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特別展「鳥獣戯画ー京都 高山寺の至宝ー」20万人達成&開館延長決定!

特別展「鳥獣戯画ー京都 高山寺の至宝ー」(4月28日(火)~6月7日(日)、平成館)は、6月2日(火)に20万人目のお客様をお迎えしました。
ご来場いただいた皆様に、心より御礼申し上げます。

20万人目のお客様は、横浜市在住・中学3年生の伊藤聖さん。
本日、横浜は開港記念日で学校がお休みということで、お母様を誘ってご来館されたとのこと。

伊藤さんには、東京国立博物館・松本伸之副館長より、記念品として特別展図録と展覧会場限定オリジナルクッションなどを贈呈しました。


伊藤聖さん(中央)と松本副館長(右)、左はお母様のやよいさん
東京国立博物館 展覧会会場前にて 

美術館が好きで普段からよく行かれているという伊藤さん。
「鳥獣戯画は教科書などでよく知っている絵。学校に貼られたポスターで展覧会のことを知って、開幕前からずっと見たいと思っていた。紙に印刷されたものと本物では違いがあると思うので楽しみ。」
とお話くださいました。


特別展「鳥獣戯画ー京都 高山寺の至宝ー」もいよいよ今週末6月7日(日)までとなりました。
連日大変たくさんのお客様にご来館をいただいており、
6月2日(火)~4日(木)の開館時間を1時間延長し、18時閉館とすることとなりました。

会期末までの開館時間は下記のとおりとなります。

6月2日(火)9:30~18:00 ※1時間延長(特別展のみ)
6月3日(水)9:30~18:00 ※1時間延長(特別展のみ)
6月4日(木)9:30~18:00 ※1時間延長(特別展のみ)
6月5日(金)9:30~20:00 ※通常通り
6月6日(土)9:30~18:00 ※通常通り
6月7日(日)9:30~18:00 ※通常通り ※最終日
*入館は閉館時間の30分前まで。

会場は大変混雑しており、観覧まで長時間お待ちいただく場合がございます。
ご来場の際は十分に時間の余裕を持っておこしください。

混雑の状況は、ツイッターアカウント@chojugiga_uenoやハローダイヤル(03-5777-8600)でもご案内しています。
皆様のご来館をお待ちしています。

カテゴリ:news2015年度の特別展

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posted by 田村淳朗(広報室) at 2015年06月02日 (火)

 

初夏の京都・高山寺を訪れてみませんか?

いきいきと描かれた兎、蛙、猿!
日本一有名な絵巻ともいえる国宝・鳥獣戯画は、
京都の高山寺(こうさんじ)に伝来しました。


国宝 鳥獣人物戯画 甲巻(部分) 平安時代・12世紀 京都・高山寺蔵 平成館にて展示

現在、東京国立博物館平成館では特別展「鳥獣戯画―京都 高山寺の至宝―」[会期 ~6月7日(火)]を開催中。
特別展のタイトルにもありますように、国宝・鳥獣戯画をはじめとする
数々の「高山寺の至宝」をご紹介する展覧会です。


この特別展に関連し本館特別1室では
特集「鳥獣戯画と高山寺の近代-明治時代の宝物調査と文化財の記録-」[会期 ~6月7日(火)]が同時期開催中。
「鳥獣戯画」甲・乙・丙・丁4巻を、明治時代に模写した模本を展示。
あわせて明治時代の高山寺の様子を捉えた貴重な古写真もご紹介しています

 
左)鳥獣戯画「甲巻」展示風景/(右)平成館の会場では前期展示で終了した作品の模本も! 本館特別1室 本館特別1室

なんと!この本館特別1室の特集では、鳥獣戯画「甲巻」の模本を全場面ご覧いただけます。 
しかも特別展は写真撮影禁止ですが、この特集展示は写真撮影可能です。


高山寺は、奈良時代の創建と伝わる古刹で、
鎌倉時代に明恵(みょうえ)上人によって再興されました。
京都の北西、京都駅からはバスで1時間ほどの、
豊かな自然に囲まれた栂尾(とがのお)という地に位置します

