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リニューアルした本館15室「歴史の記録」

これまで「歴史資料」と題して、本館16室で開催していた展示は、今回のリニューアルで15室に移り、タイトルも「歴史の記録」と改まりました。

トーハクには、いわゆる美術品・工芸品だけでなく、日本や東洋の歴史のありさまを物語る資料が多数伝えられてきました。原本を正確・緻密に再現した「模写・模本」、石造物や金工品の表面に刻まれた銘文などを写し取った「拓本」、日本国内をはじめ世界にも及ぶ「地図」、動物・虫・魚・植物などを科学的な視角で描いた「図譜」、文化財や国内外の諸地域を写した「写真」などです。これらの資料はかつては、博物館の仕事を支える裏方でしたが、長い歴史を経てそれ自体貴重な文化財と評価されるようになってきました。

リニューアルした15室
リニューアルした15室。壁面には古写真専用の展示ケースを設置。

新15室は小さな部屋ですが、このように多彩な各分野の歴史資料を継続して展示します。
地図や拓本は大型のものが多く、これまでの部屋ではその魅力を十分に示すことができませんでしたが、今回高さ270cmの壁付ケースを設け、大きな資料も間近に見ることができるようになりました。また、写真はできるだけ細かい部分まで見たくなるものです。その要望に応えて特別に極薄の展示ケースを制作し、目の前数センチで古写真を楽しめるようになりました。

甲州街道中分間延絵図 内藤新宿・千駄ヶ谷
重要文化財 甲州道中分間延絵図 内藤新宿・千駄ヶ谷 江戸時代・文化3年(1806) 2014年6月8日(日)まで展示

今年度1年間、まずは分野別に代表的な資料を選んで、トーハク歴史資料コレクションの幅広さをご紹介します。特に長大なのぞきケースには重要文化財「五海道其外分間延絵図」を二か月交替で展示します。江戸時代の全国の街道筋の様子をお楽しみください。
写真の展示ケースでは江戸幕府の遣欧使節メンバーをパリで撮影した写真をはじめ、重要文化財「壬申検査写真」などトーハクの誇る古写真コレクションの粋を月替わりでご覧いただけます。
 

カテゴリ:研究員のイチオシ展示環境・たてもの

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posted by 田良島哲(調査研究課長) at 2014年04月23日 (水)

 

生まれ変わった本館17室「保存と修理」

本館17室は「保存と修復」をテーマに、トーハクの「臨床保存活動」をご紹介しております。
今回のリニューアルでどのように生まれ変わったのでしょうか。

17室は平成19年(2007)1月2日にオープンしました。平成館と本館の16室や18室を結ぶ導線に位置し、「通り道」のイメージが強く、「道に迷ったから偶然にちょこっと寄ってみた」というお客様も多いのではないでしょうか。読んで理解するパネルを6枚展示しておりましたが、文字数の多い内容がちょっと寄ってみたお客様にとって少し重い内容だったかもしれません。
そこで、今回、以下の目標を掲げました。

─ 文字はできるだけ少なく!
─ 保存の中でも重要な「予防」が主役となるような展示
─ 10分滞在されるお客様でも「保存と修理」の概要がご理解可能
─ より深く興味を持たれたお客様にも楽しい展示

以上の目標を達成するため、以下のとおり仕様を詰めていきました。

─ 「ちょこっと寄り道」されたお客様の一息スペースの雰囲気作り
─ スクリーンで動画などの画像を投影し、10分で活動概要を紹介
─ 保存を「予防」「診断」「修理」に分けて、それぞれの活動を紹介

本館16室からの導線
本館16室からの導線

平成館からの導線
平成館からの導線

さて、最終的には、中央部にドドーンと160インチのスクリーン、そして両脇に「予防」や「修理」のためのグッズを展示いたしました。

向かって右側は「予防」です。環境を整えて、文化財の劣化を少しでも遅らせ、大きな手術(修理)をせずに保存するという、保存の要と言ってよい、もっとも私たちが重視している活動です。ここでは普段お客様の目に触れない収蔵庫の中の収蔵棚を小型化した模型を設置しました。模型と言っても実際の収蔵庫で使える本格的な棚です。文化財を安定した環境におくための器具や地震大国日本ならではの工夫がちりばめられています。さらに実際に収蔵庫で使用する保存箱もご覧いただけます。


