「袱紗(ふくさ)」といえば、一般に思い浮かべますのは、慶事や弔事に金封を包む紫縮緬でできた袷(あわせ)仕立ての四角い包み袱紗でしょう。また、茶道の心得のある方ですと、茶碗の下に敷いたり、懐中して使用したりする小袱紗を思い浮かべるかもしれません。今日、ここでお話しますのは、贈り物の上にかぶせて相手に持っていった「掛袱紗(かけぶくさ)」というものです。袷仕立てでほぼ正方形に作られています。もともとは贈り物に埃が付かないように、上に被せて運ぶためのものでした。
江戸時代になると、武家や裕福な町人たちの間で、お祝い事にふさわしい華やかな模様がデザインされた美しい掛袱紗が使われるようになりました。表地には繻子や綸子といった光沢のある絹織物が、裏地には紅で染めた縮緬が用いられ、四隅に房がつけられます。表には日本の伝統的な吉祥模様や古典文芸にちなんだみやびやかな模様が刺繍(ししゅう)や友禅染で美麗に装飾されるようになります。この袱紗も、おそらくは、お祝い事にちなんだ贈り物に掛ける袱紗として使われていたものでしょう。
袱紗 紺繻子地鯛模様 (ふくさ こんしゅすじたいもよう)
江戸時代・18~19世紀 アンリー夫人寄贈
2月23日(日)まで本館8室にて展示
この袱紗には、2尾の鯛が向かい合わせにデザインされています。大きな目の「目出鯛」が向かい合わせで「夫婦仲良くおめでたい」、という意味が込められています。2尾の鯛を結わえる綱の端を扇のように開いて熨斗のように見せるデザインの面白さが、この袱紗の一番の魅力でしょう。
模様はすべて刺繍(ししゅう)で表わされています。鯛の部分は、撚りのない絹糸でボリュームたっぷりに刺繍され、綱の部分は金糸で刺繍されています。絹の光沢を生かした立体感のある刺繍は日本刺繍の大きな特色です。
江戸時代にはこのように華やかな刺繍で彩られた掛袱紗がたくさん作られました。贈る人に思いを馳せて、華やかな袱紗で贈り物を飾り、ともに祝うという美しい日本の慣習が袱紗のデザインに表われています。
関連事業
博物館に初もうで
2014年1月2日(木) ~ 2014年1月26日(日)
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posted by 小山弓弦葉(工芸室主任研究員) at 2014年01月19日 (日)
本館14室で開催中の特集陳列「日本の仮面 能面 是閑と河内」は2月16日(日)までです。
前回12月9日のブログで焼印や知らせ鉋のお話をしました。この特集では是閑と河内の焼印のある面を展示していますが、すべてが是閑、河内の真作と断定できません。
今回はその理由をお話しします。
河内の焼印は通常、この形です。
能面 中将 「天下一河内」焼印
今回展示した面の中に変わった印が二つあります。
(左)三光尉 焼印 上杉家伝来 (右)泥眼 焼印
三光尉の印は明らかに字体が違いますからわかりやすいですね。泥眼の印は一見よく似ていますが、外枠の円の縦径が少し短く、「河内」の字も上下が短くなっています。それよりも注目すべきは、「下」の字の点の位置です。縦線がコ字形を作る上にあるのが通常ですが、泥眼の印は下にあります。
知らせ鉋はどうでしょうか。
(左)三光尉 面裏 (右)泥眼 面裏
河内の知らせ鉋は前回お示ししたとおり、鼻孔の間に2つの刀跡、右上隅に放射状の刀跡があります。三光尉はどちらもありません。泥眼は鼻孔の部分に布を貼っているため見えず、右上隅にはありません。
焼印が怪しく、知らせ鉋がないなら河内の真作か疑問です。では面の造形はどうでしょうか?
