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1089ブログ

金色堂の仏像(1)

いよいよ開幕いたしました、《建立900年 特別展「中尊寺金色堂」》。ここでは、展覧会のみどころのひとつ、国宝仏像11体についてご紹介いたしましょう。

中尊寺金色堂には須弥壇(しゅみだん)が3基築かれています。この須弥壇内は奥州藤原氏歴代が今なお眠る厳粛な聖空間です。
本展ではこのうち初代清衡(きよひら)が眠る中央壇上に安置されている国宝仏像11体を展示しています。
 
会場展示風景
 
持国天・増長天の二天像は大きく腕を振り上げ、それに呼応して袖が翻るダイナミックな動きが見どころです。 
 

国宝 増長天立像
平安時代・12世紀 岩手・中尊寺金色院蔵

国宝 持国天立像
平安時代・12世紀 岩手・中尊寺金色院蔵
 
 
この姿を模したと思われる仏像がいくつか見つかっており、平泉が流行の発信源であったことがわかります。中世では、この二天像が中尊寺で一番有名な仏像だったかもしれません。キュッと引き締まったウエストは、鎧を脱いだらいったいどれだけ細い体なのでしょうか。 
 
持国天立像の引き締まったウエスト
横から見た姿
 
 
それでも、横から見るとぷっくり膨れています。不思議な体形ですが、このようにやや誇張された姿は神将形像の典型的なプロポーションです。
 
ユーモラスな姿が魅力の、踏みつけられている邪鬼はおそらく明治期の修理時に補作したものと見られます。  
 
持国天立像邪鬼
 
なんと、オリジナルグッズとして邪鬼のぬいぐるみを本展オリジナルショップで販売中です。時には踏んづけ、時には抱きしめ、時には踏まれる邪鬼に同情してあげてください。
  
ショップに並ぶ「邪鬼ぬいぐるみ」 価格:3,850円(税込)
 
次にご紹介するのは、とても愛らしい地蔵菩薩像です。
 
 

国宝 地蔵菩薩立像 平安時代・12世紀 岩手・中尊寺金色院蔵

六体セットのいわゆる六地蔵です。六地蔵とは釈迦の滅した後の無仏時代に、地獄・餓鬼・畜生・修羅・人・天という六道を輪廻転生して苦しむ衆生を救い極楽往生へと導いてくれる存在です。
極楽浄土の阿弥陀三尊だけでなく六地蔵を安置するところに、奥州藤原氏の「絶対に極楽往生する!」という強い意志を感じます。たとえ極楽往生できずに六道を輪廻しても、六地蔵が救ってくれるのです。可愛らしい見かけによらず、とても心強い味方です。
 
こちらは前期(3月3日まで)展示中の国宝・金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅(こんこうみょうおうさいしょうおうきょうきんじほうとうまんだら) 第三幀です。画面左下方にご注目いただきましょう。
 
 
国宝 金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅 第三幀 全図及び部分 平安時代・12世紀 岩手・中尊寺大長寿院蔵
前期展示:2024年1月23日(火)~3月3日(日)
 
この錫杖(しゃくじょう)を持つ僧形は金光明最勝王経では妙幢菩薩(みょうとうぼさつ)と呼ばれていますが、実は地蔵菩薩のことです。殺生するのを見届けているようですね。この後、殺されたものだけでなく殺生して地獄に落ちた者も救ってくれるのでしょう。できれば、殺したり殺されたりする前に救われたいのですが、いずれにせよ、殺生して地獄に落ちても救ってくれるのがお地蔵さんです。
 
普段、金色堂ではこの6体の地蔵菩薩像は阿弥陀三尊像の左右に3体ずつ縦に並んでいるのですが、本展会場では横一列に整列しています。せっかくの機会ですので、6体それぞれと親しく向き合ってみてください。全部同じに見える? いえいえ、実はちゃんと個性があるのです。ここでは、顎の角度にご注目いただきましょう。
 
左列内側に展示している前方の像はグッと顎を引き、中央の像はスーッと正面を見据え、外側に展示する後方の像は顎をクイッと上げます。 
 
アゴを引く(内側・前方)
正面を見据える(中央)
アゴを上げる(外側・後方)
 
