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特別展「琉球」がはじまりました

5月3日(火・祝)より平成館2階特別展示室にて、沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」が開幕しました。

特別展「琉球」バナー
 
本展の準備は5年ほどまえにスタートしました。
沖縄に縁のあるスタッフや沖縄の美術を専門に勉強した研究員が顔をそろえ、復帰50年という大きな節目の年である2022年の東京・九州開催に向けて皆が一丸となりました。
ところが、2019年10月31日の首里城の焼失という悲しい出来事があり、さらに同年末にはじまった新型コロナウイルスのパンデミックによってさまざまな変更を余儀なくされ、思うように準備が進められず、この2年ほど私たち担当者たちは不安な時間を過ごしてきました。
 
無事に開幕に至ることができたのは、ひとえに沖縄県立博物館・美術館はじめ、沖縄の研究者、ご所蔵者の皆さんの多大なご協力、ご教示があったからです。この場を借りて、心より感謝申し上げます。
 
展覧会の主要テーマは15世紀後葉に成立した琉球王国です。学校の教科書でもその歴史は深く取り上げられてはおらず、「沖縄は好きだけど、琉球はよく知らない」という方も多くいらっしゃるかもしれません。
 
琉球国王尚家の貴重な宝物が一堂に会します。

展覧会の企画に携わった者として、復帰50年という貴重な機会にあらためて琉球の歴史と文化を紹介するという意義に加え、鮮やかな色彩や個性的なかたち、装飾で私たちの心を惹きつける出品作品のすべてに込められた重要なメッセージを読み取っていただけたらと考えております。
それは、現存する作品が近代化や戦争という困難な歴史を乗り越えて今ここにあるということ、そして一度失われたモノを取り戻すことがどれだけ大変な作業であるかということです。

展覧会のエピローグでは、琉球・沖縄文化の保護に尽力した研究者たちの功績や、琉球王国の文化遺産を復元しようという現在の取り組みとその成果の復元作品、また制作に関わった人びとの声を紹介しております。
これら通じて、文化財を守り伝えていくことの重みを体感いただくことができるのではないかと思います。
 
琉球の美や技を現代に伝える模造復元作品も多数展示しています。
手前の作品は「模造復元 旧円覚寺仁王像(阿吽形)」(沖縄県立博物館・美術館蔵)です。
 
私がおすすめする作品も、とても貴重なものです。
第1会場に入ってすぐのケースに展示中の「三彩鶴形水注」と「三彩鴨形水注」は、16世紀に中国との交易で琉球にもたらされたカラフルな三彩のやきもの(現在の福建省のあたりで焼かれたもので、俗に華南三彩と呼ばれています)で、奇跡的に今日に伝わった「現役」の花入、つまりいまも生活のなかで使用されているものです。
困難を乗り越えて大切に扱われてきたこれらのやきものの価値は何にも代えがたく、心なしか、キラキラと輝き、つやを放っているように映ります。
 
(左)三彩鴨形水注(さんさいかもがたすいちゅう) 中国 明時代・16世紀
(右)三彩鶴形水注(さんさいつるがたすいちゅう) 中国 明時代・16世紀
これらはそれぞれ、ノロと呼ばれる神女をつとめた旧家に伝わったものです。首里城からは同種の三彩のやきものがまとまって出土しており、琉球で好まれたやきものであったことがわかります。各地のノロにこうした貴重な中国陶磁が首里王府から下賜されたのかもしれません。
 
国宝も重要文化財も、そして小さなやきもののカケラも、私たちにとって等しく大切な文化財です。歴史を共有し、多くの人びとの手で文化財を守り伝えていくことの意義をこの展覧会を通じて感じていただけたら幸いです。
 
特別展「琉球」は6月26日(日)まで開催しています。
 

カテゴリ:「琉球」

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posted by 三笠景子(出版企画室主任研究員) at 2022年05月11日 (水)

 

文化財を未来へつなぐ、復元と修復

特別展室の三笠です。

今春開催予定の沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」を担当しているメンバーのひとりとして、この特別企画「手わざ -琉球王国の文化-」の展示のお手伝いをさせていただきました。

展示室の様子

昨年秋、この「手わざ」展は九州国立博物館で先行して開催されました。最終日の12月12日(日)に開かれた講演会で、那覇市歴史博物館の学芸員山田葉子さんがこんな話をされていました。

――この復元事業は琉球王国の文化を未来へつなぐためにとても大切。それと同時に、修復の技術も育てなければならない。復元と修復は、両輪で進められるべきである。――

思わず膝を何回も打ちたくなるほど、納得のお話でした。

かつて私は保存修復課に在籍していました。
保存修復課の研究員の仕事は、日々作品を点検、そしてメンテナンスが必要な作品があれば修復のためのカルテを作成し、修復の工程を考えます。じっさいに修復の現場では、時には研究員や修復家の皆さんと侃侃諤諤意見を交わしながら、博物館の収蔵品をいかに安全に、正しく未来へ伝えていくかという難しい問題と向き合います。
作品に一番近い緊張感のある部署であり、修復の材料、道具ひとつで作品の運命を決まるというような責任重大の場面もあります。それでも研究員や修復家の方がたと同じ目標のもとに仕事ができることは、非常にやりがいのあることです。博物館に着任したばかりの駆け出しの私にとって、とても大事な時間であったと思います。

