「つくり方」都々逸-リョウシシッポウニンギョウカガミ 見方がわかる 見方が変わる
いよいよミンミンゼミが鳴きはじめ、夏真っ盛りといったこのごろ、今年もやってきました、「日本美術のつくり方」シリーズ。伝統的な日本美術の技法をとりあげ、実際の作品とともに、作品ができあがってゆくプロセスを追った工程見本や、道具・材料などを展示し、日本美術にいっそう親しんでほしい。そういう願いで始まったこの展示も、第4弾目をかぞえることとなりました。今回のテーマは、料紙装飾・七宝・人形・銅鏡の4つ。(タイトルの都々逸-どどいつの意味、おわかりになりましたか?後半がちょっと、字余りですけど)その中から、いくつかご紹介しましょう。
まずは、ずらっと並んだ首たち。「人形の胡粉仕上げ」の工程見本です。木を彫って形をつくり、カキの貝がらを粉末にした胡粉(ごふん)を、ていねいに塗りかさね、色を付け毛を植えるなどして、顔がしだいに整えられていきます。有名な人形師であった、原米洲(はらべいしゅう 明治26~平成元年 1893~1989)さんが制作した技術記録。これまであまり展示されることのなかった、貴重な記録です。恐がらなくても、大丈夫。このお顔は、五月人形でもおなじみ「神武天皇(じんむてんのう)」。子供の成長をしずかに見守る、力づよい表情が、表わされているのです。
人形の胡粉仕上の技法製作工程見本 原米洲作 昭和42年(1967)
次は、銅鏡とその鋳型(いがた)。平安時代後期(12世紀)ころの鏡づくりを、復元したものです。数年前にその存在に気付き、それいらい注目していたものでした。というのも、鏡には「秀真」の文字が記されており、作者が香取秀真(かとりほつま 明治7~昭和29年 1874~1954)さんと考えられるからです。香取氏は、金属工芸の作家や、研究者たちにとっては、知らない人がいないだろうというほどの、金工の研究、制作、収集の大家です。これらの資料も、従来ほとんど展示されたことがなかったようですが、当時の鏡鋳造(ちゅうぞう)を、かなり忠実に復元しているように、私には思われます。
雙鳥芍薬鏡鋳型 香取秀真作 昭和時代・20世紀
会場には、江戸時代の柄鏡(えかがみ 取っ手のついた鏡)も展示しています。今のガラス鏡と違って、むかしの鏡は銅でつくられていました。ホントに顔が映るのか?ぜひ、確認しにきてください。
映っているかな?
南天樹柄鏡 平安城住青盛重作 江戸時代・18世紀 徳川頼貞氏寄贈
親と子のギャラリー「日本美術のつくり方IV」(本館特別2室、2013年7月17日(水)~8月25日(日))
カテゴリ:教育普及
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posted by 伊藤信二(教育普及室長) at 2013年07月23日 (火)
7月17日(水)から本館2階特別1室で開催している特集陳列「断簡―掛軸になった絵巻―」(8月25日(日)まで)。この陳列では、当館所蔵品を中心とした物語絵巻の断簡を5つのテーマからご紹介しています。
そもそも「断簡」とは、もとは巻子装だった絵巻などを掛軸に仕立て直した作品のこと。絵巻は物語を記した詞書とともに制作されますが、断簡となることによって詞書と分かれてしまい、何を描いているのか分からなくなってしまった作品も少なくありません。
例えば今回展示している男衾三郎絵巻断簡。
男衾三郎絵巻断簡 鎌倉時代・13世紀 東京国立博物館蔵
愛らしいこの小さな断簡は、もともと「千代能姫之画」という名称で伝来しました。千代能姫は鎌倉時代の御家人安達義景の娘で、夫である北条実時の死後に出家。谷間で水を汲んでいた際、悟りを開いたとされる人物です。千代能姫が水を汲んだのは谷間のはずなのに、この断簡では女性二人が井戸で水を汲んでおり、千代能姫の説話内容とは若干異なります。
そこで細部によく目を凝らしてみると、井戸の左手、秋草にすだく虫が描かれていることに気付きます。
男衾三郎絵巻断簡に描かれた虫(右は拡大)
