東京国立博物館のある上野公園では、10月21日から来年の1月15日にかけて「冬桜イルミネーション」が開催されています。
冬のさかりに桜を思わせるピンクのイルミネーションが煌めく風景は、なかなかどうして見ごたえ十分です。
クリスマスシーズンに入ってからの東京は日に日にきらびやかさを増していますが、飾りつけによって華やかさを演出するのはなにも西洋的な文化だけではありません。
仏教においても「荘厳(しょうごん)」と言って、仏像や仏堂を重厚美麗に飾る行いがあります。
善美を尽くした装飾は人々に浄土を想起させ、それ専用に製作された装飾品を「荘厳具」と呼びます。
法隆寺宝物館に展示された国宝「法隆寺金銅灌頂幡」はその最たるもので、日本金工史上最高の荘厳具と言えるでしょう。
国宝 法隆寺金銅灌頂幡 飛鳥時代・7世紀 東京国立博物館蔵 法隆寺宝物館にて通年展示
全てが金色に染まる仏の世界をイメージするため、これら荘厳具の多くは黄金色をしています。
模造 迦陵頻伽文華鬘 昭和時代・20世紀 東京国立博物館蔵 ※この作品は現在、展示されていません
原品=国宝 迦陵頻伽文華鬘 平安時代・12世紀 中尊寺金色堂所蔵
とは言え、一見純金に見える荘厳具もその多くは銅でできています。金や銀は大変美しい鉱物ですがその分とても高価なため、素材すべてを金で賄うことはできないからです。
銅は本来赤味がかった赤橙色をしている金属ですが、表面に「鍍金(ときん=水銀を用いたメッキ)」を行うことで、純金に負けない金色を得ることができるのです。
こうした金属への加色・彩色表現は荘厳具だけではなく、密教法具などその他の金属工芸作品にもしばしば用いられました。
重要文化財 八仏種子五鈷鈴 平安時代・12世紀 東京国立博物館蔵
※この作品は現在、展示されていません
この五鈷鈴がところどころ黒ずんでいるのは、長年の使用によって、その部分の鍍金が剥がれてしまったためです。
重要文化財 八仏種子五鈷鈴 平安時代・12世紀 東京国立博物館蔵 部分拡大
また、鍍金以外にも、表面に彩色を行う例も存在します。
華鬘 室町時代・16世紀 和歌山県丹生都比売神社伝来 東京国立博物館蔵
※この作品は現在、展示されていません
これは和歌山県丹生都比売神社に伝来した華鬘です。先ほどの「迦陵頻伽文華鬘」では銅板を切透すことで表現していた2体の迦陵頻伽を色彩で表現している点に注目してください。
当時の人々がより一層の美麗を求め、様々な表現を試行錯誤した結果と言えます。
日本美術の特質の一つである「装飾する精神」があらわれた好例と言えるでしょう。
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posted by 末兼俊彦(平常展調整室研究員) at 2016年12月15日 (木)