向かって左側は「修理」です。これまで展示替によって、年1回、平均2か月しかご覧になれなかった修理材料や道具を年間通じてご覧いただけるようになりました。数多い文化財の分野から、人気の高い5分野を選んで、日本が世界に誇る修理材料や道具を常設展示いたしました。是非、興味を持たれた分野の道具からご覧ください。また、旧展示から引き継いだ小さいモニターでは、刀剣研磨、掛幅の修理、輸送梱包のスライドショーを引き続きご覧いただけます。

スクリーン側からみた「修理」
スクリーン側からみた「修理」

「診断」は、中央のスクリーンにてその活動をご紹介しております。東京国立博物館の保存修復課は設置されて今年で13年目になります。これまで「環境保存室」「保存修復室」の二つの部屋で活動して参りましたが、この4月より「調査分析室」が新たに加わりました。スクリーンでは、どのような調査をするとどのようなことがわかるのか、ダイジェストでご紹介しております。将来的には、今年度導入のCTスキャナーを用いた分析など、最新の技術を使った情報を発信できればと思います。スクリーンの映像に添えたテロップは、文字を極力少なくしているため、若干説明が不足している部分もあろうかと思います。ご質問がありましたら、どしどしお寄せください!

東洋館展示室での「予防」動画撮影ロケ
東洋館展示室での「予防」動画撮影ロケ

最後になりましたが、臨床保存活動をご理解いただき、それを支える寄付をくださった皆様の顕彰板が、17室入って右の収蔵棚の上に設置されています。これまで展示できなかった名品が寄付金によって修理され、お客様にお楽しみいただくことが可能となっています。皆様のあたたかいご支援、心から感謝申し上げます。

17室には椅子をご用意してございます。本館と平成館の導線で一休み感覚で是非、お立ち寄りください!

カテゴリ:研究員のイチオシ展示環境・たてもの

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posted by 土屋裕子(保存修復室長) at 2014年04月18日 (金)

 

本館リニューアル─新しい展示ケースについて─

4月15日(火)にリニューアルオープンする本館展示室より、15室、16室、18室の新しい展示ケースをひとあし早くご紹介いたします。

新しい展示ケースは近年改修した本館12室や東洋館のデザインを踏襲したものです。
各分野の担当研究員と検討を重ね、展示室との調和を考慮しつつ、それぞれの展示作品にふさわしい展示ケースの実現をめざしました。

展示ケースに共通する特徴はつぎの4点です。

1. 従来の展示ケースと比べ金属フレーム部分の少ないガラスの強度で全体を支える構造
2. 展示ケース内は高い気密性能をもち温湿度の変化が少ない、安定した空気環境
3. 透過性の高い低反射合わせガラスを採用し映り込みを軽減
4. 色の再現性が高いLED照明を展示ケース内に採用


それでは新しくなった展示ケースの画像をまじえてご紹介します。

「古写真」の細かな部分まで見せます!

従来古写真は覗いて鑑賞する展示でしたが、一つ一つ額縁に収め本館2階10室の浮世絵展示のような展示方法を採用しました。
ガラスと額縁との距離は6cm程ですので、写真の細部まで鑑賞できます。

本館15室「歴史の記録」の古写真ケース
本館15室「歴史の記録」古写真用の展示ケース(左、中)と検討模型写真(右)


作品が展示ケースに入れられていないかのように見える!?

