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1089ブログ

名作誕生展 松林図と三保松原図

展覧会は、どの展覧会でも終盤になると混雑します。見たいと思っていた展覧会でも、なかなか行けず、駆け込みでどうにか最後の頃に滑り込み! という人も多いと思います。私などもそんな一人。他の方には、「早目がいいですよ。後半になると人の背中越しでしか見えなくなりますから。」と言っているのに、結局自分も人の背中越しでばかり見ています。

それどころか、展示期間に制限の多い日本美術の作品では、途中展示替えで引っ込んでしまう作品も少なくありません。例えば長谷川等伯の国宝「松林図屛風」(安土桃山時代・16世紀 東京国立博物館蔵)、今回の展覧会では5月6日(日)までの展示です。「見逃した方は、来年(2019年)のお正月『博物館に初もうで』で2週間の展示があります」というのですが、今回の展覧会では、「松林図屛風」につながる作品が引っ込んでしまいます。

 
国宝 松林図屛風 長谷川等伯筆 安土桃山時代・16世紀 東京国立博物館蔵(展示期間:~5月6日(日))


《山水をつなぐ》は、展覧会の前期のテーマは「松林」ですが、後期のテーマは「富士三保松原図」に入れ替わります。長谷川等伯は、中国の画家牧谿[もっけい]の作品を学んだことがよく知られています。普通は大徳寺に伝えられた「観音猿鶴図[かんのんえんかくず]」(本展での展示はありません)をもとに具体例を示すのですが、今回は松林というモチーフでつながりを見ることにしました。

兵庫・穎川美術館に所蔵される重要文化財「三保松原図[みほまつばらず]」(伝能阿弥[のうあみ]筆 室町時代・15~16世紀 展示期間:~5月6日(日))は、足利将軍家に仕えた同朋衆[どうぼうしゅう]で、中国から輸入された美術品の鑑定や管理を行い、中国の絵画に学んで絵も描いた能阿弥の筆になるものとされています。落款[らっかん]などがないため、制作に関しては伝承とされており、長谷川等伯が描いたのではないか。という人もいるようです。大気の表現など「松林図」との親近性を感じますが、図版などではよく見えない細部も、会場では比べながら見ることが出来ます。

 
左:国宝 松林図屛風(右隻部分) 長谷川等伯筆 安土桃山時代・16世紀 東京国立博物館蔵(展示期間:~5月6日(日))
右:重要文化財 三保松原図(部分) 伝能阿弥筆 室町時代・15~16世紀 兵庫・穎川美術館蔵(展示期間:~5月6日(日))
根本の筆致にご注目ください。


「松林図屛風」の特徴である松の葉叢の荒々しい筆跡や、幹の根本の「へ」の字に柔らかく運ぶ筆さばきなど、大きさの違いはあるものの、よく似ています。「三保松原図」を等伯筆と考える説が出るのもなるほど、と思われてきます。穎川美術館で作品をお借りした際に口に出たのは、「等伯は、これ見たとしか思えないよね。」の言葉。そして皆が頷いて盛り上がったのでした。

この二つにさらに等伯が51歳ころに松を大きく描いた「山水松林架橋図襖[さんすいしょうりんかきょうずふすま]」(長谷川等伯筆 安土桃山時代 天正17年<1589> 京都・楽美術館蔵)を加えて並ぶのは、今回の展覧会のような機会だからこそ。普段は見られないつながりが会場に並んでいます。

「三保松原図」(兵庫・穎川美術館蔵)は、もと6曲1双屛風の片隻で左に富士山が描かれていただろうと考えられています。5月8日からは、「富士三保松原」のテーマで、富士山を加えた作品がご覧いただけます。

特別展「名作誕生-つながる日本美術」のみどころ、展示作品リストはこちら

 

カテゴリ:絵画2018年度の特別展

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posted by 田沢裕賀 at 2018年05月02日 (水)

 

特別展「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」報道発表!

