ほほーい、ぼくトーハクくん! 今日のぼくは、ひと味ちがうんだほ。ユリノキちゃん見て見て!
本当だ、トーハクくん、今日はおめかししてるのね。
インドの細密画にたくさん描かれているヒンドゥー教の神様、クリシュナ風のコスプレだほ! そう言うユリノキちゃんも、いつもと服が違うほ?
私のはクリシュナのパートナー、ラーダーの衣装がモチーフなのよ。ところでトーハクくん、私たちがお着替えした理由、覚えてる?
も、もちろんだほ?!
もう、しっかりして! 今週開幕した「博物館でアジアの旅」[9月8日(火)~10月11日(日)] を皆様にご案内するためじゃない。
(そうだったほ!)大丈夫だほ、秋のトーハクといえば「アジアの旅」ほ! 今年で7回目になる恒例企画だほ。
そうそう、東洋の美術・工芸・考古遺物を展示している「東洋館」を舞台に、毎年違うテーマでアジア各地の名品をご紹介しているのよね。今年のテーマは「アジアのレジェンド」なの。
埴輪界のレジェンドを目指すぼくとしても、見逃せないテーマだほー。
ただ、去年までと違って、今年はご来館前に日時指定券の事前予約をお願いしているの。それに「博物館でアジアの旅」と言えば研究員が添乗員に扮して展示室をご案内する「スペシャルツアー」が定番だったけれど、新型コロナウイルス感染拡大予防のため、残念ながら今年は見合わせることになったんですって。
がーん!!! ぼく一人じゃ、あの大きな東洋館をどう回ったらいいかわからないほ……。
安心してトーハクくん、館内で無料配布中の「博物館でアジアの旅 2020 PASSPORT」があるわ! ここには「アジアのレジェンド」の主な関連作品を見つけるためのヒントが載っているのよ。パスポートの答えは、同じく館内で配布しているオリジナル・シールを見ればわかるんだって。展示室を回った後にシールを受け取って、答え合わせしてみてね。
パスポートおよびオリジナル・シールは、10月11日(日)までの間、東洋館インフォメーションでお配りしています。※数に限りがございます。
それに、ガイドブックに見立てた図録では、主な関連作品について詳しく解説されているの。これを読めば「アジアのレジェンド」への理解が深まること間違いなしよ!
ガイドブックは、本館・東洋館のミュージアムショップで販売中です。
さすがユリノキちゃん! 安心したほー。それじゃあ早速この2冊をお供に、「レジェンドを探す旅」へ出発だほー!
「博物館でアジアの旅」は関連作品が館内のあちらこちらに散りばめられているから、テーマにちなんだ作品を探しつつ、各展示室をぶらぶら散策するのが楽しいよね。
うんうん。これまで気づかなかった面白い作品を発見できることもあるから、わくわくするほ!
ところでトーハクくん、「レジェンド」ってどういう意味か知ってる?
改まって聞かれると困るほ……なんかすごい人のことだほ!
ちょっと惜しいかも。「レジェンド」はもともと「伝説」を意味する言葉なの。そこから今トーハクくんが言ったような「偉人」などといった意味が派生したんですって。最近は「殿堂入り」を果たしたスポーツ選手や芸能人もレジェンドと呼ばれたりするわよね。
ほほー、なるほどー。一言で「レジェンド」と言ってもいろいろだほ。
まさにそうなの。だから今回は、そうした意味の広がりを踏まえながら、レジェンドにまつわるいろいろな作品をご紹介しているのよ。「博物館でアジアの旅」の関連作品は、そばにオレンジ色の札が付いているから、それを目印に探しましょう。
この札があるものは「博物館でアジアの旅 アジアのレジェンド」関連作品です。
あ、クリシュナがいたほ!
ゴーヴァルダナ山を持ち上げるクリシュナ(部分) ビーカーネール派 インド 18世紀後半 東京国立博物館蔵 東洋館13室にて通期展示
トーハクくんの衣装のモデルになった絵ね。クリシュナはインド神話の英雄で、指一本で山を持ち上げて、牛飼いたちを雨から守ったんですって。
すごい力だほー!ぼくもそんなパワーがほしいほ。
粉彩牡丹文大瓶 中国・景徳鎮窯「大清雍正年製」銘 清時代・雍正年間(1723~35) 横河民輔氏寄贈 東京国立博物館蔵 東洋館5室にて通期展示
こっちは大きな瓶だほー。お花の絵がとってもきれいだほ。でも、これはどこが「レジェンド」なんだほ?
