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書を楽しむ 第24回 「湯!!」

書を見るのは楽しいです。

より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第24回です。

今回はこれです。

禅院牌字断簡「湯」 無準師範筆
禅院牌字断簡「湯」 無準師範筆 中国  南宋時代・13世紀 広田松繁氏寄贈
(本館4室
東京国立博物館140周年特集陳列「広田不孤斎の茶道具」にて11月25日(日) まで展示中)

かっこいい!!すかっとしている!! と思いませんか?

サンズイの勢いのあるハネ、
右上角の鋭い曲がり(転折)、
最後の線も、力強く長い。

一文字だけど、こんなに力があるなんて、すばらしい!

これを書いたのは、無準師範(ぶじゅんしばん、1176~1249)、
中国、南宋時代の高名な禅僧です。
彼のもとで学んだ日本人僧、円爾弁円(聖一国師)(えんにべんえん、しょういつこくし)に
与えた書の一つです。

円爾は東福寺の開山第一世となりました。
東福寺の「普門院」の印が斜めに押されているのも、
いい味わいを出しています。

昭和11年(1936)に、
この「湯」を写した人がいます。


「湯」(写し)、『茶道三年』(上巻、飯泉甚平衛発行、昭和13年)より転載

写したのは、松永耳庵(まつながじあん、1875~1971)。
本名は松永安左エ門、電力王として著名で、
大コレクターでした。
その耳庵が参加した茶会の記録(茶会記)に、
この「湯」の字が紹介されていました。

たぶん、茶会が終わってから思い出して書いたのでしょう。
「普門院」の印の位置も違うし、
「湯」の字も、それほど力強くないです。

でも、わざわざ写して記録するのは、
よほど気に入ったのでしょう。
茶会で見た「湯」の感動が、にじみ出ている気がします。

「湯」という一字だけに、
茶の湯の世界でも珍重されてきました。
この作品を当館にご寄贈くださったのも、
広田不孤斎(ふっこさい、1897~1973)という茶人。
本名は広田松繁、古美術商だった方です。



当館でこの作品を管理している富田列品管理課長から
「湯」に付属品の掛幅があることを教えてもらいました。


禅院牌字断簡「湯」付属品

江戸時代の俳人、松永貞徳(まつながていとく)が、
「さん水のうへにちょぼ々々三つあるはたぎる茶釜の湯玉なりけり」
と詠んでいます。
サンズイの最初の画に、ちょぼちょぼちょぼと三つあるのは、
茶釜の湯の玉だとたとえています。

江戸時代にもこの作品は、茶の湯の世界で親しまれていたようです。

「湯」の字は、いま、本館4室(茶の美術)で、
広田不孤斎の茶の湯の道具と一緒に並んでいます。
本館3室から4室を見わたすと、
遠くからでも、「湯」!!と主張していますよ。
遠くから眺めてから、
近くへ寄ってじっくり御覧ください。

カテゴリ:研究員のイチオシ書跡

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posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2012年10月23日 (火)