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1089ブログ

書を楽しむ 第1回「名前を探す」

書を見るのはとても楽しいです。

私は、書道教室に通ってもぜんぜん楽しめずに上手にならなかった、ごく普通の日本人です。
それが、いつのまにか書の魅力に取り憑かれ、書(字)を見て感激したり、癒されたりしています。
みなさんも、親しい人の字ならば、だれの字なのかわかるでしょう。
また、魅力的な手書きの字に、思わず惹きつけられませんか?

より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズをはじめます。

第1回目は、書の作品から、自分の名前を探してみましょう。

トーハクの総合文化展(平常展)では主に、本館の1室、3室、8室に日本の書の作品が展示されています。
自分の名前が見つかる確率が高いのは、1室から3室の最初に展示されている古写経です。

紺紙金字無量義経(平基親願経)(部分)
(左右ともに)紺紙金字無量義経(平基親願経)(部分) 平安時代・治承2年(1178)  (~2011年10月30日(日)展示 )

小林さん、大崎さん、王子さん、長井さん。
みつかりましたか?

8室では個性的な書風の字が見つかるかもしれません。

和歌屏風
(左右ともに)和歌屏風(部分) 近衛信尹筆 安土桃山時代・17世紀(~2011年11月6日(日)展示)

玉田さん、露崎さん いかがですか?

3室の「関戸本和漢朗詠集切」の中に、私の名前、「えみ」の「み」をたくさん見つけました。

関戸本和漢朗詠集切
(左右および以下画像3枚全て)関戸本和漢朗詠集切(部分) 源兼行筆 平安時代・11世紀
(~2011年10月30日(日)展示 )


でも、この「み」はもう一つです。



次の「み」は、小さめです。



この「み」が、カッコいいです!スッキリした形が私の好みです。



この1枚の中に、いろいろな「み」があります。
ときには小さく、ときにはイマヒトツでも、全体として見たときのバランスがいいです。
この作品はとくに『和漢朗詠集』なので、「和歌」(仮名)も「漢詩」(漢字)もありますが、その仮名と漢字の「調和が美しい」と解説にもよく書かれます。
この「調和」(バランス)の意味がじつはよくわかりませんでした…。
「調和」については、また別の回に考えましょう。

今回は、自分の名前を探してみました。
いい!と思った自分の名前の文字があったら、次に書くときに使ってみましょう。

さいごに必ず、作品の名称と解説の確認も忘れずに。
「関戸本和漢朗詠集切」は、平安時代に源兼行(活動確認期:1023~74)が書いたもので、愛知の関戸家が持っていたため「関戸本」と呼ばれます。
2011年10月30日(日)まで、本館3室(宮廷の美術)で展示しています。
ぜひ見てください。

カテゴリ:研究員のイチオシ書跡

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posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2011年10月15日 (土)

 

心惹かれる「陶片の美」

東京国立博物館としてはちょっと毛色の変わった、陶片のみの展示をいたします。

「せともののかけら」に心惹かれるのは何故でしょうか?

遺跡から出土する陶片は、産地や製作技法、製作時期や流通経路などを研究するために欠くことのできない資料です。
そればかりでなく、陶磁器は化学的に安定して堅牢な性質であるため、土中でも朽ち果てることなく、当初の色や輝きを保ちます。
東南アジアでは、はるばる海を越えて運ばれてきた磁器が割れたのちも、アクセサリーなどに加工することが行われています。

陶片は見る者の想像力に訴えかけます。
私たちがよく知っている器種の一部であることもあれば、未知の陶磁器の一部位であることもあります。
窯址に打ち捨てられた小さな陶片が、逆に今日残されているモノの意味を問いかけてくるのです。

このたびご紹介する米内山庸夫氏採集の南宋官窯址出土陶片は、謎に満ちた南宋官窯の実像解明に大きな役割を果たしました。

南宋官窯址出土陶片 南宋官窯 中国 浙江省杭州市郊壇下官窯址出土 南宋時代・12~13世紀


水町和三郎氏採集の唐津焼の陶片は、唐津焼の歴史をめぐってかつて大論争を引き起こしました。

道園窯址出土陶片(肥前窯址出土陶片のうち) 唐津 伊万里市松浦町提川字道園出土 安土桃山~江戸時代・16~17世紀


蜷川第一氏らによって採集された御室窯址出土陶片は、野々村仁清の作陶活動の知られざる一面に光を当てました。

御室窯址出土陶片 御室窯 京都府京都市右京区御室竪町出土 江戸時代・17世紀


小さな陶片が語る歴史の実像に、是非耳を傾けてみてください。


特集陳列「陶片の美」は2011年12月4日(日)まで。
本館14室でご覧いただけます。
 

列品解説「肥前の古窯址出土陶片」

カテゴリ:研究員のイチオシ

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posted by 今井敦(博物館教育課長) at 2011年10月03日 (月)

 

