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1089ブログ

生まれ変わった東洋館!~耐震補強編2~

「生まれ変わった東洋館!」シリーズは今回で2回目です。
「耐震補強編2」として今回は、前回のブログでご紹介した「耐震補強方法」を用いて実際に行われた東洋館の「耐震補強工事」についてお話いたします。



1)鉄骨ブレース

前回のブログでお話した通り、作品を展示しない附属棟においては鉄骨ブレースを主に採用しました。
図1は鉄骨ブレースを設置した壁を正面から見た図もの。灰色のところが建物の壁で、赤く着色された逆Vの部分が鉄骨ブレースです。

図1

さて、それでは実際にどのように工事するのか見ていきましょう!


図1のように逆Vの字のまま鉄骨ブレースを設置場所まで持っていければいいのですが、廊下などを経由して
持っていかなければならないため細かく工場で分断されて搬入されます。


台車に載せて壁にぶつけないように一つづパーツをこのようにえっちらおっちら運び・・・

すべて運び終えました! さあ、組み立てです!

まず、工場であらかじめ作製した鉄骨ブレースをこのようにおいて…


上記の写真でばらばらに離れていた部分を溶接して繋げます。


繋ぎ合わせた鉄骨ブレースをいよいよ起こしあげていきます!

 
起き上って壁に固定されました。右の画像の赤く囲った部分にコンクリートを流して、鉄骨と建物を一体化させます。


最後は壁の色と合わせた塗装を行い完成です!



2)耐震壁

こちらは、鉄骨ブレースの工事に比べると、ちょっと大変です。
まず、耐震壁の増厚をする個所について、展示ケースの撤去作業を初めに行いました。写真では、カメラフラッシュに現場の粉塵が反射して雪のよう舞っています。これだけ粉塵が舞っているので作業員の方々もマスクをして作業しています。私もマスクしてこの工事現場に入ることがありました。歩いているだけでも息苦しく感じました。ここでの作業は、相当苦しかったのではないかと想像できます。



次は、埋設物探査です。壁の増厚はただ厚くするだけでなく、鉄筋を組んで強固なものにしなければなりません。鉄筋は文字通り人間でいう「筋」みたいなもので、これがなければいくら壁を厚くしても耐久力がでないため、あまり意味がありません。
さらにその鉄筋を既存の壁と一体化するため、既存の柱にアンカーボルトを打ち込みます。また、コンクリートを流すための型枠を固定するボルトを設置します。それらの作業の際に、コンクリートの内部にある鉄筋などを傷つけないようにするため、予め埋設物探査行いました。

 
まずは、壁の中の鉄筋など埋設されているものの位置を探ります。


次はアンカーボルトを打ち込む作業です。


こうして、「鉄筋」が組みあがりました。


コンクリートの型を作るための「型枠」を設置します。
この型枠の裏側(鉄筋が見える側)にコンクリートを流します。

 
さあ、いよいよコンクリートを流し込みます。
コンクリートポンプ車でコンクリートを圧送し、型枠が組み終わった耐震壁に流します。


コンクリートを流し込んだ際に、型枠が崩れないよう鉄パイプでガチガチに固めているため、型枠の表面がほとんど見えていません。
コンクリートの圧入口はこの壁一枚で3か所あります。
一つの圧入口ではこの壁すべてにコンクリートが流し込めないからです。
画像下の圧入口(1)からコンクリートを入れ、その後、上の圧入口(2)、(3)から入れるという段取りです。ただ圧入するだけでは内部に鉄筋もあるため隅々まで行き渡らないので、作業員の方が木槌で型枠を叩いたり、携帯電話のバイブレーションのように振動する機械などで型枠の振動を利用して隅々までコンクリートを行き渡らせます。
なお、コンクリートが隅々まで行き渡っているかは測定器で調べることができます。



こうしてコンクリートを流し込んで所定の日数が過ぎたら型枠を取り外して…
これで「完成」です!




以上、耐震補強工事についてご紹介いたしました。
いかがでしたでしょうか?

