能面 是閑と河内
本館14室で「特集陳列 日本の仮面 能面 是閑と河内」(2014年2月16日(日)まで)を行なっています。
11月26日の川岸さんのブログで紹介されたとおり、是閑(?~1616)と河内(?~1657?)は安土桃山時代から江戸時代初期に能面を作った面打(めんうち、能面の作者)です。是閑は、能と茶の湯に熱中した豊臣秀吉から文禄4年(1595)に「天下一」の称号を与えられた人です。河内は徳川将軍家の注文も受けたらしく、目利きから「無類最上の名人」と評されました。
この特集陳列では27面を展示していますが、実は是閑と河内の作品と確定できるものはありません。是閑と河内の焼印がある能面の特集です。焼印は本来、自分の作であることを示すために押したものと考えられますが、後世の面打が是閑と河内の作を写した時に焼印まで写して自分の作品に押すことがあったので、印を根拠に作者を断定することができないのです。
(左)是閑の焼印、(右)河内の焼印
もう一つ、面打が自分の作であることを示す方法として、面裏を削った部分に固有の刀の跡を刻む、知らせ鉋(がんな)と呼ばれるものがあります。是閑は、鼻の下に3つの刀跡、
是閑の知らせ鉋
河内は鼻孔の間に2つの刀跡と右上隅に菊の花のように放射状にそろえた刀跡があります。
河内の知らせ鉋
しかし、これも後世の面打が写すことがあるので作者確定の根拠になりません。
また、焼印や知らせ鉋がないものは2人の作ではない、とも言えません。
では今回展示した27面もどれが真作でどれが写しか全く不明か、というとそうでもありません。能面は木を彫って作ったものですから、精密に写しても造形に差が出ます。さらに塗りにも個性が出ます(11月26日ブログ参照)。
能面 平太 「天下一是閑」焼印 安土桃山~江戸時代・16~17世紀
是閑印のある平太です。武将の亡霊の役に用います。
眉の稜線が目立ち、その下方は落ち窪んでいながら眼球の丸みが強く、上瞼が盛り上がっていて、くっきり強い印象の顔です。頬骨も出て雄々しいですね。塗りはなめらかで光沢があります。
重要文化財 能面 泥眼 「天下一河内」焼印 奈良・金春家伝来 江戸時代・17世紀
河内の印のある泥眼です。白目の部分に金泥を塗ってあります。「葵上」の六条御息所など抑えきれない情念、怨みに苦しむ役に用います。額が丸みを帯び、眉の稜線はなく、目の窪みも上瞼のふくらみも、なだらかです。しかしゆるやかな起伏はあって、それはこめかみの窪み、頬骨のわずかな張りも同様です。
上記2点は彫刻作品として優れており、それぞれ是閑と河内の作と見て良さそうです。
こうした微妙な造形を展示ケース越しに見極めるのは容易ではありませんが、さまざまな角度からじっくりご覧ください。
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posted by 浅見龍介(東洋室長) at 2013年12月09日 (月)