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1089ブログ

生まれ変わった東洋館─光のコンセプト

今回の東洋館・耐震改修工事にともなう展示のリニューアルにあたり、東洋館の歴史─そもそもの建設理由・建築コンセプト・展示理念─を学ぶことからデザインの作業を開始しました。
1968年の建築雑誌「新建築」の表紙に、東洋館第1室から第2室に上がる階段の正面にサクメト像が2躯並んで写っていて、横には解説パネルが掛かっているのが見えます。サクメトの頭上の壁にはブラケット照明(注1)が輝いています・・・。

さらに掲載された東洋館竣工当時の展示室の写真を見ると、中央吹き抜け空間に明るい昼光が入り、天井のダウンライトがきらびやかに輝いている風景を見ることができます。
また昼光の入らない南北展示室の展示ケースには、蛍光灯照明の拡散光によって作品が照らされているのを見ることができます。

この雑誌の写真からわかることは、建築空間と展示作品、そして照明も解説システムもバラバラであったということであり、それは約40年の東洋館の歴史で少しずつ改善されてきたものの、根本的には変えようがなかったのだと思います。(そのうちの約10年は僕の責任でもありますが・・・)


(左)2008年7月14日 第1室のダウンライト調査。とにかく星空の様にまぶしかった記憶が…
(右)2008年7月1日当時の東洋館第8室

さて2009年に東洋館の耐震改修工事が決定され予算化された時点での、展示ケースなどの改修は基本的に従前の展示形式にするという前提でした。
つまり巨大なガラスケースの存在感が目立ち、照明の不快グレア(注2)が目に痛いような光環境だったのです。

その「眩しさ」を数値的に検証(Feu値(注3)の測定)するための測定・検証も行われました。

Few値測定
2009年6月19日 Feu調査(協力:パナソニック電工)

以上の前提から導いた基本的な考え方=光のコンセプトは、「建築空間と展示環境が一体となること」であり、これを整理すると以下の3つになります。

1. 東洋館の空間的特質を生かして建築化された快適な照明空間をつくる
2. 展示物を際立たせ、かつ安全な照明手法・器具を開発し選定する
3.  展示構成の理解を促し、楽しくなるような解説体系の為の明かり

それでは各々のコンセプトを、もう少し細かく説明しましょう。

1.建築照明について
(1) まず設計を手がけた谷口吉郎氏による、特注のオリジナル器具の改修に時間をかけました。吹き抜け空間や階段室の壁や柱に付けられたブラケット照明をご覧ください。解体してみると、たいへん凝った素材で職人技を駆使した作りになっていて驚かされました。その材料を丁寧にクリーニングし、光源をLED化しています。


2010年10月15日 改修されたブラケット照明器具による照明実験

(2) 建築の特質を生かした外観照明は、夕暮れから夜景に至る時間帯に目を楽しませてくれます。ライトアップではなく、東洋館の格子状の桟の内側から仄かな明かりで、建築を浮かび上がらせます。


(左)2009年5月8日に描いた外観照明のイメージスケッチ(筆者)
(右)2009年8月26日のCGによる外観照明のイメージ確認


(3) 展示室の天井は、ルーバー天井(注4)が採用されました。これは意匠上だけでなくスポットライトを目立たなくし、展示物を照らす適切な光を照射させる効果が得られるものです。
天井に取付けられたダウンライトのカットオフ角も、60度という極めて深い角度が採用され、下から覗き込まない限り光源が目に入らないほどです。

2.展示照明について
(1) ハロゲンランプのスポットライトは配光5度、10度、15度、25度の4種に加え、レンズと羽根で光をフレーミングする器具を採用し、展示品に最適な光が得られるようにしました。

スケッチ
2009年6月28日 照度分布のスケッチ 
ベース照明の考え方が提示された。

(2) 設計当初は高価で性能的に不充分だったLED素子が、工事が始まった頃から性能が飛躍的に向上し、コスト的にも急速に折り合ってきたため、現在最高と考えられる、超高演色の美術館用LEDを開発し、採用することができました。
東洋館の展示照明では当初、蛍光灯と光ファイバー照明で設計されていたものは、すべてLEDに置き換えられました。

