書を見るのは楽しいです。
より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第28回です。
みなさん、年賀状はもう書かれましたか?
私はまだです…。
年賀状は、裏は印刷、表もパソコンで印字、という昨今ですが、
この「書を楽しむ」を読んでいただいた方!
せっかくですから、少しでも自分で書いてみませんか?
いま展示中の作品から、文字を抜き出して
年賀状の手本をつくってみました。
(左)巻子本古今和歌集切 藤原定実筆 平安時代・12世紀 植村和堂氏寄贈(2012年12月24日(月)まで本館3室(宮廷の美術―平安~室町)にて展示中)
(中)巻子本古今和歌集切より「あけましておめてと」
(右)恵美が写したもの
「巻子本古今和歌集切」(藤原定実(ふじわらのさだざね)筆)に、
あけましておめてと、までありました。
「う」が無かったのは残念。
私は、エンピツ(左)とペン(右)で写してみました。
もう少し文字をつなげられると(連綿といいます)、
かっこいいですよね。
ほかに、
私が大好きな、国宝「白氏詩巻」(藤原行成(ふじわらのこうぜい)筆)の画像から、
「新春」を抜き出してみました。
(当館の主な作品は、ウェブサイトの画像検索や、e国宝から、画像で見られます。)
国宝 白氏詩巻 藤原行成筆 平安時代・寛仁2年(1018) (来年夏の特別展「和様の書」で展示予定)
(左)白氏詩巻より「新春」
(右)恵美が写したもの(エンピツと筆)
三跡(さんせき)の一人・藤原行成の書いた「春」、
横三本線の間隔と、斜めの線の傾き。
そのバランスが好きなのですが、
真似するのは、むずかしい!
定信や行成の文字の上手さも
再確認できました。
でも、年賀状に毛筆で「新春」と
書いてみたいです。
今年はこの「春」を目指して、
練習したいと思います。
年賀状に手書きの部分があると、
「こんな字を書くんだな~」と
しみじみ見てしまいます。
私の中では、平安時代の書を見るのと同じように、
年賀状の中の書も楽しいものです。
平安時代や鎌倉時代の書の中から文字を集めて手本をつくって、
年賀状を書いてみませんか?
どこかでそれを楽しんでくれる人が
いると思いますよ。
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posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2012年12月17日 (月)
書を見るのは楽しいです。
より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第27回です。
書、以外の分野でも、書はあります。
今回は、絵画の中にある書をさがして、
久しぶりにデジタルカメラを持って、展示室をまわってみました!
(デジカメの撮影なので、画像が暗くなってしまい、ごめんなさい。
東博では、「撮影禁止」マークのない作品は撮影できますが、
フラッシュ撮影はできません。)
まずは、本館3室(仏教の美術)。
国宝の「十六羅漢像」の中にありました。
国宝 十六羅漢像 平安時代・11世紀
2012年11月20日(火) ~ 2012年12月24日(月・休) 本館3室(仏教の美術)にて展示
右の上の方の白い枠の中(色紙形・しきしがた)に書かれています。
とてもしっかりした書で、
平等院鳳凰堂にある色紙形の書(源兼行筆)にも似ています。
3室(宮廷の美術)では、
重要文化財「後三年合戦絵巻」の詞書(ことばがき)がありました。
重要文化財 後三年合戦絵巻 巻上 飛騨守惟久筆 南北朝時代・貞和3年(1347)
2012年11月20日(火) ~ 2012年12月24日(月・休) 本館3室(宮廷の美術)にて展示
絵巻の詞書も、能書(のうしょ、書の上手な人)が書いている場合が多いです。
3室(禅と水墨画)では、
絵の上の方に、賛(さん、絵などを褒めたたえる詩文)がありました。
(左)白衣観音図 鎌倉~南北朝時代・14世紀
(右)重要文化財 蘭蕙同芳図 玉畹梵芳筆 南北朝時代・14世紀
2012年11月20日(火) ~ 2012年12月24日(月・休) 本館3室(禅と水墨画)にて展示
禅僧が書いたものが多く、
とても味わいのある書です。
さて、
本館7室、8室では、
署名を加えているものが多いです。
(左)紅白梅図屏風 山田抱玉筆 江戸時代・19世紀 長谷川巳之吉氏寄贈
2012年11月27日(火) ~ 2013年1月14日(月) 本館7室(屏風と襖絵)にて展示
(右)梅鴛鴦若松春草図 田中抱二筆 江戸時代・19世紀
2012年11月27日(火) ~ 2013年1月14日(月) 本館8室(書画の展開)にて展示
左は「抱玉筆」、右は「抱二筆」です。
どちらも、酒井抱一(さかいほういつ、1761~1829)の弟子なので、
名前に「抱」という字を使っていますが、
「抱」の書き方が似ていると思いませんか?