18室の中央にある工芸用展示ケースはケース内の展示台にテーブルタイプを採用しました。高透過低反射ガラスの展示ケースは作品の存在感を高めながら展示室をよく見通せます。
作品に見入ってしまうとガラスの存在を忘れ、作品だけが際立って見えてくることでしょう。ご自身の鼻やおでこをぶつけないようにお気をつけください。


本館18室「近代の美術」工芸の展示ケース(左)と検討模型写真(右)

本館18室「近代の美術(工芸の展示エリア)」展示室
本館16室「アイヌと琉球」展示室(左)と検討模型写真(右)

つなぎ目の少ない大型ケース!
テーブルタイプの展示ケースは、従来は数台を連結して大きい作品に対応していましたが、今回は1台で9.5mや7.5mの長さのもの、テーブルのように大きく両側から見ることができるタイプのものを作りました。
展示ケースの連結部分が目立たないことで絵巻や大きな地図などの作品が従来よりも大きく広げられ、見やすくなります。


本館18室「近代の美術」大型展示ケース(左、中)とと検討模型写真(右)


今回の展示室改修は展示ケースのほかに解説・グラフィック、照明、17室「保存と修理」や19室「みどりのライオン-体験コーナー」も新しくなりました。ぜひこちらもご覧ください。
新しくなった展示ケースと、本館、東洋館、法隆寺宝物館、平成館の様々な展示室・展示ケースで作品の見え方の違いを見比べてみるのも面白いかもしれません。

展示ケース設計・監理:東京国立博物館
展示ケース製作:コクヨファニチャー株式会社

 

カテゴリ:研究員のイチオシnews展示環境・たてもの

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posted by 矢野賀一(デザイン室主任研究員) at 2014年04月11日 (金)

 

呉彬「山陰道上図巻」に驚く!―最初で最後!?東洋館でしかわからない画家の実像―

特別展「上海博物館 中国絵画の至宝」では、貴重な宋元画を含む18件もの一級文物が来日していますが、二級文物のなかにもぜひともご覧になっていただきたい作品があります。
「西湖図巻」や、今回全巻展示された呉彬筆「山陰道上図巻」です。


展示風景 西湖図巻
西湖図巻 南宋時代・13世紀
西湖図巻と西湖の実景が対比して展示されています。
西湖にこの画巻を持って行って実景と対照させた乾隆帝の気分を味わえます。


  
展示風景2  展示風景3
東洋館の10メートルケースに全巻展示された呉彬筆「山陰道上図巻」。全長862.2㎝の大迫力!

こんなすごい作品が二級文物なのには、「呉彬」という画家の評価をめぐる歴史が関係しています。
呉彬の詳しい一生は不明な点が多いのですが、福建省に生まれ、のち北京の高官であった米万鐘の支援を受けて北京、南京などで活躍します。
何といってもそのトレードマークは、一度見たら忘れられない、その奇怪な山の表現です。
   

山陰道上図巻
山陰道上図巻 呉彬筆 明時代・1608年 上海博物館蔵
「こんな風景みたことない!?」。画家は山陰(浙江省)の風景と言っていますが、単純な実景ではありません。


造形を見ればびっくりしてしまいますが、しかし、呉彬はただの「変な画家」ではないようです。
よく見れば、全長862㎝を超える作品の最初から最後まで、一つとして同じ描写はなく、画家は細かな描写を変化させているのがわかります。


山陰道上図巻 春  山陰道上図巻 夏  山陰道上図巻 秋  山陰道上図巻 冬
春の山はおだやかで → 夏の山は湿潤 → 秋の山は色づき → 冬の山は静寂


じつは私はこれこそが、呉彬がこの作品にこめた最大のメッセージだと思っています。
画巻は春の朝焼けからはじまり、夏の雨景、秋の夕暮れ、冬の雪景色と静かな夜景で終わりますが、さらに、中国絵画史を彩る古代の画家の筆法をおり混ぜながら描くことで、四時(朝昼夕夜)と四季(春夏秋冬)、そして、画家が修行の過程で体得した中国絵画の歴史そのものが、一巻のなかに出現する、という作品になっているのです。
  
【夏】  
米友仁の描き方                たとえば↓
山陰道上図巻 夏景  離合山水図 離合山水図
(左)呉彬筆「山陰道上図巻」のうち夏景
夏山のジメジメした雲は北宋の米友仁に学んだ描写です。
例:(右)離合山水図 杜貫道賛 明時代・14世紀(出品作品ではありません)
同じく北宋の米友仁に学んだ明時代の山水


