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「夏秋草図屏風」の見どころチェック!

東京国立博物館が誇る名品の一つとしてすっかり定着した感のある酒井抱一筆「夏秋草図屏風」。
今回はその見どころについて、少しご紹介いたしましょう。
まず、みなさんにチェックしていただきたいポイントがあります。

(1)画面には何が描いてありますか?
(2)この作品の裏側には何が描いてありましたか?

この2つがスラスラと答えられる方は、作品の見どころの初級編は見事合格です! 
どれか一つでも不安のある方、では順に見てまいりましょう。

夏秋草図屏風
重要文化財 夏秋草図屏風 酒井抱一筆 江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵



まず(1)「画面には何が描いてありますか?」。ひと目見て、銀色の背景に草花が揺れていることはおわかりいただけますが、実はここにはヒルガオ、ユリ、オミナエシ、クズ、フジバカマなど多種多様な植物が描かれています。

昼顔 ユリ
左:ヒルガオ、右:ユリ

 フジバカマとススキ
左:クズ、右:フジバカマとススキ

そしてよく見ると、向かって右側の屏風(右隻とよびます)に夏草、左には秋草がまとまっていることに気付きます。この屏風は右隻「夏草図」と左隻「秋草図」に分かれているのです。

夏草たちをさらによくみると、葉先をほぼ真下にむかって垂らしていますね。また画面の右上には水溜りのようなものも見えます。これは、夏特有の夕立のような激しい雨の様子を、雨粒を描くことなく表現しているのです。

では「秋草図」の草花の様子はどうでしょうか。夏草たちに比べ、葉先は横方向になびき、蔦の葉が宙を舞っています。抱一が目に見えない秋風の姿を、秋草のかたちを借りて表現していることに気付きます。



さて次は(2)「この作品の裏側には何が描いてありましたか?」です。正解は、尾形光琳(1658~1716)筆「風神雷神図」(重要文化財、東京国立博物館蔵)。「夏秋草図屏風」は、光琳の「風神雷神図」の背面に、酒井抱一が後から描き入れたものです。(現在は二つを分けてそれぞれ屏風の形にしています)

風神雷神図屏風 尾形光琳筆
重要文化財 風神雷神図屏風 尾形光琳筆 江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵

ここで両者の関係性を確認してみましょう。「風神雷神図」の右隻は「風神図」、左隻は「雷神図」。「雷神図」の裏面に「夏草図」、「風神図」の裏面に「秋草図」が描かれたことになります。つまり、雷神により降らされた雨に打たれる夏草と、風神によって巻き起こる風になびく秋草という関係を描いているのです。

夏秋草図屏風と風神雷神図屏風

もともと光琳の「風神雷神図屏風」は、俵屋宗達の同名作品を踏襲したもので、四季を意識した作品ではありませんでした。抱一が裏面に夏秋草図を描くことで、風神雷神図は夏と秋を描いた四季絵として取り込まれてしまったとも言えます。

このような発想は、作者の抱一が絵だけでなく、歌・能・茶などにも通じた文化人でもあったことに由来するようです。では、酒井抱一とはどのような人物だったのでしょうか?


初級編はここでおしまいです。
今日ご紹介した内容は、今月2回開催する列品解説の中でお話しする予定ですが、ここからさらに一歩踏み込んで、
中級編(3)「作者はどんな家柄出身で、絵を描く以外にどんなことが得意な人でしたか?」(4)「この作品は誰の依頼で描かれたものですか?」などにも触れる予定です。いずれも「博物館ビギナー向け」と銘打ち、普段あまり博物館美術館で江戸時代の絵画をご覧にならない方を対象にしていますので、どうかお気軽にお立ち寄りください!