東京国立博物館では、今年10月2日(火)~12月9日(日)、
平成館特別展示室3・4室にて特別展「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」を開催いたします。
4月25日(水)に報道発表会を行いました。

まずは当館副館長の井上洋一と、大報恩寺の菊入諒如[きくいりりょうにょ]住職より主催者挨拶をいただきました。


井上洋一東京国立博物館副館長


菊入諒如大報恩寺住職

大報恩寺は京都市上京区にあり、千本釈迦堂[せんぼんしゃかどう]の名で親しまれています。
また、鎌倉時代、1220年に義空上人が開創した古刹で、応仁の乱を始めとする幾多の戦火を免れ、本堂は京都市内最古の木造建築として国宝に指定されており、大変歴史があります。

大報恩寺地図
             

大報恩寺本堂

このたび、2020年に開創800年を迎えることを記念し、大報恩寺が誇る慶派仏師の名品を一堂に集め、鎌倉彫刻の魅力を堪能する本展覧会の見どころを、担当をしている絵画・彫刻室主任研究員の皿井舞より解説いたしました。


展覧会担当 皿井による解説

見どころ、快慶晩年の名品、重要文化財「十大弟子立像」。


重要文化財 優婆離立像(十大弟子立像のうち)
快慶作 鎌倉時代・13世紀 大報恩寺像


快慶の最晩年の名品「十大弟子立像」を10体揃って大報恩寺の外で公開するのは初めて!
あまたの釈迦の弟子から選りすぐられた10人の僧侶の像です

次の見どころは、快慶の弟子行快作、重要文化財「釈迦如来坐像」。


重要文化財 釈迦如来坐像 
行快作 鎌倉時代・13世紀 大報恩寺蔵


大報恩寺の本尊で、年に数回しか公開されない秘仏です。こちらも大報恩寺の外での公開は初めてです。

「十大弟子立像」は製作された当初は本堂にて「釈迦如来坐像」を囲むように安置されていました。
本展覧会では、当初の本堂での安置状況を考慮しながら、展示する予定です。

最後の見どころは、運慶の弟子、肥後定慶作、「六観音菩薩像」。


重要文化財 准胝観音菩薩立像(六観音菩薩像のうち)
肥後定慶作 鎌倉時代・貞応3年(1224) 大報恩寺蔵


重要文化財に指定される唯一の六観音像です。台座も光背も造像当時のものを残し、その背面の隅々まで精緻に彫られています。

本展覧会では、「六観音菩薩像」を360度ご覧いただき、会期前半(10月2日~10月28日)は光背を付けた本来の姿で、会期後半(10月30日~12月9日)には光背を取り外した美しい後ろ姿を間近でご覧いただけます。
会期前半と後半で、仏像の違う表情、魅力を堪能できる、東京国立博物館史上初の試みです。
ぜひご注目ください。


光背つきの姿


光背なしの姿

そのほかにも、近接する北野天満宮境内にかつてあった北野経王堂ゆかりの寺宝、五千帖を超す一切経や、北野社を描く境内図などから、京洛の釈迦信仰の拠点であった大報恩寺の歴史を振り返ります。

2017年に開催された、奈良国立博物館の「快慶」展、東京国立博物館の「運慶」展に続く、快慶、定慶、行快ら、慶派スーパースターの名品がトーハクに集結する大変貴重な機会となります。今秋開幕です!皆様どうぞお楽しみに!

また、東京国立博物館・フィラデルフィア美術館交流企画特別展「マルセル・デュシャンと日本美術」(2018年10月2日(日)~12月9日(日) 平成館特別展示室1・2室)を開催します。



この展覧会は、第1部「デュシャン 人と作品」(原題The Essential Duchamp)展、第2部「デュシャンの向こうに日本が見える。」展と2部構成となります。
デュシャンの作品ととともに日本美術を比べて見ることができるこの展覧会も要注目です。

なんと、お得なセット券も販売します!
ぜひセット券をお買い求めの上、両展覧会をお楽しみください。

おまけ


お土産としてお渡しした「おかめ」の福守り

「おかめ」発祥の地と知られている大報恩寺は、お参りすると、縁結び、夫婦円満、子授けにご利益があると言われています。
京都旅行の際には、ぜひ立ち寄ってみては。

カテゴリ:news2018年度の特別展

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posted by 柳澤(広報室) at 2018年05月01日 (火)

 

名作誕生展 前期のみどころ!

