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1089ブログ

新たな平成館特別展示室と国宝「鳥獣戯画」ケース照明

現在、好評開催中の特別展「鳥獣戯画─京都 高山寺の至宝─」ですが、この展覧会の会場となる平成館の特別展示室は、昨年12月からこの4月まで閉室して改修工事を施しました。
改修の大きな柱は二つです。その一つは、展示室内の環境をより良くするために、空調器機を交換し、各展示室の出入口にシャッターを増設するなど、室内の環境変化を少なくする対策を施しました。

もう一つは、展示される文化財をより見やすくするため、さまざまな方策を取っています。
ケースのガラスを透明性が高く、反射の少ないものに交換しました。また支柱のない透明度の高いガラスの行灯型移動ケースも新規開発しました。天井にはライティングダクトを増設して、スポットライトを自由に設置できるようにしました。さらに壁の色を変えるなど、細かく修正、変更したところは数多くありますが、大きく変わったところは照明装置の交換です。

天井に設置されたライティングダクト
天井に設置されたライティングダクト

壁側にあるケース内の天井と床面の照明のユニットを交換し、LED照明としました。光の強さの調整(調光)、光の色味の調整(調色)が自由自在にできるもので、当館の壁面の広いケースでも、ムラなく照らすことのできる極めて高性能なものです。
とくに今回の特別展では、国宝「仏眼仏母像」(№49・5月17日(日)まで展示)など絹に描かれた仏教絵画に威力を発揮し、絵の具や線がこれまでにないくらい美しくご覧いただけると思います。(大きな声で言えませんが、本館で同じ絵を展示したとすれば、その差は歴然です)

国宝「仏眼仏母像」
細部までクリアにみえる国宝「仏眼仏母像」(高山寺蔵)部分


さらに有機ELという照明器具を導入しています。有機ELとは、「有機エレクトロルミネッセンス」(Organic Electro-Luminescence)の略で、文化財を展示した空間全体ごと包み込むように照らす光の特性があります。本展では「春日大明神像・住吉大明神像」(№20)や重文「獅子・狛犬」(№24)のコーナーを照らしています。これらは高山寺で執り行われる儀礼に使われる宝物ですが、あたかもお堂のなかで蝋燭の火に照らされるように見えるでしょう。

新しい行灯型可動ケースと有機EL照明を用いた展示
新しい行灯型移動ケースと有機EL照明を用いた展示


また本展では特に国宝「鳥獣戯画」(№114~117)のケースに、高い色温度(色温度が高くなっていくと光の色が赤から黄、白、青へと変化していきます)をもつ新たに開発された有機ELを採用しています。さらにガラスにはこれまでにないほど反射率の低いフィルム使用し、まるで絵巻をガラス越しではなく直にご覧いただいているような感覚でみていただけるのではないでしょうか。これは当館で開催した「クリーブランド美術館展─名画でたどる日本の美」や特別展「支倉常長像と南蛮美術―400年前の日欧交流―」で、展示照明について調査研究を繰り返してきた成果でもあります。


国宝「鳥獣戯画」の展示ケース
国宝「鳥獣戯画」の展示ケース
まるでガラスのない状態で絵巻を鑑賞できます



さまざまな改良と改修を施し、先端的技術を結集したケースや器具を開発し、採用した結果、特別展の会場がリニューアルされました。しかし、文化財をご覧になった皆様の多くは「気づかなかった」という感想をお持ちになったのではないでしょうか。文化財の展示では、このようにお客様が気づかない、つまり展示されている品々以外のものが、気にならない展示館環境を作り出すことも博物館の目指す目標の一つとも言えるのではないでしょうか。


国宝「鳥獣戯画」を展示するケース照明は、科学研究費25282078・基盤研究(B)「中世から近代における日本絵画の受容環境の復元的考察」の助成による研究成果の一部です。
研究代表者:松嶋雅人 研究分担者:和田浩、矢野賀一、土屋貴裕(以上、東京国立博物館)

研究支援協力会社
照明器材:株式会社カネカ
照明計画:(株)キルトプランニングオフィス

「鳥獣戯画展示ケース」展示資材協力
低反射フィルム:日油株式会社


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カテゴリ:研究員のイチオシ2015年度の特別展

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posted by 松嶋雅人(平常展調整室長) at 2015年05月06日 (水)