秋の特別公開 江戸琳派の粋 酒井抱一 「夏秋草図屏風」など9件を、2週間限定で公開
2013年9月18日(水)~9月29日(日)

列品解説
「秋の特別公開 酒井抱一と夏秋草図屏風」
2013年9月18日(水)   14:00 ~ 14:30
2013年9月25日(水)   14:00 ~ 14:30
本館地下1階 教育普及スペースみどりのライオン
講師:金井裕子(特別展室研究員)

 

カテゴリ:研究員のイチオシ秋の特別公開

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posted by 金井裕子(特別展室研究員) at 2013年09月15日 (日)

 

「運慶・快慶周辺とその後の彫刻」─仏像の髪型

11月17日(日)まで本館1階14室で開催中の特集陳列「運慶・快慶周辺とその後の彫刻」のみどころを紹介します。
恒例の運慶作と推定される大日如来坐像2躯の展示に加え、今回は東京芸術大学から快慶作大日如来坐像、肥後別当定慶作毘沙門天立像をお借りしました。
数は少ないですが、慶派に受け継がれた作風とそれぞれの仏師の個性をご覧いただけると思います。

まず運慶と快慶の大日如来像を比べてみてください。
胸の前で智拳印(忍者がするような手の形)を結ぶ姿は同じですが、顔や姿勢、衣のひだなど比較して見ると、似ているところ、違うところがみつかるでしょう。

たとえば、髪の表現に注目してみましょう。

重要文化財 大日如来坐像 平安~鎌倉時代・12世紀 東京・真如苑蔵
重要文化財 大日如来坐像 平安~鎌倉時代・12世紀 東京・真如苑蔵

重要文化財 大日如来坐像 快慶作  鎌倉時代・12~13世紀   東京藝術大学蔵
重要文化財 大日如来坐像 快慶作  鎌倉時代・12~13世紀   東京藝術大学蔵

頭上の髻は真如苑の大日如来像より芸大像の方が細く、一番上の房のように結った部分は芸大像の方が装飾的という違いはありますが、基本的な結い方、背面に4つ渦をつくる点は同じです。




生え際を見てください。中央に分け目がありますが、それ以外に束はなく、髪の毛筋は斜めになりながらも、すべて生え際から上に向かっています。まとめて一度に結い上げられた形です。これは両者共通です。

 


では快慶工房が1201年に造った兵庫・浄土寺の菩薩面はどうでしょう。

重要文化財 行道面 菩薩 快慶作 鎌倉時代・建仁元年(1201) 兵庫・浄土寺蔵重要文化財 行道面 菩薩 快慶作 鎌倉時代・建仁元年(1201) 兵庫・浄土寺蔵
重要文化財 行道面 菩薩 快慶作 鎌倉時代・建仁元年(1201) 兵庫・浄土寺蔵



髪束を作って結い、束ごとに毛筋の方向が変わります。いずれも隣の束の下に潜るように横向きに刻まれています。左右とも4回に分けて束を作って結い上げているのですが、よほど中央の髪の量が多くないとできないでしょう。
しかし、すべての仮面が同じではありません。
 
重要文化財 行道面 菩薩 快慶作 鎌倉時代・建仁元年(1201) 兵庫・浄土寺蔵重要文化財 行道面 菩薩 快慶作 鎌倉時代・建仁元年(1201) 兵庫・浄土寺蔵



この仮面では髪束を表わし、耳の後ろの毛筋は前方の束に潜りますが、正面に見える毛筋は生え際から立ち上がっています。
髪束を表わす点を別にすれば真如苑と芸大の大日如来像の髪型に近いと言えます。顔は目が小さく、また顎の奥行きが深く、頬の肉付きがたっぷりしていて、運慶に近い顔です。
快慶工房の中に運慶風の顔を作る仏師がいたことになります。

浄土寺の菩薩面の髪型は大別してこの2種類の表現があります。快慶工房が作ったのだから快慶に似た彫り方があるのは当然です。
ではもう一つはどこから来たのでしょう。
 
重要文化財 大日如来坐像 平安時代・11世紀 東京国立博物館蔵 (2013年9月10日(火)~12月1日(日)、本館11室にて展示) 
重要文化財 大日如来坐像 平安時代・11世紀 東京国立博物館蔵 (2013年9月10日(火)~12月1日(日)、本館11室にて展示)

これは平安時代後期、11世紀の大日如来坐像です。このように髪束を作って束ごとに横向きの毛筋を刻む表現は平安時代後期にあったものなのです。
1162年頃、運慶の先輩にあたる仏師が造ったと考えられる毘沙門天立像の髪も同様です。

