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マレーシア・イスラーム美術館精選 特別企画「イスラーム王朝とムスリムの世界」の絵画を通してみたイスラーム世界の生活と文化

マレーシア・イスラーム美術館精選 特別企画「イスラーム王朝とムスリムの世界」では、セクションごとに大画面の油彩画などを展示しています。
これらの絵の多くは、ヨーロッパの画家がイスラーム世界を訪れ、その文化に魅かれて描いたものです。したがって、ヨーロッパ人の目を通してみた当時のイスラームの文化だといえます。
しかし、当時のイスラームの文化を理解する上で有効な資料であることに違いありません。

イスラーム展 展示風景

今回は、額絵3点をもとに、イスラーム世界のさまざまな文化を読み解いていきたいと思います。

1枚目は「羊毛を紡ぐ人」です。
オーストリアの画家ルドルフ・エルンストは、二人の女性がテラスで羊毛を紡いでいる様子を描きました。
画面に向かって左下には、象嵌(ぞうがん)の小箱が置かれています。
この絵が掛けられたケースには、螺鈿箱も展示されています。この螺鈿箱は、絵に描かれた象嵌の小箱のように、女性たちが宝石などの大事なものをしまうために使っていたのでしょう。
また、この絵には3本の柱が描かれています。柱の上には、柱頭が置かれています。柱頭とは柱の上に梁(はり)をのせる大切な建築部位です。
セクション「はじめに:イスラーム王朝とムスリムの世界」で展示されている柱頭は、この絵に描かれているように、建物の柱の上に置かれ、梁を載せながら、また柱を飾っていたことがわかります。
そして絵の中央と右側に描かれた入口に立つ柱の前には、アルハンブラのツボが置かれています。
セクション「スペインと北アフリカ」のケース内に展示された1対のアルハンブラの壺は、この絵のように、入口の左右に置かれてていたであろうことがわかります。

「羊毛を紡ぐ人」解説画像

「羊毛を紡ぐ人」解説画像

2枚目は「祈り」です。
オーストリアの画家ルートヴィヒ・ドイッチュは、モスク内で男性が祈りを捧げる様子を描きました。
画面では男性が立つ絨毯(じゅうたん)の上に、クルアーン台が置かれています。またモスクの壁に近くには真鍮燭台(しんちゅうしょくだい)が置かれています。
セクション「モスクの芸術」で展示されていたメダイヨン文敷物やクルアーン台、そしてセクション「マムルーク朝」で展示されている真鍮燭台が、モスクの中ではこの絵にみられるような使われ方をしていたことがわかります。

「祈り」解説画像

「祈り」解説画像

3枚目は「モスク入口の貧者」です。
ポーランド出身の画家スタニスワフ・フレボフスキが、モスクの入口で貧者が物乞いをする様子を描いたものです。
モスクの大きな入口の左右両側には鉄格子の小窓が取り付けられていたようです。アーチ形のタイルが小窓の上を飾っています。
同じケースで展示されているミフラーブ・パネルも、おそらくはこの絵のようにモスクの壁面を飾っていたであろうと考えられます。
また画面の貧者は両手で鉢を持っています。その貧者の左側には修道僧の鉢を置いています。
同じケースに展示されている文字文鉢は本来、飲料水の容器であり、修道僧の鉢は托鉢用でした。
イスラーム教の修道僧の中には神と一体となるために、人から施しを受ける貧困生活に身を投じながら、ひたすら修行に励む者もいました。これらの鉢はこうした俗念からの心の開放を暗示しています。

「モスク入口の貧者」画像解説

「モスク入口の貧者」画像解説

以上、3点の絵画を通して、展示されているさまざまな作品が本来、どのように使われてきたのかを読み解いてみました。
いずれの作品もイスラーム世界の生活や文化、イスラーム教の信仰などを知る手掛かりになります。
大画面の絵画から、会場内に展示されているさまざまな作品を探し当ててください。

 

カテゴリ:「イスラーム王朝とムスリムの世界」

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posted by 勝木言一郎(上席研究員) at 2021年07月20日 (火)