トーハクくん「日本国宝展」をゆく
ほほーい!ぼくトーハクくん!
今日は「日本国宝展」担当研究員のなかのチーフ、伊藤信二さんといっしょに展覧会を見に行くほ。
よく来たねトーハクくん。
人々の「祈り、信じる力」がぎゅっと凝縮して出来た、さまざまな「かたち」を見に行こう。
ちなみに私の名前が「信二」だから、この展覧会のキャッチコピーが「祈り、シンジる力」になったんだ。
なんつってな!
……。おすすめの展示を教えてほ。
あ、うん。やっぱりココだなあ!
国宝 元興寺極楽坊五重小塔(がんごうじごくらくぼうごじゅうのしょうとう)
奈良時代・8世紀 奈良・元興寺蔵
奥側に見えているのは、国宝 観音菩薩坐像、勢至菩薩坐像(かんのんぼさつざぞう せいしぼさつざぞう)
平安時代・久安4年(1148) 京都・三千院蔵
うほーーー!!こりゃすごい迫力だほ!!
高さは5メートル50センチ。もちろん、東京にやってくるのは初めてだよ。
この展覧会で唯一、「美術工芸品」ではなく「建造物」として国宝に指定されているんだ。
建物を、いったいどうやって展示室まで持ってきたんだほ?
それは語るとちょっと長くなるから、別のブログで紹介するとして、
今日はこの塔の見どころを紹介するね。
『全国の五重塔のモデル?!』
「五重塔」ってお寺でよく見るけど、何のためのものだほ?上に登って景色を見るのかなあ。
いやいや、あの中には階段があるわけじゃないし、そもそも登るためのものじゃないんだよ。
五重塔とは、仏舎利(お釈迦様の遺骨)を安置するための機能をもった建物のこと。
大事な仏舎利を荘厳するためのものだよ。
ショーゴンって?
美しく飾る、っていう意味。
通常は、容器の中に入れた仏舎利を礎石の中に埋めて、その上に五重塔を建てるんだ。
大きな構えで仏舎利を守って善美を尽くすことで、信仰の篤さや想いの深さを表したんだよ。
日本書紀の記述のなかに、「仏の舎利を以て、法興寺の刹の柱の礎の中に置く」という一文がある。
ちょうど今、その一文が書かれた国宝 日本書記(巻第二十二 平安時代・10~11世紀 京都国立博物館蔵 11月9日(日)まで展示)が展示されているから、あわせて見てみてね。
そうか、五重塔は仏舎利を守ってくれているんだね!
そしたら、この五重小塔の下にも仏舎利があったの?
いや。この五重小塔の役割は、普通の五重塔とはちょっと違うかもしれないんだ。
これは比較的簡単に解体できて、内部の構造を見ることが出来るので、
「当時各地に建立された国分寺などのお寺の塔の本様(ためし、と読む。雛形のこと)だったのでは」というのが、現在最も有力な説だ。
ふぉー!
この塔がモデルになって、全国の五重塔が作られたかもしれないってことだほ!すごいほー!
『当時の様式を、今に伝える』
トーハクくん、この辺から屋根裏を見てみて。
屋根の垂木を支えてる桁(けた、横方向の部材)が見えるでしょう?
この柱は「丸桁(がぎょう)」と言うんだ。丸く削られた桁っていう意味。
この塔が作られた奈良時代には、こんな風に断面が丸い桁がスタンダードだったんだけど、時代が下るにつれて、桁は四角くなっていく。
それでも丸桁という名称だけは残るんだよ。
奈良時代の建築の特ちょうが残ってるんだね。
そう。特徴はまだまだあるぞ!
ちょっと離れた場所から見てみよう。
1番上の屋根の勾配が緩やかなのが分かるかな?
うん、なだらかだほ。
ボクの五重塔のイメージは、もっと三角の屋根だほ。
そうだよね!これも時代の特色のひとつ。
もし瓦屋根にして実際の大きさ(約50m)で屋外に建てたら、瓦の重みでだんだんと歪んできてしまう。
屋外に立てられた五重塔は、改修する際に勾配を急にして対処しているから、トーハクくんがイメージした三角屋根の五重塔は改修後のものなんだ。
でもこの塔は、緩いカーブを保っているね。制作当初のままってことだ。
これは、室町時代後期以降、屋内で設置されていたから、瓦や雨雪による重みの心配をしなくて済んだのかも知れないね。
そっかあ。
この塔は、奈良時代の建築スタイルを、今に伝えてくれているんだほ!