データベース時代の古写経調査

東京国立博物館では、この3月に『東京国立博物館図版目録 古写経篇』を刊行しました。

タイトルの示すとおり、当館が所蔵する奈良時代以来の写経を可能な限り調査し、学術的な研究や博物館での展示などに必要な情報を収載しました。
「写経」と言っても、巻物(巻子)や冊子の形になっているものだけではなく、数行だけの断簡(経切)になってしまった経典についても、それが何という名前か、確認に努めました。

25年くらい前に滋賀県の各地に分布する「大般若経」の文化財調査に参加したことがあります。
大般若経は全部で600巻もある大部なお経です。
本来何枚もの紙が継ぎ合わされて長い巻物になっていたものが、糊がはがれて1枚づつバラバラになっていました。
しかも同じような文章が繰り返し出てくるため、巻次が書いてあればともかく、部分的な経文だけで、第何巻かを特定するのは至難の業でした。
調査員のお一人が、大変苦労して行のかわる段落を特定した索引を作られており、それを手がかりに巻次を探ったものです。

ところが、コンピュータが普及して事態は大きく変わりました。
現代における仏教経典の代表的な集成である『大正新脩大蔵経(たいしょうしんしゅうだいぞうきょう)』の電子テキスト化が、「大蔵経テキストデータベース委員会」(SAT)によるプロジェクトによって進められ、その全文をウェブ上で検索することが可能になったのです。

大正新脩大藏經テキストデータベースは以下のリンクよりご覧いただけます。
http://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/SAT/

かつては経切があってもよほど著名な経典でない限り、わずかな文言をたよりに厖大な経典の中から経名を特定するのは、事実上不可能なことでした。
しかし大蔵経テキストデータベースの完成により、わずかな時間で経名や巻次をほぼピンポイントで確認することが可能になったのです。

経切手鑑(部分)
経切手鑑(部分) 奈良~室町時代・8~16世紀 (~2011年10月16日(日)展示)
赤い枠で囲った部分は、わずか1行分の経文ですが、データベースを検索すると「阿毘達磨大毘婆沙論」の一部であることがわかります。
(注)画像で表示の部分は今回の展示ではご覧いただけません。


今回の図版目録編集の基礎になったのは、国立博物館と文化庁所属の研究職員が参加し、数年にわたって実施した古写経調査ですが、その調査現場にはネットにつながったパソコンを置き、ほとんどの断簡について、その場で経名の特定を行うことができました。
情報社会の発達が学術的な調査にも多大な恩恵を与えているのです。
厖大な経典を入力、校正されたプロジェクトの方々には、本当に感謝しなければなりません。

今、本館 特別2室にて展示中の特集陳列「古写経の世界」(2011年9月6日(火)~2011年10月16日(日))では、奈良時代から平安時代にかけての写経の優品を中心にとりあげていますが、観覧される際に、幸運にも全体の姿が残された経だけではなく、わずか数行、時には数文字の断簡も等しく仏教経典としての価値と歴史を含んでいることを、頭の片隅に置いていただければ幸いです。

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posted by 田良島哲(調査研究課長、書籍・歴史室長) at 2011年10月01日 (土)

 

最近注目の浮世絵師「歌川国芳」

歌川国芳は最近注目の浮世絵師。

10年以上前のこと、朝日新聞社から出版された「浮世絵を読む」という6冊シリーズの本を制作するために、浮世絵研究の泰斗浅野秀剛大和文華館館長と近世都市史研究の第一人者吉田伸之東大教授のもとで勉強会を開いたことがありました。
浮世絵師6人を取り上げるのですから、「六大浮世絵師」と呼ばれる、鈴木春信・鳥居清長・喜多川歌麿・東洲斎写楽・葛飾北斎・歌川広重を選ぶのが普通ですが、上品で健康的な美人画で知られる清長ではなく、こともあろーに、アウトロー国芳を選ぶことになったのです。
その首謀者は、身分的周縁論を展開している吉田先生、そして子供の頃から国芳びいきの私です。
その席にいた浅野先生は千葉市美術館で「鳥居清長展」(2007年4月28日(土)~2007年6月10日(日))を開催しているのですが、やはりこれに賛同。
新六大浮世絵師での出版が杯を手にしながら決まったのです。
そして今年は、没後150周年にあたり各地で展覧会が開かれ大入りの人気のようです。

私が子供の頃から国芳を知っていたのは、浮世絵少年だったからではありません。
弘前生まれの私は、夏の祭りねぷたをこよなく愛していました。
そこに登場するのが三国志・水滸伝の英雄たち。
小学生が『三国志』の関羽や張飛、『水滸伝』の花和尚や九紋竜史進、そして張順を見つけて喜ぶような土地なのです。
今でこそゲームの重要キャラクターとして子供にも人気がありますが、弘前は江戸の名残がまだあったのです(というより、ねぷたという祭りが江戸感覚の名残なのです)。
その手本になったのが、北斎やその弟子の「三国志もの」、そして国芳の描いた「通俗水滸伝豪傑百八人一個」のシリーズ。
今回展示の張順の水門破り図もかつて祭りで見たことがあります。