この作品は、東洋陶磁収集のレジェンドとされる、建築家の横河民輔氏が集めたコレクションのひとつなの。今回は「レジェンドが集めたもの」として、横河コレクションの優品がたくさん展示してあるのよ。
顔氏家廟碑 顔真卿筆 中国 唐時代・建中元年(780) 東京国立博物館蔵 9月22日(火・祝)まで東洋館8室にて展示
こっちも大きい作品だほ! 迫力満点だほー。
こちらは書の世界のレジェンド的存在、顔真卿(がんしんけい)の代表作と評される作品よ。こんなふうに「レジェンドが作ったもの」もご紹介しているの。でも、こちらの作品をはじめ、一部の作品は「博物館でアジアの旅」の期間途中で展示が終了するので、お目当ての作品がある方はご来館前に作品リストで展示期間をお確かめくださいね。
わ、レジェンドな作品がいっぱいあるほ! ぼくの旅はまだまだこれからだほー!
「博物館でアジアの旅 アジアのレジェンド」は10月11日(日)までです。ぜひ皆様も異国情緒たっぷりの東洋館で、「レジェンドを探す旅」をお楽しみください。
カテゴリ:考古、中国の絵画・書跡、博物館でアジアの旅、絵画、工芸
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posted by トーハクくん&ユリノキちゃん at 2020年09月10日 (木)
2020年10月6日(火)~11月29日(日)、平成館にて特別展「桃山―天下人の100年」が開催されます。
日本美術史上最も豪壮で華麗な「桃山美術」を中心に、室町時代末から江戸時代初期にかけて移り変わる美意識を、数々の名品によってご覧いただける展覧会です。
開幕に先立ち、主な見どころをご紹介します。
唐獅子図屛風(からじしずびょうぶ)
狩野永徳筆 安土桃山時代・16世紀 東京・宮内庁三の丸尚蔵館蔵
後期展示(11月3日(火・祝)~11月29日(日))のみ
【見どころ1】
豪華絢爛!華麗なる桃山美術の世界
黄金輝く障屏画、豪壮な水墨画など、天下人が夢を追い求めた時代の華々しい美術を堪能いただけます。
また、室町末から江戸初期まで約100年間の美術作品を通して、「桃山美術」が何を受け継いで誕生し、後世にどのような影響を与えたのかを感じていただける展示構成です。
織田信長や豊臣秀吉、徳川家康をはじめ、教科書で見覚えのある戦国武将や茶人、文化人ゆかりの名品が並びます!
国宝 檜図屛風(ひのきずびょうぶ)
狩野永徳筆 安土桃山時代・天正18年(1590) 東京国立博物館蔵
前期展示(10月6日(火)~11月1日(日))
【見どころ2】
戦国ファン必見!戦国武将ゆかりの作品
安土桃山時代は、常に戦闘があった時代でした。そのため、生死を決する刀剣や甲冑は新たな展開を見せ、これまでにない武器や武具が流行しました。武将たちの「生死をかけた装い」をご覧ください。
【左】重要文化財 銀伊予札白糸威胴丸具足(ぎんいよざねしろいとおどしどうまるぐそく)
安土桃山時代・16世紀 宮城・仙台市博物館蔵
前期展示(10月6日(火)~11月1日(日))
【右】重要文化財 刀 無銘 伝元重 朱漆打刀(かたな むめい でんもとしげ しゅうるしのうちがたな)
(刀身)前元重 南北朝時代・14世紀
(刀装)安土桃山~江戸時代・16~17世紀 東京国立博物館蔵
【見どころ3】
絵画、武具甲冑から、茶道具、高台寺蒔絵、南蛮美術まで!あらゆる分野の名品約230件が集う
華麗な障屏画や戦国武将の武具甲冑のみならず、意匠性優れた桃山茶陶や、世界へと視野を広げた南蛮美術も桃山美術の特徴です。その様々な分野から、優品を集めています。
まず絵画では、狩野元信から孫の永徳、その孫の探幽の作品をはじめ、永徳のライバル長谷川等伯や海北友松、雲谷等顔による障屛画や、江戸時代初期の風俗画も展示。
そして上杉謙信や豊臣秀吉、伊達政宗など戦国武将ゆかりの武具甲冑、千利休や古田織部ゆかりの茶道具のほか、中世から近世にかけて、激動の時代に生まれた名品の数々、約230件!
