特別デジタル展「故宮の世界」の魅力紹介(3)――故宮博物院との交流
1972年の日中国交正常化を記念して、1973年に初めての中国文物展、「中華人民共和国出土文物展」が当館で開催されました。
それ以来、中国の歴史・文化をテーマとした展覧会を数多く開催するとともに、中国の博物館との人的交流・学術交流も展開しています。
特に、北京にある故宮博物院とは長年にわたり友好的な交流関係を築いており、2008年に両館の学術・文化の交流および協力に関する覚書を結びました。当館にとって中国における文化交流拠点として、故宮博物院と協力関係を深めてきました。
その成果の一つである2012年日中国交正常化40年を記念する特別展「北京故宮博物院200選」は、故宮博物院の全面的な協力によって実現しました。
清王朝歴代皇帝の審美眼が反映された様々な分野の宮廷コレクションが展示され、その中でも、中国美術史に輝く北宋時代の名画「清明上河図」の海外初公開が国内外で大きな話題となりました。
「清明上河図」の展示会場
期間限定公開のこともあり、連日行列ができていました。
2015年、故宮博物院創立90周年記念式典が行われました。当館銭谷眞美館長(当時)は記念式典に招待され、記念事業の一環として開催された国際博物館長フォーラムで博物館における教育普及活動について講演を行いました。故宮博物院をはじめ、世界各国の博物館関係者との交流も進めました。
故宮博物院主催の国際博物館長フォーラムに出席した各国の発表者。
また、故宮博物院が進めている国内外の文化財を紹介する展覧会事業に当館も協力しています。
2019年に故宮博物院で開催された「世界の龍泉:龍泉青磁とグローバライゼーション」展に、当館からは重要文化財「青磁輪花茶碗 銘 馬蝗絆」ほか、中国製と日本製の青磁作品8件を出品しました。
特に中国南宋時代に作られた青磁の名品である「馬蝗絆」は、この展覧会で初めて里帰り公開され、中国国内の各媒体に大きく取り上げられました。
「世界の龍泉:龍泉青磁とグローバライゼーション」展では、当館研究員を現地に派遣し、作品点検と展示作業を行っています。
日中国交正常化50周年という節目の年である本年、故宮博物院と再度協力して、特別デジタル展「故宮の世界」を7月26日(火)から9月19日(月・祝)まで開催中です。デジタル技術を駆使して、VR(ヴァーチャル・リアリティ)や高精細3D(3次元)データで紫禁城の宮殿や書画工芸の名品を楽しめる展覧会です。
目玉展示のひとつである北宋時代の名画「千里江山図」は3面のスクリーンに投影され、そのスケールは実に壮大です。
描かれた青緑山水は目の前で流れて行くように展開します。舟に乗って川を下りながら、山と川の景色をゆったりと楽しむような鑑賞体験を、みなさまにぜひ味わっていただきたいです。
2019年、故宮端門にあるデジタル館を見学したとき、故宮博物院のスタッフが収蔵品デジタルアーカイブを紹介する際に見せてくれたのは、「千里江山図」でした。
今後も、今までの故宮博物院との協力関係を大切にしながら、安定的かつ継続的な人的交流・研究交流に取り組んで行きたいと思います。
カテゴリ:2022年度の特別展
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posted by 楊鋭(国際交流室長) at 2022年08月15日 (月)
今年は日中国交正常化50周年の節目に当たるので、これを記念して特別デジタル展「故宮の世界」を開催いたします。
近年のコロナ禍により、海外から作品をお借りする展覧会の開催については、国内外の諸事情に影響される困難が伴うのですが、このたびは北京の故宮博物院と凸版印刷が長年にわたって共同で開発されてきたデジタル・アーカイブを利用させていただいて展覧会を開催することとなりました。
展覧会の構成は2章立てで、第1章「デジタル故宮博物院」では紫禁城(しきんじょう)の世界観や故宮の文物(ぶんぶつ。日本でいう文化財)をデジタル・データによって展示し、第2章「清朝宮廷の書画と工芸」では清の皇帝の愛蔵品や清時代の工芸品などを展示します。これらの展示を通じて、在りし日の紫禁城に想いを馳せていただきたく思います。
東京国立博物館の研究員として働きがいを感じることは沢山ありますが、そのひとつが海外の博物館との交流です。
東博と故宮とは長らく友好関係が続いていますが、私自身については、ちょうど10年前に当館で特別展「北京故宮博物院200選」を開催したのが交流を深めるきっかけでした。展覧会の準備にじっくり時間をかけたので、故宮の研究員と親しくさせていただいたのでした。