 
今回の展示は横一列に並んでおりますので、内側からグッ、スーッ、クイッの順でご覧いただけます。横からご覧いただくと分かりやすいですよ。
 
地蔵菩薩立像展示風景
 
集合写真で後ろに並んだ方が写りこむよう一生懸命顎を上げている、そんな風にも見えてきます。なんとも、いじましい姿ですね。 
 
この順序で並んでいるのがいつのことからか定かではありません。ただ、左右両列ともこの順序で並んでいるのは、こうすると顔が見えやすいことにどこかの段階で気づいて並べなおした結果かもしれません。もしかすると、当初からこうした並び順を意識して制作した可能性すらあります。というのも、その証拠に顎を上げている左列後方像は、首の後ろのお肉がムニュっと盛り上がっているのです。顔の向きと顎の角度とに有機的に連動した肉付き。ちょっとリアルで、なんともかわいい。。。ぐるっと360度ご覧いただける展覧会ならではの醍醐味です。
 
地蔵菩薩立像(背面)
 
ところで、こちらは先ほどご覧いただいた国宝・金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅 第三幀の右上方に描かれる釈迦如来です。釈迦の白毫から放たれた光が六道(傍題では四趣)を照らすという同経の内容を描いています。光の筋の先に地獄や餓鬼、畜生の姿が見えていますね。 
 
 
金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅 第三幀(部分)
 
これを参考にするならば、顎を上げて一生懸命顔を見せてくれようとする姿は、実は六道輪廻する衆生を救済し極楽往生へ導こうとする地蔵菩薩の本願を見事にあらわした姿なのかもしれないことに気づかされます。つまり、六道をしっかりと見据えようと顎を上げてくれているのです。そう思うと、いじましいだけでなく、有難さもひとしおです。是非、会期中に間近でご覧ください。
 

カテゴリ:彫刻「中尊寺金色堂」

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posted by 児島大輔(東洋室主任研究員) at 2024年02月06日 (火)

 

「呉昌碩の世界」その1 真骨頂の書

現在、東洋館8室では、特集「生誕180年記念 呉昌碩の世界―金石の交わり―」(前期展示:2月12日(月・休)まで、後期展示:2月14日(水)~3月17日(日))が開催中です。

今年で21回目を数える東京国立博物館(以下「東博」)と台東区立書道博物館(以下「書道博」)の連携企画。今回は、呉昌碩(ごしょうせき)生誕180年記念事業として、台東区立朝倉彫塑館兵庫県立美術館と時期を合わせて「呉昌碩の世界」をご紹介しています。
本展を多くの方々にお楽しみいただこうと、東博と書道博の研究員でリレー形式による1089ブログをお送りします。初回は東博展示から、書跡のオススメ作品を中心にご案内します。
 

2024年に生誕180年を迎えた呉昌碩(1844~1927)は、清朝末期から中華民国初期にかけて書画篆刻(てんこく)に偉大な業績を遺し、清朝300年の掉尾(ちょうび)と近代中国の劈頭(へきとう)を飾る文人として知られます。その芸術は、当時盛行した古代の金属器や石刻などの金石(きんせき)文字の研究を素地として、同じく金石を尊重した先学や師友たちから影響を受けて形成されました。
呉昌碩はとりわけ戦国時代・秦の「石鼓文(せっこぶん)」に執心しました。石鼓文は王の狩猟の様子などを詠う韻文を、太鼓形の10個の石に刻した銘文で、大篆(だいてん)と呼ばれる篆書(てんしょ)の古典として重んじられます。呉昌碩は生涯にわたってその臨書を続け、自らの芸術を「金石の気」と呼ばれる特異なオーラに満ちた、質朴で重厚なものへと昇華させます。
後年、呉昌碩は上海芸術界の中心人物となり、中国に渡った日本の同好の士とも交流して大きな影響を与えます。大正時代には作品集の刊行や個展の開催など、呉昌碩の作品は日本でも広く愛好されました。
東博展示では、サブタイトルに「金石の交わり」(金石のように堅いまじわり)と題して、第1部「呉昌碩前夜」、第2部「呉昌碩の書・画・印」、第3部「呉昌碩の交遊」の3部構成とし、金石に魅せられた呉昌碩の作品を、影響を受けた先学や交流のあった師友たちの作品とともにご覧いただきます。

