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1089ブログ

大日如来の台座に獅子!

仏像好き必見の特集陳列「運慶とその周辺の仏像」(~2011年10月2日(日) )から、今回はかわいらしい(失礼!)獅子たちのご紹介です。

この特集の目玉作品は、なんといっても運慶作とされる二体の大日如来像です。そのうちのひとつ、栃木県・光得寺蔵作品については、美しく荘厳された厨子と台座も展示されています。

展示風景

左から、大日如来坐像、その納入品の模型、厨子と台座。
厨子の中の台座をよく見ると…………

台座アップ画像
花びらの先からきらきら光る水晶の水玉がこぼれる美しい蓮の花が仏さまの座るところです。そしてその蓮の花を、おやおや、小さな獅子たちが支えています。

トーハクブログの読者の皆さまに特別サービス!
今回は特別にこの獅子たちを厨子の外に出して、じっくり見てみることにしましょう。

4頭の獅子正面
全部で4頭の獅子。口を開いた「阿形」が3頭、閉じた「吽形」が1頭です。
お顔はさまざま。目力抜群、きりっとした顔立ちのライオン風もあれば、おっとりとしたネコ風もあり、それぞれ個性的です。

横から見てみると
3頭の獅子側面
いずれも胸の筋肉が発達した豊かな体つきをしています。
髪型、もとい、たてがみ型が違っているのがわかりますか?
くるくるパーマのおばさん風もあれば、名古屋巻のお嬢様タイプあり。


もひとつおまけ。後姿です。
獅子、後ろから
なんと! 尻尾のウエーブがたてがみに対応していることが判明!
左端のお嬢様風、背後に回ってみたら、あばらの浮き出た野性味たっぷりの体つきでした。
獅子の体は黒漆を塗り、その上に白い顔料、さらに丹(たん)というオレンジ色の顔料を重ね、金泥(きんでい)と呼ばれる金の絵の具で仕上げています。この美しい輝きはそれだけ手をかけているからこそなのですね。

お顔に近づいて見ると
獅子、顔の拡大
目じりの赤い色がわかりますか? 表情が豊かになるように、細かい工夫がされています。

獅子、たてがみ拡大
たてがみには金の筋が一筋一筋丁寧に描かれています。
じつはこれ、金箔を細く切って文様を描く截金(きりかね)という技法によるもの。金箔ならではの輝きが獅子に威厳を与えています。

この台座の上に坐る大日如来は運慶の作とされるものですから、これらはその弟子たちが造ったものかもしれません。台座といえども力の入ったすばらしいできばえです。
この小さな獅子たちにも、生き生きとしたリアルな表現で一時代を築いた鎌倉彫刻の特長を十分に見て取ることができるでしょう。

このように大日如来の台座に獅子を表すことには、ちゃんと根拠があります。
「中心毘瑠遮那如来。頭載五智宝冠、坐七獅子座上結跏趺坐、結界法印」(善無畏訳「尊勝仏頂修瑜伽法儀軌」巻上)。
そう、密教の古い経典に、大日如来が7頭の獅子の上に坐っているという記述があるのです。

おや、7頭ですって?
実は、この台座の獅子はいくつか失われおり、おそらく、最初は7頭の獅子がいたと考えられているそうです。

現在開催中の「空海と密教美術」展では、8体の仏像による「仏像曼荼羅」が話題になっています。これは東寺講堂の21体の仏像による「立体曼荼羅」のうち、8体を展示しているものです。今回の仏像曼荼羅では展示されていませんが、東寺の「立体曼荼羅」の中心に置かれているのは、密教でいちばん大切な仏さま、大日如来です。残念なことに現在の大日如来像は15世紀に作られたものですが、当初の大日如来像は7頭の獅子の上に乗っていたことが、さまざまな資料により明らかになっています。

さて、話を運慶の大日如来に戻しましょう。
実は、運慶は、建久8年(1197)に東寺の講堂の仏像の大規模な修復を行ったことがわかっています。
この大日如来像が造られたのが、それより先のことなのか、後のことなのか、はっきりはわかっていません。しかし、運慶が、いわば密教の仏像の原点ともいえる東寺講堂の大日如来を意識していたことは間違いないはず。その姿にならってこの像と台座を作った― その可能性は決して低くはありません。

特別展と総合文化展。行ったり来たりの一歩進んだ鑑賞法のオススメでした。
 

総合文化展には、ほかにも密教美術の作品が随所に展示されています。
当館ウェブサイト「おすすめコースガイド」では、「空海と密教美術」展とあわせて観たい! おすすめ作品コースを紹介しています。
是非ご活用ください!

