本館3室と11室で善光寺本尊について考える
長野・善光寺の本尊は絶対の秘仏で写真さえありません。
7年に一度御開帳があるのは、実はお前立ち(本尊の身代わり)で、本尊の厨子が開くことはありません。
お前立ちは鎌倉時代の作。本尊と同じ姿と言われていますが、確認はできないのです。
けれどもお前立ちと同じ姿の像は関東地方を中心にたくさん残っています。
善光寺の本尊は、日本で最も古い仏像と信じられていたので、仏教の原点に帰ろうという気運の盛り上がった鎌倉時代にその模造が大流行したのです。
本館3室<仏教の美術>に展示されているいわき市の阿弥陀三尊像はその典型的な作例です。
銅造阿弥陀三尊像(善光寺式)鎌倉時代・13世紀 福島・如来寺旧蔵 福島・いわき市蔵
一つの光背に三尊がおさまる形式、中尊は左手の第2・3指を伸ばし、ほかの指を曲げる形、両脇侍が胸の前で両手を重ねる形に注目してください。
本館11室<彫刻>に展示されている阿弥陀三尊像(列品番号C-93)は、光背、台座がなくなってしまいましたが、そのほかは同じでしょう。
重要文化財 阿弥陀如来および両脇侍立像 鎌倉時代・建長6年(1254) C-93
この像は背中に字が刻まれていて、善光寺如来を模して建長6年(1254)栃木県の那須で造られたことがわかります。
実は、11室では現在もうひとつこの形式の像を展示しています。ふだん法隆寺宝物館で展示している三尊像(列品番号N‐143)に出張してもらいました。
比べてみてください。
如来および両脇侍像 朝鮮三国時代・6~7世紀 N‐143
こちらは6~7世紀のおそらく朝鮮半島の作。善光寺本尊にとても近い時期の作です。
多分、この三尊像(N‐143)と善光寺の本尊はとてもよく似ているだろうと思います。
この朝鮮半島の三尊像と日本の善光寺式阿弥陀三尊像の細部を比べてみましょう。
まずは中尊の左手。
善光寺式(いわき市) 善光寺式(C-93) 朝鮮半島の三尊像(N‐143)
脇侍の手はどうでしょう。
善光寺式(いわき市) 善光寺式(C-93) 朝鮮半島の三尊像(N‐143)
そして、脇侍の宝冠です。
善光寺式(いわき市) 善光寺式(C-93) 朝鮮半島の三尊像(N‐143)
よく見ると違う点もありますね。
それは秘仏本尊をごく短時間拝することを許された人(夢に見たということになっています)のスケッチがわかりにくかったからかもしれません。
また、顔や服の着方も違います。模像の方は、ほぼ鎌倉時代の様式で造られているためです。
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posted by 浅見龍介(東洋室長) at 2011年05月28日 (土)