 

篆書八言聯(てんしょはちごんれん)
呉昌碩筆 中華民国6年(1917) 林宗毅氏寄贈 東京国立博物館蔵 
[東博通期展示]


呉昌碩の書法の真骨頂である篆書は、50代の頃まで先学の能書、楊沂孫(ようきそん、1812~1881)の書法の影響が顕著でした。しかし、60代以降、恣意的なまでの解釈を加えた石鼓文の臨書により、先学の影響を脱して、70代から最晩年に至るまで独自の様式を築くに至ります。
「篆書八言聯」は呉昌碩が74歳の時に、石鼓文から文字を集めて、8言2句「天馬出斿嚢弓執矢、淵魚共楽微雨夕陰」を2幅に書いた作品です。款記(かんき)には、石鼓文の北宋時代の拓本をもとに阮元(げんげん、1764~1849)が制作した重刻本(じゅうこくぼん)から集字したことが記されます。

 

篆書八言聯 呉昌碩筆(部分)

 


石鼓文―阮氏重撫天一閣本―(せっこぶん げんしじゅうぶてんいつかくぼん) 
阮元模 清時代・嘉慶2年(1797)、原刻:戦国時代・前5~前4世紀 市河三鼎氏寄贈 東京国立博物館蔵
[東博前期展示]


こちらは阮元による石鼓文の重刻本の作例です。阮元は、明の蔵書家、范欽(はんきん、1506~1585)を祖とする天一閣(てんいつかく、浙江省)所蔵の北宋拓本をもとに制作しました。
呉昌碩は阮元が創設した書院、詁経精舎(こけいせいしゃ、浙江省)で学び、学術的な背景から、石鼓文の拓本のなかでも阮元の重刻本を尊重したことが指摘されています。
呉昌碩74歳時の「篆書八言聯」と石鼓文を比べてわかるように、この頃の呉昌碩は石鼓文の字形をもとにしながらも、やや右上がりの躍動感のある文字構えに変えていたり、縦長で重心が高い引き締まった造形にしています。朴訥とした筆使いで、線質は重厚で力強さが感じられます。あたかも無機質な線の石鼓文に息吹を吹き込み、生気に満ちた字姿に再生しているかのようです。

 

篆書集石鼓字聯(てんしょしゅうせっこじれん)
呉昌碩筆 清時代・19世紀 青山慶示氏寄贈 東京国立博物館蔵 
[東博後期展示]


一方、「篆書集石鼓字聯」は呉昌碩が「呉俊(ごしゅん)」と名のっていた51歳以前の早期の作例で、同じく石鼓文から集字して7言2句「水逮深淵又其道、雨滋嘉樹敷之華」を書写した対聯(ついれん※家の門や柱、壁などを飾る対句を表した2幅の書)です。
先ほどの「篆書八言聯」に対して本作は、石鼓文の字形に比較的忠実で、筆使いは謹厳、線には繊細さが見られます。
当時の呉昌碩は、石鼓文をはじめとする金石文字を拠りどころとしながら、先学の書をふまえて自己の作風を模索していました。本作の字姿にも、同じく石鼓文を深く学んだ楊沂孫の書法の影響がうかがえます。

 

篆書集石鼓字聯 呉昌碩筆(部分)

 


篆書八言聯(てんしょはちごんれん)
楊沂孫筆 清時代・光緒5年(1879) 林宗毅氏寄贈 東京国立博物館蔵
東博前期展示


楊沂孫は呉昌碩より32歳年長で、呉昌碩に先んじて、石鼓文をもとに独自の様式を築いた能書です。
この「篆書八言聯」は、楊沂孫が晩年の67歳時に8言2句「欲知則学欲能則問、持酒以礼持才以愚」を書写した対聯です。
秦の始皇帝が制定した、小篆(しょうてん)と呼ばれる篆書を基調として、石鼓文の文字構えを取り入れた造形をしています。虚飾を排した筆使いはよどみがなく実に自然で、剛と柔の中庸を得た線質です。
本作のような清純な趣の石鼓文風の篆書に、模索期の呉昌碩は強く惹かれたのかもしれません。

