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1089ブログ

展覧会で見る、日本スポーツの歴史と文化

特別企画「スポーツ NIPPON」では、日本スポーツの歴史と文化について、秩父宮記念スポーツ博物館と当館の所蔵品により紹介しています。



最初に本題から少し外れますが、これまでに日本国内の博物館・美術館で開催された、日本スポーツを取り上げた代表的な展覧会をご紹介します。

まず挙げられるのが、1964年東京大会にあわせて、日本体育学会と毎日新聞社が主催して東京池袋西武百貨店で開催された「日本スポーツ史」展です。
この展覧会では、日本スポーツを原始スポーツ、貴族的スポーツ、武家的スポーツ、庶民的スポーツ、近代スポーツに部門分けし、さらに正倉院御物(しょうそういんぎょぶつ)・鳥獣戯画(ちょうじゅうぎが)、狩猟、相撲(すもう)、登山等の四部門を別個に設けました。
総数225件もの考古資料、文献史料、美術工芸品などによって日本スポーツの歴史を総合的に紹介しています。
これほどの規模で日本スポーツに関する展覧会が開催されたのは初めてのことであり、当時の関係者たちの意気込みが伝わります。

次にご紹介するのは、1994年に徳川美術館で開催された「美術に見る日本のスポーツ」展です。
武士の武芸や貴族の宮廷行事、庶民の遊戯の中から弓術(きゅうじゅつ)・相撲・剣術・蹴鞠(けまり)・打毬(だきゅう)などを日本の伝統的スポーツと位置づけ、これらを題材にした国宝・重要文化財を含む86件の美術工芸品が展示されました。
伝統的スポーツが日本美術における画題や意匠のひとつになっており、日本文化を理解する上でも重要なものであることを示した点が高く評価されています。

最近では、2019年に江戸東京博物館にて特別展「江戸のスポーツと東京オリンピック」が開催されました。
日本の伝統的スポーツが江戸時代には競技や娯楽としての性格を強めつつ、庶民層まで浸透していたことを起点として、明治時代以降の西洋スポーツの普及と伝統的スポーツの近代化、日本選手のオリンピックへの挑戦と活躍、戦時下でのスポーツ事情、そして1964年東京大会の誘致から開催までの流れを、196件の展示資料によって様々な切り口で紹介した優れた内容となっています。

本展は、展示作品数50件と、規模的には上記の展覧会ほど大きなものではありませんが、秩父宮記念スポーツ博物館と当館が協力することにより、日本スポーツの歩みを原始・古代から近現代まで通観し、その魅力をわかりやすく紹介することを目指しました。

さて、本題に戻りまして、本展の第1章「美術工芸にみる日本スポーツの源流」より、私のおすすめ作品をご紹介します。

日本の伝統的スポーツのうち、剣道や居合道は、武士の武芸として重視された剣術にそのルーツがあります。
日本の剣術は、日本独自の刀剣である日本刀が誕生した平安時代後期(11世紀)頃から、刀剣を自在に操るために発達したと考えられます。
大規模な戦乱が全国に広がった室町時代後期(戦国時代)には、より実戦的な剣技を体系化した剣術流派や、宮本武蔵(みやもとむさし)に代表されるような剣豪が登場し、その理念や奥義を図解した秘伝書がまとめられるようになりました。

「愛洲陰流伝書(あいすかげりゅうでんしょ)」はそのひとつです。
愛洲陰流は、室町時代に伊勢国(三重県)の愛洲移香斎久忠(あいすいこうさいひさただ)が編み出した剣術流派で、陰流(影流)ともいい、新道流(しんとうりゅう)・念流(ねんりゅう)とともに兵法三大源流のひとつとされます。
本作品では、「猿飛(えんぴ)」、「猿廻(えんかい)」、「山陰(やまかげ)」、「月陰(つきがげ)」、「浮舩(うきふね)」など、様々な剣技が図示されています。


愛洲陰流伝書(部分) 室町時代・16世紀写 東京国立博物館蔵


右から「山陰」、「月陰」、「浮舩」が描かれています。

天下泰平となった江戸時代においても、刀剣は武士の象徴であり、心身の鍛錬としての性格を強めつつ、様々な剣術流派が派生しました。
「北斎漫画(ほくさいまんが)」は、江戸時代を代表する浮世絵師の一人、葛飾北斎(かつしかほくさい)による絵手本(スケッチ画帳)で、人物、動植物、風景、器物、建物、妖怪など様々なものが取り上げられています。
今回は、剣術や槍術などの武芸が描かれた場面を展示しており、江戸時代の剣術稽古の様子や道具がよく分かります。