二人とも、
師匠の抱一の署名を真似ているようです。
右の画像の、赤いまるい印章の字も、
筆の字のような雰囲気で、素敵です。
これも、師匠の抱一が押していたものと似ています。
さいごの本館10室です。
9室から入ると、
絵ではありませんが、振袖の中に、書がありました!
振袖 白絖地楓竹矢来文字模様 江戸時代・18世紀
2012年10月23日(火) ~ 2012年12月24日(月・休) 本館10室(衣装)にて展示
左上は「若」、右下に「紫」が見えます。
源氏物語の「若紫」をモチーフにした文様です。
工芸品の中にも、書があるんですよね。
浮世絵の中はどうでしょうか?
(左)假名手本忠臣蔵・五段目 葛飾北斎筆 江戸時代・19世紀
(右)高名美人見たて忠臣蔵・六だんめ 喜多川歌麿筆 江戸時代・18世紀
2012年11月27日(火) ~ 2012年12月24日(月・休) 本館10室(浮世絵)にて展示
女性が持っている巻き物には、なにが書かれているのでしょうか?
今回、酒井抱一の絵は展示されていませんでしたが、
抱一の絵の繊細さが好きです。
その弟子が、師匠の署名まで真似ているのがわかって
面白かったです!
好きな画家、好きな絵があったら、
その画家がどんな字を書いていたのか、
確かめてみませんか?
その人の字を見ると、
その人に近づいたような気がしてきます。
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posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2012年12月02日 (日)
書を見るのは楽しいです。
より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第26回です。
本館3室(宮廷の美術)(2012年11月20日(火) ~12月24日(月・休))に、世尊寺家(せそんじけ)が大集合します!
せそんじ、
日本の書の歴史、とくに「和様の書」(わようのしょ)にとって、
世尊寺は重要です。
覚えて欲しい!!
世尊寺家については、書を楽しむ11回でも少し触れました。
藤原行成(ふじわらのこうぜい、972~1027)を祖とする
能書(書の上手い人)の家系です。
藤原行成は、
三跡(平安時代中期を代表する三人の能書、小野道風・藤原佐理・藤原行成)の一人で、
日本独自の書「和様の書」を確立しました。
書を楽しむ第9回で紹介した、
国宝「白氏詩巻」は行成の筆跡です。
世尊寺家から、次の作品を御覧ください。
(左)藍紙本万葉集切 藤原伊房筆 平安時代・11世紀
(右)巻子本古今和歌集切 藤原定実筆 平安時代・12世紀 植村和堂氏寄贈
左は、三代目・藤原伊房(これふさ、1030~69)、
右は、四代目・藤原定実(さだざね、?-1077~1119-?)です。
この二人、親子ですが、書風を比べてみてください。
まずは、全体を見た感じはいかがですか?
次に、字の拡大を比較してみました。
左から:伊房「あ」、定実「あ」、伊房「も」、定実「も」
「あ」は、よく似てますよね。
「も」は、縦線の曲がり具合が違いますが、点を打つ位置が似ています。
左から:伊房「て」、定実「て」、伊房「を」、定実「を」
「て」は、すこし形が違って見えますが、
どちらも、横線のあと、一瞬はなれて縦線を書いています。
「を」はいかがでしょうか?
全体で見た雰囲気が違っていても、
一字一字を取り出してみると似ています。
定信、定実、伊房 三代の字
これは、当館の島谷副館長が作った画像です。
右から、三代・伊房、四代・定実、五代・定信の筆跡です。
島谷は、「骨格は類似しているけれど、筋肉のつき方が違う」
と言っています。
伝統を受け継ぐ書ですが、
それぞれの創意工夫で、
新たな創造ができるのです。
今回、展示室には、
三代、四代、五代、六代・藤原伊行(これゆき、?~1149~68-)まで
並べてご紹介します。
能書の家系・世尊寺家、
代々の字を比較してみてください。
そして、
それぞれの書の個性的な魅力を楽しんでください。
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posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2012年11月19日 (月)
書を見るのは楽しいです。
より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第25回です。
本館3室(宮廷の美術)で国宝「寛平御時后宮歌合」が展示中です(2012年11月18日(日) まで) 。
国宝 寛平御時后宮歌合(十巻本歌合)(部分) 伝宗尊親王筆 平安時代・11世紀
国宝なのにずいぶん地味な作品だな~、
なんて、思いませんでしたか?