(左)三光尉 「天下一河内」焼印 (右)笑尉 「天下一河内」焼印
比較のため、通常の焼印、知らせ鉋があり、河内の真作と見られる優れた笑尉と並べて見ましょう。頭骨の起伏、眼球のふくらみ、頬の肉付きなど三光尉は笑尉に比べて硬く、河内の真作とは考えにくいでしょう。
(左)泥眼「天下一河内」焼印 (右)泥眼「天下一是閑」焼印
泥眼はどうでしょうか。ここでは是閑の焼印のある泥眼と比較してみましょう。
河内印の方は額が丸く、こめかみはへこみ、頬が張る、輪郭のかすかな曲線がみごとです。
河内印の方が頬に肉がつき、やわらかな彩色と相まってやさしそうに見えます。
是閑印の方は眼の見開きが大きく、気の強さが前面に出ています。河内印の方はおとなしそうなだけ、内にこもる怖さがあります。
泥眼は「葵上」などで嫉妬による怨念を押さえきれない貴族の女性の役に用います。白目に金泥を塗って狂気を宿していることを示しているのです。光を下から当てないとわかりにくいですね。
下から光を当てると顔が一変します。
この河内印の泥眼は、焼印は怪しく、知らせ鉋も確認できませんが、造形は優れていて河内真作の可能性が高いものです。反対に、焼印、知らせ鉋が揃っていても河内作とは到底考えられない面もあります。もちろん白黒はっきりできない面も少なくありません。
焼印、知らせ鉋を信用できない点に能面研究の難しさがあります。
カテゴリ:研究員のイチオシ
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posted by 浅見龍介(東洋室長) at 2014年01月17日 (金)
いよいよ明日、「クリーブランド美術館展―名画でたどる日本の美」と、日本伝統工芸展60回記念「人間国宝展―生み出された美、伝えゆくわざ―」が開幕します。
それに先立ち、本日は2つの展覧会の開会式・内覧会が行われました。
ご来場いただいたお客様の数は、午前中に行われた報道内覧会とあわせると1500人近く。
皆様の大きな期待を受けて、好発進となりました。
クリーブランド美術館からフレデリック・ビッドウェル館長が出席され、
「今回の展覧会がクリーブランド美術館と東京国立博物館の長い交流の成果であり、クリーブランドの市民は、彼らの愛するクリーブランドの日本美術コレクションを日本の皆様に見ていただけることを、とても楽しみにしている」と挨拶されました。
フレデリック・ビッドウェル クリーブランド美術館長
展覧会の入口では、雷神さまがお出迎え。
雷神図屏風 「伊年」印 江戸時代・17世紀 クリーブランド美術館蔵
ユーモラスな顔に思わずにっこりしてしまいます。
白い体が金の地から浮かび上がって見えることにもご注目ください。実はこの作品には、新しい照明が使われています。
照明に関しては、本ブログにて改めて解説いたしますのでご期待ください。
大画面が並ぶ、「花鳥風月」「物語絵画」のコーナー
この展覧会では、日本美術における人と自然の表現に焦点をあてながら、日本美術の流れをご覧いただきます。
そんなコンセプトが成り立つのは、クリーブランドの日本美術コレクションが体系だったものだから。
市民の皆さんが誇りに思っておられるというのもうなずけます。
次に日本伝統工芸展60回記念「人間国宝展―生み出された美、伝えゆくわざ―」についてご紹介します。
歴代人間国宝104人の名品がずらりと並びます。これだけ揃うと大変豪華です。
この展覧会の最大の魅力は、国宝・重要文化財などの名品と、人間国宝の作品が並べて展示されることです。
名品の造形が人間国宝の作品にどのように影響したのかを見比べていただくことができます。
改めて、人間国宝の作品には迫力があります。そして、古典の名品が守り伝えられてきた理由も分かります。
両展ともに、新春を飾る特別展にふさわしく、華やかで見ごたえのある作品が揃いました。
まったく違うアプローチの2つの展覧会ですが、共に日本の美の再発見を目指します。
どうか、会期中早いうちにご来場ください。
今後、本展覧会の見どころについて研究員がご紹介してまいります。どうぞおたのしみに!
