このページの本文へ移動

1089ブログ

踊る埴輪&見返り美人 修理プロジェクト 「埴輪 踊る人々」修理報告 3

当館を代表する名品「埴輪 踊る人々」と「見返り美人図」を、皆様からの寄附で未来につなぐ「踊る埴輪&見返り美人 修理プロジェクト」。
いただいたご寄附で修理が進む様子をシリーズでお知らせして参ります。
3回目も「埴輪 踊る人々」修理作業の様子をご紹介します。今回は「補修」のお話。

前回のブログ「踊る埴輪&見返り美人 修理プロジェクト 「埴輪 踊る人々」修理報告 2」では、旧修理で施された石膏の除去の様子をご紹介しましたが、2体の埴輪はその後も解体が進められた後、表面の汚れなどの除去、クリーニングが行われました。


展示などで付着した長年の汚れが落とされ、元の色が際立ったように見えます。

今回見せていただいたのは、再度欠損部分を復元する作業と、大きな亀裂を補填して強化する作業です。
修理工房にお伺いした時点では、すでに円筒部分などに大まかな復元が行われた状態となっていました。


大きい方の埴輪の口元にもヒビの補強が入っています。よだれを垂らして寝ているように見える…

うすい灰色部分が復元・補強が施されている部分。
今回使われているのは、「バイサム」というエポキシ樹脂だそうです。

…エポキシ樹脂って何だろう?

こっそりスマホで検索すると、以下のような説明が出てきました。
「エポキシ樹脂は、エンジニアプラスティックの一種です。」

…なるほどわからない。
イタリア料理の店で「アマトリチャーナって何ですか?」と聞いて、「グアンチャーレやペコリーノ・ロマーノを使ったトマトベースのパスタです。」と教えてもらった時の気持ちがします。

博物館に戻って調べたところ、エポキシ樹脂は熱ではなく、主剤と硬化剤を化学反応させることでゆっくりと固まるプラスチックで、軽量で強度や耐久性も高く、塗料やコーティング剤、接着剤などとして一般的な素材だそうです。
石膏よりも劣化もしづらく、土器などの復元にもよく使われているとのこと。

軽く丈夫になることで、作業に伴う危険が減り、より安全に展示ができるようになります。
人気者でありながら、輸送時にかかる負担を考慮してなかなか館外での展示ができなかった「埴輪 踊る人々」ですが、今回の修理により安定した輸送ができるようになることで、館外での活躍も増えるのではないでしょうか。

さて、作業の説明に戻りましょう。
まずは円筒部分の復元作業。大まかに復元し滑らかに形を整えたうえで、解体の際にも使ったリューターと呼ばれる小型のドリルのような電動工具ややすりを使って、削っていく作業が行われます。
作業の様子を動画でもご覧ください。


円筒部分復元作業の動画

欠損している円筒部分の復元は、絶対的な正解のない難しい作業。
安定して立つ必要がありますが、仕上がりがまっすぐ過ぎても太すぎても細すぎても違和感が出ます。
重要なのは全体のバランス。少しずつ少しずつ形が整えられていきます。

また、ヒビを充填して補強した場所にも同様に形を整えるためのやすりがかけられます。


作品自体を傷つけないよう紙やすりは小さく切り、さらに折りたたんだ端や隅の部分を使っています。

修理技術者の方に伺ったところ、復元部分の表面の質感をオリジナル部分と似せるようなことはせず、復元・補填した部分とオリジナルの部分が分かるように、ということを考えながら作業をしているとのこと。
全体として鑑賞する際に修理部分が妨げとならないように、けれど、どこがオリジナルかということはわかるようにしておく。繊細なバランスが必要とされる、まさに職人仕事です。



もう一つ、今回は埴輪の亀裂を補填する作業も見せていただきました。


手前の粘土のようなものが、「エポキシ樹脂」の主剤(白)と硬化剤(グレー)。
きちんと固まるよう念入りにこねます。


少なくても多くてもダメ。必要な分量を見極めながらスパチュラ(コテのような道具)ですくって、少しずつ充填していきます。
一回にごとにすくい取られる樹脂の量はほんの僅か。
少しずつ、それでも丁寧に確実に亀裂を埋められていく様子を見ていると、「ほんとに良かったね…」とふと声をかけたくなりました。

皆様のご支援のもとで実現した今回の修理。
作業の様子を見せていただきながら、より安定した状態で、この埴輪を未来へと伝えられることに、あらためて感謝の気持ちでいっぱいになりました。
100年先、200年先の人たちにも、この愛らしい埴輪を守るためにたくさんの人達から支援をいただいたことを伝えていきたいと思います。

さて、補修が全て終わると、いよいよ次は補修部分に色を施す作業へと移ります。
修理完了までもう少し! 今後も皆様と一緒に進捗を見守って参りたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

カテゴリ:保存と修理

| 記事URL |

posted by 田村淳朗(総務部) at 2024年01月25日 (木)