北斎漫画 葛飾北斎筆 江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵

また、江戸時代には実際に刀剣を使う機会が少なくなったことから、試し切りによって刀剣の切れ味を評価することも行われました。
「刀 長曽祢虎徹(かたな ながそねこてつ)」は、優れた切れ味で名高い長曽祢虎徹が製作したもので、よく鍛えられた刀身に冴えた刃文(はもん)が光ります。
茎(なかご)には「四胴(よつどう)」の金象嵌銘(きんぞうがんめい)があり、試し切りの名手であった山野加右衛門(やまのかえもん)が、この刀で罪人の遺体4体を重ね切りしたことが記されています。


刀 長曽祢虎徹 長曽祢虎徹作 江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵


「四胴」の文字が金象嵌銘で記されています。

このように、本展の前半は、日本の伝統的スポーツについて当館所蔵品を通して紹介しています。
また、江戸時代の浮世絵に描かれた様々な画題の中から、心身を鍛え、ルールのもとで互いの技を競い合うという、現代のスポーツやオリンピック精神にも通じるような内容のものを選んで展示しています。
これらについては、次回以降の1089ブログでご紹介しますのでお楽しみに。
 

東京2020オリンピック・パラリンピック開催記念 特別企画「スポーツ NIPPON」

平成館 企画展示室
2021年7月13日(火)~2021年9月20日(月)

展覧会詳細情報

カテゴリ:特別企画

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posted by 佐藤寛介(登録室・貸与特別観覧室長) at 2021年07月21日 (水)

 

マレーシア・イスラーム美術館精選 特別企画「イスラーム王朝とムスリムの世界」の絵画を通してみたイスラーム世界の生活と文化

マレーシア・イスラーム美術館精選 特別企画「イスラーム王朝とムスリムの世界」では、セクションごとに大画面の油彩画などを展示しています。
これらの絵の多くは、ヨーロッパの画家がイスラーム世界を訪れ、その文化に魅かれて描いたものです。したがって、ヨーロッパ人の目を通してみた当時のイスラームの文化だといえます。
しかし、当時のイスラームの文化を理解する上で有効な資料であることに違いありません。

イスラーム展 展示風景

今回は、額絵3点をもとに、イスラーム世界のさまざまな文化を読み解いていきたいと思います。

1枚目は「羊毛を紡ぐ人」です。
オーストリアの画家ルドルフ・エルンストは、二人の女性がテラスで羊毛を紡いでいる様子を描きました。
画面に向かって左下には、象嵌(ぞうがん)の小箱が置かれています。
この絵が掛けられたケースには、螺鈿箱も展示されています。この螺鈿箱は、絵に描かれた象嵌の小箱のように、女性たちが宝石などの大事なものをしまうために使っていたのでしょう。
また、この絵には3本の柱が描かれています。柱の上には、柱頭が置かれています。柱頭とは柱の上に梁(はり)をのせる大切な建築部位です。
セクション「はじめに:イスラーム王朝とムスリムの世界」で展示されている柱頭は、この絵に描かれているように、建物の柱の上に置かれ、梁を載せながら、また柱を飾っていたことがわかります。
そして絵の中央と右側に描かれた入口に立つ柱の前には、アルハンブラのツボが置かれています。
セクション「スペインと北アフリカ」のケース内に展示された1対のアルハンブラの壺は、この絵のように、入口の左右に置かれてていたであろうことがわかります。

「羊毛を紡ぐ人」解説画像

「羊毛を紡ぐ人」解説画像

2枚目は「祈り」です。
オーストリアの画家ルートヴィヒ・ドイッチュは、モスク内で男性が祈りを捧げる様子を描きました。
画面では男性が立つ絨毯(じゅうたん)の上に、クルアーン台が置かれています。またモスクの壁に近くには真鍮燭台(しんちゅうしょくだい)が置かれています。
セクション「モスクの芸術」で展示されていたメダイヨン文敷物やクルアーン台、そしてセクション「マムルーク朝」で展示されている真鍮燭台が、モスクの中ではこの絵にみられるような使われ方をしていたことがわかります。

