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「正倉院の世界」展、後期の見どころ(前編)

こんにちは、今回の特別展を担当させて頂きました工芸室の三田です。
いよいよ特別展も折り返し地点。ここでは後期展示の作品について見どころをお話しします。
後期の展示では「作品No.60 黄熟香(蘭奢待)」と「作品No.108 甘竹簫」「作品No.109 楸木帯」、「作品No.114 塵芥」以外、正倉院宝物は全て展示替えとなります(宝物以外の正倉院事務所所蔵作品は通期展示)。

さてさて、前期展示の目玉は何といっても「作品No.69 螺鈿紫檀五絃琵琶」でしたね。
あまりの華麗さ・美しさに絶句して呆けたように見入ってしまいました。
後期の展示で螺鈿紫檀五絃琵琶を見ることはできませんが、前期に負けず内容を充実できるよう、書跡や工芸美術の名品が一挙に陳列されます。

まずは「作品No.6 雑集」。聖武天皇の御宸筆であり、天皇がしたためられた書としては、現存最古の作品です。

正倉院宝物 雑集(部分) 聖武天皇筆 奈良時代・天平3年(731)

全長21メートル42センチという長大な巻物で、仏教思想にまつわる様々な文章が集められています。
きわめて実直な文字が震えるような美しい線で記されていて、聖武天皇は本当に辛抱強く、繊細な神経をお持ちだったんだなーと感じます。
千年以上の時を超えて、人柄までもうかがい知ることができる素晴らしい宝物です。なお、今回はおそらく史上初めて、巻頭から巻末までを一挙公開します。極めて貴重な機会ですので、是非ご注目ください。

「作品No.10平螺鈿背八角鏡」は、今回ポスターでも使わせていただいた宝飾鏡の代表作です。

正倉院宝物 平螺鈿背八角鏡 唐時代・8世紀

聖武天皇のご遺愛品として20面納められたものの一つで、保存状態が極めて良いのも特徴です。
華麗な草花の文様が螺鈿の技法により表わされていて、白い部分はヤコウガイ、赤い部分は琥珀、下地にちりばめられているのはトルコ石です。
これは中国の唐時代に作られたものですが、南の海で採れる貝や西アジアの宝石など、アジア各地の素材が中国の技法でまとめ上げられています。
まさに巨大な版図を誇った大唐帝国でなければ作ることができなかった宝物といえるでしょう。
ちなみに、光明皇后によって東大寺に納められた年代(756年)や花の文様形式から、唐の玄宗皇帝の時代(712年~756年)に作られたことがわかります。
玄宗皇帝のお妃といえば有名な楊貴妃!楊貴妃と光明皇后という古代東アジアを代表するファッションリーダーのお二人は、きっとこのような宝飾鏡をお使いになっていたに違いありません。

「作品No.21鳥毛篆書屛風」は国産のキジやヤマドリの羽毛を貼り付ける技法と、型紙を使った吹絵の技法で交互に文字を表した作品。

正倉院宝物 鳥毛篆書屛風 奈良時代・8世紀

聖武天皇がお傍でお使いになった屏風と考えられています。
天皇が戒めとする言葉が記されている作品で、「主、独治すること無くば、臣、賛明する有り」つまり独裁政治をしなければ、家臣はよく補佐してくれるものだ、という内容が表わされています。
地の部分にはこれまた吹絵の技法で草花や鳥が表わされ、華麗な宮廷の生活を今に伝えています。

「作品No.38琵琶袋残欠」はもともと琵琶を納めていた錦の袋の残欠。

正倉院宝物 琵琶袋残欠 唐時代・8世紀

古代の琵琶袋としては世界唯一のもので、それだけでも大変に貴重なのですが、この錦はまた素晴らしい。
直径が53センチもある大変に濃密な唐花文が実に細かく、正確無比に表わされており、古代中国における錦の最高傑作として知られています。
今回の展示では、現在バラバラの状態にある残欠のすべてを展示しました。
正倉院所蔵の部分と、
ここトーハクが所蔵する部分を本来の形に添うように並べたのですが、おそらく全ての断片をこのような形で展示するのは史上初めてのことです。
あわせて平成4年(1992)に復元された模造も展示し、本来の形状がよくわかる展示となっています。今後ともなかなか望めない展示法ですので、是非ともご覧ください。

