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みちのくの仏像・私のイチオシ 十二神将立像

彫刻を担当しております、研究員の西木です。
学生時代から、薬師如来像を研究対象にしておりましたので、勝常寺(しょうじょうじ)・黒石寺(こくせきじ)・双林寺(そうりんじ)から三大薬師が揃っておでましになる機会に立ち会えて、感動の日々を送っております。

しかし、ここでご紹介するイチオシは、ずばり山形・本山慈恩寺(ほんざんじおんじ)の十二神将立像(じゅうにしんしょうりゅうぞう)です。
あまり大きくないので目立ちませんが、キリっとしたお顔に見とれる方も多いのではないでしょうか。

重要文化財 十二神将立像 山形・本山慈恩寺蔵
重要文化財 十二神将立像(左から、酉神、卯神、寅神、丑神)
鎌倉時代・13世紀
山形・本山慈恩寺蔵


ジュニアガイド表紙
ジュニアガイドの表紙にも大抜擢!
お子様にせがまれて「お、これが十二神将か!」と
注目された方もいらっしゃるのでは?



十二神将は、薬師如来のお供であり、ガードマンのような存在です。
12体のうち4体は江戸時代に補われたものですが、残る8体は鎌倉時代につくられたとみられ、なかでも選りすぐりの4体をお借りしております。

それぞれ、頭につけられた十二支をあらわす動物の頭によって、向かって右から丑神(ちゅうしん)、寅神(いんしん)、卯神(ぼうしん)、酉神(ゆうしん)となっていますが、動物の頭は後の時代のものとみられるため、正確な名前はわかりません。

ですが、みてください、このリアルな表現!
それぞれ甲冑をつけて武装していますが、体の動きにあわせて帯や裾がはためいていますね。袴もはかず、沓(くつ)のかわりにサンダルをはいたり、裸足にあらわしたり、なかなかバリエーション豊かです。

こうした形式自体は、すでにあった作品や図像にもとづいたものかとみられますが、ここまで自然に、いきいきとあらわしたところが作者の技量です。とくに卯神をみてください。右手をふりあげ、左手は腰のあたりで拳をにぎりますが、上半身を大胆にねじっています。彫刻作品はいうまでもなく立体表現ですが、ここまで奥行きをもたせるのは珍しく、甲冑を着けずにあらわになった躍動する筋肉の表現もあわせて、まさに見事です。

十二神将 卯神
十二神将立像 卯神


当館でも鎌倉時代の十二神将像を所蔵しておりますが、たとえば辰神(しんしん)や巳神(ししん)が少し上半身をねじって、前後の空間に奥行きをもたせたところなどがよく似ています。

重要文化財 十二神将立像(左から辰神、巳神)
重要文化財  十二神将立像(左から辰神、巳神)
鎌倉時代・13世紀 東京国立博物館蔵
※この2体は特別展には出品されていません。
巳神は本館11室で2016年1月19日(火)~4月17日(日)展示予定


袴をはかずにブーツのような沓をはいたり、裸足にしたり、バリエーション豊かなところも本山慈恩寺の像に通じるところです。力んだところで息をとめたような、緊迫した表情も・・・。

左:当館所蔵 右:本山慈恩寺の十二神将
左:当館所蔵の重要文化財 十二神将(辰神)
右:山形・本山慈恩寺所蔵の重要文化財 十二神将立像(卯神)


じつは、当館の十二神将像は、かつて京都・浄瑠璃寺(じょうるりじ)に伝わったものですが、近年の研究によって、鎌倉時代を代表する仏師、運慶の作である可能性が強まっています。こちらと比べると、身振りや筋肉の表現にやや誇張がみられるため、すこしあとの時代につくられたものと思われますが、やはり都でも一流の仏師が手がけたものにちがいありません。本山慈恩寺のある山形県寒河江市は、かつて藤原氏の経営する荘園があったところなので、このような都風の仏像が伝わっていると考えられています。

鎌倉時代の名品も展示中の特別展「みちのくの仏像」、みなさまのご来館お待ちしております!

