵のアイドル」です。

猿猴図 猿猴図(部分)
猿猴図(えんこうず) 狩野山雪(かのうさんせつ)筆
江戸時代・17世紀


2015年7月16日付の1089ブログに、私は「応挙の子犬に胸キュン!」と題して当館所蔵の愛らしい子犬の絵をとりあげ、「無邪気に遊ぶ姿はカワイさ全開!当館のアイドル、ナンバー1(犬だけにワン!)」と書きました。

「犬」の次は「猿」。負けないくらいに、かわいい絵ですね。このおサルさんと応挙の子犬が出会ったら、きっとすぐ仲良しになって、いつまでも楽しく遊びつづけるのではないでしょうか。「犬猿の仲」なんていいますが、この子らに限っては違うようです。

じつは、このおサルさん「猿猴図」は、2013年の春、京都国立博物館で私が企画担当した「狩野山楽・山雪」展のなかで、狩野山雪の魅力的な作品として紹介した作品でもあります。狩野山雪(1590~1651)は、今から400年前、江戸初期に活躍した京都の狩野派の画家。個性的な画風が高く評価される注目の画家です。ニューヨークのメトロポリタン美術館の「老梅図襖」や重要文化財の「雪汀水禽図屏風」をはじめ数々の魅力あふれる作品をのこしました。

「猿猴図」の話に戻りましょう。描かれているのは、柏の樹の幹に腰掛け、水に映る月をとろうとする手長猿。長く垂らした右腕の下には、くるくると水面の渦巻きが描かれています。じつはこの絵、猿猴捉月(えんこうそくげつ)すなわち、猿が水中に映った月を取ろうとして溺死したという、仏教の摩訶僧祇律(まかそうぎりつ)の故事から、身のほどをわきまえず、能力以上の事を試みて失敗することのたとえとなった話が主題なのです。

猿猴図(水面部分)

でも、そんな皮肉な意味はどうでもよいと思えるほど、猿の表情は、とても愛くるしいものです。この種、手長猿の絵は、中国南宋時代末から元時代初(13世紀)の牧溪筆「観音・猿鶴図」三幅対(京都・大徳寺蔵、国宝)に描かれた母子猿が源流にあり、それを学んだ長谷川等伯をはじめ多くの日本の画家たちによって描かれました。けれども、これほど愛くるしい猿図があったでしょうか。元々、牧溪の猿図には、枯木にとまり寒さに耐えて身を寄せ合う母子、という厳しい意味があったのですが、山雪のこの絵には、そんな暗さは微塵もありません。

かわいいだけではありません。猿のふわふわとした毛並み(これもかわいさの要因ですが)の描き方に注目すると、淡い墨および中位の濃さの墨が和紙に浸透していくのを絶妙にコントロールし、そこに生まれたにじみによって、密集する毛のふくらみを見事に表わしています。そして、墨の微妙な濃淡のむらむら、わずかにみえる筆の勢いによって、胴と右膝、長く伸ばした左脚の自然なつながりが的確に映し出されています。最も濃い墨で描かれるのは、顔の真ん中にあつまる目鼻口と両耳、手足の指。手足の描写は、意外にリアルです。

猿猴図(部分) 手足の描写

画面構成をみてみましょう。柏の大きな葉から枝を通って幹に腰掛ける猿の身体、そしてわずかに湾曲しながら垂れる長い右腕、その先に水面の渦巻き、という具合に私たちの眼は、逆S字の動線に沿って上から下へとスムーズに導かれます。猿の頭部と膝は、単純化された楕円形。渦巻きも含めて、同じ形がシンクロし軽快なリズムを刻んでいます。対象を、ある種、幾何学的な形へと単純化し画面を構成している点は、山雪らしさの表われなのです。

猿猴図 

簡略ながらも、絶妙なテクニックによって描き出された猿。かわいくて、うまい。いや、かわいさは高度な技術に支えられているというべきでしょう。実力派山雪の面目躍如といってよい絵。こんな素敵な絵が、400年も前に描かれていたのです。

詳細については省きますが、山雪の生涯は順風とはいえず、むしろ苦労の連続でした。このため、これまでの研究では、厳しさや苦しみ、哀しみといったものを、山雪の絵のなかに見出そうとしがちでした。けれども、こんな明るく幸せそうな絵があったのです。本当に、ほっとする。まさに癒し系の絵画。厳しさだけの山雪イメージは、もはや修正されるべきでしょう。