ドドーンと展示室の中央に置かれた「作品No.59花氈」も正倉院の染織美術を代表する作品。

正倉院宝物 花氈 唐時代・8世紀

長さ275センチ、横139センチという大型の敷物で、これでもかと唐花文が画面いっぱいに展開しています。
羊の毛をならべて水分を加え、圧縮をかけたいわゆるフェルトの作品で、特に文様を表わしたものを花氈といいます。
あらかじめ染められた羊の毛により、花びらには見事なグラデーションが表現されており、文様構成の雄大さとともに、精密な製作技法が見どころです。
正倉院に残される花氈のなかでも最高の傑作がこの作品であり、今回は特別に作られたケースによってごく近い距離からご覧頂けます。

今回のご紹介はここまでです。後編で第2会場をご紹介します。
 

カテゴリ:2019年度の特別展

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posted by 三田覚之(工芸室) at 2019年11月11日 (月)

 

正倉院がまもり伝えた心

正倉院がまもり伝えた宝物(ほうもつ)は、奈良時代の工芸品や文書など、さまざまなものから構成されています。
そのなかには螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんのごげんびわ)のように高度な技法で華やかな意匠を表わしたものもあり、正倉院宝物については美術的なところに目をうばわれがちです。





正倉院宝物 螺鈿紫檀五絃琵琶 唐時代・8世紀 展示期間:~11/4(月・休)
『東大寺献物帳』に記載される楽器。高度な螺鈿技法で、華麗な宝相華(ほうそうげ)という花文様などが表わされています。
撥を受ける捍撥(かんばち)という部分には玳瑁(たいまい)を用いて、駱駝にまたがって琵琶を演奏するペルシア人の姿が螺鈿で表わされています。


もちろん、そのように眺めて古人(いにしえびと)と美意識を共有するのは大変素晴らしいことなのですが、正倉院宝物の価値については、やはり奈良時代の文化財が倉庫に納められて伝わったということを改めて強調しておきたく思います。

世界的にみても、1200年以上も昔のものというのは地中から出土するのが普通ですが、そのようなものが倉庫で保管して伝わったということは非常に珍しい出来事です。
そして、それらの宝物の核となっているのは、聖武天皇の御冥福を祈って光明皇后が東大寺の大仏に対して献納された亡き天皇の御遺愛の品々なのであり、それら献納品の目録も残されています。
それが『東大寺献物帳』(以下『献物帳』)または『国家珍宝帳』とよばれる目録です。





正倉院宝物 東大寺献物帳(国家珍宝帳) 奈良時代・天平勝宝8歳(756) 展示期間:~11/4(月・休)
巻頭には「太上天皇(聖武天皇)のために国家の珍宝などを喜捨して東大寺に入れる願文」と記されているので、『国家珍宝帳』ともいわれます。全面に「天皇御璽」の朱印が捺されています。
螺鈿紫檀五絃琵琶については「亀甲鈿捍撥」と注記をしています。巻末には光明皇后の悲しみの気持ちが記されています。


『献物帳』は15メートルにも及ぶ長大な巻物ですが、驚くべきことに全巻を広げてもまったく曲がらず、ピーーーンとまっすぐに延びます。
全巻にわたって活字のように端正な楷書で六百数十点の献納された品々が記されており、それぞれの名称、寸法、材質などが記され、時には所持者の来歴なども記されています。
また、巻頭と巻末には光明皇后による願文が記されており、これらの品々が聖武天皇の御冥福を祈って奉納されたという経緯まで知れます。
そして、これらの内容が書き換えられることがないように、『献物帳』の全面に天皇御璽が捺されています。
これが考古学の発掘などで見つかった出土品であれば、学者がもったいぶって、当時の人が思いもよらないような名前をつけるところですが、『献物帳』に記載されている品々については当時の名前が正しく分かるということです。
そのような『献物帳』ですが、私はこの『献物帳』が伝えるものとして、古人の心を挙げておきたく思います。