 

 

カテゴリ:彫刻2015年度の特別展

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posted by 西木政統(絵画・彫刻室アソシエイトフェロー) at 2015年02月06日 (金)

 

日本国宝展の見方~善財童子~

彫刻を担当している、研究員の西木です。
今日は、「日本国宝展」の最後に展示されている国宝 善財童子立像(ぜんざいどうじりゅうぞう)についてご紹介します。


日本国宝展ポスター


展覧会のポスターにも出ている、合掌する愛らしい子どもは善財童子といいます。
安倍文殊院では、隣に立つ仏陀波利(ぶっだはり)というお坊さんと一緒に、獅子に乗る文殊菩薩(もんじゅぼさつ)の両脇にひかえています。

さらに、その奥で獅子の手綱を引く優填王(うでんのう)という異国の王さま、
そして頭巾をかぶる最勝老人(さいしょうろうじん)の5人セットで、
海をわたる「渡海文殊(とかいもんじゅ)」と呼ばれて信仰を集めています。


安倍文殊院
渡海文殊(安倍文殊院の堂内にて)


なかでも、歩きながら文殊菩薩たちをふりかえる姿が印象的なのは善財童子です。


善財童子立像


絵画作品でも、ひとり先頭に立ち、一団を先導しているようにみえます。


では、なぜ善財童子が文殊たちの先頭をいくのでしょうか。
そもそも善財童子は、文殊菩薩の導きで識者を訪ねてまわり、智恵を得る菩薩です。


華厳五十五所絵巻
国宝 華厳五十五所絵巻(けごんごじゅうごしょえまき)(部分)
平安時代・12世紀 奈良・東大寺蔵 11月11日(火)~12月7日(日)

聖人のもとを歴訪する善財童子。ここでも合掌をしています


まだ幼い子どもなのに、なぜ一団を先導する姿なのか不思議です。
そのなぞを解くヒントは、文殊の乗る獅子と、その手綱をとる異国人の王さまにありました。


もともと、飛鳥時代に日本へ伝わった仮面劇の伎楽(ぎがく)や、行道(ぎょうどう)という仏教のパレードでは、
獣の王者である獅子と、鼻が高い異国人の治道(ちどう)、そして師子児(ししこ)と呼ばれる子どもが、
最初に登場して道を清めたといいます。


治道 師子児
(左)重要文化財 伎楽面 治道、(右)重要文化財 伎楽面 師子児
いずれも飛鳥時代・7世紀 東京国立博物館蔵
11月24日(月・休)まで法隆寺宝物館第3室にて展示



文殊菩薩と一緒になってからも、
魔よけとして先導する役割を期待されたのでしょう。
汚れを知らない無垢な子ども、
だからこその大役といえるのかも知れません。


展示の様子
日本国宝展 展示室の様子
国宝
善財童子立像・仏陀波利立像(文殊菩薩および眷属のうち)
快慶作 鎌倉時代・建仁3年
(1203)~承久2年(1220) 奈良・安倍文殊院蔵

カテゴリ:研究員のイチオシ彫刻2014年度の特別展

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posted by 西木政統(絵画・彫刻室アソシエイトフェロー) at 2014年10月29日 (水)

 

ナイト・ミュージアムへようこそ!

2014年10月12日(日)、「博物館でアジアの旅」の一環で、
ファミリーワークショップ「親子で仏像たんけん in ナイト・ミュージアム」が行われました。

163組もの応募をいただき、当日は23組65名の家族連れが集合。
閉館を知らせる音楽が流れる中、18時からワークショップが始まりました。

はじめに、トーハクの研究員、淺湫と藤田から、
参加者の皆さんにお願いしたいミッションが明かされました。
「アジアのいろいろな国の仏像の違いを見つけること」
今日はその調査にじっくりと取り組んでいただくため、
閉館後の夜の博物館、ナイト・ミュージアムに
皆さんをご招待したのです。

それでは、夜の展示室へ出発!
出発



1階の展示室に入ろうとしたら、なんとシャッターが閉まってしまっていました。
早速警備員さんを呼んで、開けてもらいました。

警備員登場
懐中電灯を持って警備員さん登場!