こんにちは、保存修復室の瀬谷愛です。本展覧会のワーキングチーフを担当しました。

4月13日(金)から開催の特別展「名作誕生―つながる日本美術」。皆様、もうご来場いただけましたでしょうか。

もしまだでしたら、お急ぎください!

なぜなら、今ならまだ、あの名作が20センチの近さで見ることができるからです(4月20日現在)。
そして、そのすぐ手前に、あの名作があるからです。



手前:国宝 普賢菩薩騎象像[ふげんぼさつきぞうぞう] 平安時代・12世紀 東京・大倉集古館蔵
奥:国宝 普賢菩薩像[ふげんぼさつぞう] 平安時代・12世紀 東京国立博物館蔵
(展示期間:~5月6日(日))
時の幸運がこの夢の競演を実現しています!

美しい彩色と截金[きりかね]が残る、仏像と仏画の普賢菩薩像の名宝です。
とくに仏画はこの展覧会のために、奥行き20センチの超薄ケースを製作しました。顔料の盛り上がりや截金文様の美しさを十分に鑑賞することができます。
(仏画の普賢菩薩像の展示は前期:~5月6日までです!)



国宝 聖徳太子絵伝 秦致貞筆 平安時代・延久元年(1069) 東京国立博物館蔵
(前期:6面、後期:4面)
広い空間の奥に、現存最古の聖徳太子絵伝!


もうひとつ、前期(5月6日まで)にご覧いただきたいのが、こちらの聖徳太子絵伝です。
普段、法隆寺宝物館で展示している作品ですが、本展では、法隆寺東院絵殿の配置を復元しています。
この並びを体感することができるのは、この特別展期間中だけです。
全10面のうち、第1、2、5、6、9、10面は前期、第3、4、7、8面は後期の展示ですので、間近で鑑賞をコンプリートするためにも、前期・後期の両方にぜひご来館ください。
写真だと全部出ているように見えますが、出ていない面は原寸大写真パネルをはめています。


さて、本展覧会は、日本・東洋美術研究誌『國華』創刊130周年を記念して開催しているのですが、会場入口には、『國華』の歴代表紙を紹介しています。

 

130年分の表紙デザインを一望できます。

昔の表紙は、有職文様[ゆうそくもんよう]を採用していますが、近年は作品の部分図を採用している傾向があります。
よくみると、今回の展示に出品されている作品もいくつかありますよ!

 

寄ってみると…気づいたあなたはかなりのツウ!

この範囲だけでも、前期(5月6日まで)展示の雪舟作品が2点あります。さて、なんでしょうか!?

さらには、特集「平成30年 新指定 国宝・重要文化財」にて展示中の「新国宝」のあの屛風(これも5月6日まで!)や、この夏に平成館で開催する特別展「縄文」に出品するあのビーナスも…

とにもかくにも、5月6日までに一度、ご来場を心よりお勧めいたします!
 

カテゴリ:絵画2018年度の特別展

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posted by 瀬谷愛 at 2018年04月23日 (月)

 

特別展「名作誕生-つながる日本美術」開幕!

名作しかない! そんな展覧会が開幕しました!
創刊記念『國華』130周年・朝日新聞140周年 特別展「名作誕生-つながる日本美術」(2018年4月13日(金)~5月27日(日))です。




日本を代表する「名作」はどのように生まれたのでしょうか。稀代の「天才」と呼ばれる作家があらわれて、魔法のように創り出したような印象がありますが、実際はそうではなかったようです。
本展では、作品同士がどのように関係し合い、名作がどんな背景をもって生まれたのか、実際の作品を通してご紹介します。



第1章「祈りをつなぐ」の展示室
手前:重要文化財 伝衆宝王菩薩立像[しゅうほうおうぼさつりゅうぞう] 奈良時代・8世紀 奈良・唐招提寺蔵



さて、『國華』という雑誌をご存じでしょうか?(私はトーハクに入って初めて知りました。)
明治22年(1889)に岡倉天心らによって創刊され、現在も刊行を続けている、世界最古の美術雑誌です。



『國華』創刊号~3号 明治22年(1889)も、会場で展示しています。



『國華』創刊から130周年を記念した展覧会ということで、『國華』編輯委員とトーハク研究員の威信をかけたドリームプランが(ほぼ)実現しました!