『献物帳』の願文には、光明皇后の「末永く喜びをともにしましょうと言っていたのに」という思い出や「聖武天皇が御愛用された品々を見ていると、なつかしい日々を思い出して泣き崩れてしまいます」という悲しみが記されています。
遠い昔の歴史上の人々であったとしても、同じ人間であれば、愛する人を失った悲しみには変わりがありません。ここに私たちは古人と心を通わすことができるように思われます。

 

カテゴリ:2019年度の特別展

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posted by 猪熊兼樹(特別展室長) at 2019年10月30日 (水)

 

御即位記念特別展「正倉院の世界ー皇室がまもり伝えた美ー」

10月14日(月・祝)、特別展「正倉院の世界―皇室がまもり伝えた美―」が開幕しました。
皆様きっと開幕を楽しみに待ち望んでいたと思います。私も待ち望んでいました!



毎年秋に奈良国立博物館で開催している「正倉院展」をご存知の方は多いと思います。
ですが、当館で開催しているのは展覧会タイトルの通り「正倉院展」ではございません。
本展は、天皇陛下の御即位を記念し、正倉院宝物を中心とした飛鳥・奈良時代の国際色豊かな造形文化に焦点を当てた特別展です。
正倉院宝物と双璧をなす、東京国立博物館の法隆寺献納宝物をともに展示することで、正倉院宝物をとりまく造形文化の世界をより広い視野からご紹介します。
また、貴重な文化財を更なる未来に伝えるため、今なお行われる保存・修理・模造の取り組みも本展で紹介することも特徴のひとつです。

それでは展示室をご案内します。


まずは第1章「聖武天皇と光明皇后ゆかりの宝物」です。
なんといっても目を引くのはこちら。


正倉院宝物 東大寺献物帳(国家珍宝帳) 奈良時代・天平勝宝8歳(756) 展示期間:~11/4(月・休)

本品は聖武天皇の御遺愛品を中心とする宝物が東大寺大仏に献納されたときの目録です。
皆様は覚えていますでしょうか、今年1月に開催された特別展「顔真卿」で展示されていた祭姪文稿を
唐時代の肉筆としてとても貴重なものでしたが、それよりもこちらは古いものです。
非常に整った文字からは聖武天皇が深く偲ばれていたことが想像できませんか。
全長15m弱を一挙公開することは稀とのことです。

そのほか、第1章では聖武天皇と光明皇后ゆかりの宝物として、夜光貝や琥珀が散りばめられた鏡、象牙製の碁石などを展示しています。


続いて、第2章「華麗なる染織美術」。
正倉院宝物を代表するものとして、膨大な数の染織品があります。
本章では正倉院伝来品を中心として、天平文化を彩った華麗な染織美術の世界をご紹介します。


正倉院宝物 墨画仏像 奈良時代・8世紀 展示期間:~11/4(月・休)

うわっ大きい!と思わず声が出てしまいそうな存在感です。
幅は約70センチメートルあります。「租庸調」、教科書で一度は目にしたことがあるかつての日本の税金制度ですが、奈良時代に納められていた調庸布の標準的な幅が約70センチメートルだったそうです。
なじみのある言葉を聞くと、作品にも親しみがわいてきませんか?


正倉院宝物 花氈 唐時代・8世紀 展示期間:~11/4(月・休)

こちらは羊毛を染めて圧縮し毛氈(フェルト)にした敷物です。
近代に至るまで遊牧などの文化をもたなかった日本に毛氈があることは、異国の文物が運ばれてきたことを意味するそうです。


そして、第1会場の最後は第3章「名香の世界」。
天下人が切望した香木や、そのほか香を炊く道具を紹介します。


正倉院宝物 黄熟香 東南アジア

こちらは別称「蘭奢待」(らんじゃたい)として有名な香木です。
足利義政や織田信長らがこの香木を切り取った記録が残り、切り取らせたとされる箇所には目印があります。
一度でいいから香りをかいでみたいものです。


黄熟香元禄期収納箱 江戸時代・元禄6年(1693) 正倉院蔵 

隣には、黄熟香を納めるための木製の唐櫃も展示しています、あわせてご覧ください。


そして第2会場へ移動すると、第4章「正倉院の琵琶」がお出迎えしてくれます。
チラシやポスターにも掲載されている螺鈿紫檀五絃琵琶を楽しみにしていた方は多いのではないでしょうか。