全国を駆け回らないと見ることのできない作品が、一堂に会します。
国宝 楓図壁貼付(かえでずかべはりつけ)
長谷川等伯筆 安土桃山時代・文禄元年(1592)頃 京都・智積院蔵
【左】重要文化財 黄瀬戸立鼓花入 銘 旅枕(きせとりゅうごはないれ めい たびまくら)
美濃 安土桃山時代・16世紀 大阪・和泉市久保惣記念美術館蔵
展示期間:10月27日(火)~11月29日(日)
【右】重要文化財 花鳥蒔絵螺鈿聖龕(かちょうまきえらでんせいがん)
安土桃山時代・16世紀 九州国立博物館蔵
前期展示(10月6日(火)~11月1日(日))
戦国武将が争う下剋上の時代から、江戸幕府による平和な治世へと移り変わった時代。
政治だけでなく美術においても変革の時代に花開いた「桃山美術」の輝きを、ぜひ特別展「桃山―天下人の100年」でご覧ください!
※本展は、インターネットでの事前予約(日時指定券)制となっております。
詳しくは展覧会公式サイトをご確認ください。
カテゴリ:2020年度の特別展
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posted by 苅米紀子(広報室) at 2020年08月28日 (金)
表慶館で9月21日(月・祝)から開催される特別展「工藝2020-自然と美のかたち-」について、トーハクくんとユリノキちゃんが紹介します。
うーん暑い暑いほ。暑いときは家でネットサーフィンに限るほ。さーて、井上副館長のオンラインギャラリーツアーも見たし、次は何をみるほ?
トーハクくん、9月21日(月・祝)からはじまる特別展「工藝2020-自然と美のかたち-」のウェブページはみたかな。
みてないほ。お、ここにあったほ。ふむふむ。これは現代の工芸作品を展示する展覧会ほ?
そうよ。重要無形文化財保持者(人間国宝)や日本藝術員会員の中堅、時代を担う若手の作家など82人の作品を1件づつ展示するのよ。
ほー、ということは82件も見れるんだほ、すごいほ! ユリノキちゃん、サブタイトル「-自然と美のかたち-」についても説明してほしいんだほ。
うん。日本の文化や工芸には、ありのままの自然が美しくて、調和しているととらえる芸術思想があるの。今回はそれを踏まえて、自然と工芸の関係性をテーマに展示するのよ。
ふーんだほ。でも、なんかまだピンとこないほ。
えーと、これならどうかしら。この展覧会は、第1章「金は永遠に光り輝き、銀は高貴さに輝く」、第2章「黒はすべての色を内に吸収し、白はすべての光を撥する」、第3章「生命の赤、自然の気」、第4章「水の青は時空を超え、樹々と山々の緑は生命を息吹く」と4つのニュアンスで構成されているわ。
色に注目しているほ?
そうね、工芸素材の色合いや自然を彩っているこれら4つのニュアンスを、生命の象徴のようなものと考えているのよ。
なるほどだほ。赤は燃えている色、生命が頑張っているようなイメージを感じるほ!
そう。会場では、工芸作品から生命のオーラのようなものを感じられるかもしれないわね。
どんな気持ちで見ればいいかはわかってきたけど、実際にはどんな作品が展示されるほ?
じゃ少しだけど、二人で一緒に見てみよう!