「祈り」解説画像

「祈り」解説画像

3枚目は「モスク入口の貧者」です。
ポーランド出身の画家スタニスワフ・フレボフスキが、モスクの入口で貧者が物乞いをする様子を描いたものです。
モスクの大きな入口の左右両側には鉄格子の小窓が取り付けられていたようです。アーチ形のタイルが小窓の上を飾っています。
同じケースで展示されているミフラーブ・パネルも、おそらくはこの絵のようにモスクの壁面を飾っていたであろうと考えられます。
また画面の貧者は両手で鉢を持っています。その貧者の左側には修道僧の鉢を置いています。
同じケースに展示されている文字文鉢は本来、飲料水の容器であり、修道僧の鉢は托鉢用でした。
イスラーム教の修道僧の中には神と一体となるために、人から施しを受ける貧困生活に身を投じながら、ひたすら修行に励む者もいました。これらの鉢はこうした俗念からの心の開放を暗示しています。

「モスク入口の貧者」画像解説

「モスク入口の貧者」画像解説

以上、3点の絵画を通して、展示されているさまざまな作品が本来、どのように使われてきたのかを読み解いてみました。
いずれの作品もイスラーム世界の生活や文化、イスラーム教の信仰などを知る手掛かりになります。
大画面の絵画から、会場内に展示されているさまざまな作品を探し当ててください。

 

カテゴリ:特別企画

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posted by 勝木言一郎(上席研究員) at 2021年07月20日 (火)

 

特別企画「スポーツ NIPPON」が開幕しました!

 7月13日(火)より平成館1階の企画展示室にて、東京2020オリンピック・パラリンピック開催記念 特別企画「スポーツ NIPPON」が開幕しました。

躍動感あふれるタイトルロゴがお出迎えします。
 
日本におけるスポーツの歴史と文化を紹介する本展は、2章構成となっています。
 
第1章「美術工芸にみる日本スポーツの源流」では当館が所蔵する絵画や工芸などの美術作品を通して、日本スポーツの源流をご紹介します。
 
日本のスポーツの歴史は古く、原始・古代までさかのぼります。
そのルーツは、貴族の宮廷行事、武士の武芸、庶民の遊戯、そして神事や芸能など多種多様です。
相撲・流鏑馬(やぶさめ)・蹴鞠(けまり)といった伝統文化や、剣道・弓道などの武道として、現代まで受け継がれています。
 
重要文化財 男衾三郎絵巻(おぶすまさぶろうえまき)(部分) 鎌倉時代・13世紀 東京国立博物館蔵 展示期間:7月13日(火)~8月15日(日)
 
男衾三郎絵巻は、都の生活にあこがれる兄の吉見二郎と武芸に励む弟の男衾三郎という関東に住む武士の兄弟が登場する絵巻です。
今回展示しているのは、笠懸(かさがけ)の場面です。
笠懸は走る馬の上から的に鏑矢(かぶらや)を射る騎射技術で、流鏑馬よりも実践的な性格が強いものとされます。
馬と弓を巧みに操りながら的を射る姿が生き生きと描かれています。
 
絵巻の中で武士が使っている、重籐弓(しげとうのゆみ)や鏑矢、鞍の実物も展示しています。
 
向かって左:重籐弓 江戸時代・19世紀 世良田基氏寄贈、中央:鏑矢 江戸時代・19世紀、右:重要文化財 獅子螺鈿鞍 平安~鎌倉時代・12~13世紀 嘉納治五郎氏寄贈 すべて東京国立博物館蔵
 
当時の武芸の様子と、そうした場で使用されていた武具を合わせて見ることができるのも、本展のみどころのひとつです。
 
平安時代に貴族の間で盛んにおこなわれた蹴鞠ですが、使用する鞠や装束を、蹴鞠の様子を描いた絵巻と合わせてご覧いただくことができます。
 
 
なよ竹物語絵巻(模本)(部分) 江戸時代・19世紀 狩野晴川院養信模(原本:鎌倉時代・14世紀) 東京国立博物館蔵 展示期間:7月13日(火)~8月15日(日)
 
上:鞠装束 紅遠菱文(まりしょうぞく べにとおびしもん) 江戸時代・19世紀、左下:蹴鞠 江戸時代・19世紀、右下:鞠靴(まりぐつ) 江戸時代・19世紀 関保之助氏寄贈 すべて東京国立博物館蔵 
 