正倉院宝物 螺鈿紫檀五絃琵琶 唐時代・8世紀 展示期間:~11/4(月・休)

写真では伝わりにくいかもしれませんが、とても、とても美しい琵琶なんです。
こちらは正倉院宝物を代表する優品として知られています。
背面の装飾もぜひ会場でご覧ください。細やかな装飾が琵琶の美しさを一層引き立てています。
また、同じ部屋に完成までに8年費やし今年完成した復元模造品もあります。

終わりも近づいてきました、第5章「工芸美の共演」です。
こちらの章では主に同じ用途のために製作された、正倉院宝物と法隆寺献納宝物を展示しています。
飛鳥時代から奈良時代にかけての美意識の変遷をぜひご覧ください。


第5章展示風景


そして最後の章、第6章「宝物をまもる」です。
本章では江戸時代から現代にわたる正倉院宝物の調査と修復作業に焦点をあて、あわせて博物館時代以来の当館との繋がりをご紹介いたします。


(左) 模造 螺鈿紫檀五絃琵琶 明治32年(1899) 東京国立博物館蔵 
(右) 模造 螺鈿紫檀阮咸 明治32年(1899) 東京国立博物館蔵 


模造を製作するためには、構造、材質、文様、技法を把握する必要があります。
模造を製作することはある種壮大な論文を書き上げるようなもので、その工程が今後の保存や修理に資することが期待されます。
このほか本章では一部原寸大で再現した宝庫、VR画像などで正倉院の雄大なスケールを体感いただけるスペースがございます。

いかがでしたでしょうか。
正倉院宝物が今もなおまもり伝えられているのは、偶然でも奇跡でもありません。
天皇陛下による勅封という管理制度を中心に、人々の努力によって宝庫と宝物がまもられてきました。
本展をご覧いただき、これからも未来の人たちに貴重な文化財をまもり伝えていくことの重要性を少しでも感じていただければ幸いです。
会期は11/24(日)までです。

※会期中展示替えがあります。

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posted by 柳澤想(広報室) at 2019年10月18日 (金)

 

特別展「三国志」30万人達成!

日中文化交流協定締結40周年記念 特別展「三国志」(7月9日(火)~9月16日(月・祝))は、9月13日(金)午後、来場者30万人を突破しました。
多くのお客様に足をお運びいただきましたこと、心より御礼申し上げます。

記念すべき30万人目のお客様は、東京都渋谷区からお越しの佐々木雅也さんご家族。
佐々木さんには記念品として本展図録とうちわ、てぬぐいなど、本展オリジナルグッズを贈呈しました。


特別展「三国志」30万人セレモニー
右から、当館館長の銭谷眞美、佐々木雅也さんご家族、そしてトーハクくんもお祝いに駆けつけました!


雅也さんは当館にご来館されたのは、初めてとのこと。
中学生のころに横山光輝作の漫画『三国志』を読んで三国志に興味を持ち、WEBサイトで本展を知りご来館されたとのことです。
本展では、三国志の時代の出土品やNHK『人形劇 三国志』で使用された川本喜八郎作の人形を見ることが楽しみだとお話しくださいました。


特別展「三国志」(東京展)は9月16日(月・祝)で閉幕します。
中国各地から集められた三国志の時代にまつわる貴重な出土品を、東京にてご鑑賞いただける機会も残りわずかとなりました。
本日は夜間開館をしているので、21時(入館は20時30分まで)までご覧いただけます。

なお、特別展「三国志」(九州展)は10月1日(火)~2020年1月5日(日)で九州国立博物館にて開催します。
こちらも、お楽しみに。


 

特別展「三国志」チラシ

 

日中文化交流協定締結40周年記念
特別展「三国志」

2019年7月9日(火)~9月16日(月・祝)
平成館 特別展示室

 

特別展「三国志」チラシ

日中文化交流協定締結40周年記念 特別展「三国志」
2019年7月9日(火)~9月16日(月・祝)
平成館 特別展示室
 

 

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posted by 長谷川悠(広報室) at 2019年09月13日 (金)

 

ウィットに富んだ曹操の書

魏・蜀・呉が覇を競った三国志の時代にも、関中(陝西省)から蜀(四川省)に入るには、 褒城県
(ほうじょう、 陝西省)にある褒河渓谷(ほうがけいこく)沿いの道がよく使われました。