   
【秋】  
李成の描き方              たとえば↓
山陰道上図巻   山水楼閣図
(左)呉彬筆「山陰道上図巻」のうち秋景
夕景の飛び立つ北宋の李成に学んだ描写です。
例:(右)王雲筆「山水楼閣図冊」のうち、倣李成山水図 清時代・康熙56年(1717)(出品作品ではありません)
同じく北宋の李成に学んだ清時代の山水。

   
【秋】  
王蒙の描き方           たとえば↓
山陰道上図巻 秋景  青卞隠居図軸 
(左)一級文物 山陰道上図巻  呉彬筆のうち秋景
牛の尻尾のようなモワモワした描写は元時代の王蒙に学んだものです。
(右)一級文物 青卞隠居図軸(部分)王蒙筆 元時代・至正26年(1366)
その実際の作品もご覧いただけます。文人の苦悩を表わすかのような壮絶な描写です。



ではなぜ呉彬はこのように描いたのでしょうか?
ことの真相は最後の「吹き出し」のようになった跋に書いてあります。
この絵は米万鐘のために、「晋唐宋元諸賢」の描き方をまねて、描き上げたものです。
おそらくそこには、最も大切なパトロンのために、持てるすべての技を駆使しようとした、真摯な画家の姿が見えてくるでしょう。
呉彬は単に「変な画家」だったのではなく、中国の古典をしっかりと学んだ画家だったのです。


山陰道上図巻 跋
岩の中に吹き出しのように書いている「山陰道上図巻」の呉彬の跋。過去の画家を真似て描いたことが記されています。


意外なことに呉彬の作品が大きく再評価されたのは20世紀になってからで、それは日本とも大きな関係があります。
大阪の高槻市で中国書画を収集された橋本末吉氏(1902-1991)は、おそらくもっとも初期に呉彬の面白さに気がつき、のちに「奇想派」と呼ばれる明末清初の大コレクションを築かれました。
戦後、日本にフルブライト奨学生としてやってきた若きジェームス・ケーヒル(のちのカリフォルニア大学教授)は、橋本コレクションで呉彬「渓山絶塵図」に出会い、今までのおとなしい中国絵画とは全く違う呉彬作品に感銘を受け、帰国後「エキセントリックスクール」という新しい概念から展覧会を開き、研究活動を開始します。
こうして呉彬らは20世紀の日本やアメリカの研究者によって再評価されていったのです。


渓山絶塵図  青卞隠居図軸  展覧会図録     
(左)渓山絶塵図 呉彬筆 個人蔵 (出品作品ではありません)
(中央)一級文物 青卞隠居図軸 王蒙筆 元時代・至正26年(1366)
呉彬の奇怪な表現は、王蒙や北宋山水画の影響も受けていることが指摘されています。
(左)James Cahill , Fantastics and eccentrics in Chinese painting , Asia Society,1967
(出品作品ではありません)
呉彬を評価した最初期の展覧会の図録です。資料館で閲覧することができます。


呉彬「山陰道上図巻」はこのように、最初から最後まで息つくヒマもない程の、筆墨の変化こそが最もおもしろいところですが、一部分しか展示できないのでは、この作品の素晴らしさが全く伝わりません。
今回特にこの作品をお願いしたのは、名品であること、そしてこれが、東洋館8室で新しく作られた10メートルケースにぴったりとおさまるからです。
まさに、新しい東洋館のために描かれたような、奇跡の作品。
このような全巻展示は上海博物館でもほとんどなく(私は見たことがありません)、新しい東洋館ならではの、最初で最後のチャンスかもしれません。


 展示風景4
会場では呉彬の傑作から顔を上げれば、呉彬が学んだ王蒙や北宋絵画が見えるように展示しました。
まさに「中国絵画の教科書」のようなぜいたくな空間になっています。



明末清初はこのような、ちょっと変わった画風(奇想派)が流行した時代でしたが、よく聞かれるのは、日本の奇想派との関係です。
私は関係があるのではないかと思っていますが、これはこれからの研究課題となっていくでしょう。

東博の主役は日本美術の素晴らしいコレクションです。
しかし日本の美術もアジアの美術を知ることでより深く理解することができます。東博はその両者がそろった世界でも稀有な博物館です。
どうかこれからもリニューアルオープンした東洋館で、アジア美術の名品を同時にお楽しみいただければ幸いです。
特別展「上海博物館 中国絵画の至宝」は、11月24日(日)までです。どうぞお見逃しなく!