柏葉蒔絵螺鈿六角合子 室瀬和美作 平成26年(2014) 個人蔵
ほー、金と銀の輝きが綺麗だほ。
金粉とかを蒔いて漆を塗り、乾いたら表面を磨いて、下の蒔絵の層を出す。研ぎ出し蒔絵っていう技法が使われているのよ。
白瓷面取壷 前田昭博作 平成29年(2017) 個人蔵
こっちはシンプルな形だほ。
器の肌にできる影で、色々な表情が見られるみたい。
流紋―2018 本間秀昭作 平成30年(2018) 個人蔵
えーと、魚のヒレみたいにも見えるほ。
波のうねりと波しぶきが表現された作品よ。
海から天空へ 奥田小由女作 平成30年(2018) 個人蔵
お母さんから子どもへの想いが感じられほ。
それに、生命の尊さに対する想いも感じられるわね。
作品を会場で見るのが楽しみになってきたほ。
ちょっと待ってトーハクくん! 見どころは作品だけじゃないわ。
え? ユリノキちゃん、ほかに何があるほ。
今回の展示室は、建築家の伊東豊雄氏がデザインするのよ。大地から湧き上がるエネルギーを表している展示台など、展示空間そのものも見どころなのよ。
展示イメージ図 ©伊東豊雄建築設計事務所
ほー! 表慶館がどんな展示室になるのか楽しみだほ。クッキー食べて、開幕まつほ。
みなさん! お越しになるときは、インターネットでの事前予約(日時指定券)を忘れないでくださいね。観覧料金は今後発表されますので、あわせてご確認ください。
カテゴリ:トーハクくん&ユリノキちゃん、2020年度の特別展
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posted by トーハクくん&ユリノキちゃん at 2020年08月17日 (月)
東京国立博物館は新型コロナウイルス感染防止のため2月27日から臨時休館していましたが、6月2日(火)より一部の展示施設を開館いたしました。
今回は、再開にあたり当館の感染防止の取組とお客様へのお願いをトーハクくんとユリノキちゃんが紹介します。
ほほーい、ぼくトーハクくん。一部だけど6月2日(火)から約3か月ぶりに開館したんだほ! ボクも早速トーハクに行くほ!
待って、トーハクくん。展示室がお客様でいっぱいにならないようにするから、入館の前に事前予約をする必要があるのよ。
事前予約? 前もって行く日と時間を決めておくってこと? それどこでするほ。
事前予約専用のウェブサイトがあって、行きたい日時を指定するのよ。
なるほどだほ、空き状況も確認できて便利だほ。でも、ぼく5歳だから無料で入れるのに予約の必要があるほ?
あるの。無料のお客様も含めて、全てのお客様に事前予約をお願いしているのよ。
わかったほ。予約もできたし、それじゃー行くほ!
マスクは着けた? スタッフもみんなマスクをしているから、トーハクくんも着けてね。
それと今は熱や咳は出ていないかな。元気じゃない時は無理して行かないでね。
スタッフもマスクを着けて、お客様をお迎えさせていただきます
マスクも着けたし、元気だほ! おや、何か見慣れない機械があるほ。それにあの人、透明の仮面をつけてるほ。
正門プラザのサーモグラフィで全てのお客様を検温いたします
感染防止のためにフェイスガードを着用して熱がないか確認しているのよ。37.5度以上あると入館できないの。
なるほど、念には念をなんだほ。じゃー熱も高くなかったし本館に行くほ。あれっ、列ができている。
一時的に入場制限をする場合があります
建物の中のお客様の数が多くなりすぎないように、入場を制限することもあるみたい。
そっか。でも、ちょっと待ったら、入れたほ。
入口にアルコール消毒液があるから、使用してから入りましょう。
各展示施設の入り口などに設置してありますのでご利用ください
ん? インフォメーションに透明な板があるほ。
アクリルパネルを設置しました
飛沫拡散防止のためよ。安心してスタッフとお話しできるわね。
ミュージアムショップのレジはビニールを設置しています
ユリノキちゃん見て、清掃しているほ。
ロッカーや休憩スペースなどを念入りに清掃しています
普段も清掃しているけど、今はお客様が触る場所などを特に念入りに清掃しているのよ。
お疲れ様だほ。いよいよ展示室にいくほ。あれっ、ユリノキちゃんなんで離れているほ。
トーハクくん、ほかのお客様を見て。お客様同士離れて見ているでしょ。私たちも2メートルくらい間隔を開けましょう。それと展示室は屋内だからいつも以上に会話は控えようね。
わかった、静かに見るほ。おっ、この作品はなんだか細かい模様がたくさんあるほ! そばまで近づいてみてみるほ。
ストーーップ! 床を見て。展示ケースに触らないように黒いテープがあるでしょ。このテープの外側で見ましょうね。
展示ケースに近づきすぎないよう、目安となるテープを設置しました
はーいだほ。久しぶりに作品をじっくりと見てなんだか疲れたほ。