(3) 東洋館のために開発された超高演色LEDは、8室の色温度可変のハイブリッド用ライン照明や、地あかり用のダウンライト、吹き抜けのシースルーエレベータの照明にも用いられ、高品質であり長寿命/高効率を兼ね備えた最新の光環境を実現しました。

8室 壁付きケース
2012年6月26日 8室の壁付ケース
低反射ガラスを使ったケースとして、おそらく世界でも最大スケール!
ここには、暖かい光からクールな光まで色温度可変のLED照明器具が使われています。



3.解説体系のための明かり
(1) 改修後は、展示室/展示コーナーごとに、その場所がどこであるか/何の展示コーナーであるかを示す、4カ国語表記による大型の解説サインと解説パネルが設置されます。当然、明るい照明が施されますので、その場所が光溜まりとなって空間にリズムを与えます。東洋館のテーマである「旅」は、さまざまな光空間の移動でもあります。

(2) 東洋館エントランスホールには、連続的に壁面を照らす「視線を奥に導く光」。各展示室入口には来館者を迎えるため床を照らす光「ウェルカムマット」。そして教育普及の為のブースや2室、6室には、ほっと一息つける「オアシスの光」を演出しています。


以上が東洋館・光のコンセプトです。
さーて、その考えを実現すべく、フォーカシング(光の調整作業)に戻るぞ!
 

【注釈】----------------------------------------------------------------------------------------------------
(注1) ブラケット照明
柱や壁についている照明器具の形式の呼称。
天井から吊るされた器具はペンダント照明。
床置きの器具はフロア照明、フロアスタンド照明などと呼ぶ。

(注2) 不快グレア
グレアは、イルミネーションの“煌めき(きらめき)”では美しく快適に感じる意味だが、
光源の“眩しさ(まぶしさ)”や、反射光の“ギラつき”は、「不快(な)グレア」と表現される。 

(注3) Feu値
「明るさ感」指標の単位のこと。
従来は床面など水平面の照度(明るさ)だけが、「明るい/暗い」の指標とされたが、
鉛直面の明るさが、空間の明るさを感じる要素として重要であることに着目し、
新たに考案された光を測定する為の単位である。

(注4) ルーバー天井
平たく天井板が張られて仕上げられた天井でなく、
板状の材料(ルーバー)が等間隔で吊るされた天井のこと。

カテゴリ:展示環境・たてもの

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posted by 木下史青(デザイン室長) at 2012年11月26日 (月)

 

空前絶後の神道美術展、来年4月に開催!

トーハクでは来年、「国宝 大神社展」(2013年4月9日(火)~6月2日(日)平成館)を開催します。
2012年11月20日(火)に報道発表会を行いました。

本展覧会担当の上席研究員・池田宏より展覧会の見どころと各章の解説を、教育講座室長・丸山士郎より「神像」の解説をいたしました。

池田研究員 丸山研究員
(左)池田研究員、(右)丸山研究員

この展覧会のすごいところは、過去最大の、そして今後も実現は難しいであろうほど大規模な神道美術展、ということです!きっぱり!
日本全国の神社から貴重な文化財がなんと200件もこのトーハクに集まります。
そのうち、国宝・重要文化財は約160件!神社の皆様、ご協力いただきどうも有難うございます!

「国宝 大神社展」ポスター
「国宝 大神社展」ポスターデザイン


この展覧会を楽しむキーワードのひとつが、「古神宝(こしんぽう)」。
神社の社殿が造られて、そこに神々が祀られるようになると、人が住んでいるのと同じように、祭神のための装束や身の回りの調度、武具がつくられました。
神社に古くから伝わるこれらの服飾や調度類のことを、古神宝といいます。

表着
国宝 表着 白地小葵鳳凰模様二陪織(うわぎ しろじこあおいほうおうもようふたえおり)
鎌倉時代・13世紀 神奈川・鶴岡八幡宮蔵
展示期間:4月9日(火)~5月6日(月・休)