なお、この作品は、旧東海道の原宿(現在の静岡県沼津市)の名家、植松家に伝来していました(1978年に同家より東京国立博物館に寄贈)。そして箱書および植松季英自筆の由来書から、季英が天明2年(1782)に京に上った際、京都・妙心寺の塔頭、海福院の住職である斯経禅師より譲りうけた経緯が判明します。

植松季英は植松家第六代の蘭渓のことで、名園として知られた「帯笑園」の園主。池大雅・円山応挙・皆川淇園ら京の画家・文人たちと親しく交わり、子の季興を応挙に入門させ、季興は応令と号しました。斯経慧梁は、白隠の法を継いだ禅僧で、妙心寺の塔頭、海福院の第二代住職。原の白隠に参禅する際には植松家に投宿するほど親しい交流があったといいます。

由来書によると、この絵は元々、京都・妙心寺塔頭の海福院にあったのでした。妙心寺は、山雪ととくにゆかりの深い天球院・天祥院などの塔頭のある寺でしたので、山雪の絵が海福院にもたらされることは充分あり得たでしょう。

すばらしい水墨の技術を駆使して描き出された、すぐれて可愛い猿の絵、この満面の笑顔に会いに来ませんか? そうすればきっと、幸せな気持ちになれるはずです。展示は2016年1月31日まで。どうかお見逃しのないように。


博物館に初もうで 猿の楽園」2016年1月2日(土)~1月31日(日) 本館特別1室・特別2室
トーハクの猿ベスト12」1月31日(日) まで投票受付中!
 

カテゴリ:研究員のイチオシ博物館に初もうで特集・特別公開

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posted by 山下善也(絵画・彫刻室主任研究員) at 2016年01月08日 (金)

 

「始皇帝と大兵馬俑」研究員のオススメ1

「将軍俑」~上司にしたいNo.1兵馬俑~

新年あけましておめでとうございます。
さて、好評開催中の特別展「始皇帝と大兵馬俑」の展示作品をご紹介する「担当研究員オススメ」第一弾です。

今回の特別展の見どころはなんと言っても兵馬俑、そのなかから一つ選ぶとすれば、軍団の指揮官である将軍俑を推さざるをえませんね(俑とはお墓に供えるために作られた人形のことです、念のため)。


将軍俑
秦時代・前3世紀
秦始皇帝陵博物院蔵



将軍俑の鎧に付けられた房飾り

優美な形の冠をかぶり、冠の顎紐の飾りは胸元まで垂れています。
鎧の前後にリボン状の房飾りが8個も付いています。
こうした装飾は他の兵士の俑には見られず、格の違いが明らかです。
特に注目いただきたいのが鎧の札(さね)。



他の兵士が着る鎧の札は大振りで太い紐でつづられているのに対し、この俑の鎧の札は小さく、細い紐で丁寧につづられています。
近年の中国考古学の調査研究成果からすれば、兵士が着た鎧は当時一般的であった革製であり、この俑が着ている鎧は鉄製の鎧と考えられます。
当時鉄製の鎧は大変高価で、ごく一部の高級武官しか身につけることができなかったと思われます。
こうしたことから、この俑は「将軍俑」と呼ばれているのです。



自信に満ちた顔、たくましい両腕は、まさに百戦錬磨の武将を思わせます。
そのお顔から、平時は部下思いのやさしい上司、戦時には苦戦もいとわぬ猛将であったように私には思われるのですが、皆様はどう思われますか?

始皇帝陵の兵馬俑はまだ全部掘りだされてはいませんが、総数は8000体ほどと推定されています。
ところが、この俑と同様のいでたちの俑はすでに10体ほど発見されています。
単純に計算すると、このような俑が指揮したのは800人程度であり、それでは将軍と呼べないのではないかという疑問が生じます。
8000人を指揮する本当の将軍俑がまだどこかに埋もれている可能性はあります。
一方、兵馬俑の軍団は、実戦部隊そのものではなく儀式のために臨時に組まれたオールスター編成であった可能性も考えられます。
それなら、将軍が何人いてもおかしくありません。
私は後者の可能性が高いと考えています。

さて始皇帝の生涯を記した歴史書『史記』には、何人もの将軍が登場します。
蒙驁(もうごう)、麃公(ひょうこう)、王騎(おうき)、王翦(おうせん)…「あれ」と思った方は、原泰久氏の人気コミック『キングダム』(集英社『ヤングジャンプ』で連載中)の読者でしょう。
そう、『キングダム』に登場する秦の将軍は、ほとんどが歴史書に名が記録された実在の人物です。
これ以上、名を挙げるとネタバレになるので控えます。
ともあれ、この将軍俑のモデルは、歴史書や人気漫画に登場する人物であった可能性を否定することはできません。
この俑はだれかと想像しながら展覧会をご覧いただくのも、楽しいものです。