 

カテゴリ:研究員のイチオシ彫刻

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posted by 小林牧(広報室長) at 2011年09月13日 (火)

 

「銅人形」って知っていますか?

「銅人形」って知っていますか?
本館 16室 歴史資料「健康を考える」(~2011年10月10日(月))で展示されています。

「どんなもの?」と思った方のためにご紹介いたします。

まずは展示替えの模様から。
収蔵庫から台に乗せられて3人がかりで慎重に運ばれます。
人形といっても、その大きさは実物の人間大のものから人の腰の高さくらいのものまで、色々です。
この写真からもわかるように、展示されている銅人形は実物大のものに近い背丈がありそうです。


5~6人がかりで開梱され、展示されました。
これが銅人形です。

(左)重要文化財 銅人形 江戸時代・寛文2年(1662) 松平頼英氏寄贈 C-544
(右)銅人形 江戸時代・18世紀 C-543


一目見るだけで目に焼きつくその異様なビジュアルは、学生の頃、理科室で見た人体模型を思い出させます。
それもそのはず、この銅人形、医学を学ぶための教材として作られたものなのです。

「銅人形」が作られるようになったのは、中国の宋の時代です。
医学の国家試験に使用されていました。
全身には、気の流れを表す14本の経脈の線が走り、360か所以上の経穴(つぼ)が開けられています。

(左)銅人形 C-543 部分
(右)左画像赤枠部分の拡大。経脈を示す線や「つぼ」を示す穴がみられます。


試験の際には、銅人形の表面に蝋が塗られます。
解答者は、目隠しをされ、出題内容に適した「つぼ」がある部分を予測して針を刺します。
正解の穴をうまく探し当てたら、人形の中に仕込まれた水銀や水が流れ出すという仕組み。

画像の銅人形は、江戸時代に日本で作られたものです。
幕府の侍医、山崎宗運が『銅人ゆ穴鍼灸図経』(中国で宋の時代に鍼灸書)と自らの研究をもとに作成したもので、
当初は中国で作られたものが日本に渡ってきたものと考えられていました。


人体模型として、内臓や血管、骨など体内の情報を知ることができる銅人形がこちら。
足裏に記された銘文によって、寛文2年(1662)・江戸時代に和歌山藩医の飯村玄斎らが考証して、岩田伝兵衛らが制作に関わったことがわかっています。

銅人形 C-544 部分

人体の表面をあらわす張り巡らされた網目状の銅の隙間から、血管や骨、内臓の模型が収まっているのが見えます。

(左)銅人形 C-544 部分
(右)左画像赤枠部分の拡大。
表面の銅を外した画像です。

この銅人形は、江戸時代の人々にとって最先端医療を学ぶ貴重な資料として役立っていたようです。


歴史資料「健康を考える」では、今回ご紹介した銅人形のほかに、
旅の必需品の携帯薬入れや、

懐中持薬入 近江屋安兵衛作 江戸時代・19世紀 徳川宗敬氏寄贈

当時の医療に関する書籍などが展示してあり、

覆載万安方 巻第54 59冊のうち 梶原性全著、坂璋写 江戸時代・天保6年(1835)

江戸時代の人々の医療事情を知ることができます。

また、健康に関する多くの書籍や資料から、当時の人々の健康への関心の深さがうかがえます。
今日のように医学が進歩していなかった江戸時代の人々の予防医療に学ぶこともあり、健康志向が高まっている現代で、興味をもたれる方も多い展示ではないでしょうか。


展示は2011年10月10日(月)まで。
お見逃しなく。

カテゴリ:研究員のイチオシ

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posted by 広報室Web担当 at 2011年09月11日 (日)

 