当時は鄭欣淼(ていきんびょう)院長が「故宮学」というのを提唱されており、そのさわりを故宮の研究員から門前の小僧のように教えていただきました。その内容については、私の解釈も入ってしまって正しく伝えられるか分かりませんが、故宮の宮殿や文物などについて、個別の建築や作品として捉えるのでなく、かつて紫禁城のなかでどのような論理・価値観・美意識などのもとに機能していたかを有機的に把握する、というもののように理解しました。その時点では、やや理論先行のようで、故宮の研究員のあいだでも見解の相違やとまどいがあったようにも思われました。私も自分自身の研究テーマと重なるところがあり、この故宮学の先行きについて大いに関心を寄せていたところ、はたしてその成果のひとつでしょうか、2019年に故宮の午門(ごもん)で「賀歳迎祥(がさいげいしょう)」という展覧会が行なわれました。
故宮博物院の特別展「賀歳迎祥」
かつて紫禁城では、正月のあいだは彩灯という色鮮やかな灯籠が懸けられていた様子を再現しています。解説文には、彩灯に関する宮廷の規定が説明されていました。
これは紫禁城の正月行事を紹介した展覧会ですが、従来なら芸術品とか生活用品などと別々に分けられてきたような、さまざまな文物がひとつのテーマのもとで展示されていました。また、宮殿にも装飾を施して、宮殿をただの建築物としてではなく、かつての生活空間として紹介する意図を感じました。
乾清宮の万寿灯
紫禁城の内廷の正殿である乾清宮(けんせいきゅう)。乾清宮の前面には丹陛(たんへい)というバルコニーが広がり、正月になると、ここに万寿灯(まんじゅとう)という天下太平を祝う言葉を書き連ねた装飾品を立てました。
あるいは家具館では、展示品の家具にホログラムの乾隆帝が腰かけるというような工夫もありました。
家具館のホログラム展示
故宮博物院の家具館では、ホログラムを利用して、文人すがたの乾隆帝に扮装した人が実物の寝台に腰かける様子が映写されていました。これは「是一是二図」という絵画に取材した展示です。
そのように故宮では、さまざまな方法で紫禁城を紹介されているのですが、さらに近年ではデジタル技術を生かした展示にも取り組んでおられます。
さて、このたびの特別デジタル展については、故宮や凸版印刷とも意見を交換しながら展示を作りました。なかでも北宋の王希孟(おうきもう)が描いた名画「千里江山図(せんりこうざんず)」のデジタル展示は見どころで、高さが約3メートル、幅が約22メートルの大画面に映しだされる青緑山水(せいりょくさんすい)の世界に没入するという趣向を凝らしています。
普通であれば、山水画巻を鑑賞するにあたって脳内で想像するような景色が、そのまま眼前に展開されるという素晴らしい空間ができたと思っています。
「千里江山図」のデジタル展示
繰り返し観ていると、次々に現れる山岳や河川の展開のうちに、なじみある交響曲のような旋律が見えてきて、レガートやクレッシェンドなどを感じるようになります。
今後も当館では、現行の展示の長所は長所として大切に育みながら、新たに開発された技術を取り入れたり、海外の博物館を参考にしたり意見を交換しながら、次世代型の展示についてアイデアをめぐらせたく考えています。
カテゴリ:2022年度の特別展
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posted by 猪熊兼樹(特別展室長) at 2022年07月29日 (金)
特別デジタル展「故宮の世界」の魅力紹介(1)――清朝宮廷絵画の傑作、「慶豊図巻」
2022年7月26日(火)から、日中国交正常化50周年記念 特別デジタル展「故宮の世界」が開幕します。
北京にある故宮博物院の全面協力のもと、故宮の建築(明・清時代の宮殿)を散策したり、所蔵の文化財を間近に見たりする経験を、VR(ヴァーチャル・リアリティ)等によって可能にしよう! という展覧会で、平成館における最新技術を駆使したデジタル展示は、トーハク初の試みです。
VRで再現した、清時代の宮殿、太和殿の内観 映像展示『バーチャル紫禁城―Night & Day―』より
(VR作品『故宮VR 紫禁城・天子の宮殿』、製作・著作:故宮博物院/凸版印刷株式会社)
この特別デジタル展「故宮の世界」に付随し、「清朝宮廷の書画と工芸」と銘打ち、トーハクが所蔵・管理する清朝宮廷美術作品(これは実物)も展示しています。
これらの魅力をみなさまに紹介するため、担当研究員によるブログ連載を始めます!