  重要文化財 毘沙門天立像 旧中川寺十輪院持仏堂所在    平安時代・応保2年(1162)頃 東京国立博物館蔵 (川端龍子氏寄贈)重要文化財 毘沙門天立像 旧中川寺十輪院持仏堂所在 平安時代・応保2年(1162)頃 東京国立博物館蔵 (川端龍子氏寄贈)
重要文化財 毘沙門天立像 旧中川寺十輪院持仏堂所在    平安時代・応保2年(1162)頃
東京国立博物館蔵 (川端龍子氏寄贈)
(2013年9月10日(火)~12月1日(日)、本館11室にて展示)


つまり、このような表現は平安時代後期から鎌倉時代初頭には一般的で、運慶・快慶の髪型の方が異色なのです。浄土寺の菩薩面でも快慶とまったく同じ形(髪束も作らない)のものは25面のうち4面しかありません。
では運慶・快慶の髪型はどのように生まれたのでしょうか。
 
重要文化財 日光菩薩坐像 京都・金輪寺、高山寺旧蔵 奈良時代・8世紀  東京国立博物館蔵 
重要文化財 日光菩薩坐像 京都・金輪寺、高山寺旧蔵 奈良時代・8世紀  東京国立博物館蔵
(2014年3月25日(火) ~ 2014年5月6日(火・祝)、本館11室にて展示予定)


当館所蔵の日光菩薩坐像、奈良時代の作です。運慶・快慶を輩出した慶派は、奈良に拠点を置いていたので東大寺、興福寺などにあった奈良時代の仏像に触れる機会が多かったのです。運慶・快慶はこちらの方が写実的だと考えたのでしょう。この髪型を採用した制作年代の明確な、もっとも早い作例は奈良・円成寺の運慶作大日如来坐像(1176年)です。快慶が運慶の影響を受けたのか、あるいは二人の師である康慶がすでに採用していたのかはわかりません。

浄土寺の菩薩面は、快慶統率のもとで造られたのですが、必ずしも快慶の作風で統一されていなかったことがわかります。慶派の中にも平安時代後期の髪型を踏襲する仏師がいたのです。
しかし、その仏師を保守的と即断することはできません。髪型だけでなく、顔の肉付きや、他の細部表現をあわせて考える必要があります。
 
 

カテゴリ:研究員のイチオシ彫刻

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posted by 浅見龍介(東洋室長) at 2013年09月07日 (土)

 

黒田記念館別館に上島珈琲店がオープン!

本日、9月4日(水)、黒田記念館別館に上島珈琲店がオープンしました。


 上島珈琲店 上島珈琲店
黒田記念館の建物とマッチしたレンガの外観。入口は2か所あります。



1階はカウンター席と、春は桜、秋は紅葉も楽しめるテラス席があります。



和風レトロな内装の2階は38席。ゆっくりおくつろぎいただけます。



おススメメニューの黒糖ミルク珈琲 Mサイズ(¥390(税込))は、
すっきりとした甘さの中に珈琲が香ります。



店内では、黒田清輝グッズも販売中です。

 

平日は20時まで、土日祝日は19時まで営業しています。

トーハク観覧のあとに、ぜひご利用ください。

(上島珈琲店利用のための一時退館、再入館はできません。ご了承ください。)


 

黒田記念館別館 上島珈琲店 黒田記念館店

営業時間 平日   7:30~20:00
  土日祝 8:00~19:00
定休日 不定休
全47席 全席禁煙

 

   

カテゴリ:news

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posted by 奥田 緑(広報室) at 2013年09月04日 (水)

 

夏休みに発見! 料紙の魅力

当館所蔵の国宝・古今和歌集(元永本)をご存知でしょうか。

国宝 古今和歌集
国宝 古今和歌集(元永本) 藤原定実筆  平安時代・元永2年(1120) 東京国立博物館蔵(特別展「和様の書」にて展示中)

私はこの作品が展示されるたびに、その筆跡はもちろんですが、紙の美しさに驚きます。

美しく飾られた料紙、そのバリエーション、筆跡とのバランス。
この作品の前に立つと“日本人の美意識”を漠然と感じてしまう、そんな力をもった作品のひとつです。
特別展「和様の書」にも展示されている国宝 古今和歌集(元永本)の魅力をぜひとも多くの方にお伝えしたい、と思い、ファミリーワークショップ「きらきら光る唐紙を摺ろう」おとなのためのワークショップ「唐紙の魅力、料紙の魅力」を開催しました。

国宝 古今和歌集(元永本)には版を作ってもようを摺った唐紙も使われています。
雲母をいれた絵具で摺ると、キラキラと光るもようが浮かび上がり、光の加減でもようの見え方も変わります。
ついつい見入ってしまう美しい唐紙に感動していただくべく、トーハク特製「国宝 古今和歌集(元永本)から起こした版」をご用意しました!