文様の表と裏

本館12室 漆工では、日本で独自の発展をとげた漆芸(しつげい)装飾技法、「蒔絵(まきえ)」による作品を展示しています。

蒔絵の作品は、器の内側にも文様が描かれていることが多く、蓋の裏側のなどの展示には、いつも悩みます。
特に硯箱の蓋の場合、必ずと言って良いほど、裏側にも図柄が描かれているのです。
あたりまえですが、表を上にして置くと裏が見えず、裏を向ければ表が見えず…

ところが以前、外国の美術館で、硯箱の蓋を垂直に立てて展示しているのを見ました。
なるほど確かに、そうすれば表も裏も同じように良く見えます。
でも垂直にするためには、蓋をフレームに嵌め込んで立てることになります。
硯箱の蓋がまるで、衝立のようでした…
表裏両面の図柄を見せるという意味では良いアイディアなのですが、箱の蓋としての存在意義が、
分かりにくくなってしまいます。

そこで私達が良く使うのは、このような鏡を用いた展示具です。

鏡に映ると図柄は反転してしまいますが、表側を見ながら、裏側にどんな文様が描かれているかも分かります。

最近本館12室をご覧下さった方はご存知と思いますが、この展示室は昨年末に改装して、
新しい展示ケースを導入しています。
ケース内に自由に角度を変えられるLED照明が入っているので、鏡に光を当てられるようになり、
以前より鏡に映った映像が明るく、見やすくなりました。



現在展示中の作品では、以下の硯箱の蓋表と蓋裏が、ご覧いただけるようになっています。
いずれも表と裏に異なる図柄を描いており、表裏あわせてお楽しみいただきたい作品です。

・重要文化財 男山蒔絵硯箱 室町時代・15世紀 (~11月20日まで展示)
男山は現在の京都府八幡市にあり、和歌にもよく詠まれた名所。
蓋の表には男山の景色を描き、裏にはその山頂にある岩清水八幡宮の社殿を描いています。

男山蒔絵硯箱
(左)蓋表、(右)蓋裏


・重要文化財 柴垣蔦蒔絵硯箱 古満休意作 江戸時代・17世紀 (~11月20日まで展示)
幕府の御用蒔絵師、古満派の代表作。
外側には、紅葉しはじめた蔦のからまる柴垣を精緻に描いています。
対して蓋の裏側には、雨の中を鷺が舞い降りようとする、その一瞬をとらえた図。

柴垣蔦蒔絵硯箱
(左)外側、(右)蓋裏

カテゴリ:研究員のイチオシ

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posted by 竹内奈美子(工芸室長) at 2011年09月08日 (木)

 

「空海と密教美術」展の楽しみ方  シリーズ(3)-2 彫刻

「空海と密教美術」展の魅力を知り尽くした、展覧会の担当研究員に直撃インタビュー。題して、「空海と密教美術」展の楽しみ方。仏像トークはまだまだ続きます。シリーズ(3)-1 彫刻の前半インタビューにつづく、後半をご覧ください。


『現代人は草食系がお好き?』

広報(以下K):研究員から見た、「密教の仏像を楽しむポイント」を教えてください。

丸山(以下M):まず「仏像曼荼羅」については、「お像と同じ高さの目線で見られる」こと。会場ではステージの上から全体を見渡せるので、宇宙のような曼荼羅の空間を体感していただけることと思います。次に「お像を360度から見られる」こと。どの角度から見ても美しく、新たな発見があります。また展示に関しては、「お像をより近くで」ご覧いただけるように心がけました。今までは気がつかなかったような細部の模様や、きれいなお顔立ちをご堪能いただけることと思います。

K:お顔といえば、現在東博ウェブサイト「仏像曼荼羅」人気No.1は?では、やはり帝釈天が大人気で堂々第1位です。

M:えーどうしてかなあ?!他のお像ももっとよく見てくださいよ!!