カテゴリ:news、2013年度の特別展
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posted by 小林牧(広報室長) at 2014年01月14日 (火)
皆様、明けましておめでとうございます。
平成26年、2014年の新年を皆様とともに寿ぎたいと思います。
今年は午年です。午は正午という言葉に示されるように十二支の中間に当たります。動物は「馬」がわりあてられています。
馬は家畜として親しまれ、競馬用のサラブレッドは特に有名です。(広辞苑より)
1月2日からの「博物館に初もうで」での馬に関わる展示「博物館に初もうで―午年によせて―」を是非お楽しみ下さい。
今年も1月15日からの「人間国宝展」「クリーブランド美術館展」をはじめ様々な企画を用意しております。
皆様が日本の文化や伝統、美術に親しんでいただき、楽しめる博物館となるよう努めてまいります。
どうぞ今年もトーハクをよろしくお願いします。
館長 銭谷眞美
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posted by 銭谷眞美 (館長) at 2014年01月01日 (水)
2013年もあとわずか。
今年もトーハクの一年を振り返ってみましょう。
新年も1月2日から開館したほ!
東洋館リニューアルオープンもこの日だったほ。
ビジュアルイメージキャラクターの井浦新さんを迎え、東洋館リニューアル開館記念式典が行われました。
洗練された展示空間が多くのお客様でにぎわいました。
お正月恒例の獅子舞や和太鼓に加え、華麗なアジアの舞も披露されたわね。
東洋館プロモーションビデオのひろしとユリの物語。 キュンときたんだほ~。
あ、私もあれ、ダーイ好き! 井浦さんにご登場いただいた広告ビジュアルが、第80回毎日広告デザイン賞 準部門賞をいただいたことも忘れられない思い出ね。
1月は特別展「飛騨の円空―千光寺とその周辺の足跡―」、「書聖 王羲之」も始まったほ。
円空仏が立ち並ぶ、森のような空間が心地よかったほ~。
王羲之展では、蘭亭図巻がアニメのように動く映像が楽しかったほ~。
春は恒例の「博物館でお花見を」。庭園の桜、作品に咲く桜をお楽しみいただきました。
4月からは特別展「国宝 大神社展」も始まりました。普段、なかなか拝見できない神像をたくさん見ることができました。
国宝「七支刀」(奈良・石上神宮蔵)がかっこよかったほ!
「七支刀」は大人気で展示期間が延長されたんだほー。
夏の特別展はわたしも大好きな書の展覧会、「和様の書」でした。
この1089ブログでも、書の楽しみ方やワークショップの模様など盛りだくさんでした。
トーハクWEBでは投票「美文字選手権」も実施。やっぱり三跡が上位独占でしたね。
7月1日からは、トーハク広報室公式のTwitter、facebookを開始したほ!
ぼくもアイコンに登場しているので、ぜひぜひみてほしいんだほ!
そして秋は、「秋の特別公開」、9月28日(土)には「スペシャルイベントデー」を開催。
酒井抱一の「夏秋草図屏風」と「四季花鳥図巻」の美しさにうっとり。
特別夜間開館では、インドネシアのジャワガムランと舞踊、アジアンビアガーデンで秋の夜長を満喫いただけたのでは?
9月は、黒田記念館別館に上島珈琲店がオープンしました。
ちょうどこの時期、人気ドラマ「半沢直樹」でトーハク本館の大階段が登場。ロケ地めぐりで話題になったほ!
(トーハクくんったら、いつの間に…)
10月からは、特別展「上海博物館 中国絵画の至宝」、「京都―洛中洛外図と障壁画の美」が開催されました。
東洋館リニューアルオープン記念の上海博物館展では、まさに中国絵画の至宝が一堂に会し、小規模ながらも充実した内容の展覧会でした。
京都展は、国宝・重要文化財に指定されている7件の「洛中洛外図屏風」を見比べて楽しめたほ。
4K映像や二条城の空間を再現した斬新な展示にも圧倒されたほ~!
龍安寺の4K映像は、テレビ業界で権威あるATP賞の特別賞を受賞しました!
プロジェクションマッピングも盛り上がったわね。
さて、トーハクくん、来年は…?
本館、正門のリニューアルがあるほ!
特別展も魅力的なラインナップだほ~!おいしそうな白菜も(じゅるる)…。
もう、トーハクくんは食べることばかり…。
お正月は1月2日(木)から開館します。
「博物館に初もうで」でお楽しみください。「新春特別公開」では、人気の国宝「松林図屏風」も展示されますよ。
今年も一年、お世話になりました。
2014年も、トーハクをよろしくお願いいたします!
カテゴリ:news
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posted by トーハクくん&ユリノキちゃん at 2013年12月30日 (月)