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1089ブログ

琉球列島の自然や景観を伝える、沖縄各地の出土品

特別展「琉球」は、6月26日(日)までと、あと1週間ほどになりました。

日本列島の長さのうち三分の一を占めるのが、本展の舞台となる奄美・沖縄・先島諸島からなる琉球列島です。本展の出品作品のなかでサンゴ礁の海に囲まれた当地の自然や景観、本州島や九州島とのかかわりをよく示すのが沖縄各地の遺跡から出土した貝や動物の骨などで作られた作品です。
今回のブログではこれらの作品を紹介していきたいと思います。
 
展示風景
 
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サンゴ礁の海は豊かな海の象徴です。ヒシ(干瀬)と海岸の間に広がるイノー(礁地)は天然の生け簀と呼ばれるほどに、多くの恵みを琉球列島に暮らす先史時代の人々に与えました。その恵みを象徴する一つがジュゴンなどの骨で作られた蝶形骨製品で、沖縄の先史時代を代表する装身具です。最も古いものは石で作られ、後にイノシシやクジラ、そしてジュゴンの骨で作られるようになり、大形化していきました。
本展で出品されている読谷村吹出原遺跡出土の蝶形骨製品(ちょうがたこつせいひん)はなかでも最大級のものです。
本例は本来一対となるものではありませんが、羽ばたく蝶を想起させるに優美な造形で、素材となったジュゴンの骨の形を生かして作られています。九州島以北の縄文文化には蝶をモチーフとした造形はなく、当地の独自性を示すものでもあります。
 
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蝶形骨製品(ちょうがたこつせいひん)
縄文時代晩期・前1000~前400年 沖縄県読谷村吹出原遺跡出土 沖縄・読谷村教育委員会蔵
展示期間:通期展示
ジュゴンの骨の大きさ、厚み、形を生かして作られています。
 
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このほかに沖縄の個性を示す装身具としてはサメ歯製垂飾(しせいすいしょく)があります。
サメ歯製垂飾は縄文時代早期から晩期まで、北海道から沖縄にかけての各遺跡から出土していますが、沖縄諸島が群を抜いて数多く出土しています。沖縄諸島から出土したサメ歯製垂飾の素材となったサメ歯はメガドロン、ホホジロザメ、アオザメ、イタチザメ、メジロザメなどさまざまですが、その多くが実は化石化したもので、当時の人々が海で捕獲したサメから入手したものではありません。
沖縄諸島ではサメ歯製垂飾は、沖縄本島中部・南部に広がる琉球石灰岩(珊瑚や貝殻などが堆積して固まった岩石)と分布が重なることから、その関係性が指摘されています。
また当地のサメ歯への志向は強く、貝などで作られたサメ歯製垂飾模造品も注目です。糸満市摩文仁ハンタバル遺跡から出土したサメ歯製垂飾とその模造品をぜひ見比べてみてください。
 
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(左)サメ歯製垂飾(さめしせいすいしょく)
(右)サメ歯製垂飾模造品(さめしせいすいしょくもぞうひん)
縄文時代後期・前2000~前1000年 沖縄県糸満市摩文仁ハンタ原遺跡出土 沖縄・糸満市教育委員会蔵
展示期間:通期展示
ホホジロザメとイタチザメのサメ歯で作られた垂飾とそれを真似て作られた垂飾です。
 
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弥生時代前期後葉以降、北部九州はじめ西日本各地の有力者の墓には貝輪(かいわ:貝製腕輪)が副葬されますが、その供給地となったのが貝塚時代後期の沖縄諸島です。
 
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貝輪(かいわ)
弥生時代(中期)・前2~前1世紀 福岡県朝倉市平塚字栗山出土 東京国立博物館蔵
※平成館考古展示室にて9月4日(日)まで展示
有力者の墓から出土した貝輪です。
 
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交易品となったのは奄美諸島以南を主な生息地とするゴホウラやイモガイなど肉厚で大きな巻貝です。盛んになった貝交易を反映して、沖縄本島にはこれらの貝をあつめた集積遺構がいくつも残されています。
本部町アンチの上遺跡では、117個(4号貝集積遺構)と77個(3号貝集積遺構)を集積した遺構が隣り合って確認されました。
今回は3号貝集積遺構から代表的なものをお借りし展示しています。また磨製石斧や青銅鏡、ガラス玉など弥生系遺物が出土し、当時の交易の拠点遺跡と考えられるうるま市宇検貝塚出土品もお見逃しなく。
 
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貯蔵イモガイ(ちょぞういもがい)
貝塚時代後期・前5~5世紀 沖縄県本部町アンチの上貝塚出土 沖縄・本部町教育委員会蔵
展示期間:通期展示 ※展示は20個です。
弥生時代の北部九州の有力者たちを魅了した貝製腕輪の素材です。
 
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このような琉球列島と本州との関りを示す交易品は『日本書紀』にも見られ、赤木(あかぎ)や檳榔(びんろう)、そしてヤコウガイなどが南島の産物として記されています。
奈良・平安時代以降の南九州以南はときの中央政権から夷狄(いてき)とされ、朝貢や服属を迫られていました。福岡県太宰府市太宰府跡や、奈良市平城宮跡からは調庸で納められた品々に付されただろう木簡に奄美大島や沖永良部島、そして種子島などの島名が記されています。
奄美市小湊フワガネク遺跡からは本州から持ち込まれた土器や鉄器とともに大量のヤコウガイで作られた貝匙(かいさじ)の未完成品が出土したことから、製作(工房)跡と考えられています。平安時代の辞書『和名類聚抄』や清少納言が記した随筆『枕草紙』には、ヤコウガイで作られた盃を「夜久貝」や「螺盃」・「螺杯」と呼び、公卿や殿上人が宴で用いた様子が記されています。
当時の上流貴族をも魅了した螺鈿の輝きを残す貝匙をぜひご覧ください。
 
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重要文化財 貝匙(かいさじ)
貝塚時代後期・6~7世紀 鹿児島県奄美市小湊フワガネク遺跡出土 鹿児島・奄美市立奄美博物館蔵
展示期間:通期展示
すくい取る機能と美しい輝きを備えた貝匙です。
 
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琉球列島でも先島諸島(宮古・八重山列島)の先史時代は奄美・沖縄諸島とは歩みが異なります。当地の先史時代は下田原期と無土器期に分けられますが、両期の間には約千年程度の空白期があります。土器のある時代から土器のない時代へと独特な変遷をたどりますが、その文化の系統関係は明らかになっていません。
無土器期を特徴づける利器の一つにシャコガイ製の貝斧(かいふ)があります。宮古島市浦底遺跡は200本以上の貝斧が出土したことでも著名です。これらの貝斧は現生もしくは化石化したシャコガイの蝶番部・開口部・放射肋を利用して作られています。同じような貝斧を使用するフィリピン島嶼部との関係が古くから指摘されていますが、当地では石斧に適した石材が不足したためにシャコガイを素材とした斧が作られたと考える自生説も出されています。
 
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貝斧(かいふ)
先史時代・前5~3世紀 沖縄県宮古島市浦底遺跡出土 沖縄・宮古島市教育委員会蔵
展示期間:通期展示 ※展示は15個です。
大きさや刃部の形が異なる貝斧です。
 
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本展の第3章では南北1200㎞を超える琉球列島のスケール感を知ることができるよう、各地の出土品を集めて展示しています。島々の自然や景観を思い浮かべながら展示をご覧になっていただければ幸いです。
 

 

カテゴリ:「琉球」

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posted by 品川欣也(教育普及室長) at 2022年06月17日 (金)