K:ええ、でも好みは人それぞれですから…

M:最近の日本人はすっかり草食系イケメンに傾倒しているようですが、金剛業菩薩の表情や体つきも見てみてください。均整のとれた筋肉に端整な顔立ち。さながらハンマー投げ選手のようでとても美しい。

    国宝 金剛業菩薩坐像 

国宝 金剛業菩薩坐像(五菩薩のうち) 平安時代・承和6年(839) 京都・教王護国寺(東寺)蔵

K:確かにがっちりしたお体をしていらっしゃいます。投票第2位の持国天もどちらかといえばマッチョですね。

M:いやいや、まだソフトな方ですよ。ハードなのは梵天。大変良い体つきをしています。欧米の方が投票したらきっと梵天が上位に入るはずです。
 

   国宝 梵天坐像 

国宝 梵天坐像 平安時代・承和6年(839) 京都・東寺蔵

K:確かに、国や時代によって好みは変化するかも知れません。なるほど、「仏像曼荼羅」はこういう観点で楽しんでも良いのですね…。
そういえば、個人的に気になったことがあります。東寺であれば大日如来がいらっしゃるあたり(展示室中央)にスポットが当たっているようですが、あの照明は意図されているのですか?

M:してません(あっさり返答)。あれは全体照明です。

K:そうですよね…失礼いたしました。たまたまあの光の中に入って全体を見回したとき、なんだか周りの仏像に護られているような、それでいて責任が重いような、そんな感じを抱いたので、つい…。

M:あぁ、そうかもしれませんね(再びあっさり)。


『世紀の大発見?!』

M:あとは、お像の足元にもご注目ください。邪鬼だけでなく、がちょう、象、馬、鳥など、たくさんの動物が活躍しています。私のおすすめは、醍醐寺の重要文化財 大威徳明王(五大明王像のうち 作品No.96 全期間展示)が乗っている水牛です。

K:本当にかわいいですよね!愛らしいまんまるの目に虜になった方も多いと思います。

M:足元といえば!私は今回の展示で、ある大発見をしてしまいました。新説があるので聞いてくれますか?私はこれでノーベル美術賞(注:そんな賞はありません)をとれると思っています。

K:どきどきしますね!どんなことですか?

M:国宝 兜跋毘沙門天立像(作品No.24 全期間展示)を下で支えている地天女。その両脇にいる二鬼にご注目ください。

 

国宝 兜跋毘沙門天立像 唐時代・8世紀 京都・東寺蔵 

左側が毘藍婆(びらんば)、右側が尼藍婆(にらんば)です。
これらの邪鬼と、和歌山・金剛峯寺蔵の国宝 八大童子立像(出品作品ではありません。画像は高野山霊宝館ウェブサイトをご覧ください)を見比べてみます。すると共通点があるのが分かります。

 毘藍婆

毘藍婆と恵光童子(えこうどうじ)は、髪型が酷似していると思いませんか?強いまなざし、眉毛の形、表情、輪郭など、全体の印象がそっくりです。

 

尼藍婆

 尼藍婆 

一方尼藍婆は、その特徴である太い眉や、きゅっと噛み締めた唇から飛び出した犬歯などが、そのまま清浄比丘童子(しょうじょうびくどうじ)に備わっているような気がします。
八大童子立像は、仏師・運慶が統率して制作されました。運慶は仏像修理のため東寺を訪れていますので、その際にこれを見て影響を受けたのではと考えます。
どうですか?似ているでしょう?

K:うーん…確かに、似ているところは似ていますね。

M:そうでしょう?他の研究員からは「似てないよ」と言われたのですが、絶対に世紀の大発見だと思っています!

K:仏像をいつも近くで見ている丸山さんだからこそ、この2つが繋がったのですね。それがとてもすごいと思います。世紀の大発見!かどうかは私には分かりませんが、そのような新たな説を伺うことが出来て、なんだかとても嬉しいです。もう一度、兜跋毘沙門天をきちんと見てみようと思います。
丸山さん、どうも有難うございました!

日本に真言密教を伝えた、空海の熱き思い。そして今、その息吹を感じ取ることが出来る「空海と密教美術」展。この貴重な展覧会は9月25日(日)までです。ぜひお早めにご来館ください。

丸山研究員
専門:彫刻 所属部署:博物館教育課 教育講座室長
図録を見比べながら、「ノーベル美術賞(注:ありません)受賞の連絡、まだこないなあ…」とつぶやく。子煩悩系研究員の一人。


「空海と密教美術」展の楽しみ方シリーズはこれで終了です。どうも有難うございました。
 

カテゴリ:研究員のイチオシnews彫刻2011年度の特別展

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posted by 小島佳(広報室) at 2011年09月03日 (土)

 

屏風をたのしむ:初級編~まずは大きさに注目!(後編)