第1回目は、東洋絵画担当から、中国絵画の名品を1点ご紹介したいと思います。
「慶豊図巻」(部分)
金昆、陳枚、孫祜、丁観鵬、程志道、呉桂筆 乾隆5年(1740) 個人蔵
(縦28.6センチメートル、横512.4センチメートル)
「清朝宮廷の書画と工芸」コーナーで出陳されている作品の内、とりわけ注目度が高いのが、清朝最盛期である乾隆帝(けんりゅうてい)の御代に宮廷画家たちが合作した長大な画巻、「慶豊図巻(けいほうずかん)」です。
「慶豊図巻」には、5メートル以上にわたり、華やかな都市の繁栄が非常に緻密に描かれています。
描かれた街には、新年を祝う言葉が散見され、たくさんの燈籠が飾られます。
また、巻頭には、清朝の重臣で、書家としても著名な梁詩正(りょうしせい)が乾隆帝自作の詩を書いていますが、ここに満月を寿ぐ句や「皇都」の言葉が見られます。
以上のことから、この長巻には、元宵節(げんしょうせつ、旧暦1月15日の祭)を迎えた北京が理想化されて描かれていると考えられます。
門に貼られた「祝春王正月」の書
燈籠を運ぶ人々
巻頭、梁詩正の書いた乾隆帝題詩
首都が平和で繁栄しているのは、とりもなおさず、統治者である皇帝の徳政のたまものですので、「慶豊図巻」はある意味で、乾隆帝を称賛するための絵画作品ともいえます。
宮廷美術に関する様々な雑事を記録した公文書(活計檔)には、乾隆帝が、即位したばかりの乾隆元年(1736)正月、元時代の画家、銭選(せんせん)による「慶豊図巻」を献上され、宮廷画家の陳枚(ちんばい)にこれをもとに画稿(下描)を作るよう命じた旨が記されます。
同年10月、完成した画稿を確認した皇帝は、その出来に満足し、この通りに本画を作るよう命じています。
この本画は乾隆2年には完成したようです。
今回展示した「慶豊図巻」は乾隆5年(1740)12月完成と落款にありますので、上記は別本と思われますが、作者には同じ陳枚が名を連ねているので、乾隆2年本の成果が何らかの形で、本巻にも反映されているとみてよいでしょう。
「慶豊図巻」(部分)
いずれにせよ、何度も「慶豊図巻」を作らせた乾隆帝が、この主題に大きな関心があったのは確かです。
乾隆5年の活計檔には、12月25日、乾隆帝が、完成したばかりの本巻をわざわざ取り寄せて手元に置き、翌正月3日に改めて、これを特に気を付けて表装するよう臣下に命じた旨が記されています。
また、制作から50年以上経った乾隆57年、老境にいたった皇帝が元宵節の燈籠鑑賞の際に、朝鮮や琉球、ベトナムなど各国の使節に本巻を披露したことがわかっています。
「慶豊図巻」(部分)
さまざまな風俗が精緻に描き込まれた「慶豊図巻」は見所だらけの名作です。
栄華を誇った大清帝国の最も偉大な皇帝、乾隆帝が、生涯を通して愛したこの長大な画巻を、現代に生きるみなさまにもぜひ楽しんでいただきたいと思います。
龍舞
新春の骨董市
カテゴリ:中国の絵画・書跡、2022年度の特別展
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posted by 植松瑞希(絵画・彫刻室) at 2022年07月22日 (金)
特別展「琉球」は、6月26日(日)までと、あと1週間ほどになりました。
カテゴリ:2022年度の特別展
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posted by 品川欣也(教育普及室長) at 2022年06月17日 (金)
みなさん、こんにちは。現在開催中の特別展「琉球」も残すところ2週間ほどとなりました。
沖縄好きな人も沖縄には行ったことのない人も、琉球・沖縄の歴史、文化芸術をまるごと感じていただける展覧会です。ぜひお運びください。
カテゴリ:2022年度の特別展
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posted by 原田あゆみ(企画課長) at 2022年06月09日 (木)