特別展「琉球」出品作品の中にも、修復を経た当館所蔵作品があります。


神扇(かみおうぎ)
第二尚氏時代・19世紀 東京国立博物館蔵
特別展「琉球」にて5月3日(火・祝)~5月29日(日)で展示
(注)特別企画「手わざ -琉球王国の文化-」では展示していません。

祭祀を司るノロ(女性の神官)が用いた扇で、奄美大島大和村の大和家に伝わったものです。長さ65センチ、広げると幅1メートルにもなり、とても迫力があります。本作品は劣化が進み、取り扱いが困難な状態でしたが、当館の保存修復事業(平成18年度 修理者鈴木晴彦氏・本多聡氏)によって解体修理を行い、無事に展示公開ができるようになりました。


鹿児島県の奄美大島にある宇検村生涯学習センター「元気の出る館」にて。
類例の神扇の調査をしているのは、佐々木利和先生(当館名誉館員)と当時保存修復室長であった高橋裕次氏(現大倉集古館)です。
修復に携わった鈴木さんからは、充填剤に使用されたパテを調べるため、海岸の砂浜を調べたり、骨の材料であった竹の生育を調べたり、また修理に使用した芭蕉糸について染織家を訪ねたり・・・と、とても大変で、そして思い出深い修理であったという話をうかがいました。

今回、特別展「琉球」の準備のために、沖縄に足を運ぶなかで「手わざ」、復元された作品を拝見したり、この事業に携わった沖縄県立博物館・美術館の学芸の皆さんとお話させていただいたりするなかで、ゼロからの復元がいかに過酷な作業か、そして文化財が失われることがいかに恐ろしいことか、痛感するばかりでした。
それと同時に、復元によって明らかになるかつての素晴らしい技術や丁寧な仕事の様子は、作品を修復するとき、解体して初めて具体的な材質や工程がわかるときの感動にも似ていました。さまざまな分野で修復、復元の技術が「両輪」で高まり、専門家の皆さんと我われ研究員も一緒に知恵を出し合って行けば、先人の技を未来へ繋いでいくことができるはずです。


「手わざ」展会場の「製作者の声」パネルには、復元事業の作業風景の画像や携わった方のメッセージが掲載されています。文化財を守り伝えていくことへの想いが伝わってきます。

5月3日(火・祝)~6月26日(日)で平成館特別展示室にて開催予定の特別展「琉球」、最終章は「未来へ」というテーマで復元事業をあらためて紹介する予定です。


朱漆巴紋沈金御供飯(しゅうるしともえもんちんきんうくふぁん)
平成30年度(原資料:17~18世紀) 沖縄県立博物館・美術館蔵
展示期間:2月22日(火)~3月13日(日)
特別展「琉球」でも5月3日(火・祝)~5月29日(日)で展示します。

私は復元作品を知ることで琉球王国の遺産である作品たちがより身近に、そしてどの作品もとても大切なものに思えるようになりました。この「手わざ」展、そして特別展「琉球」、ともに多くの方にご覧いただきたいと思います。

また、3月23日(水)~4月17日(日)で平成館企画展示室にて、特集「東京国立博物館コレクションの保存と修理」を開催します。
こちらもぜひ。
 

カテゴリ:「琉球」「手わざ -琉球王国の文化-」

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posted by 三笠景子(特別展室主任研究員) at 2022年02月28日 (月)

 

沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」開催決定

2022年5月3日(火・祝)~6月26日(日)に、当館平成館で沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」を開催します。本展は当館で開催した後、2022年7月16日(土)~9月4日(日)に九州国立博物館で巡回開催する予定です。

11月26日(金)に本展の報道発表会を行いました。

 
はじめに、当館副館長の富田淳、九州国立博物館副館長の小泉惠英よりご挨拶いたしました。
 
 
左)当館副館長 富田淳
右)九州国立博物館副館長 小泉惠英

当館副館長 富田淳


九州国立博物館副館長 小泉惠英
 
令和4年(2022)、沖縄県は復帰50年を迎えます。かつて琉球王国として独立した国家であった沖縄は、明治以降の近代化や先の戦争という困難を乗り越え、現在もその歴史、文化を未来につなげる努力を続けています。
本展は、アジアにおける琉球王国の成立、および独自の文化の形成と継承の意義について、琉球・沖縄ゆかりの文化財と復興の歩みから紐解く総合的な展覧会です。
 
首里城公園 首里城正殿(平成26年(2014)撮影)
画像提供:一般財団法人 沖縄美ら島財団
 
本展の見どころについて、担当研究員の九州国立博物館の一瀬主任研究員と、当館の三笠主任研究員より解説いたしました。
 
 
左)九州国立博物館 展示課主任研究員 一瀬 智
右)学芸企画部企画課 特別展室 主任研究員 三笠 景子

九州国立博物館 展示課主任研究員 一瀬 智


学芸企画部企画課 特別展室 主任研究員 三笠 景子
 
 【みどころ1】
琉球国王、尚家400年の貴重な宝物が一堂に
金、銀、水晶など色とりどりの玉で飾られた「玉冠」をはじめ、王族が身につけた格調高い衣裳や刀剣、王国の中枢である首里城を華やかに彩った漆器や陶磁器など、国宝の「尚家宝物」が一堂に会します。 
 
