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「始皇帝と大兵馬俑」研究員のオススメ1

「将軍俑」~上司にしたいNo.1兵馬俑~

新年あけましておめでとうございます。
さて、好評開催中の特別展「始皇帝と大兵馬俑」の展示作品をご紹介する「担当研究員オススメ」第一弾です。

今回の特別展の見どころはなんと言っても兵馬俑、そのなかから一つ選ぶとすれば、軍団の指揮官である将軍俑を推さざるをえませんね(俑とはお墓に供えるために作られた人形のことです、念のため)。


将軍俑
秦時代・前3世紀
秦始皇帝陵博物院蔵



将軍俑の鎧に付けられた房飾り

優美な形の冠をかぶり、冠の顎紐の飾りは胸元まで垂れています。
鎧の前後にリボン状の房飾りが8個も付いています。
こうした装飾は他の兵士の俑には見られず、格の違いが明らかです。
特に注目いただきたいのが鎧の札(さね)。



他の兵士が着る鎧の札は大振りで太い紐でつづられているのに対し、この俑の鎧の札は小さく、細い紐で丁寧につづられています。
近年の中国考古学の調査研究成果からすれば、兵士が着た鎧は当時一般的であった革製であり、この俑が着ている鎧は鉄製の鎧と考えられます。
当時鉄製の鎧は大変高価で、ごく一部の高級武官しか身につけることができなかったと思われます。
こうしたことから、この俑は「将軍俑」と呼ばれているのです。



自信に満ちた顔、たくましい両腕は、まさに百戦錬磨の武将を思わせます。
そのお顔から、平時は部下思いのやさしい上司、戦時には苦戦もいとわぬ猛将であったように私には思われるのですが、皆様はどう思われますか?

始皇帝陵の兵馬俑はまだ全部掘りだされてはいませんが、総数は8000体ほどと推定されています。
ところが、この俑と同様のいでたちの俑はすでに10体ほど発見されています。
単純に計算すると、このような俑が指揮したのは800人程度であり、それでは将軍と呼べないのではないかという疑問が生じます。
8000人を指揮する本当の将軍俑がまだどこかに埋もれている可能性はあります。
一方、兵馬俑の軍団は、実戦部隊そのものではなく儀式のために臨時に組まれたオールスター編成であった可能性も考えられます。
それなら、将軍が何人いてもおかしくありません。
私は後者の可能性が高いと考えています。

さて始皇帝の生涯を記した歴史書『史記』には、何人もの将軍が登場します。
蒙驁(もうごう)、麃公(ひょうこう)、王騎(おうき)、王翦(おうせん)…「あれ」と思った方は、原泰久氏の人気コミック『キングダム』(集英社『ヤングジャンプ』で連載中)の読者でしょう。
そう、『キングダム』に登場する秦の将軍は、ほとんどが歴史書に名が記録された実在の人物です。
これ以上、名を挙げるとネタバレになるので控えます。
ともあれ、この将軍俑のモデルは、歴史書や人気漫画に登場する人物であった可能性を否定することはできません。
この俑はだれかと想像しながら展覧会をご覧いただくのも、楽しいものです。

1月20日(水)~22日(金)の3日間、毎日15時から平成館大講堂で「キングダムからみた兵馬俑の世界」と題した、トークイベントを開催します。
兵馬俑ファンの方も『キングダム』ファンの方も、皆様お楽しみいただける内容ですので、ご参加をお待ちしております。

カテゴリ:研究員のイチオシ2015年度の特別展

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posted by 谷豊信(学芸研究部長) at 2016年01月07日 (木)