これが、よく見ると、
やっぱり仮名が美しいです!
(左)拡大、(右)恵美がエンピツで写しました。
エンピツで、「ゆきの」と「やまの」だけ
写してみました。
「ゆ」や「の」がゆったりと丸くて、
やわらかい、優しい気持ちになる字です。
エンピツで写しつづけて、
形は似るようになりましたが、
エンピツと筆とは大きな違いがあります。
それは、筆の弾力です。
筆の弾力で、
リズムや筆力が生まれて、
美しい線が表現されます。
この「寛平御時后宮歌合」は、
「十巻本歌合」(じっかんぼんうたあわせ)の一部です。
「十巻本歌合」とは、
平安時代、関白の藤原頼通(よりみち、992~1074)が編纂させたものですが、
これは草稿なので、
朱や墨の加筆や訂正があります。
以前、「書を楽しむ」第18回でお伝えした、仮名の王様「高野切」(こうやぎれ)。
覚えていますか?
「十巻本歌合」は、「高野切」と近い時期に書写されたので、
中に、「高野切」と同じ筆者の字もあります。
ところで、
「歌合」とは、なんでしょう。
画像に「右」や「左」と書いてあるのが見えますよね。
右の歌と、左の歌で、競い合う催しです。
一番古い記録では、仁和年間(885~89)の歌合があります。
今回展示している場面は、
冬の歌の歌合の部分ですから、
「ゆき」、「しらゆき」の字がたくさん見えます。
ゆったりと優雅な「ゆき」を探して、
真っ白い雪景色を想像してみませんか?
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posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2012年11月07日 (水)
書を見るのは楽しいです。
より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第24回です。
今回はこれです。
禅院牌字断簡「湯」 無準師範筆 中国 南宋時代・13世紀 広田松繁氏寄贈
(本館4室 東京国立博物館140周年特集陳列「広田不孤斎の茶道具」にて11月25日(日) まで展示中)
かっこいい!!すかっとしている!! と思いませんか?
サンズイの勢いのあるハネ、
右上角の鋭い曲がり(転折)、
最後の線も、力強く長い。
一文字だけど、こんなに力があるなんて、すばらしい!
これを書いたのは、無準師範(ぶじゅんしばん、1176~1249)、
中国、南宋時代の高名な禅僧です。
彼のもとで学んだ日本人僧、円爾弁円(聖一国師)(えんにべんえん、しょういつこくし)に
与えた書の一つです。
円爾は東福寺の開山第一世となりました。
東福寺の「普門院」の印が斜めに押されているのも、
いい味わいを出しています。
昭和11年(1936)に、
この「湯」を写した人がいます。
「湯」(写し)、『茶道三年』(上巻、飯泉甚平衛発行、昭和13年)より転載
写したのは、松永耳庵(まつながじあん、1875~1971)。
本名は松永安左エ門、電力王として著名で、
大コレクターでした。
その耳庵が参加した茶会の記録(茶会記)に、
この「湯」の字が紹介されていました。
たぶん、茶会が終わってから思い出して書いたのでしょう。
「普門院」の印の位置も違うし、
「湯」の字も、それほど力強くないです。
でも、わざわざ写して記録するのは、
よほど気に入ったのでしょう。
茶会で見た「湯」の感動が、にじみ出ている気がします。
「湯」という一字だけに、
茶の湯の世界でも珍重されてきました。
この作品を当館にご寄贈くださったのも、
広田不孤斎(ふっこさい、1897~1973)という茶人。
本名は広田松繁、古美術商だった方です。
当館でこの作品を管理している富田列品管理課長から
「湯」に付属品の掛幅があることを教えてもらいました。
禅院牌字断簡「湯」付属品
江戸時代の俳人、松永貞徳(まつながていとく)が、
「さん水のうへにちょぼ々々三つあるはたぎる茶釜の湯玉なりけり」
と詠んでいます。
サンズイの最初の画に、ちょぼちょぼちょぼと三つあるのは、
茶釜の湯の玉だとたとえています。
江戸時代にもこの作品は、茶の湯の世界で親しまれていたようです。
「湯」の字は、いま、本館4室(茶の美術)で、
広田不孤斎の茶の湯の道具と一緒に並んでいます。
本館3室から4室を見わたすと、
遠くからでも、「湯」!!と主張していますよ。
遠くから眺めてから、
近くへ寄ってじっくり御覧ください。
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posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2012年10月23日 (火)