1月20日(水)~22日(金)の3日間、毎日15時から平成館大講堂で「キングダムからみた兵馬俑の世界」と題した、トークイベントを開催します。
兵馬俑ファンの方も『キングダム』ファンの方も、皆様お楽しみいただける内容ですので、ご参加をお待ちしております。

カテゴリ:研究員のイチオシ2015年度の特別展

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posted by 谷豊信(学芸研究部長) at 2016年01月07日 (木)

 

2016年 新年のご挨拶

明けましておめでとうございます。

平成28年、2016の新年を、皆様とともに寿ぎたいと思います。

新年の初頭を飾ってきた、東京国立博物館の恒例企画「博物館で初もうで」は、今回でじつに13回目を迎えます。12年前の申(さる)年から始まったこの企画も、本年で2巡目に入ることとなりました。例年たくさんのお客様にご来館いただき、新春らしい賑わいを見せております。

今回も、国宝 松林図屏風(長谷川等伯筆)をはじめ、名品の数々を展示する「新春特別公開」(2016年1月2日(土)~1月17日(日))や、干支(えと)である申(猿)をテーマとする美術工芸品の展示を行います。正月2日・3日には、和太鼓・獅子舞・曲独楽・コンサートなど、イベントも盛りだくさん。トーハクならではのお正月をお楽しみいただけます。

特別展では、前年秋から年をまたいでの「始皇帝と大兵馬俑」が開催中で、たいへん好評をいただいております。また春には「生誕150年 黒田清輝-日本近代絵画の巨匠」、「黄金のアフガニスタン-守りぬかれたシルクロードの秘宝-」が開催予定です。総合文化展では、日本、東洋を代表する作品の数々を広くご紹介するとともに、春の恒例「博物館でお花見を」(3月15日(火)~4月10日(日))など、魅力的な企画を用意し、皆様をお迎えいたします。


皆様にとって、日本の文化や伝統、美術に親しみ、楽しんでいただける博物館となるべく、いっそう努めてまいります。
本年もトーハクをよろしくお願いします。

館長 銭谷眞美
館長 銭谷眞美


 

カテゴリ:news

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posted by 銭谷眞美(館長) at 2016年01月01日 (金)

 

2015年もありがほー!

2015年もあっというまに大晦日。
今年もトーハクの一年を振り返ってみましょう。


1月は2日(金)から開館! 恒例の「博物館に初もうで」。黒田記念館もリニューアルオープンしたほ。



1月14日(水)からは2つの特別展も始まりました。
みちのくの仏像」と「3.11大津波と文化財の再生」。
東日本大震災から4年がたち、東北の魅力に触れていただくことや、被災文化財の再生への取り組みを通して、復興の一助に、との願いから開催されたものです。
東北の慈愛に満ちた仏さまの姿と、津波で被害にあったリードオルガンや実習船かもめなどの展示が印象的だったわね。


2月は、1年半に及ぶ修理を終えた国宝「檜図屏風」がお披露目されたほ!
生まれ変わってキラキラしてたほー。


3月は恒例の「博物館でお花見を」。夜桜ライトアップやイベントも盛りだくさんだったわね。
表慶館では特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」も開催されました。


4月は平成館リニューアル後の杮落とし、特別展「鳥獣戯画─京都 高山寺の至宝─」がはじまったほ。
かわいい動物たちを目当てに、多くのお客様にお越しいただいたんだほ。


多くのお客様といえば…。
5月は刀剣ブーム到来。国宝「太刀 三条宗近(名物 三日月宗近)」の展示室には、記念撮影をする"刀剣女子"の方々が列をなしました。



刀剣に負けていられない! 6月は円山応挙「朝顔狗子図杉戸」のかわいいワンコが人気だったほー。



7月は「クレオパトラとエジプトの王妃展」が開幕。8月にかけて夏休みは「親と子のギャラリー ミイラとエジプトの神々」と合わせてエジプト三昧でした。
また、トーハク初の試み「キッズデー」を開催しました。お子様連れのお客様にゆったり展覧会を楽しんでいただきました。


9月に入ると、「アート オブ ブルガリ  130年にわたるイタリアの美の至宝」がはじまったほ。美しい宝石にユリノキちゃんもうっとりしてたほ~。
博物館でアジアの旅」も2年目を迎えたほ!