この画像は古神宝のひとつです。表着とは、かつて宮廷女官たちが着用した装束のこと。
小葵の地文様の上に、さまざまな色の鳳凰が飛ぶ素敵なデザイン。お守りの布のデザインにも、よく使われているそうです。


金銅製雛機
国宝 金銅製雛機(こんどうせいひなばた)
奈良時代・8世紀 福岡・宗像大社蔵


織機のミニチュアなので、雛機といいます。
織機が神への捧げものとして重要な意味をもっていたのだそう。普通の織機よりも小さいのですがとても精巧に出来ていて、心くすぐられます。


もうひとつのキーワードは、「神像」です。
神像とは、神をかたどって作られた彫像や絵画のこと。
国宝・重文に指定されているの名品や、これまで秘されてきた初公開の神像が一堂に会します。

なかでもこの2作品は必見です。

家津美御子大神坐像
国宝 家津美御子大神坐像(けつみみこのおおかみざぞう)
平安時代・9~10世紀 和歌山・熊野速玉神社蔵


お名前もお顔もりりしいこのお像は、熊野速玉大社に伝わる4体の国宝神像のうちの1体です。


吉野御子守神像
吉野御子守神像(よしのみこもりしんぞう)
南北朝時代・14世紀 個人蔵


ポスターやチラシでもセンターをつとめられるこのお像。女房の装束が美しい和装の女神像の代表作です。

このほかにも、魅力あふれる文化財がたくさん展示されますので、今後も1089ブログでご紹介していきます。
この展覧会を見ずして神社を語れません!
来春のトーハクは、神社パワー全開です!どうぞお楽しみに!

カテゴリ:news2013年度の特別展

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posted by 小島佳(広報室) at 2012年11月23日 (金)

 

出雲展 残すところあと4日!

連日多くの方にお越しいただいています、特別展「出雲-聖地の至宝-」(2012年10月10日(水)~11月25日(日))も
展覧会終了まで残すところあと4日となりました。

これまでお越しいただきました皆様、誠にありがとうございます。

先週11月17日(土)・18日(日)には、島根県より観光キャラクター「しまねっこ」が来てイベントを行いました。
17日はあいにくのお天気の中でも多くの方にお越しいただき、両日ともイベントは大成功でした!

 
(左)雨のため本館入口でイベントを行いました
(右)しまねっこ、トーハクくん、ユリノキちゃんの3ショット

そんな「しまねっこ」のおすすめの作品を紹介します。

なんといっても、やはり「宇豆柱」!


重要文化財 宇豆柱 
鎌倉時代・宝治2年(1248)

出雲大社境内遺跡出土 島根県・出雲大社蔵

そして、展示替をして後期(11月6日(火)~11月25日(日))より展示している「三月会神事図屏風(流鏑馬図)」


三月会神事図屏風(流鏑馬図)
江戸時代・17世紀

島根県・出雲大社蔵

まだ展覧会にお越しいただいていない方、3連休のご予定が決まっていない方、
上野公園の木々の色づきを感じながらトーハクにお越しいただくのはいかがでしょうか。

皆様のお越しを心よりお待ちしております。

カテゴリ:2012年度の特別展

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posted by 江原 香(広報室) at 2012年11月22日 (木)

 

生まれ変わった東洋館─インドの細密画を見てみよう!

インドの細密画というのをご存知でしょうか。もともとは、11世紀頃、棕櫚(しゅろ)の葉に仏教やジャイナ教の経典の挿絵を描いたものにはじまりますが、後にムガル王朝(16~19世紀)の時代になると、神話をはじめ、歴史・文学・音楽や自然の景色などを鮮やかな彩色によって、文字通り細密に描くようになり、これが宮廷を中心に栄えました。


当館では、7年ほど前に、そのまとまったコレクションを購入し、これまで幾度か単発的に展示してきましたが、このほど、東洋館のリニューアルに際して、地下の展示室(13室)の中に専用のコーナーを設け、常設展示をすることとなりました。

 
左(図1): ラズム・ナーマ  インド、ムガル派 16世紀末
右(図2): 蓮の上に坐すクリシュナ インド、ビカネール派 18世紀後半
展示期間: 2013年1月29日(火) ~ 2013年2月24日(日)