 
高山寺位置図


高山寺境内図


正方形の石畳が連なる表参道から境内に入ると、
明恵上人ゆかりの遺構が、四季折々の美しい景観とともに訪れる人びとを魅了します。

 
(左)高山寺表参道から境内へ。高山寺
(右)特別展会場の入口。光の石畳に導かれて会場の中へ。
平成館

高山寺の境内、鎌倉時代に建てられた国宝・石水院では、
かつて春日明神・住吉明神をまつる「栂尾開帳(とがのおかいちょう)」
という儀礼が行なわれていました。
 
(左)国宝 石水院 外観 高山寺 中川純一氏撮影
(右)重要文化財 高山寺石水院(社寺建築写真帖のうち)工藤利三郎撮影 

本館特別1室にて展示
明治時代に撮影された古写真に写るのは、
明治22年(1889)に現在地に移築された後の石水院です。

特別展会場の「高山寺石水院の栂尾開帳」というコーナーは、
江戸時代の資料に見られる儀礼の様子、宝物の配置を参考に
石水院で行なわれた「栂尾開帳」を再現した展示です。

 
(左)栂尾両大明神御開帳記(部分) 江戸時代17世紀 京都・仁和寺蔵 平成館にて展示
春日明神・住吉明神を中心に狛犬、鹿、馬など、高山寺伝来の動物彫刻の配置が記録されています。
(右) 特別展1章-2「高山寺石水院の栂尾開帳」展示風景 
平成館

実はこのコーナー、平成館特別展示室リニューアルの成果をもっとも凝縮した一角です。
厨子に入った春日、住吉明神が展示されているケースは、リニューアルによって
高透過低反射ガラスに交換されました。獅子狛犬の下部照明に有機EL照明を用いています。
また、馬や鹿を展示する行灯型移動ケースはこの度、平成館特別展示室用に新たに製作されました。
リニューアルについてもっと知りたい方は
松嶋平常展室長のブログ記事をご参照ください。

また、高山寺は「日本最古の茶園」が営まれた地でもあります。
鎌倉時代、栄西禅師は中国から持ち帰った茶の種を、明恵上人に贈りました。
明恵上人はその種を高山寺のある栂尾の山内に植え育てました。

 
(右)「日本最古之茶園」碑 高山寺
(左)重要文化財 壬申検査社寺宝物図集第六 町田久成・内田正雄・蜷川式胤等調成 明治5年(1872)
 本館特別1室にて展示
明治5年(1872)の社寺宝物調査(壬申検査)の記録のうち、高山寺所蔵の「柿蔕(かきのへた)茶入」を模写した図。
栄西禅師はこの茶入の中にお茶の種を入れ、明恵上人に贈ったといわれます。


現在も高山寺の境内には約700平方メートルの茶園があり、
毎年ちょうどこの新緑の季節に茶摘みが行なわれます。

秋には紅葉の名勝地として知られる高山寺ですが、新緑の時期はどうでしょう。
最近のCMにありましたが「紅葉の名所は、すなわち新緑の名所」だそうです。
都の喧騒から少し離れた高山寺で
明恵上人に思いを馳せながら初夏の風に吹かれるのも一興です。


石水院内部 中川純一氏撮影


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栂尾山 高山寺
〒616-8295京都市右京区梅ヶ畑栂尾町8
[拝観時間] 8:30〜17:00 
[拝観料]国宝・石水院拝観 600円 ※紅葉時期のみ入山料 500円
京都・高山寺で、特別展「鳥獣戯画 ─京都 高山寺の至宝─」の半券を提示すると、
国宝・石水院の拝観料が100円引きになります。2015年12月31日まで。
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カテゴリ:研究員のイチオシ2015年度の特別展

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posted by 高木結美(特別展室) at 2015年05月27日 (水)

 

トーハクくん、「鳥獣戯画展」特設ショップにいく!


ほいほいほほーい! ぼく、トーハクくん!



今日はユリノキちゃんの 命令 アドバイスで、特別展「鳥獣戯画―京都 高山寺の至宝―」のグッズを紹介しにきたほ。
なんだかオモシロいものがそろっているらしいほ。 たーのしーみだほー!



さて…今回は平成館の1階に特設ショップができてると聞いて…


!!!



…すすす、すごい人出だほ。 鳥獣戯画グッズ大人気だほ! これは楽しみだほー!!




さて、今回は、まず、なにをおいてもコレ! 研究員さん渾身の公式図録なんだほ。




特別展「鳥獣戯画―京都 高山寺の至宝―」公式図録 2,700円(税込)
豪華!布張りのハードカバー。全作品の図版はフルカラー。
鳥獣戯画全4巻の全場面は、図録の中ほどに綴じ込み。
カラーページの巻頭には、鳥獣戯画の名場面を和紙調の紙に印刷した特別ページも収録。


ネット上でも話題の豪華版なんだほ。

さらに、持ち疲れたら肩から掛けられるバッグ(税込550円)も。
図録とバッグをセットで同時に買うと、なんと合計3,000円(税込)でおトクなんだほ!