国宝 玉冠(付簪)(琉球国王尚家関係資料)(たまんちゃーぶい つけたりかんざし)
冠:明時代・17世紀/簪:第二尚氏時代・17~18世紀 沖縄・那覇市歴史博物館蔵
展示期間:2022年5月3日(火・祝)~5月15日(日)
 
国宝 黄色地鳳凰蝙蝠宝尽青海波立波文様紅型綾袷衣裳(琉球国王尚家関係資料)
(きいろじほうおうこうもりたからづくしせいがいはたつなみもんようびんがたあやあわせいしょう) 
第二尚氏時代・18~19世紀 沖縄・那覇市歴史博物館蔵
展示期間:2022年5月17日(火)~5月29日(日)



国宝
金装宝剣拵(号 千代金丸)(琉球国王尚家関係資料)(きんそうほうけんこしらえ ごう ちよがねまる)
外装:第二尚氏時代・16~17世紀 刀身:室町時代・16世紀 沖縄・那覇市歴史博物館蔵
展示期間:2022年5月31日(火)~6月26日(日)
 
【みどころ2】
100件を超える国・県・市指定文化財が集結
およそ11世紀末頃にはじまる、いわゆる古琉球時代の交易の様子を伝える出土品や歴史資料、美術工芸品など、多種多様な琉球・沖縄の文化財を過去最大規模でご紹介します。
 
  
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左上)重要文化財 おもろさうし 巻7
第二尚氏時代・18世紀 沖縄県立博物館・美術館蔵
展示期間:2022年5月31日(火)~6月26日(日)

右上)重要文化財 貝匙(かいさじ)
貝塚時代後期・6~7世紀 鹿児島県奄美市小湊フワガネク遺跡出土
鹿児島・奄美市立奄美博物館蔵

左下)沖縄県指定文化財 聞得大君御殿雲龍黄金簪(きこえおおぎみうどぅんうんりゅうおうごんかんざし)
第二尚氏時代・15~16世紀 沖縄県立博物館・美術館蔵

右下)浦添市指定文化財 朱漆山水人物沈金足付盆(しゅうるしさんすいじんぶつちんきんあしつきぼん)
第二尚氏時代・16~17世紀 沖縄・浦添市美術館蔵


重要文化財 おもろさうし 巻7
第二尚氏時代・18世紀 沖縄県立博物館・美術館蔵
展示期間:2022年5月31日(火)~6月26日(日)


重要文化財 貝匙(かいさじ)
貝塚時代後期・6~7世紀 鹿児島県奄美市小湊フワガネク遺跡出土
鹿児島・奄美市立奄美博物館蔵


沖縄県指定文化財 聞得大君御殿雲龍黄金簪(きこえおおぎみうどぅんうんりゅうおうごんかんざし)
第二尚氏時代・15~16世紀 沖縄県立博物館・美術館蔵

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浦添市指定文化財 朱漆山水人物沈金足付盆(しゅうるしさんすいじんぶつちんきんあしつきぼん)
第二尚氏時代・16~17世紀 沖縄・浦添市美術館蔵
 
【みどころ3】
琉球の美と技を今に伝える、圧巻の模造復元作品
沖縄県立博物館・美術館は平成27年度より、琉球王国文化遺産集積・再興事業として、最新の科学分析や研究情報に基づき、失われた文化遺産の模造復元に取り組んできました。
本展ではこの事業によって制作された、模造復元作品を展示します。事業に関わったたくさんの人びとの努力に想いを馳せて、ご覧ください。
 
模写復元 尚穆王御後絵(もしゃふくげん しょうぼくおうおごえ)
東京藝術大学保存修復日本画研究室(制作) 令和2年度 一般財団法人 沖縄美ら島財団蔵
展示期間:2022年5月3日(火・祝)~5月29日(日)
 
最後に、本展共催・監修者である沖縄県立博物館・美術館の田名真之館長より、沖縄復帰50年と本展開催によせてお話いただきました。
 
沖縄県立博物館・美術館館長 田名真之
 
「現代の沖縄のルーツをたどると、琉球王国時代に培われた文化が根幹にあり、過去や現在を知ることが、やがて未来にもつながっていきます。そういう意味で、復帰50年の節目の年にこの展覧会を行うということは、大きな意義があります。」とお話しくださいました。
 
本展は、美術工芸品、考古資料、歴史資料、そして現代に制作した模造復元品など、琉球・沖縄の様々な文化財を、これまでにない規模でご覧いただける貴重な機会です。
今後も、展覧会公式サイトツイッターなどで最新情報をお伝えしていきますので、ご注目ください。
 

 

カテゴリ:「琉球」

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posted by 長谷川悠(広報室) at 2021年12月10日 (金)