ファミリーワークショップ「きらきら光る唐紙を摺ろう」ではまず、特別展「和様の書」担当の高橋裕次研究員と一緒に本館の展示を鑑賞。



わかりやすい解説にケースにかぶりつくように見入る子どもたち。


今日のもようは、上の写真と同じ、花襷文、獅子二重丸文の2種類です。
版に絵具をのせ、さらに紙をのせて手で押さえ、ゆっくりと紙を持ち上げたらお手製唐紙の完成!

料紙づくり

今回はこれでは終わりません。
本館で鑑賞した手鑑(書跡を貼りこんだアルバム)にならい、巻物を作ります。
和様の書や唐紙に関する解説カードと自分で摺った唐紙を、バランスを考えて貼り、三跡の作品から「月」「花」「海」をお手本に書いて貼りこんだら完成!

手鑑づくり

貼り方、書き方、飾り方にも個性が表れています。
「特別展「和様の書」でほかの唐紙のもようを探します!」「バランスよく散らして貼るのが難しい」「夏休みの自由研究で提出します!」という声のほかに、「私の手鑑を高橋先生に見てほしい!」というかわいいリクエストも。
そこで子どもたちに人気の高橋研究員と一緒にパチリ。

集合写真

おとなのためのワークショップ「唐紙の魅力、料紙の魅力」では高橋研究員から画像を用い、研究成果を交えながらの丁寧な解説、展示室での解説、唐紙をする体験を行い、こちらも大変好評でした。

日本人の美意識。それが一体何なのか、私もまだ説明できません。
でも、日本人の美意識を感じられる時間をトーハクで過ごしていただけたのではないでしょうか。

 

カテゴリ:教育普及2013年度の特別展

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posted by 川岸瀬里(教育普及室) at 2013年08月30日 (金)

 

書のデモンストレーション

書に関する特別展では最近恒例となっている席上揮毫会(書のデモンストレーション)を開催しました。
私も、書家の先生方が書に向かう姿を拝見し、その緊張感に驚いてきたひとり。
そして今回もまた、書の魅力に感動したひとりです。

350名近い多くのお客さまにお集まりいただいた今回は、書家の立場からお話くださる原奈緒美先生(読売書法会理事、書道香瓔会理事)と、書の研究者であるトーハクの島谷弘幸副館長が進行役。

司会の原奈緒美先生と島谷副館長

午前の回では、佐々木宏遠先生、山根亙清先生、田頭一舟先生、午後の回では日比野実先生、舟尾圭碩先生、岩永栖邨先生が揮毫してくださいました。

先生の手元はスクリーンに投影されます。大講堂にいたすべてのひとが、ステージ上で真剣に書に向かう先生の姿、筆が走り作品ができていく様子に見入ります。

先生の揮毫


揮毫してくださった先生と、進行役のおふたりのお話は、私のような初心者にも見どころがわかりやすく、私も舞台袖でひとりフムフムと納得したり、笑ったり。
会場には先生方とお客様の、書が大好き、という気持ちがあふれていました。
先生方の揮毫作品は、平成館ラウンジにて展示させていただきました。(当日のみ)

ラウンジに展示


席上揮毫会のあとに特別展「和様の書」の会場を歩いていると島谷副館長のお話を思い出しました。
「読めなくても楽しい。でも読めればもっと楽しい。書けなくても楽しい。でもかければもっと楽しい。」


筆の使い方、スピード、形、墨の濃淡などに注目すると、書家の姿が浮かびます。
作品のバランスや題材となる歌の内容にあった料紙の選択などの工夫に注目すると、書家のイメージに近づけたような気がしました。
特別展「和様の書」も残すところあと2週。この2週間、目いっぱい書を楽しみたいと思います。
お集まりいただきました皆様、書家の先生方、本当にありがとうございました。
 

カテゴリ:教育普及2013年度の特別展

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posted by 川岸瀬里(教育普及室) at 2013年08月27日 (火)