中世の多くの絵巻の中で、このように虫を描く作品はそう多くありません。そんな虫を描く数少ない作品の一つ、男衾三郎絵巻に描かれた虫と見比べてみると、 実によく似ていることが分かります。そんな観点で改めて二つの作品を見比べてみると、草の描き方、女性の表現などもそっくり(この点は会場でぜひ お確かめ下さい。井戸のわきには小さなカニも描かれています。こちらもご注目)。
男衾三郎絵巻に描かれた虫(右は拡大)
いっぽう、男衾三郎絵巻の第六段と第七段の詞書は連続し、第六段の絵が失われています。この第六段では、慈悲という姫君が父の死後、叔父の男衾三郎の家に引き取られた後、女性の美の象徴とされる長い髪を切られ、「馬の麻衣」を着せられ、日夜井戸で厩の水を汲まされたと記されています。短い髪、粗末な衣をまとう姫君の姿は、まさにこの内容に合致します。
あわせて、男衾三郎絵巻(模本)には、「原本には見えないが、別の模本にあるのでここに挿入する」と注記された厩の図があり、慈悲が厩の水汲みをしたという内容にも一致することから、この第六段を描くものであったと考えられます。
(左) 男衾三郎絵巻断簡(部分) 髪を切られ、「馬の麻衣」を着す慈悲
(右) 男衾三郎絵巻(模本) 狩野晴川院〈養信〉ほか模 江戸時代・文化13年(1816) 東京国立博物館蔵
つまり、失われたはずの男衾三郎絵巻第六段の絵は、断簡と模本によって往時の姿を復元することができるというわけです。
男衾三郎絵巻 第六段の詞書に相当する模本と断簡
ちなみにこの断簡は、絵巻の模写などで知られる田中親美の旧蔵で、いまからおよそ60年前、田村悦子という研究者によって男衾三郎絵巻の断簡であることが明らかにされました。
男衾三郎絵巻のうち、第六段の絵が分かれてしまった理由は分かりません。しかしながら、往古の絵巻作品を愛で、断片となりながらも断簡として伝えようとした先人たちの想いがあったからこそ、分かれてしまった絵巻と断簡はいま、私たちの前で再会を果すことができたのです。
特集陳列「断簡―掛軸になった絵巻―」には、このような絵巻の伝来をめぐる様々なドラマが盛りだくさん。この陳列にあわせ、本館3室仏教の美術では華厳五十五所絵や過去現在絵因果経、同宮廷の美術では鳥獣人物戯画や馬医草紙など、絵巻断簡を多く展示しています。あわせてご覧下さい。
カテゴリ:研究員のイチオシ
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posted by 土屋貴裕(平常展調整室研究員) at 2013年07月20日 (土)
2013年7月17日(水)、東京都美術館にて「日本美術の祭典」の報道発表会を行いました。
壮大なタイトル!
でも、なぜ東京都美術館(以下トビカン)で報道発表会?!
それは、トビカンとトーハクの初コラボレーションが来春実現するからです。
「日本美術の祭典」ポスター
トーハクでは、「クリーブランド美術館展―名画でたどる日本の美」(2014年1月15日(水)~2月23日(日) 平成館特別展示室第1・2室)と、
日本伝統工芸展60回記念「人間国宝展―生み出された美、伝えゆくわざ―」(同期間 平成館特別展示室第3・4室)を開催します。
そしてトビカンでは、日本美術院再興100年 特別展「世紀の日本画」(2014年1月25日(土)~4月1日(火))を開催します。
両館ともテーマが「日本美術」、そしてほぼ同時期の開催ということで、3つの展覧会をご覧いただき、古代から近代にかけての美意識を一連で感じていただきたいという思いで、このプロジェクトが立ち上がりました。
主催者を代表して当館副館長 島谷弘幸は、
「今まで当館にいらしたことのない方も、この機会にぜひ両館に足をお運びいただけるよう、一体となってプロジェクトを盛り上げて行きたい」と、意気込みを語りました。
(左から)東京国立博物館 島谷弘幸副館長、東京都美術館 真室佳武館長、公益財団法人日本工芸会 室瀬和美副理事長、公益財団法人日本美術院 松尾敏男理事長
後半は、「日本美術の伝統と革新、そして未来へ」という題でパネルディスカッションが行われ、
特別展「世紀の日本画」監修の東京芸術大学 古田亮先生をコーディネーターに迎えて、熱い議論が繰り広げられました。
(左から)古田先生、島谷副館長、室瀬副理事長、日本美術院 田渕俊夫代表理事
そして!今回のコラボでの大注目は、「3展共通特別先行前売券」です!