 

篆書八言聯 楊沂孫筆(部分)


本展を通して、金石で彩られた「呉昌碩の世界」をご堪能いただけますと幸いです。

 

生誕180年記念 呉昌碩の世界

編集:台東区立書道博物館
編集協力:東京国立博物館、九州国立博物館、兵庫県立美術館、台東区立朝倉彫塑館
発行:公益財団法人 台東区芸術文化財団
制作・印刷:大協印刷株式会社
定価:1,800円(税込)
ミュージアムショップのウェブサイトに移動する
生誕180年記念 呉昌碩の世界 表紙画像

カテゴリ:研究員のイチオシ中国の絵画・書跡「生誕180年記念 呉昌碩の世界—金石の交わり—」

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posted by 六人部克典(東洋室) at 2024年02月02日 (金)

 

踊る埴輪&見返り美人 修理プロジェクト 「埴輪 踊る人々」修理報告 3

当館を代表する名品「埴輪 踊る人々」と「見返り美人図」を、皆様からの寄附で未来につなぐ「踊る埴輪&見返り美人 修理プロジェクト」。
いただいたご寄附で修理が進む様子をシリーズでお知らせして参ります。
3回目も「埴輪 踊る人々」修理作業の様子をご紹介します。今回は「補修」のお話。

前回のブログ「踊る埴輪&見返り美人 修理プロジェクト 「埴輪 踊る人々」修理報告 2」では、旧修理で施された石膏の除去の様子をご紹介しましたが、2体の埴輪はその後も解体が進められた後、表面の汚れなどの除去、クリーニングが行われました。


展示などで付着した長年の汚れが落とされ、元の色が際立ったように見えます。

今回見せていただいたのは、再度欠損部分を復元する作業と、大きな亀裂を補填して強化する作業です。
修理工房にお伺いした時点では、すでに円筒部分などに大まかな復元が行われた状態となっていました。


大きい方の埴輪の口元にもヒビの補強が入っています。よだれを垂らして寝ているように見える…

うすい灰色部分が復元・補強が施されている部分。
今回使われているのは、「バイサム」というエポキシ樹脂だそうです。

…エポキシ樹脂って何だろう?

こっそりスマホで検索すると、以下のような説明が出てきました。
「エポキシ樹脂は、エンジニアプラスティックの一種です。」

…なるほどわからない。
イタリア料理の店で「アマトリチャーナって何ですか?」と聞いて、「グアンチャーレやペコリーノ・ロマーノを使ったトマトベースのパスタです。」と教えてもらった時の気持ちがします。

博物館に戻って調べたところ、エポキシ樹脂は熱ではなく、主剤と硬化剤を化学反応させることでゆっくりと固まるプラスチックで、軽量で強度や耐久性も高く、塗料やコーティング剤、接着剤などとして一般的な素材だそうです。
石膏よりも劣化もしづらく、土器などの復元にもよく使われているとのこと。

軽く丈夫になることで、作業に伴う危険が減り、より安全に展示ができるようになります。
人気者でありながら、輸送時にかかる負担を考慮してなかなか館外での展示ができなかった「埴輪 踊る人々」ですが、今回の修理により安定した輸送ができるようになることで、館外での活躍も増えるのではないでしょうか。

さて、作業の説明に戻りましょう。
まずは円筒部分の復元作業。大まかに復元し滑らかに形を整えたうえで、解体の際にも使ったリューターと呼ばれる小型のドリルのような電動工具ややすりを使って、削っていく作業が行われます。
作業の様子を動画でもご覧ください。


円筒部分復元作業の動画

欠損している円筒部分の復元は、絶対的な正解のない難しい作業。
安定して立つ必要がありますが、仕上がりがまっすぐ過ぎても太すぎても細すぎても違和感が出ます。
重要なのは全体のバランス。少しずつ少しずつ形が整えられていきます。