シャッターが開いたと思ったら…
今度は展示室が真っ暗!
初めて見る夜の博物館の雰囲気に、皆目が釘付けです。
懐中電灯とヘッドライトで照らしてみましたが、これでは調査ができません。
電気室に連絡をして、電気をつけてもらいました。
これでやっと、展示室に入れます。

真っ暗な展示室
真っ暗な展示室は、こわかった…

まずは皆で、中国の仏像、そしてパキスタンの菩薩立像をじっくり見ました。
それぞれについて、材料を「石」「木」「金属」の三択から手を挙げて選んだり、
顔の印象を「さっぱり」「イケメン」「濃い!」から選んだり。
そして、体つきについても、そのポーズを真似してみて、
中国の方はまっすぐ立っていてあまり動きがないけれど、
パキスタンの方は片膝を前に出しているため、腰がねじれていることがよく分かりました。


皆、目が真剣です。

こうして2つの地域の仏像を、
材料、顔立ち、体つきについて比べてみた後で、
今度は参加者それぞれが、自分の好きな仏像を選んで、
その特徴を捉えるためにスケッチをしました。

座ったり立ったり、思い思いの角度から、
リラックスして仏像と向き合っています。
こんなにじっくりと、自分たちだけでスケッチをしながら仏像と向き合う
なんて、昼間の博物館ではなかなかできませんね。

お話しながら描くご家族
どんなふうに見えるか、お話しながら描くご家族も。

一人ひとり真剣に描くご家族
一人ひとり真剣に描くご家族も。

最後に全員で、展示室をもう一周しながら、
それぞれの描いた仏像の横でスケッチを見せてシェアしました。
同じ仏像を描いていても、顔や手、横顔に後ろ姿など、
注目する場所は人それぞれ。
でも、皆よく特徴を捉えて描いていると、
淺湫研究員もコメントしてくれました。

笑顔の素敵な菩薩立像 細部をしっかり観察しています
笑顔の素敵な菩薩立像       細部をしっかり観察しています


夜の博物館で仏像の調査。
普段なかなか体験できない雰囲気の中でのワークショップでした。
帰りがけに「楽しかった!」と目を輝かせて言ってくれた
参加者の皆さん、本当にありがとうございました。
また、ナイト・ミュージアムを探検しましょう!

 

カテゴリ:教育普及彫刻博物館でアジアの旅

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posted by 藤田千織(教育普及室主任研究員) at 2014年10月22日 (水)

 

仏女がおすすめする「仏像の楽しみ方」

夏休みもあとわずか。地域によっては新学期が始まっているところもあるかもしれませんが、宿題や自由研究も大詰めのお子さんたちもいるのではないでしょうか。

トーハクの夏休み恒例企画・親と子のギャラリーでは、「仏像のみかた 鎌倉時代編」(8月31日(日)まで、本館11・14室)を開催中ですが、8月23日(土)に、展示に関連した講演会が開催されました。

題して、「夏休みの宿題-わたしの仏像自由研究-」。

今回は、3月まで当館に在籍し、川岸瀬里研究員(教育普及室)とともに展示を企画した浅見龍介研究員(京都国立博物館)に加え、奈良県生駒市の小学5年生・飯島可琳さん(生駒市子ども学芸員第1号)を迎えての講演会となりました。
小学校1年生の頃、近鉄奈良駅前に建つ行基菩薩像に興味を持ち、仏像めぐりを始めたという可琳さんは、毎月「仏女新聞」をオンライン発行しています。

講演会は、可琳さんが身近にある奈良の仏像を例にその見方・楽しみ方を提案し、浅見研究員が親と子のギャラリーで展示中の仏像を例に補足説明をする展開で始まりました。

講演会 研究員の解説
(左)仏像は難しくありません!
(右)「仏像を飾るもの」について展示中の仏像を例に浅見研究員が解説。

可琳さんがおすすめする仏像の見方のポイントは5つ。

1.表情を見る
2.いろいろな角度から見る
3.仏像を飾るものを見る
4.時代背景を知る

ここまででちょっと難しいな…と感じるときは、

5.動物を探そう!

とのこと。

確かに動物なら親しみやすいですね。
可琳さんは、獅子像を例に、平安時代の像は「気をつけ!のポーズできっちり」していて、鎌倉時代の像は「足を踏んばり、力強さ」を感じると、自身で気づいたポイントを挙げました。


また、おすすめの仏像紹介や、鎌倉時代以降に一般化した「玉眼」の技法についても、その手法を紙で再現した模型の写真を交えて紹介したり、時代別の説明では「白鳳時代(飛鳥時代後期)の仏像は、日本らしい仏像へと変化する重要なステップと考え、これをもう少しよく見る必要があるのでは?」という自説をとなえるなど、大人顔負けのプレゼンテーションを行いました。