それでは、会期前半(前期:~5月6日(日))のみどころをご紹介します。


(1)「普賢菩薩騎象像」越しの「普賢菩薩像」


手前:国宝 普賢菩薩騎象像[ふげんぼさつきぞうぞう] 平安時代・12世紀 東京・大倉集古館蔵
奥:国宝 普賢菩薩像[ふげんぼさつぞう] 平安時代・12世紀 東京国立博物館蔵(展示期間:~5月6日(日))


瀬谷研究員(本展ワーキングチーフ)が、「この展示が叶うなんて、奇跡!」とまで言っていた展示です。詳しくは、瀬谷研究員のブログ(近日公開)をお楽しみに!


(2)「流書手鑑[りゅうがきてかがみ]」からの「倣玉㵎山水図[ほうぎょくかんさんすいず]」

 
左:流書手鑑(模本)[原本]雪舟等楊筆、狩野常信模 江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵
(展示期間:~5月6日(日))

右:重要文化財 倣玉㵎山水図 雪舟等楊筆 室町時代・15世紀 岡山県立美術館蔵
(展示期間:~5月6日(日))


雪舟は、山水や人物を、玉㵎、夏珪[かけい]などの南宋時代の著名画家のスタイルに倣って描き分けたそう。そのことを、「流書手鑑(模本)」によって知ることができます。
ぜひじっくりと手鑑をご覧になったうえで、後ろ側の壁の「倣玉㵎山水図」を見てみてください。画聖と謳われるその理由が伝わってきます。


(3)さすが宗達、抜群のセンスの良さ


扇面貼交屛風[せんめんはりまぜびょうぶ] 伝俵屋宗達筆 江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵
(1双揃いの展示期間:~5月13日(日))


古画に描かれた人物などをそのまま切り抜いて再配置する、「コラージュ」を駆使した作品。
その元ネタとなる作品も一緒にご覧いただくと、「宗達ってやっぱりセンス良いわ!」をより実感できます。


(4)みんな大好き、若冲


右:重要文化財 仙人掌群鶏図襖[さぼてんぐんけいずふすま] 伊藤若冲筆 江戸時代・18世紀 大阪・西福寺蔵
左:鶏図押絵貼屛風[にわとりずおしえばりびょうぶ] 伊藤若冲筆 江戸時代・18世紀 京都・細見美術館蔵
(右隻の展示期間:~5月6日(日))


不動の人気を誇る若冲。でも人気が出過ぎると、なんだか引いちゃう。そんなあまのじゃくなあなたでも、きっと作品を前にするとテンションが上がるはずです。
「鶏図押絵貼屛風」の右隻は前期のみ、左隻は後期(5月8日(火)~)に展示されます。


(5)名作は、何度見ても良いもの


国宝 松林図屛風 長谷川等伯筆 安土桃山時代・16世紀 東京国立博物館蔵
(展示期間:~5月6日(日))


お正月の「博物館に初もうで」でも見られるでしょう? トーハク通の方なら、そう仰るかもしれません。
でも、好きな人には何度でも会いたくなりますよね? 会うたびに、好きになる。そんな作品です。


この他にも、ご紹介しきれない名作がたくさんあります!
会期中展示替えがありますので、お目当ての作品はどうぞお見逃しなく!
詳しくは展示作品リスト をご参照ください。

カテゴリ:絵画2018年度の特別展

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posted by 小島佳(広報室) at 2018年04月20日 (金)

 

私のお気に入りの1点(「アラビアの道ーサウジアラビア王国の至宝」より)


香炉、タイマー、ナバテア王国時代・前1~後1世紀頃、タイマー博物館蔵(本展No. 149)