レストランで甘いコーヒーでも飲むほ。あれ、いつもより座席が少ない気がするほ。
座席を減らし、対面とならないような配置にしています
お客様同士が近づきすぎないように座席を減らしているのよ。
それと飲食の時はマスクを外すから、会話を控えて、短い時間で出ましょうね。
今日は久しぶりに作品を見ることがとても楽しかったほ。
次は6月30日(火)から始まる、特別展「キモノ KIMONO」を見にいくほ。
事前予約を忘れないでね。
新型コロナウイルス感染症予防のためのお客様へのお願いと取組について、
ご来館前にウェブサイトでご確認いただくとともに、ご協力のほど何卒よろしくお願い申し上げます。
▶再開にあたりご来館のお客様へのお願い
カテゴリ:トーハクくん&ユリノキちゃん
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posted by トーハクくん&ユリノキちゃん at 2020年06月09日 (火)
3世紀後半頃よりはじまる古墳時代の日本列島は、その時代名称が示すとおり墓である古墳を積極的につくる時代でした。
その時代は今とは異なり、医学的な知識も乏しく、病気になってもワクチンなどで治す手段を持っておらず、せいぜい因幡の白兎でおなじみの蒲(がま)のように、薬草を用いたりすることが精一杯なところでしょう。
そのため、人々は不安を解消するために、また病気を回復するためにも、祈りや願いをとりわけ重視したと考えられます。
その祈りや願いの在り方は、使う道具や場面によって様々あると考えられますが、一例として古墳の上や周囲に樹立された埴輪から、当時の人びとが思い至った祈りや願いを垣間見ることができます。
4世紀の柳井茶臼山古墳(山口県柳井市)。復元された古墳と埴輪をみることができます。
後円部の埋葬施設の上には家形埴輪が置かれていました。
古墳のなかでも埋葬施設に近く、中心に置かれるのが家形の埴輪です。
家形埴輪は亡くなった被葬者の魂の依代(よりしろ)となる事から、埴輪のなかでも一番重要だと考えられます。
重要文化財 埴輪 入母屋造家 古墳時代・5世紀 奈良県桜井市外山出土
その家形埴輪の近くに置かれたのが鶏形の埴輪です。
この鶏形埴輪は、数ある鳥や動物を象った埴輪のなかでも存続時期が長く、鳥のなかでは鶏が最もよく作られました。
埴輪 鶏 古墳時代・5世紀 群馬県伊勢崎市 赤堀茶臼山古墳出土
日本書紀や古事記の鶏に関する記事を読み解くと、鶏鳴や闘鶏の記事があります。
朝に夜明けとともに鳴く鶏は、「常世の長鳴鳥」と呼ばれ、天照大神を天岩戸より呼ぶ役割を担っていたと書かれています。
そのため鶏は亡き首長の再生を祈り願うために、鶏形埴輪がつくられたとみる意見もあります。
一方で、街灯のない時代でしたので、夜は真っ暗闇。暗闇の中では邪悪なものが暗躍していると考える時代、夜明けを告げる鶏は光をもたらし邪悪な物を退ける辟邪(へきじゃ)の役割が期待されたとも考えられます。
他にもどうして鶏が埴輪となったのか様々な説があり、研究者の間で議論になっていますが、いずれにせよ古墳時代の人びとにとって、鶏が神聖な鳥であったがゆえに、再生や辟邪などの祈りを込めて鶏形埴輪がつくられたのは間違いありません。
埴輪 鶏 古墳時代・6世紀 栃木県真岡市 鶏塚古墳出土
なお、鶏を食用とするのは近世以降からです。日々の食卓に登場する鶏に見慣れていると、古墳時代の鶏を神聖な鳥と見る事にピンとこないと思います。
しかし、神社に訪れると鶏が放し飼いされているのをみることができ、古墳時代の人びとの鶏のイメージと近い役割を担っています。
神社にて放し飼いされる鶏
最後に、邪を払う辟邪についての埴輪は他にもあります。それは武具を模した埴輪です。
矢や剣を退ける盾、身を守る甲冑、矢を入れる靫(ゆぎ)、矢を放った際に腕を守る鞆(とも)、など様々な武具の埴輪がつくられています。
盾や靫の埴輪をみると正面を古墳の外側に向けて置かれることが多いため、外から邪悪なものが入ってくるのを退ける役割があったのです。
埴輪 短甲 古墳時代・5世紀 群馬県藤岡市 白石稲荷山古墳出土
埴輪 靫 古墳時代・6世紀 群馬県桐生市相生町出土
一見すると埴輪がつくられた理由は非科学的であるのかもしれません。
しかし、辟邪としての役割が人々の間で共通認識として普及していたとみると、単に悪霊のような目に見えない邪悪なものを退けるという以外に、古墳にむやみに入ってはいけない、盗掘などもってのほか、など当時の人々が期待する以上の効果があったものと思われます。
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posted by 河野正訓(考古室研究員) at 2020年05月15日 (金)