玉眼スライド2
(左)玉眼の技法についての解説も。
(右)手書きイラストも交えた自作のスライドで堂々と発表しています。


最後は、浅見研究員から可琳さんにインタビューのコーナー。
可琳さんは今までに100カ寺、2000体以上の仏像を見ているそうです。同じお寺に何度も足を運ぶことも。
将来は仏像関係の仕事に就きたいとの夢も聞かせてくれました。

インタビュー

最近は入門書なども数多く出版されていますが、まずは自分の目で、実物を楽しんで見ること。
そこで気になったところは、何回も繰り返し見ることで、自分なりの発見があるかもしれません。

親と子のギャラリー「仏像のみかた 鎌倉時代編」の展示室では「仏女新聞」ならぬ「トーハク新聞」と銘打った新聞形のワークシートを配布しています。
展示室で仏像を見て気づいたことなどを書き込んでみてください。きっと自分なりの、仏像の楽しみ方がみつかるはずです。
夏休みの自由研究がまだすんでいないお子さんはもちろん、「仏像はなんだか難しくて…」と感じている大人の方もぜひチャレンジしてみてください。


関連リンク
親と子のギャラリー「仏像のみかた 鎌倉時代編」(8月31日(日)まで、本館11・14室)トーハク新聞(ワークシートPDF)のダウンロードもできます。
おすすめコース「仏像大好きコース」 トーハクで仏像のきた道をたどる、仏像好きの方へのおすすめコースです。
仏女新聞 飯島可琳さんが執筆・制作・発行している新聞。購読申込制です。

 

カテゴリ:教育普及彫刻特集・特別公開

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posted by 奥田 緑(広報室) at 2014年08月26日 (火)

 

夏休みは親子で仏像を楽しもう!

本館1階11室に入ると、おなじみの文殊菩薩騎獅像および侍者立像が見えます。


重要文化財 文殊菩薩騎獅像および侍者立像 康円作 興福寺伝来 鎌倉時代・文永10年(1273)
重要文化財 文殊菩薩騎獅像および侍者立像 康円作 興福寺伝来 鎌倉時代・文永10年(1273)

でもいつもの展示と何かが違う…
仏像が正面向きではなく、斜め向きに展示され、台には波が描かれています。
じつはこの文殊菩薩像は、4人のお供を従えて、海を渡っているのです。
おそらくこのお像が造られた鎌倉時代の人々は、この波があるとわかったうえで見ていたのでしょう。
でも今では、文殊菩薩像が海を渡るということを知らない人も増えました。
そのため、その仏像がどんな仏像なのかを理解するための仕掛けとして、斜めに置き、歩いていることを印象付け、波を表して場面を伝えるようにしました。
波の上を歩きながら、まっすぐ前を見つめる姿に強さすら感じます。


14室に進むと、仏像が展示されているケースの中に水色と紫色のリボンが敷かれています。


十二神将
十二神将像の展示

水色のリボンの上の仏像と、紫色のリボンの上の仏像とでは、なにか違いがあるのでしょうか?
それぞれの色のリボンの上の仏像とを比べてみてください。ヒントは仏像の足元の小さなパネルです。

例えば写真は十二神将。京都浄瑠璃寺に伝わったものと、神奈川の曹源寺所蔵のものから、姿勢や持物が似ているものを隣同士に並べています。
じつはそれぞれ、貴族の好みと、武士の好みが表れていると考えられる作品です。
顔つきや着ているものを比べながら、どちらが貴族好みでどちらが武士好みかを考えてみてください。

いつもと違った展示室に驚かれる方も多いかもしれません。
これは、おとなもこどもも「なんだろう?」を「なるほど!」にできる展示「親と子のギャラリー」。
暑さが厳しくなり、学校はそろそろ夏休み…という時期に合わせ、毎年おこなっている特集です。
今年は仏像をテーマに、8月31日まで、本館11室と14室で行っています。
お子様対象のワークシートも、仏像を鑑賞するときのヒントになるでしょう。

ワークシート
ワークシートは11室入口にあります。
こちらのページからPDFダウンロードも可能です。


夏休みのひととき、仏像を楽しんでみてはいかがでしょうか。


展示情報
親と子のギャラリー「仏像のみかた 鎌倉時代編」 2014年6月10日(火)~8月31日(日)  本館11・14室

関連事業
講演会「夏休みの宿題 -わたしの仏像自由研究―」 2014年8月23日(土)13:30~15:00 平成館大講堂
   

カテゴリ:研究員のイチオシ教育普及彫刻

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posted by 川岸瀬里(教育普及室) at 2014年07月21日 (月)