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まばゆいばかりのヒマラヤの白

今回の特別展「鳥獣戯画―京都 高山寺の至宝―」は、鳥獣戯画甲巻だけではなく、すべての展示作品が目玉といってよいでしょう。
まさに全身目玉だらけの、モンスターのような展覧会です。
彫刻作品でも、愛らしい子犬や鹿の夫婦といった動物彫刻たちは、製作背景などの知識なしでも、みていて本当に心がなごみます。



重要文化財 子犬 (こいぬ) 鎌倉時代・13世紀 京都・高山寺蔵 ※通期展示


重要文化財 神鹿 (しんろく) 鎌倉時代・13世紀 京都・高山寺蔵 ※通期展示

そんななかで彫刻担当者のイチオシは白光神立像(びゃっこうしんりゅうぞう)です。



重要文化財 白光神立像 鎌倉時代・13世紀 京都・高山寺蔵 ※通期展示

精密な彫りがほどこされているので、写真だと大きくみえるかもしれませんが、実はわずか40センチほどの像です。全体が台座を含めて真っ白に塗られていますが、衣の部分をよくみると雲母(きら)が塗られ、また、白い下地のうえにさらに白い線で模様が描かれています。真っ白な絹織物の衣を意識したのでしょうか。
この真っ白な神様、まさに名前のとおりですが、これが何をあらわしているかというと、なんとインドの北方にそびえたつヒマラヤの峰々に輝く白い雪なのです。白光神はインドの聖山を神格化したものだったのです。といっても、世界中探しても白光神の彫像は、おそらくこの一体しかないでしょう。
この像をつくらせた高山寺の明恵上人は、若い頃からインドにあこがれていました。奈良・春日明神のお告げによって断念することになるのですが、実際にインドに行こうとして、そのスケジュールまで綿密に練っていたほどでした。
現代のわれわれは、インドといえば灼熱の国を思い浮かべますが、明恵上人にとってのインドは、このような真っ白な世界だったのかもしれません。この像と同様に全身真っ白にあらわされた仏眼仏母像(ぶつげんぶつもぞう)は、幼くして両親をなくした明恵上人が、母として慕ったものです。


国宝 仏眼仏母像 平安~鎌倉時代・12~13世紀 京都・高山寺蔵 ※前期(~5/17まで)展示

もしかしたら白という色は、明恵上人にとっては母のイメージがあったのかもしれません。

さて、ヒマラヤといえば、先ごろ大きな地震があり、大勢の人々が犠牲になりました。東日本大震災を経験したわれわれ日本人にとっても、他人事ではありません。明恵上人のあこがれた地の一日でも早い復興を、この白光神とともに願っていただけましたらと思います。

カテゴリ:研究員のイチオシ2015年度の特別展

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posted by 淺湫毅(教育講座室長) at 2015年05月16日 (土)