「アラビアの道」展のほとんどの展示室に登場するもの──それは香炉です。この展示には古代から現代の約20点の香炉や香を焚いた祭壇が展示されています。
アラビア半島のオアシス都市タイマーで出土したナバテア王国時代のこの香炉は、砂岩を彫ってつくられたもので、わずかに丸みを帯びた形状が砂岩の質感と相まって温かみのある趣を醸し出しています。
アラビア半島では既に青銅器時代には香が焚かれていました。鉄器時代以降(前1200年頃~)の隊商都市からは、さまざまな香炉や香を焚いた祭壇が出土しています。古代の代表的な香は、アラビア半島の南西部に生育する低木からとれる樹脂香料、乳香と没薬(「アラビアの道」展第3章にて展示中)でした。これらは古代オリエント世界各地の神殿で神々に捧げられる神聖な香でもありました。新約聖書には、キリストの生誕に際して、東方三博士が黄金とともに乳香と没薬を贈り物として持参したことが記されています。
 

香炉、カルヤト・アルファーウ出土、1世紀頃、キング・サウード大学博物館蔵(本展No. 186)
前面にはクスト(インドなどが原産のオオホザキアヤメ科コストゥス属の植物の根茎か)という香料の名が刻まれている

No. 149のように四隅に角のある香炉や祭壇は青銅器時代よりレヴァント(シリア・パレスティナ)によくみられますが、アラビア半島の香炉にこのような角が作られるようになるのは、前6世紀頃の北西アラビアで、ちょうど新バビロニアの王ナボニドスが北西アラビアのオアシス都市タイマーに滞在した頃にあたります。この時、ナボニドスとともにやって来た人々の中には、ユダヤ人などレヴァント出身の人々も含まれていたようです。
 

タイマー出土の香炉(前6世紀頃、タイマー博物館蔵) ※本展には出品されていません。

その後、No. 149の香炉を作ったナバテア人が前4世紀頃に北西アラビアに台頭し、前2世紀には独自の王国を築いて香料貿易で栄えました。ナバテア王国は106年にローマ帝国の属州に組み込まれますが、そのローマ帝国の神殿でも、オリエント世界の影響を受けた角のある香の祭壇が使われていました。
イスラーム時代以降の香炉については、さまざまな形状・材質のものが残されています。モスクでも香が焚かれますが、古代のように神に香を捧げるという意味合いはありません。
 

香炉、ラバザ出土、7~10世紀、キング・サウード大学博物館蔵(本展No. 319)

 
香炉、ラバザ出土、8~10世紀、キング・サウード大学博物館蔵(本展No 318)

現在サウジアラビアで一般的に使われている香炉も、No. 149の香炉と同様、四隅が角状の形をしています。角は、香炉の見栄えを良くするだけでなく、誤って服などが火皿に入ってしまうのを防ぐ大切な役割を担っています。
 

香炉、リヤド、19世紀、サウジアラビア国立博物館蔵(本展No. 406)
現在も同様の香炉が使われ続けている


香炉の使い方は古代も現在も変わりません。まず、火皿の中に着火済みの炭を用意し、その上に少量の樹脂香料や香木をそのまま置くだけで、すぐに香り高い白い煙が立ち上ります。乳香と没薬、とりわけ前者は現在でもよく使われますが、最も好まれているのは、インド洋世界から輸入される伽羅と沈香です。その他、複数の香が調合されてつくられたものを含め、現在の家庭では多種多様の香が楽しまれています。


香を焚く準備─香炉の火皿に着火した炭を用意する(現代のサウジアラビアの香炉) ※本展には出品されていません。

 
現代のサウジアラビアで最も好まれている沈香(その高級品が伽羅と呼ばれるが、アラビア語では両者ともに「ウード」と呼ばれる) ※本展には出品されていません。

 
現代のサウジアラビアの香の店(リヤド)─香木などとともに、香油や香水も扱う

曜日・時間限定で開かれている表慶館前のアラブ イスラーム学院による遊牧民テントでは、香炉を含むアラビアの民具を手に取ってご覧いただくことができます(テントが開かれている時間はこちら)。こちらも是非どうぞ。
 

カテゴリ:研究員のイチオシ2018年度の特別展

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posted by 徳永里砂(アラブ イスラーム学院研究員・金沢大学国際文化資源学研究センター客員准教授) at 2018年03月05日 (月)