3つの展覧会が見られて、なんと1000円!5000枚限定、8月1日(木)~9月30日(月)の期間限定の、スーパーお得前売券です。
(会期が前期・後期に分かれる特別展「世紀の日本画」は、前期・後期のいずれかお好きな方をご覧いただけます。)
※画像はイメージです。デザインや仕様は変更になる場合があります。
こんなにお得なチケットは、トーハク史上初です。
ぜひ展覧会公式ホームページをチェックしてみてください。売り切れ必至ですのでお早めにどうぞ。
今後は展覧会グッズなどのおみやげや、交通広告の展開などでもコラボしていく予定です。
3つの異なる視点で日本美術の楽しさを感じていただける「日本美術の祭典」。
内容の詳細は、これからこのブログでもご紹介していきます。どうぞご期待ください。
カテゴリ:news、2013年度の特別展
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posted by 小島佳(広報室) at 2013年07月19日 (金)
7月12日(金)。
特別展「和様の書」の報道内覧会と開会式が行われました。
猛暑の中、たいへん多くの方にお集まりいただきました。
心から感謝申し上げます。
さて、開幕を明日に控えた特別展会場の一日を振り返ってみましょう。
午前9時 朝いちばんに、NHKの特別番組の収録が行われました。
女子高生が熱心に作品を見て、メモを取っています。
ここは架空のトーハク女子高。夏期講習の真っ最中という設定です。
番組の詳細は追ってお知らせします。どうぞお楽しみに!
午後2時 報道内覧会。
開会式より一足早く、報道関係の皆さんに展示室のお披露目をします。
より多くの方に展覧会のよさを知っていただくためには、
様々な媒体で取り上げていただくことが重要なのです。
まずは、島谷副館長が展覧会の趣旨を説明。
さらに展示室では、展覧会を担当した3人の研究員によるギャラリートークが行われました。
午後6時 いよいよ開会式です。
このあと、三跡の格調高い文字が、高野切の優美な仮名が、王朝の料紙のきらめきが
多くのお客様の心を魅了しました。
日本人の美意識の高さを改めて感じさせてくれるこの展覧会。
是非、その目で実感していただければと思います。
カテゴリ:2013年度の特別展
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posted by 小林牧(広報室長) at 2013年07月12日 (金)
現在、特集陳列「平成24年度 新収品」(7月7日(日)まで、本館 特別1室・特別2室)が開催されています。
トーハクでは、展示や研究を充実させるため、作品を収集しています。
その方法には2種類あります。
第一は購入です。国から交付される予算または外部からの寄附金により作品を購入する方法です。
第二は寄贈です。個人または団体から寄贈される作品を受け入れる方法です。
東博の各分野の研究員は日頃から情報収集につとめ、購入候補作品を探しています。
研究員は候補作品を一時的に所蔵者からお預かりし、作品についての研究を進め、国立博物館として展示するにふさわしい作品かどうかを判断します。ふさわしいと判断できた場合、研究員は作品についての説明書を作成します。説明書と候補作品は、通常1年に1回開かれる会議で審議されます。
購入の会議は、その年の全分野の購入候補案件をまとめて審議し、予算に応じて候補作品をさらに絞り込みます。その後、外部の有識者による購入の適否の審議と買取価格の評価を経て、正式に購入作品が決定されます。寄贈の会議は、必要に応じて随時開かれ、受け入れの可否を審議します。
私が博物館で担当している分野、すなわち中世水墨画のコレクションにおいては、良質な花鳥画が少ないので、花鳥画を軸にすえて収集に努めています。
(左)鶺鴒図 室町時代・16世紀
(右)蔬菜図 狩野秀頼筆 室町時代・16世紀
いずれも賛助会費による購入作品。本特集陳列にて展示中。
ここ数年は運よく、「鶺鴒図」、狩野秀頼筆「蔬菜図」、前回のブログでご紹介した没倫紹等筆「葡萄図」に出会うことができました。これらの購入作品が前述の会議で了承され、コレクション充実の一端を担えたことを担当者として大変うれしく思います。
カテゴリ:研究員のイチオシ
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posted by 救仁郷秀明(登録室・貸与特別観覧室長) at 2013年07月02日 (火)