また、ヒビを充填して補強した場所にも同様に形を整えるためのやすりがかけられます。


作品自体を傷つけないよう紙やすりは小さく切り、さらに折りたたんだ端や隅の部分を使っています。

修理技術者の方に伺ったところ、復元部分の表面の質感をオリジナル部分と似せるようなことはせず、復元・補填した部分とオリジナルの部分が分かるように、ということを考えながら作業をしているとのこと。
全体として鑑賞する際に修理部分が妨げとならないように、けれど、どこがオリジナルかということはわかるようにしておく。繊細なバランスが必要とされる、まさに職人仕事です。



もう一つ、今回は埴輪の亀裂を補填する作業も見せていただきました。


手前の粘土のようなものが、「エポキシ樹脂」の主剤(白)と硬化剤(グレー)。
きちんと固まるよう念入りにこねます。


少なくても多くてもダメ。必要な分量を見極めながらスパチュラ(コテのような道具)ですくって、少しずつ充填していきます。
一回にごとにすくい取られる樹脂の量はほんの僅か。
少しずつ、それでも丁寧に確実に亀裂を埋められていく様子を見ていると、「ほんとに良かったね…」とふと声をかけたくなりました。

皆様のご支援のもとで実現した今回の修理。
作業の様子を見せていただきながら、より安定した状態で、この埴輪を未来へと伝えられることに、あらためて感謝の気持ちでいっぱいになりました。
100年先、200年先の人たちにも、この愛らしい埴輪を守るためにたくさんの人達から支援をいただいたことを伝えていきたいと思います。

さて、補修が全て終わると、いよいよ次は補修部分に色を施す作業へと移ります。
修理完了までもう少し! 今後も皆様と一緒に進捗を見守って参りたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

カテゴリ:保存と修理

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posted by 田村淳朗(総務部) at 2024年01月25日 (木)

 

皆金色の極楽浄土! 建立900年 特別展「中尊寺金色堂」が開幕します

明日1月23日(火)から、本館特別5室で、建立900年 特別展「中尊寺金色堂」が始まります。
 
建立900年 特別展「中尊寺金色堂」会場入口
 
今年2024年に上棟(じょうとう)から900年を迎える中尊寺金色堂。
これを記念して開催する本展では、中央の須弥壇(しゅみだん)に安置された11体の国宝の仏像や、きらびやかな荘厳具(しょうごんぐ)の数々を通じて、金色堂の魅力をお伝えします。
 
音声ガイド案内
 
音声ガイド・ナビゲーターを務めるのは、「進撃の巨人」エレン・イェーガー役や、「僕のヒーローアカデミア」轟焦凍(とどろきしょうと)役などを担当された声優の梶裕貴(かじゆうき)さん。
アニメ「平家物語」では、奥州藤原氏と縁の深い源義経役も演じられています。
展示作品とあわせ、音声ガイドによる解説もお楽しみください。
 
それでは、会場をご覧いただきましょう。
 
8KCGにより再現された中尊寺金色堂 ©NHK/東京国立博物館/文化財活用センター/中尊寺 
 
最初にみなさんをお迎えするのは、こちらの巨大なスクリーン。
幅7m、高さ約4mのディスプレイ上に、8KCGで再現された金色堂が原寸大で映し出されます。
実際の金色堂は、劣化を最小限にするために建物全体をガラスで仕切っており、参拝者はガラスの外から拝観します。
一方この映像では、仮想的に金色堂の内部にはいりこみ、須弥壇上の仏像や内陣の装飾を、間近に見るという体験ができます。
 
特別5室 展示風景
 
続いて、本展最大の注目作品である国宝の仏像11体をご覧いただきましょう。
金色堂内には3つの須弥壇(中央壇、西北壇、西南壇)が設けられており、各壇上に11体(計33体)の仏像が安置されています。
本展では中央壇上の仏像すべてを展示。阿弥陀三尊像、地蔵菩薩像(六地蔵)、二天像という構成です。
なお、本展図録では他壇上22体の仏像の写真も掲載しています。33体すべて見たい!という方はぜひお買い求めください。
 