待ち時間つぶし用のパズルや出品目録、買ったグッズもこの中に。

これはマストバイだほー!!



いやー、しょっぱなからテンション上がりすぎて疲れちゃったほー。
あ、こんなところにかわいいクッションが…ふー。



 
クッション 3,000円(税込)
鳥獣戯画に登場するウサギをかたどったクッション。
カエルバージョンもあります。


あ、じゃあ…今回の取材はこんなところで…



……ダメ?



…ほ?これは?

 


トランプ 1,500円(税込)
「鳥獣人物戯画 甲巻」が描かれたトランプ。
数字とマークを順番に並べると、絵巻が!


まさに7並べのためにあるようなトランプだほ。
楽しそうだけど…。ユリノキちゃん、続いてるとこ止めるとすぐ怒るしな…。



お、こっちにもいいものが!



iPhoneケース 2,500円(税込)
鳥獣戯画に登場するウサギをあしらったiPhoneケース。


こちらにもカエルバージョンがあります。


iPhoneをセットすると、
カエルはリンゴに噛み付いているように、ウサギはリンゴを蹴っているようになる…
…作った人は、○ップルさんとナニカあったほ?



えーっと、あったあった。コレがユリノキちゃんが言ってたコーヒーだほ。




マイセンオリジナルブレンド レギュラーコーヒー(粉) 125g入
缶パッケージ 1,944円(税込)
パッケージにウサギや猿、カエルをあしらった、
洋食器ブランド「マイセン」とのコラボ商品。


…んー、カエルのやつでいいのかほ?
(※トーハクくんは忘れているようですが、ユリノキちゃんはカエルNGです)



となると…
お菓子も買っていかないといけないんだほ。
じゃないと、あの腹ペコ樹木妖精は、
「あらー? お茶菓子はどうしたのかしら? これから買ってくるのかしらー?」って笑顔で聞いて…。
…ん?これは…っ!





(左から)クッキー 1,000円(税込)、八ッ橋(現在は入荷待ち)650円(税込)、ケーキ 920円(税込)、おたべ 540円(税込)

く、クッキィィィィ!!
ややや、八つ橋もォォォォ!
な、なんなんだほ!? この、まるでボクをねらいすましたようなお菓子ラインナッッッープ!

…さてはワナか? …ボクをおとしいれるためのワナか!?
…くっ。
…教えるんだほ! 在庫は! 在庫は何箱あるんだほーーー!?

……。
………。
…………。



ふう。あぶなかったほ。まとめ買いしてしまうところだったほ。



ほ?




ここはうわさの記念撮影コーナーだほ。

…そして……そばには休憩をとっている、おねいさんたち…。
んふふふふ…。これは、チャンス!


ヘイ!そこのステキなおねいさん! 僕と一緒に記念撮影しなーい?

……もちろんだほ。
おねいさんみたいなステキなひとと一緒に記念撮影できるなんてむしろボクがコーエイなんだほ。
さ、おねいさん。ボクをしっかりと、抱いて。


???「あ~ら。じゃあわたしも一緒に写らせてもらおうかしら?」


…え?


人気の撮影コーナーでラウンジでご休憩されていたお客様と一緒に、記念撮影!
皆さんも是非、ご利用ください。


「ご満悦のようね?」


ユリノキちゃん!? いつの間に…? あ、いや、ボ、ボク、頑張ったから、ちょっとゴホウビがほしくて、その…。


「ふーん。鼻の下がのびてるわよ? …あ、そうだトーハクくん。このあとちょっと、東洋館裏に来てくれる?」


…ほほほ。ユリノキちゃんのお説教はちょっと長引きそうだけど…大丈夫!
特設ショップは閉館時間までちゃんと営業してるほ…。

特別展「鳥獣戯画―京都 高山寺の至宝―」は6月7日(日)まで。
今回紹介した商品以外にも、まだまだ魅力的な商品はいっぱい。
みんなもご来館の思い出をぜひゲットしてほしいほー!

しーゆー!