このほか、江戸時代の浮世絵作品の展示を通して、前近代における日本のスポーツ文化をたどるコーナーもあります。
 
※会期中展示替えがあります。
 
第2章「近現代の日本スポーツとオリンピック」では、近代から現在に至るまでの日本スポーツの歩みを秩父宮記念スポーツ博物館の所蔵資料を中心にご紹介します。
 
明治以降、「スポーツ」という概念が海外よりもたらされます。
とくに、オリンピックは日本にスポーツを普及・啓発する上で重要な役割を果たしました。

1912年のストックホルム大会で、日本は初めてオリンピックに参加しました。
この時出場した、三島弥彦(みしまやひこ)選手と金栗四三(かなくりしそう)選手にゆかりのある資料を展示しています。
日本における初期のスポーツ用具や用品をご覧いただけます。
 
三島弥彦 陸上ユニフォーム、シューズ 明治45年(1912) 秩父宮記念スポーツ博物館蔵 
 
マラソン足袋 明治~大正時代・20世紀 秩父宮記念スポーツ博物館蔵 
 
1964年にアジアで初めてとなる東京オリンピックが開催されましたが、当時のユニフォームや聖火トーチ、ポスターなど貴重な資料が一同に会します。
 
1964年東京大会の日本選手団デレゲーションユニフォームや聖火リレーのランナー用シャツ、パンツ、聖火トーチが並びます。
 

亀倉雄策氏がデザインした1964年東京大会公式ポスターです。

こちらの振袖は1964年東京大会の表彰式で女性補助要員が着用したものです。
五輪マークの刺繍をあしらう斬新な意匠と、伝統的な和装の優美さが世界の注目を集めました。

 
1964年東京大会 メダル授与式着用振袖(松坂屋) 昭和39年(1964) 秩父宮記念スポーツ博物館蔵 
 
オリンピックを代表するものといえばメダルですが、日本で行われたオリンピックのメダルや、日本人選手が獲得したメダルを展示しています。
開催地や時代によって、様々なデザインのメダルがつくられました。
 
一番右の1998年長野冬季大会のメダルは、素材に木曽漆を使用、中心部には蒔絵が使われ、七宝焼きの大会エンブレムがあしらわれています。

平成館にて同時期に開催中の、特別展「聖徳太子と法隆寺」(別途事前予約および観覧料が必要)と合わせてお楽しみください。
 
 
東京2020オリンピック・パラリンピック開催記念 特別企画「スポーツ NIPPON」

平成館 企画展示室
2021年7月13日(火)~2021年9月20日(月)

展覧会詳細情報

 

カテゴリ:特別企画

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posted by 長谷川悠(広報室) at 2021年07月16日 (金)

 

一日でいい、旅がしたい。「イスラーム王朝とムスリムの世界」開幕です!

 本企画キービジュアル
本企画キービジュアル

7月6日(火)、当館東洋館の地下にある12,13室を使ったマレーシア・イスラーム美術館精選 特別企画「イスラーム王朝とムスリムの世界」がはじまりました。

東洋館エントランス写真
東洋館エントランス

イスラーム=中東、と思われる方も多いのではないでしょうか。

この展覧会は、マレーシアにあるイスラーム美術館の全面協力を得て、同館の所蔵品204点をお借りし、時代的にも地域的にもとても幅広い範囲を網羅した、これまでにはなかったイスラーム文化の決定版ともいえる内容の展観会です。

会場入り口写真

東洋館の地下におりて奥の部屋が会場となります。
会場では、14の王朝や地域を時代順あるいはテーマに基づいて、計15セクションが展開します。

展示コーナー写真
モスクの中で使われるものを展示したコーナーもあります。

ミフラーブ・パネル写真
手前向かって右:ミフラーブ・パネル 14-15世紀 中央アジアまたはイラン(ティムール朝)
写真でみて想像していたよりずっと大きくて迫力があります。