国宝 阿弥陀三尊像(左から:勢至菩薩立像、阿弥陀如来坐像、観音菩薩立像) 平安時代・12世紀 岩手県・中尊寺金色院蔵
ふっくらと穏やかで優美な姿が特徴。金色堂建立当初から安置されていた可能性が高いとされます。
 
国宝 地蔵菩薩立像 平安時代・12世紀 岩手県・中尊寺金色院蔵
阿弥陀三尊の両脇に3体ずつ安置される地蔵菩薩立像。阿弥陀三尊と六地蔵のセットは六道輪廻からの救済を願う往生思想を体現しています。
 
金色堂の仏像1体1体を全方位からつぶさにご覧いただける大変貴重なこの機会。
京(みやこ)の仏像と比較しても遜色のない優れた造形を、ぜひご堪能ください。
 
金色堂を装飾していた荘厳具も見逃せません。
 
国宝 金銅迦陵頻伽文華鬘 平安時代・12世紀 岩手県・中尊寺金色院蔵
 
金色堂の柱の上部を横にわたる長押(なげし)にかかってたものです。
左右には、人の顔をした鳥が描かれているのがわかるでしょうか。
迦陵頻伽(かりょうびんが)と呼ばれる、極楽に住んで美声で鳴く空想上の鳥です。
たいへん愛らしい姿をしていますね。
 
国宝 紺紙金銀字一切経(中尊寺経) 平安時代・12世紀 岩手県・中尊寺大長寿院蔵
 
金字と銀字で交互に書写された、大変珍しいお経です。
一切経は5400巻近くにも及ぶ経典で、金色堂を建立した藤原清衡(きよひら)が8年もの歳月をかけてこの書写事業を完成させました。
大部分は高野山に移管されており、国宝指定のもので中尊寺に残るのは十五巻のみとなりますが、まさに奥州藤原氏のもつ莫大な富を象徴する作品です。
 
最後には金色堂の模型展示も。本品のみ撮影OKです!
 
豪華絢爛な金色堂の至宝を東京でご覧いただける、大変貴重な機会となっています。
ぜひ足を運んでいただき、清衡が目指した極楽浄土の世界を体感してください。
 
会期は4月14日(日)まで。事前予約は不要ですが、事前にチケットをお買い求めいただくと入館はスムーズです。
チケット情報は展覧会公式サイトから。
 
お見逃しなく!
 

カテゴリ:彫刻「中尊寺金色堂」

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posted by 天野史郎(広報室) at 2024年01月22日 (月)

 

2024年新年のごあいさつ

本年1月1日に発生いたしました令和6年能登半島地震にあたり、全ての被災者の方々に心からお見舞い申し上げます。

つつしんで新春のお慶びを申し上げます。皆様にとって幸多い年となりますようお祈り申し上げます。
昨年1月に、「このままでは国宝を守れない」と題し、雑誌に寄稿しました。
そこでは、令和2年に、新型感染症に対する感染拡大防止が叫ばれ、博物館の臨時休館、来館者数の激減、入館料等の大幅な収入減や光熱費の高騰など、博物館を取り巻く環境が一層厳しさを増しており、国民共有の財産を守り伝えることに危険が生じていることをお伝えさせていただきました。

寄稿後、多くの方々から寄附金や賛助会員へのお申し込みをいただき、改めて、博物館を愛する多くの皆さま方に支えていただいていることを実感した次第です。しかしながら、光熱費をはじめ物価や人件費の高騰による博物館を取り巻く環境の厳しさは変わりません。昨年、当館は創立150周年を迎えましたが、これからの150年先を見据えて博物館運営を持続可能な形で継続するために、当館の使命・役割を広く訴え続けることが重要と考えています。

今年は、当館へのご支援の方法をわかり易くするための体制作りと、海外からの来館者が急増している機会を背景に、「世界の東京国立博物館」を目指して、国内外への情報発信に力を入れて行きます。

近年のコロナ禍によるさまざまな規制が緩和され、博物館も以前の賑わいが戻ってまいりました。特に、外国から多くの方にお越しいただいております。これまで外出を控えてきた方がそろそろ行ってみようと思っていただけるよう、また日本に初めてお越しになる方に「日本といえばまずは東京国立博物館へ」と言っていただけるよう、今年も魅力ある展覧会や企画を予定しております。昨年11月から金曜土曜の閉館時間を繰り下げ、午後7時まで開館としておりますが、今年も続ける予定です。お仕事帰りにお立ち寄りいただき、日本とアジアの芸術文化に触れていただければ幸いです。