これで作品も人も守ることが可能となりました。
このように何の変哲もない壁にも様々な技術を駆使し多くの手間をかけて施工をしています。
因みに、2011年3月11日の東日本大震災の時にはこの耐震工事のおかげさまで東洋館の建物自体は無事でした。
しかしながら、この震災により工事を中断しなくてはならない事態が発生し、現在、その残工事を行っているところです。
余談になりますが筆者はこの3月11日に東洋館の地下1階にいました。
この話についてはまた次回以降にでも・・・。


ここまで、読んでいただきありがとうございました!
次回は「タイル編」としてタイルの製作についてのエピソードをご紹介したいと思います。

カテゴリ:展示環境・たてもの

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posted by 白澤利紀(環境整備室係長) at 2012年05月30日 (水)

 

生まれ変わった東洋館!~耐震補強編~

東京国立博物館の建物は茶室を除き、完成順に、表慶館、本館、東洋館、資料館、平成館、法隆寺宝物館の6棟で構成されています。
当館の建物において3番目に古い東洋館は昭和43年に建てられ、今年で44年を迎えます。 建物の構造・規模は、鉄筋コンクリート造の地上3階、地下2階の建物で展示棟、附属棟の2棟で構成されており、延べ面積が12,531㎡の建物です。
2009年4月、この東洋館が、地震などの揺れによって建物が受ける被害がどのくらい大きいか、安全かどうか判断するために耐震診断を実施し、地震に対する耐力度を確保するため、「耐震補強工事」を行うことになりました。
これを期に、東洋館のリニューアルが決まり、今回はそのリニューアルのもっとも主である工事「耐震補強」についてご紹介したいと思います。



・耐震補強方法について
「耐震補強」という言葉は、最近耳にすることは多いと思いますが、どういうものなのか、当館では、2つの耐震補強方法を採用しましたので、その工事方法をご紹介したいと思います。


1) 鉄骨ブレース工法
鉄骨ブレースとは、耐震補強方法の一つである鉄骨を使用します。
よく皆さんが目にする建物の補強だと思います。
写真のように、既存の躯体に鉄骨の枠を増設することで建物の体力を向上させる工法です。

図1


このような耐震補強は、比較的に安価で施工性も良いため、多く採用されていますが、意匠性や、透視性(特に窓側に設置される場合は外からの光が遮られる)があまり良くありません。
当初は展示室内にもこの耐震補強方法を採用する予定でしたが、設計者である谷口吉生氏のデザインを継承するため、補強方法の変更を行い、壁の厚さを大きくして地震に対する耐力度をあげる工法(耐震壁)にしました。


2) 耐震壁
壁については、既存の壁では地震時に力がかかると崩れる可能性がある壁の壁厚を大きくする「壁厚の増厚」を採用しています。
この工法を利用することにより、展示室内においては意匠性を損なう鉄骨ブレースを設置せず、設計者のデザインを継承することが可能となりました。


3) 耐震補強計画について
1)、2)の考え方を基に耐震補強方法について、下記のように基本的な考え方をまとめました。

図2 耐震補強の基本的な考え方


ホールや展示室には鉄骨ブレースを設けないという考え方です。
また、東洋館の内部の壁はタイルになっているため、極力既存のタイルを残す(生かす)方針としました。

これを基に、東洋館の耐震補強を図3のとおり行うことにしました。
赤い線の個所は「耐震壁の新設」、緑の線の個所が「鉄骨ブレース」、青い線の個所については「耐震壁の壁厚増厚」、として緑と赤の耐震補強については展示室でないため鉄骨ブレースなどとし、耐震壁の増設は最小限にとどめています。
設計者のデザインを伝承するため、展示室がある展示棟は耐震壁を、レストランなどがある附属棟は鉄骨ブレースを主に設置しています。

図3 東洋館の耐震補強


ちょっと内容が難しすぎましたでしょうか?
では、どのように工事を行ったか!

それは次回ご紹介しましょう!

カテゴリ:展示環境・たてもの

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posted by 白澤利紀(環境整備室係長) at 2012年05月19日 (土)

 

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