10月2日(金)、3日(土)は、昨年大好評だった「博物館で野外シネマ」を開催。今年は「銀河鉄道の夜」をお楽しみいただきました。
10月27日(火)からは特別展「始皇帝と大兵馬俑」が始まりましたね。こちらは年明け2月21日(日)まで続きます!


ちょっと! 10月14日(水)に考古展示室がリニューアルオープンしたことを忘れないでほ!
ぼくの仲間の埴輪さんたちや土偶せんぱいもより見やすくなったんだほ!! ミュージアムショップでは「はにわソックス」が”爆売れ”したんだほ!!!


トーハクくんは広報大使だったわね。私はリニューアルしてからはまだ連れて行ってもらってなかったから…(ブツブツ)



はっ!広報大使の仕事が忙しくて肝心のユリノキちゃんを案内していなかったかも…。



さて、新年も1月2日(土)から開館します。恒例の「博物館で初もうで」(~1月31日(日))でお楽しみください!
新春特別公開(1月2日(土)~17日(日))では、おなじみの「松林図屏風」のほか、葛飾北斎筆「冨嶽三十六景」から、「凱風快晴」「山下白雨」「神奈川沖浪裏」の"三役"がそろう貴重な機会。お見逃しなく!



今年も一年、お世話になりました。
2016年も、トーハクをよろしくお願いいたします!
 
 

カテゴリ:news

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posted by トーハクくん&ユリノキちゃん at 2015年12月31日 (木)

 

新春恒例! 博物館に初もうで

新春恒例となりました、「博物館に初もうで」(2016年1月2日(土)~31日(日))。
2016年のお正月で13回目となり、干支も2巡目に突入です。


毎年多くのお客様で賑わいをみせる1月2日(土)、3日(日)は、お正月気分を味わえる獅子舞、和太鼓、曲独楽やコンサートなどイベントも盛りだくさん

獅子舞     江戸の遊芸
 

また、2日(土)、3日(日)は、お年玉・プレゼント企画も。

1.ミュージアムショップでは2,000円以上お買い上げのお客様、先着600名様にミュージアムグッズをプレゼント。美術図書バーゲンセールも同時開催。

2.TNM&TOPPANミュージアムシアターでは、「伊能忠敬の日本図」を無料上演。

3.レストランゆりの木では、ご利用のお客様先着150名様に伊予の水引の箸置きをプレゼント。

4.寛永寺との連携企画もあります。
根本中堂、徳川歴代将軍の肖像画(油画)、四天王像(江戸時代・元和6年(1620) 台東区登録文化財)、十二神将像(江戸時代・元禄15年(1702))を特別公開する寛永寺では、当館観覧券の半券(当日分)の提示で散華をいただくことができます。


新春特別公開では、もはやお正月の風物詩ともいえる国宝「松林図屏風」(本館2室、1月2日(土)~17日(日))のほか、浮世絵の展示室では葛飾北斎づくし。名品「冨嶽三十六景」のうち「凱風快晴」「山下白雨」「神奈川沖浪裏」の三役が揃い踏みする貴重な機会です。

冨嶽三十六景
左から、凱風快晴、山下白雨、神奈川県沖浪裏
葛飾北斎筆 江戸時代・19世紀
本館10室(浮世絵)にて2016年1月2日(土)~1月17日(日)まで展示


そして、こちらも恒例、干支の展示。
2016年は「博物館に初もうで 猿の楽園」(本館特別1室・特別2室、1月2日(土)~31日(日))と銘打ち、トーハク所蔵のかわいらしいおサルさんたちの作品を展示します。

この特集に関連し、本館特別1室では先着1万名様にカレンダー付ワークシート「キミはなに猿?&狩野山雪の猿カレンダー」を配布します。2日(土)、3日(日)は、おサルのスタンプコーナーも設置。自分だけのオリジナルワークシートを作ることができます。

 羊が何匹?ワークシート
ワークシートの裏面が狩野山雪のかわいい猿のカレンダーになっています

WEBサイトでは、「トーハクの猿ベスト12」の人気投票が始まっています。
こちらでお気に入りの猿を見つけて、お正月は展示室でぜひ実物をご覧ください!


そのほか、松竹梅や鶴など吉祥モチーフの作品もたくさん。
もちろん、特別展「始皇帝と大兵馬俑」も大好評開催中です!
お正月に兵馬俑(レプリカ)と記念撮影はいかがですか?
 

新年のお出かけ初めはぜひ、トーハクへ!

 

カテゴリ:news催し物博物館に初もうで

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posted by 奥田 緑(広報室) at 2015年12月24日 (木)