カテゴリ:news2015年度の特別展

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posted by トーハクくん at 2015年05月26日 (火)

 

明恵上人の弥勒信仰が体現された小宇宙

連日たくさんのお客様にご観覧いただいている、特別展「鳥獣戯画-京都 高山寺の至宝-」。
大幅な展示替えを経て、19日(火)からは、新たなラインナップが展開しています。
ここでは、後期展示の一作品をご紹介します。
重要文化財 阿字螺鈿蒔絵月輪形厨子(鏡弥勒像)(あじらでんまきえがちりんがたずし(かがみのみろくぞう))です。

  
重要文化財 阿字螺鈿蒔絵月輪形厨子(鏡弥勒像)鎌倉時代・貞応3年(1224) 京都・高山寺蔵 
※展示期間:~6月7日(日)
(左)図1 厨子の表面(扉を閉じたところ)、(右)図2 厨子の背面


総体を木でつくり、全体に黒漆を塗った、小型の厨子(仏像を安置するキャビネット)です。
表面には、金蒔絵や夜光貝(やこうがい)の螺鈿(らでん)で文様を表しています。
両開きの扉の表には、螺鈿で字の片身ずつをあしらい、扉を閉めたときに、梵字(ぼんじ)の「ア」となる仕組み。
厨子が円形(月輪形)で、その中に蓮華座上の「ア」字を納める意匠が、密教の重要な観想法である「阿字月輪観」(あじがちりんかん)に通じることから、この名称があります。
また厨子の背面側は、朱漆や螺鈿、水晶などを使って「五輪塔」(ごりんとう)を表しています。(図1・2)


図3 厨子の内面と扉絵

高さ12.5センチ、奥行3.9センチの小さな規格に、これだけ細かい装飾技法が駆使されていることに、すでに驚かされますが、扉を開けると、中央には輝くばかりの仏像が(図3)。
像は木造彩色で、五体の仏像を表した宝冠をかぶり、腹前で手のひらを上に向け重ねた「定印」(じょういん)を結んでおり、手の上には蓮華座が乗っています。
今は失われていますが、手のひらの蓮華座上には、小さな五輪塔(おそらく水晶製だったのでは?)が乗っていたのでしょう、その図像から、弥勒菩薩(みろくぼさつ)と判断されます。
扉の内側に描かれた不動明王(ふどうみょうおう・向かって右)、降三世明王(ごうざんぜみょうおう・向かって左)は、重要文化財 弥勒曼荼羅(みろくまんだら)(図4)にも描かれるもので、このことも本像が弥勒尊であることを裏付けます。
美しく整った像容、理知的な顔立ちは、会場でも展示されている白光神立像(びゃっこうしんりゅうぞう)(図5)などにも通じ、白光神像や善妙像など高山寺の諸像を手がけたといわれる、仏師湛慶(ぶっしたんけい)の作との見方もあります。


図4 重要文化財 弥勒曼荼羅 鎌倉時代・13世紀 東京・霊雲寺蔵 ※展示期間:~6月7日(日)


図5 重要文化財 白光神立像 鎌倉時代・13世紀 京都・高山寺蔵 ※全期間展示

その弥勒像は像高わずか6.5センチ(図6)。しかし細部の造作はあくまで徹底して間然しません。
眉間の「白毫(びゃくごう)」を水晶で表すのは、当時の通例としても、その極小ぶり!
そして手のひらの蓮華座は、なんと金属製(銅製鍍金)です。
衣服にはこれまた微細な、截金(きりかね)の文様装飾が(図7・8・9)。銅製鍍金の透かし彫りの光背も入念で、金色を放つ弥勒像と、銀板を貼った内部空間の白く冴えた輝きの対比も見事。
大きさ、形状、意匠、そして卓抜な細工の妙という点から、仏像を納める厨子としては、同時期に類を見ない、相当に特異な存在といわざるをえません。


図6 阿字螺鈿蒔絵月輪形厨子内の弥勒像。像高わずか6.5センチ!

 
(左)図7 白毫は極小の水晶粒!(右)図8 小さな蓮台は金銅製!もとは上に五輪塔があったは


図9 そして着衣には、細やかな截金の文様装飾が!