展示コーナー写真

各セクションは、さまざまなイスラームの文物と、それらが描かれた絵画作品で構成されています。それぞれの展示品がどのように使われていたかわかるようになっています。

インドの細密画写真

インドの細密画と、その向かいにはそこに描かれているようなジュエリーがきらびやかに並びます。ゴージャスでボリュームのある品々にうっとりです。

イスラームの影響の及んだ範囲の広さ、そこから生まれた文化の多彩さをご覧いただけると思います。

開会に先立ち、オープニングセレモニーが行われ、駐日マレーシア大使および協賛社の皆さまにご参加いただきました。マレーシアはようやくロックダウンが解けましたが、イスラーム美術館の皆さまには、感染状況の厳しい中、作品貸与にあたって多大なご尽力をいただきました。

Zoomセレモニー画像

マレーシア・イスラーム美術館の運営財団Albukhary FoundationのZara副会長は、残念ながら来日がかなわず、Zoomでセレモニーにご参加いただきました

海外旅行のできない日々が続きます。展覧会を通して、異文化に触れて旅の気分を味わっていただければ幸いです。会期は来年(2022)の2月20日(日)まで。

 

カテゴリ:特別企画

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posted by 鬼頭智美(広報室) at 2021年07月07日 (水)

 

修理をする立場から

こんにちは、保存修復課保存修復室の野中です。

住友財団修復助成30年記念 特別企画「文化財よ、永遠に」では、国内は、北は岩手県から、南は高知県、そして海外からはベトナム(11月24日まで)より、木で造られた仏像、神像、能面など、修理が行われた彫刻たち26件54点が集結しました。

関心がある方は、テレビなどで文化財修復の特集が組まれた映像を観られたことがあるかもしれません。
ご存知の通り文化財の修理は、ギュッと編集された映像におさまらない、修理に至るまでの所有者や行政担当者、相談を受けた専門家の方々の準備期間、修理が始まってからの技術者たちが汗を流した様々な時間が詰まっています。

修理に至るまで、所有者の方々がまず苦労されるのが費用の工面です。
所有者の方々はその準備に奔走されますが、その時に助成金への申請が検討されます。
代表的なものが今回の展覧会の主催である住友財団の修復助成です。
費用の工面には1年、または2年以上かかる場合があります。
時には、費用が工面できず計画を一時断念されることもあるでしょう。

今回の展覧会では、費用工面の難題を乗り越え、修理自体に4年間かかったお像も展示されています。
所有者の方々にとっては、検討し始めてから修理を終え、お像が戻ってくるまで、とてもとても長い文化財に向き合う時間があります。


岩手県指定文化財 七仏薬師如来立像 平安時代・12世紀 岩手・正音寺蔵
2015年から中尊(真ん中の少し大きめのお像)の修理を始め、その後2体ずつ計4年をかけて修理が行われました。(修理:株式会社 明古堂)



文化財は、100年ほどの期間で何度か修理を繰り返し現在に伝わっています。
修理をすると、後世の修理に関わった人たちの存在にも出会います。
後世の人も同じような苦労を乗り越え、修理に至り、守ってきた過去があります。
そうやって数百年もの間、たくさんの文化財が伝わってきています。


重要文化財 千手観音菩薩立像 平安時代・9世紀 福井・髙成寺蔵 
1997年より4年をかけて修理が行われ、背面の裾の内側に江戸時代(元禄14年(1701年))の修理墨書が発見されました。 (修理:公益財団法人 美術院)


解体した背面と発見された修理墨書


修理の仕事に関わっていると、せっかく苦労して修理が行われても、その後の文化財をとりまく地域や環境の変化で、朽ちていくものも目にします。
文化財の保存には、修理ができることだけではなく、関心をもつ人など文化財を取り巻く環境を維持していくことが、その後とても重要になっていきます。


福島・龍門寺
東日本大震災直後の状況 


和歌山県指定文化財 家都御子大神坐像(熊野十二所権現像のうち)
安土桃山時代・16世紀 和歌山・熊野那智大社蔵 
修理前の頭頂部の虫損被害状況


令和となった今、さらに文化財の活用に力を入れる時代になりました。
文化財の活用は、観光への取り組みに繋がっています。

観光は、字のごとく地域の「光を観る」ことです。
文化財という地域の光が、途絶えることのないよう、この展覧会へぜひ足を運んでいただき、「文化財よ、永遠に」というテーマを多くの方に考え、感じる機会になっていただけたら幸いです。

カテゴリ:彫刻特別企画

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posted by 野中昭美(保存修復課) at 2019年11月27日 (水)