カテゴリ:研究員のイチオシnews2013年度の特別展展示環境・たてもの

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posted by 塚本麿充(東洋室) at 2013年11月20日 (水)

 

【上海博物館展コラム】室町時代の水墨山水画との深い関係

特別展「上海博物館 中国絵画の至宝」コラム。今回は、前回のブログでお約束しました「室町時代の水墨山水画と元代文人画の知られざる深い関係」についてご説明いたします。

室町時代に数多く作られた水墨山水画の中に、書斎を周囲の自然景とともに描いた一群の作品があります。
それらを「書斎図」と呼びますが、その代表的なものに下記の作品があります。


渓陰小築図  竹斎読書図
(左) 国宝 渓陰小築図 
太白真玄序、大岳周崇等六禅僧賛 室町時代・応永20年(1413) 京都・金地院蔵


(右) 国宝 竹斎読書図 
伝周文筆 文安4年(1447) 竺雲等連序・江西龍派等五僧賛 室町時代・15世紀  
 


これらは多くの場合、実景ではありません。
中世の禅僧たちが理想とした静かな生活、すなわち人里離れた庵に住み、美しい山川に囲まれ、書斎で読書や詩作に耽りたいという、実際には実現困難な暮らしへの憧れを反映して作られた作品です。
そうした憧れが醸成された背景には、陶淵明や杜甫、蘇軾など、中国の文人たちを、室町時代の禅僧たちが相当に敬愛していたことが大きく関わっています。
これら中国の文人たちは、官僚として国政に参画することを己の第一の使命と考えながらも、しばしば、ゆえあっての辞職や、動乱に起因する流浪、政争などによって、都を離れて地方に閑居し、困難に直面しながらも、詩文の創作に大いなる才能を発揮しました。

日本における書斎図の発生と流行の原因として、そうした中国の詩文や文人への憧れと同時に、中国・元時代の文人が、自己や知人の書斎や庵を表した山水画を数多く描いていることも見逃せません。
その好例が、昨年開催した特別展「北京故宮博物院200選」の目玉だった趙孟頫(ちょうもうふ)の水村図巻(北京故宮展図録no.13)(本展図録66頁、図26)や、朱徳潤の秀野軒図巻(北京故宮展図録no.17)であり、本展出品作の、王蒙の青卞隠居図軸や、銭選の浮玉山居図巻なのです。


青卞隠居図軸
一級文物 青卞隠居図軸
王蒙筆 元時代・1366年 上海博物館蔵
展示期間:10月29日(火)~11月24日(日)


浮玉山居図巻
一級文物 浮玉山居図巻(ふぎょくさんきょずかん)(部分)
銭選(せんせん)筆 元時代・13世紀 上海博物館蔵
展示期間終了



中国の元時代は、日本では鎌倉時代から南北朝時代にあたりますが、日中間の禅僧の行き来が最も盛んに行われた時代だったことは、じつはあまり知られていません。
日本からはきわめて多くの禅僧が中国を訪れ、禅寺で修行するとともに、中には趙孟頫や王蒙といった一流の文人画家と交流した禅僧もいました。
また日本からの要請を受けて中国から多くの高僧が来日し、禅宗だけにとどまらず、当時の最新の中国文化を紹介しました。

こうした往来と文化交流によって、中国で流行していた書斎図が、実際の作品はもちろん、書斎図に関する知識や見聞も日本にもたらされました。
それらに触発されて室町時代には禅宗寺院を中心に書斎図が流行しました。

室町時代の水墨山水画には元代文人画も深く関わっているといえるのです。



救仁郷秀明研究員
救仁郷秀明
列品管理課登録室長、貸与特別観覧室長。専門は中世の水墨画。

本館3室 禅と水墨画―鎌倉~室町 の展示室にて。

カテゴリ:研究員のイチオシnews2013年度の特別展展示環境・たてもの

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posted by 救仁郷秀明(登録室長) at 2013年11月11日 (月)