造形美に加え、この小品には明恵上人や、明恵をとりまく人々の信仰思想、営為動向が、濃密に絡んでいます。
そのためでしょう、これまでにもたびたび、論考の対象として取り上げられてきました。
注目すべきその一つが、現在は見ることのできない、厨子内部や像背面の梵字と銘文についての言及です。
銘文の記述から、高野山の玄朝(げんちょう)(1184?~?)が、貞応3年(1224)亡き母を弔うために制作せしめたものであることがわかり、また本作品の図像の背景には、密教の、さらには密教と華厳の融合「厳密融合」の教理にもとづく弥勒尊の捉えかた、いわば「弥勒観」があるということが指摘されています。
後にこの厨子は明恵上人のもとに渡り、念持仏となったようです。
臨終のさい明恵上人が弟子に与えた品々を記した目録の中にある「鏡弥勒像一躰」が、本作品に該当するとされ、その後いったん高山寺を離れ、江戸時代に再び高山寺に寄付されました。
像の背面に銀色の「鏡板」(かがみいた)を有することから、「鏡・・」と呼んだものと思われます。

銘文の記述内容からすれば、もともとこの「鏡弥勒像」は、明恵上人その人ではなく、高野山玄朝のもとで制作されたものということになります。
しかしその弥勒観や思想背景、人物相関は、明恵自身と深く通じるものでもあるのです。
本作品の制作に明恵が少なからず関与していた、もはやそう言ってよいのではないでしょうか。
高野山の玄朝は明恵とも親交があった人物でした。
また明恵自身が、同様の図像の弥勒像に強い関心をよせていたことが知られています。

本展覧会に関わる中で、高山寺には、一種独特ともいうべき明恵上人の思想動向と、それを反映した造形物や資料類が、それもきわめて高い質的価値を有するものが、豊かに伝えられているということを、強く感じています。
本作品は、そうした在り方を、最も端的に表しているように思います。
明恵上人の弥勒信仰が最も凝縮し体現された小宇宙(コスモス)は、今まばゆい光を放ち、宇宙の彼方へと私たちをいざなうようです。

カテゴリ:研究員のイチオシ2015年度の特別展

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posted by 伊藤信二(広報室長) at 2015年05月23日 (土)

 

まばゆいばかりのヒマラヤの白

今回の特別展「鳥獣戯画―京都 高山寺の至宝―」は、鳥獣戯画甲巻だけではなく、すべての展示作品が目玉といってよいでしょう。
まさに全身目玉だらけの、モンスターのような展覧会です。
彫刻作品でも、愛らしい子犬や鹿の夫婦といった動物彫刻たちは、製作背景などの知識なしでも、みていて本当に心がなごみます。



重要文化財 子犬 (こいぬ) 鎌倉時代・13世紀 京都・高山寺蔵 ※通期展示


重要文化財 神鹿 (しんろく) 鎌倉時代・13世紀 京都・高山寺蔵 ※通期展示

そんななかで彫刻担当者のイチオシは白光神立像(びゃっこうしんりゅうぞう)です。



重要文化財 白光神立像 鎌倉時代・13世紀 京都・高山寺蔵 ※通期展示

精密な彫りがほどこされているので、写真だと大きくみえるかもしれませんが、実はわずか40センチほどの像です。全体が台座を含めて真っ白に塗られていますが、衣の部分をよくみると雲母(きら)が塗られ、また、白い下地のうえにさらに白い線で模様が描かれています。真っ白な絹織物の衣を意識したのでしょうか。
この真っ白な神様、まさに名前のとおりですが、これが何をあらわしているかというと、なんとインドの北方にそびえたつヒマラヤの峰々に輝く白い雪なのです。白光神はインドの聖山を神格化したものだったのです。といっても、世界中探しても白光神の彫像は、おそらくこの一体しかないでしょう。
この像をつくらせた高山寺の明恵上人は、若い頃からインドにあこがれていました。奈良・春日明神のお告げによって断念することになるのですが、実際にインドに行こうとして、そのスケジュールまで綿密に練っていたほどでした。
現代のわれわれは、インドといえば灼熱の国を思い浮かべますが、明恵上人にとってのインドは、このような真っ白な世界だったのかもしれません。この像と同様に全身真っ白にあらわされた仏眼仏母像(ぶつげんぶつもぞう)は、幼くして両親をなくした明恵上人が、母として慕ったものです。


国宝 仏眼仏母像 平安~鎌倉時代・12~13世紀 京都・高山寺蔵 ※前期(~5/17まで)展示

もしかしたら白という色は、明恵上人にとっては母のイメージがあったのかもしれません。

さて、ヒマラヤといえば、先ごろ大きな地震があり、大勢の人々が犠牲になりました。東日本大震災を経験したわれわれ日本人にとっても、他人事ではありません。明恵上人のあこがれた地の一日でも早い復興を、この白光神とともに願っていただけましたらと思います。

カテゴリ:研究員のイチオシ2015年度の特別展

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posted by 淺湫毅(教育講座室長) at 2015年05月16日 (土)