インドの古典文学の中で燦然と輝く『マハーバーラタ』と『ラーマーヤナ』という2大叙事詩の神話(図1)、シヴァ神やヴィシュヌ神(クリシュナ神)などのヒンドゥー教の神々(図2)、諸王の肖像(図3)や歴史的な逸話、男女の恋模様、動物の姿、そして、図像による音楽表現(図4)など、実にバラエティに富んだ内容となっています。

   
左(図3): ママーラシュ(象)に乗る藩王アマル・シン インド、メーワール派(ウダイプール) 18世紀中頃
展示期間: 2013年1月29日(火) ~ 2013年2月24日(日)
右(図4): 弓を番えながら戯れる男女(ヴィバーサ・ラーギニー)  インド、ブンディ派 18世紀前半
展示期間: 2013年1月2日(水) ~ 2013年1月27日(日)


日本では、インドの細密画は、まだまだなじみの薄い分野ですが、東洋館リニューアルオープンを機に、えもいわれぬ叙情性にあふれた奥深い魅力をもつインド細密画の世界を、ぜひ味わってみていただきたいと思います。

カテゴリ:展示環境・たてもの

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posted by 松本伸之(学芸企画部長) at 2012年11月21日 (水)

 

書を楽しむ 第26回 「世尊寺」

書を見るのは楽しいです。

より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第26回です。

本館3室(宮廷の美術)(2012年11月20日(火) ~12月24日(月・休))に、世尊寺家(せそんじけ)が大集合します!

せそんじ、
日本の書の歴史、とくに「和様の書」(わようのしょ)にとって、
世尊寺は重要です。
覚えて欲しい!!

世尊寺家については、書を楽しむ11回でも少し触れました。
藤原行成(ふじわらのこうぜい、972~1027)を祖とする
能書(書の上手い人)の家系です。

藤原行成は、
三跡(平安時代中期を代表する三人の能書、小野道風・藤原佐理・藤原行成)の一人で、
日本独自の書「和様の書」を確立しました。
書を楽しむ第9回で紹介した、
国宝「白氏詩巻」は行成の筆跡です。

世尊寺家から、次の作品を御覧ください。

(左)藍紙本万葉集切、(右)巻子本古今和歌集切
(左)藍紙本万葉集切 藤原伊房筆 平安時代・11世紀
(右)巻子本古今和歌集切 藤原定実筆 平安時代・12世紀 植村和堂氏寄贈


左は、三代目・藤原伊房(これふさ、1030~69)、
右は、四代目・藤原定実(さだざね、?-1077~1119-?)です。

この二人、親子ですが、書風を比べてみてください。
まずは、全体を見た感じはいかがですか?

次に、字の拡大を比較してみました。


左から:伊房「あ」、定実「あ」、伊房「も」、定実「も」

「あ」は、よく似てますよね。
「も」は、縦線の曲がり具合が違いますが、点を打つ位置が似ています。


左から:伊房「て」、定実「て」、伊房「を」、定実「を」

「て」は、すこし形が違って見えますが、
どちらも、横線のあと、一瞬はなれて縦線を書いています。
「を」はいかがでしょうか?

全体で見た雰囲気が違っていても、
一字一字を取り出してみると似ています。

伊房、定実、定信 三代の字
定信、定実、伊房 三代の字

これは、当館の島谷副館長が作った画像です。
右から、三代・伊房、四代・定実、五代・定信の筆跡です。
島谷は、「骨格は類似しているけれど、筋肉のつき方が違う」
と言っています。
伝統を受け継ぐ書ですが、
それぞれの創意工夫で、
新たな創造ができるのです。

今回、展示室には、
三代、四代、五代、六代・藤原伊行(これゆき、?~1149~68-)まで
並べてご紹介します。

能書の家系・世尊寺家、
代々の字を比較してみてください。
そして、
それぞれの書の個性的な魅力を楽しんでください。
 

カテゴリ:研究員のイチオシ書跡

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posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2012年11月19日 (月)