さて、ブログ「屏風をたのしむ(前編)」の続きです。
本館7室「屏風と襖絵」で2011年9月25日(日)まで展示中の作品は、
どんな視点から大画面を構成しているのでしょうか?
その例を順にみていきましょう。


<その1:ある一瞬の場面を大きく描く>

蔦の細道図屏風
重要文化財「蔦の細道図屏風(つたのほそみちずびょうぶ)」 6曲1隻 深江芦舟筆 江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵

「伊勢物語」第九段の場面を描いた作品です。
都から関東地方へ下った在原業平が、駿河の宇津の山にさしかかったところ(蔦の細道)で、
偶然、顔見知りの修行者と出会います。
喜んだ業平は、その修行者に、都の愛する人に宛てた手紙を託すのでした。
画面は手紙を託された修行者が出発したところです。

部分
「蔦の細道図屏風」部分

名残惜しそうに背中を見つめる業平の周りを、赤く染まった蔦が彩ります。
ただ、この第九段、実は旧暦5月のお話なのです。
なぜ、初夏の場面が紅葉の秋として描かれたのでしょうか? 謎が謎を呼ぶ作品です。
この屏風の場合は、6枚のパネルを繋ぎ合わせた画面をフルに使い、
ある一瞬を切り取ったような表現をしている一例といえます。



<その2:たくさんの小さな絵をたくさん貼り付ける>

扇面散屏風
「扇面散屏風(せんめんちらしびょうぶ)」 6曲1双 宗達派 江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵

こちらは、大画面を活かす方法の変化球。
扇絵をたくさん貼り付けた「扇面散屏風」です。
左右合わせて60面ものさまざまな場面の扇絵が貼られています。


部分「清水寺図扇面」


部分「平家物語図扇面」

この絵の画家は、俵屋宗達とその弟子たちと考えられています。
宗達は都で扇屋を営む、扇絵制作のプロでした。
室町時代から江戸時代にかけて、扇は人々の間で頻繁にプレゼントされるいわば贈答品で、
贈答者の要望に合わせてさまざまな画題の扇が作られています。

この扇面散屏風も、よく見ると、「伊勢物語」や「源氏物語」「平家物語」のほか、
上賀茂社での競馬や清水寺、野の秋草など、
祭礼、風景、花鳥といったさまざまな扇が集められていることがわかります。


部分「賀茂競馬図扇面」


部分「菊図扇面」

そしてさらに細部をよくみると・・・扇には折り目が見えません!


部分「源氏物語図扇面」

つまり、これは使っていた扇を貼り付けたのではなく、
はじめから屏風に貼り付けるために描かれた絵なのです。

もともと扇面散屏風は、使い終わった扇の絵を惜しみ、
屏風に貼り付けたのがはじまりと考えられています。
しかし、次第にその扇の取り合わせや雰囲気を楽しむようになり、
未使用の扇絵を貼り込んだ作品も制作されるようになりました。

この作品では、たくさんの扇を一度に観賞することができます。
これも、大画面を持つ屏風ならではの絵の楽しみ方の一つです。



<その3:やはり大パノラマでなくては!>

粟穂鶉図屏風
重要美術品「粟穂鶉図屏風(あわほうずらずびょうぶ)」 8曲1双 土佐光起筆 江戸時代・17世紀 個人蔵

こちらは、8枚のパネルを繋ぎ合せた高さ1メートルほどの、少し背の低い屏風です。
粟穂の揺れる岸辺で、かわいらしい鶉(うずら)たちが思い思いに過ごしています。

「粟穂鶉図屏風」部分
「粟穂鶉図屏風」部分

広々とした景色が広がる様子は、まるでパノラマ写真のようです。
屏風の前に立つと、あたかも自分が秋の野に居るかのような気分になります。
これも大画面ならではの効果です。


いかがでしたでしょうか?
屏風は季節や場所、用途に合わせて実にさまざまな種類が描かれています。
東京国立博物館では、季節がめぐるごとに、また異なる作品をご紹介いたしますので、
上野にお越しの際は、ぜひ当館の本館2階の7室まで足をお運びください。
 

カテゴリ:研究員のイチオシ

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posted by 金井裕子(絵画・彫刻室) at 2011年09月02日 (金)