年明けは1月2日より開館し、恒例「博物館に初もうで」で2024年の幕を開けます。今年は「辰年」ということで龍をテーマにした特集「謹賀辰年―年の初めの龍づくし―」を開催いたします。力強い龍の姿をご覧いただき、皆さまにパワーがあふれる年となるよう祈念したいと思います。館内ではおめでたい意匠や風景がみられる作品も随所に展示し、新しい年を寿ぎます。恒例となりました国宝「松林図屛風」の新春特別公開もいたします。また、今年はコロナ禍で中断していた新春のイベントも4年ぶりに復活。1月2日と3日の2日間限定で、和太鼓や獅子舞などのイベントを実施、日本のお正月をお楽しみいただけます。

年明け最初の特別展は、1月16日より「本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)の大宇宙」を開催します。16世紀から17世紀という戦乱の時代に生きた多才な総合芸術家・本阿弥光悦の深淵な世界を、書画や工芸の優品の数々でご紹介いたします。そのあと23日からは建立900年 特別展「中尊寺金色堂」を行います。岩手・平泉の世界遺産である国宝の中尊寺金色堂中央壇に安置される仏像11体が揃って東京にお目見えします。実物大の超高精細な映像で再現される金色堂堂内に入るかのような体験もお楽しみください。また、例年開催する台東区立書道博物館との連携企画が今年は拡大、朝倉彫塑館、兵庫県立美術館も加わった4館連携企画となります。中国の伝統書家・呉昌碩生誕180年を記念し、当館および書道博物館では「呉昌碩の世界」を開催、「金石の交わり」のなかで築かれた呉昌碩の芸術を紹介します。

新年度となる4月16日からは、特別展「法然と極楽浄土」を開催します。今年が浄土宗開宗850年を迎えるのを機に、全国の浄土宗諸寺院等が所蔵する国宝、重要文化財を含む貴重な名宝によって浄土宗開創から江戸時代までの発展の歴史をたどります。
6月25日からは特別企画として「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」を開催します。現代美術家が当館収蔵品から選んだ考古遺物と作家自身の作品で構成する空間作品を敷地内の3か所に設置、皆さまに新たな鑑賞体験を提供いたします。続く7月17日からは、創建1200年記念 特別展「神護寺―空海と真言密教のはじまり」を開催。国宝「両界曼荼羅図(高雄曼荼羅)」をはじめ、空海ゆかりの寺である京都・神護寺にまつわる至宝の数々をご紹介します。
秋には当館蔵のはにわ「挂甲の武人」の国宝指定50周年を記念して「はにわ」展を開催します。人物、動物、器物など当時の生活の様子がわかるはにわの優品が勢ぞろい、古代の暮らしを垣間見るような楽しい展覧会です。
恒例の「博物館でアジアの旅」は「アジアのおしゃれ」をテーマに、衣服やアクセサリーなどアジア各地の多彩なファッションを楽しめる展示となります。
このほか、庭園散策やTOHAKU茶館など、さまざまなイベント等により、皆さまそれぞれに博物館をご利用、お楽しみいただけるよう尽力してまいります。

一方、来館することが難しい方にも博物館をご利用いただけるよう、オンラインでの取り組みも充実してまいります。ギャラリートークなど動画配信や文化財に親しんでいただけるデジタルコンテンツ開発も積極的に進める所存です。
多くの幅広い層の皆さまが「多様な楽しみ方ができる博物館」を目指してまいります。

多くの来館者で賑わう日常が戻る中、国民共有の財産を未来に引き継ぐために、職員一同、龍の如く、飛躍の一年となるよう尽力いたします。

今年も東京国立博物館をよろしくお願いいたします。

令和6年1月1日
東京国立博物館長 藤原誠

 

 

カテゴリ:news

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posted by 藤原誠(館長) at 2024年01月01日 (月)