通俗水滸伝豪傑百八人・浪裡白跳張順
通俗水滸伝豪傑百八人・浪裡白跳張順 歌川国芳筆 江戸時代・19世紀
(~2011年10月16日(日)展示)


この図柄は、火消しに好まれたようで、火消し半纏の内側にも描かれました。
現在も刺し子半纏やスカジャンで好まれているとのこと、男気の象徴でしょうか。

もっともこの図は、刺青の下図としてもよく利用されています。
こちらはなかなか見比べにくいのでしょうが、国芳の版画は、本館10室(浮世絵と衣装―江戸(浮世絵))でじっくりとご覧ください。

なお、今回の展示(~2011年10月16日(日)展示)と次回の展示(2011年10月18日(火)~11月13日(日))は、国芳の作品を中心に構成しております。
今回は、武者絵のほかに美人画を加え、


山海愛度図会・つづきが見たい 歌川国芳筆 江戸時代・19世紀
(~2011年10月16日(日)展示)


次回は風景画を中心にしての展示です。


東都御厩川岸之図 歌川国芳筆 江戸時代・19世紀
(2011年10月18日(火)~11月13日(日)展示)


どちらもお見逃しなく!

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posted by 田沢裕賀(絵画・彫刻室長) at 2011年09月27日 (火)

 

一遍と行く京都 ~国宝室 一遍上人伝絵巻~

こんにちは、平常展調整室の瀬谷です。

秋。

みなさんは秋にはどんなことをしたくなりますか?

わたしは旅をしたくなります。
今年はとくに、特別展「法然と親鸞 ゆかりの名宝」(2011年10月25日(火)~2011年12月4日(日))の準備にずっと集中していますので、ふとそんな気持ちになるのかもしれません。

こういうときは、遠くへ連れて行ってくれる絵をみるのが良薬になります。

今日は、国宝室に展示中の「一遍上人伝絵巻(一遍聖絵)」巻第七で、京都へ行ってみましょう!


本館 2室国宝室
こちらは本館2階の国宝室。
ゆっくり国宝とご対面いただける部屋です。

展示中の「一遍上人伝絵巻」(法眼円伊筆 鎌倉時代・正安元年(1299))は、
諸国を遊行しながら念仏を広めた時宗の開祖・一遍(1239~1289)の行状を描いた絵巻です。
絵巻ではめずらしい絹地に描かれていて、 平成の本格修理では、裏からも彩色が施されている(裏彩色)ことがわかりました。
なるほど、このやわらかくて深みのある色合いは、そうした技法によっているわけです。

一遍上人絵伝 四条京極
さて、陸奥国江刺(現在の奥州市)から、松島、平泉、常陸、鎌倉、三島、美濃、尾張を経て、
近江から京に入った一遍は、四条京極の釈迦堂につきます。


一遍上人絵伝 四条 拡大
ここで「南無阿弥陀仏」と記された念仏札を配ると、
それを求めて貴賎老若男女、多くの人が押し寄せ、身動きがとれないほどのにぎわいになったといいます。
今でもお祭り・観光シーズンの四条河原町周辺は身動きがとれなくなりますが、 あのような感じだったのでしょうか。


一遍上人絵伝 市屋
こちらは、一遍が敬慕した空也上人(903~973)ゆかりの市屋に、一遍らが道場を建て、念仏踊りをする様子です。
見物に来る人たちの生き生きした表情。
有名なこの群集表現は、やはり圧巻です。
場所は、今の七条堀川、西本願寺や龍谷ミュージアムがあるあたりです。


一遍上人絵伝 桂川
さて、都会に少し疲れたら、郊外に行ってみましょうか。
桂川です。

一遍上人絵伝 桂川 拡大
仕掛けられた梁には川魚がはね、舟の上では鵜匠が鵜をしっかりと抱いています。
水遊びも楽しそうです。

詞書によれば、一遍が桂へ移動したのは5月22日だったとのことで、 ここで病気になってしまったそうです。
旅先で病むのは心細いものですが、 巻第8以降では力を取り戻して、西の丹波方面へ向かい、
さらに北、丹後久美浜へと遊行を続けます。


旅をするとき、私たちはいわゆるガイドブックを参考にするものですが、 北は岩手から、南は鹿児島まで、
多くの寺社や名所、先祖ゆかりの地を遍歴した一遍の旅を踏襲してみるのも、おもしろいかもしれません。
同じように、法然、親鸞、雪舟、芭蕉などの跡を追うのもいいですね。

さぁ、この秋はどこへ行きましょうか。

東博?

国宝室で一遍と京都に行けるのは、10月2日(日)までです!

カテゴリ:研究員のイチオシ

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posted by 瀬谷愛(平常展調整室) at 2011年09月18日 (日)