奈良時代の人たちって、複雑な組み方が出来て、とっても頭いいほー。
そうだね。あと、相輪が大きく作られているのも見どころだね。
この比率のまま実際のサイズにしたら、相輪はものすごい大きさになる。
でも、この五重小塔にはこのサイズがベストだと思うほ。
かっこいいからオーケーなのだほ。
そうだよね、私もそう思うよ!
これはこれで、バランスがとれてるよね!
伊藤さん、見どころをたくさん教えてくれて、どうも有難うございました!
(手前)国宝 善財童子立像 (ぜんざいどうじりゅうぞう)
鎌倉時代・建仁3年(1203)~承久2年(1220) 奈良・安倍文殊院蔵
『正倉院宝物、特別出品!』
トーハクくん、いま勝手に終えようとしたでしょ(怒)。
11月3日まで特別出品されている正倉院宝物を忘れちゃいかんよ!
おおお!期間限定の正倉院宝物出品を見逃すところだったほ!危なかったほー。
伊藤さん、特に紹介したいのはどの宝物だほ?
教科書でもお馴染みの、この宝物です。
鳥毛立女屏風 第3扇 (とりげりつじょのびょうぶ) (北倉44) (部分)
奈良時代・8世紀 正倉院宝物 11月3日(月・祝)まで展示
トーハクくん、中国の俑(よう)でこういう作品を見たことないかな?
どっかで見たほ、どっかで…、あっ!思い出した!
特別展「東アジアの華 陶磁名品展」で展示されているのを見たほ!
そう!それ!
ふっくらとボリュームのある体型で、ぽってりした唇の唐風美人が描かれているね。
当時の唐ではこういう女性が「美女」とされていたんだ。
唐文化を積極的に取り入れていた奈良でも、もちろんこれがトップモードのスタイル、理想の姿とされていた。
今で言う「ぽっちゃり美人」さんだね。ボクの好みだほ。
伊藤さんさっき「教科書でおなじみ」って言ってたけど、この宝物はどうして教科書に載っているほ?
きっと何か理由があるのだほ。
それは、8世紀の絵画自体が希少で貴重だからだよ。
トーハクくんは特別展「ボストン美術館 日本美術の至宝」に出品されていた「法華堂根本曼荼羅図(ほっけどうこんぽんまんだらず)」を覚えているかな?
うん!塚本研究員がブログで紹介してたほ!
そうだね。
奈良時代の本格的な絵画だと、「法華堂根本曼荼羅図(ボストン美術館蔵)」、「吉祥天像(薬師寺蔵)」、そしてこの「鳥毛立女屏風(正倉院蔵)」くらいしかないんだ。
そんなに少ないんだ!
この宝物も、奈良時代の人々のスタイルを今に伝えてくれているんだね!
そんな貴重な宝物がこうして目の前で見られるなんて…、なんだかグッと来るほ!
そうね。本当にそう。ぅぅっ…
伊藤さん、どうしたほ?
感動して、泣きそうですっ!!
ええっ!
昔から、人々は何かに向かって手を合わせて、祈り、信仰してきた。
今を生きる私たちは、作品を通してその想いを受け取るわけです。
これだけたくさんの想いが詰まった展覧会、なんて贅沢なんだー(泣)!
うんうん、たしかにだほ!
「国宝だから素晴らしい」のではなく、「信仰の所産として素晴らしいから国宝になった」のです。
そのことを、一人でも多くの方に知っていただき、作品をご覧いただきたいと心から思います。
おおお!伊藤さんが、男泣きしているほ!
この感動を、ぜひ「日本国宝展」の会場で皆さんも体験してくださいだほ!
伊藤信二(広報室長)専門は金工です。
「日本国宝展」は12月7日(日)まで開催しています。会期中、展示替えがありますので、お目当ての作品をお見逃しのないよう、ウェブサイトでチェックしてみてください!
カテゴリ:研究員のイチオシ、news、2014年度の特別展
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posted by トーハクくん at 2014年10月21日 (火)