ダムから褒河渓谷を望む


しかし、大きな褒河を挟んでそびえ立つ懸崖絶壁には、桟道だけでなく、時にはトンネルを穿つこともありました。


復元した現在の桟道


復元した現在のトンネル


石門の呼び名で親しまれているこのトンネルは、後漢時代の永平6年(63)に開鑿しましたが、戦乱によって一時的に断絶し、延光4年(125)に改めて開通しました。開通のたびにこれを記念した書が刻され、漢時代から南宋時代にいたる貴重な書が残る名所となっています。

1969年から1973年にかけて建設したダムによって、この地は水没してしまいましたが、13種もの原石は岸壁から切り取られ、15キロメートル南にある漢中市博物館に移設されました。


ダムの高さ88メートル、長さ254メートル


豊かな水量をたたえるダム


漢中市博物館


ここにご紹介するのはその中の一つ、曹操の書です。


「袞雪」拓本 20世紀(原本=後漢時代・3世紀) 原本=陝西省漢中市石門隧道 漢中市博物館蔵
特別展「三国志」第三章会場で展示



漢の建安20年(215)、陽平関(陝西省勉県)で張魯を破った曹操は、漢中に軍隊を駐屯させました。
そのおり、曹操は部下とともに渓谷の絶壁にある石門から、水しぶきを巻き上げながら滔々と流れる褒河を眺めていました。
渓谷には岩石が多いので、岩石に当たった褒河が、雪のような水しぶきをたちあげていたのです。
その景観に感じ入り、曹操は「袞雪(こんせつ)」の二文字を揮毫しました。


博物館に移設された原石、「袞雪」


博物館に展示される曹操の書の拓本
曹操の書に釘付けとなる来館者


周知のように、曹操・曹丕・曹植の3人は、建安の七子とともに勝れた文学者として名を馳せ、建安の三曹七子と呼ばれています。
絶景を眺めていた曹操は、壮大な光景に詩情をそそられたのでしょう。
本来ならばこの状況では、水がさかんに流れる意味の「滾(こん)」と書かねばならないのですが、曹操はあえてサンズイを欠いた「袞」と書きました。
部下がその理由を尋ねると、曹操は傍らの褒河を指さし、「これは水ではないのか」と答えたといいます。

褒河と作品とのコラボ、ウイットに富んだ曹操の微笑ましい一面が窺えます。
贅沢をいましめ、立碑を禁じた法令を公布した曹操でしたが、本作は自然の中にそびえ立つ摩崖に刻したモニュメントであり、躍動感あふれる波磔をそなえた見事な書です。

三国志の時代は、公用書体として完成した隷書が全盛期を迎え、さらに洗練された楷書へと向かう時代でした。
楷書の書体が普及し、その表現までもが完成するのは、唐時代の貞観6年(632)、欧陽詢の代表作である九成宮醴泉銘の出現を待たねばなりませんでした。

この展覧会では、漢時代の公用書体である隷書の熹平石経(No.28)や、当時の通行書体である行書の墨書紙(No.74)など、三国志の時代の書の諸相を伝える石刻や肉筆など、貴重な作例が見られます。

 
熹平石経 後漢時代・2世紀 河南省偃師市太学遺跡出土 上海博物館蔵
特別展「三国志」第二章会場で展示



一級文物 墨書紙 後漢時代・2世紀 1987年、甘粛省蘭州市伏龍坪墓出土 蘭州市博物館蔵
特別展「三国志」第四章会場で展示



9月16日(月・祝)が最終日となります。
この機会をお見逃しなく!  

 

特別展「三国志」チラシ

 

日中文化交流協定締結40周年記念
特別展「三国志」

2019年7月9日(火)~9月16日(月・祝)
平成館 特別展示室

 

特別展「三国志」チラシ

日中文化交流協定締結40周年記念 特別展「三国志」
2019年7月9日(火)~9月16日(月・祝)
平成館 特別展示室
 

 

カテゴリ:中国の絵画・書跡2019年度の特別展

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posted by 富田淳(学芸企画部長) at 2019年09月03日 (火)