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【国宝 東寺展】仏像曼荼羅だけじゃない!

仏像曼荼羅、だけじゃない!

今回の展覧会、タイトルからして仏像曼荼羅に注目が行きますが、その陰に隠れて、実は、絵画でも凄い作品たちが出品されます。


平安絵画の大物作品が目白押し!

真言七祖像、五大尊像、十二天像、山水屏風、十二天屏風。
全て国宝に指定されているもので、平安時代から鎌倉時代初期の美術史を語る上では欠かせない代表的作品たちです。



国宝 真言七祖像のうち善無畏像・龍猛像(ほかはパネル展示)
善無畏…中国 唐時代・永貞元年(805)、龍猛…平安時代・弘仁12年(821) 東寺蔵 5月12日(日)まで展示
善無畏像は現存まれな唐代宮廷絵師の作品。龍猛像は善無畏像を手本に日本で描かれたものです。



 
国宝 五大尊像のうち不動明王・金剛夜叉明王(ほかはパネル展示)
平安時代・大治2年(1127) 東寺蔵
展示期間:不動明王…5月12日(日)まで、金剛夜叉明王…4月30日(日)まで/5月14日(火)~6月2日(日)



国宝 十二天像のうち閻魔天・羅刹天・水天・風天
平安時代・大治2年(1127) 京都国立博物館蔵
5月12日(日)まで展示
五大尊像と十二天像は平安時代・12世紀の仏画の代表作。結界線なしの薄型ケース展示ですので、美しい彩色や精緻な截金文様を間近で鑑賞できます。こんな機会、なかなかありません!




国宝 十二天屏風 甲帖 
平安時代・建久2年(1191) 東寺蔵
5月12日(日)まで展示
うねるような勢いのある筆線を活かす淡彩風の彩色が新しい時代を感じさせます。



これらの作品も素晴らしいのですが、本展のテーマである「曼荼羅」ということでは、やはり国宝 両界曼荼羅図(西院曼荼羅〈伝真言院曼荼羅〉)(以下、西院曼荼羅)は見逃せません。


両界曼荼羅の最高傑作!

現存最古の彩色両界曼荼羅といわれる西院曼荼羅。その魅力はやはり何と言っても、彩色の美しさと、像のポーズや表情、彩色の仕方にみえるエキゾチックな表現と生き生きとした描写にあるといえます。
まん丸な顔、左右が連なった眉、強い隈どりなど、日本の仏画とは違う造形感覚がとても印象的で、そのため、日本での制作とする見方がある一方、唐での制作と考える見方もあるほどです。また、胎蔵界と金剛界とで作風が違うため、胎蔵界を中国製、金剛界を日本製とする見方もあります。

 
国宝 両界曼荼羅図(西院曼荼羅〈伝真言院曼荼羅〉)
金剛界(左)、胎蔵界(右)
平安時代・9世紀 東寺蔵



胎蔵界・金剛界が並ぶ2週間!

この西院曼荼羅が4月23日(火)~5月6日(月・休)までの2週間限定で、胎蔵界・金剛界の2幅並べて同時に展示されます。展示場所は、第1会場の第2章から第3章に移る間にある、巨大な壁面ケース。
通常は1幅ずつの展示替えが多く、2幅が並べて展示されることは滅多にありませんが、今回は胎蔵界と金剛界が並ぶので、微妙に違う作風も、じっくり比較してみることができます。

 
西院曼荼羅の大日如来を比較して見てみてください!
金剛界 一印会(いちいんえ)(左)と、胎蔵界 中台八葉院(ちゅうたいはちよういん)(右)



その後も続く注目の両界曼荼羅

西院曼荼羅の展示終了後も、注目の両界曼荼羅が展示されます。それが、元禄本(げんろくぼん)と呼ばれる両界曼荼羅です。元禄6年(1693)に5代将軍綱吉生母の桂昌院(けいしょういん)の資金援助により制作されました。
300年以上前に制作されたものとは思えないほど鮮やかに残る彩色と明瞭な仏菩薩たちの姿。これが今でも後七日御修法(ごしちにちみしほ)に現役で用いられているのですから、その残りの良さは驚きです。表具を抜かした画面の寸法だけで約4メートル四方の巨大な曼荼羅。胎蔵界と金剛界を2週間で入れ替えて展示します。

重要文化財 両界曼荼羅図(元禄本) 宗覚筆 江戸時代・元禄6年(1693) 東寺蔵
展示期間:胎蔵界 5月8日(水)~5月19日(日)/金剛界 5月21日(火)~6月2日(日)

なお、元禄本は後七日御修法で用いられているため、普段は、御修法の終わったあとの1時間くらい、灌頂院(かんじょういん)内部が一般に公開されるタイミングでしか見られません。しかも灌頂院内はうす暗く、また近寄れないのではっきり見ることは難しいため、ぜひこの機会をお見逃しなく!

カテゴリ:研究員のイチオシ2019年度の特別展

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posted by 沖松健次郎(絵画・彫刻室長) at 2019年04月24日 (水)

 

【国宝 東寺展】世紀の“小”発見?!

「密蔵深玄(みつぞうしんげん)にして翰墨(かんぼく)に載(の)せ難(がた)し。
更(さら)に図画(とが)を仮(かり)て悟(さと)らざるに開示(かいじ)す。」




特別展「国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅」の会場や図録の解説に、何度も引用される空海の言葉で、密教の教えは奥深く、言葉では表せないので、図画を使って説明する必要がある、という内容です。
密教のように奥深いものでなくても、言葉よりも絵の方が説明に適しているということはよくあることです。本展の会場でも、多くの写真パネルを展示しています。会場には運べない建物や行事の写真。出品されない作品や、作品保護のため限られた期間しか展示できない作品の写真などです。


 


東寺では正月8日から14日の間、固く秘された修法が行われています。会場には、その修法が行われる時の堂内の様子を再現しました。





そこに、現在、または過去に修法で使われた絵画作品を展示していますが、作品保護のため展示できないものは、作品と同じ大きさの写真パネルを展示しました。秘密の道場の臨場感が増したと思います。また、床に置いた柱に掲示した、修法に向かう僧侶の行列の写真は、修法の厳粛さを伝えます。





会場には、空海が考えた講堂の立体曼荼羅も再現しています。如来、菩薩、明王の中心となる像は出品されないので、それらも、作品とほぼ同じ大きさの写真パネルを展示しました。空海がつくり上げた立体曼荼羅の様子をイメージしやすくなったと思います。





さて、仏像が置かれている本当の空間を感じていただくのも大切ですが、博物館でなければ見られないものもあります。
立体曼荼羅の一員である降三世明王立像は、4つの顔を持ちますが、1つは後頭部についているのでお寺では見ることができません。じっくり見ていただきたいと思います。

さらに注目していただきたいのは、像の足元です。明王はインドの神であるシヴァ神(大自在王)と妃のウマ(鳥摩)を踏んでいますが、お寺では高い壇に置かれているので、2人の顔は見ることができません。また、明王の足にそっと添えられたウマの、ふっくらとした左手は私のお気に入りで、隠れた見どころです。



国宝 降三世明王立像(部分)
平安時代・承和6年(839)  京都・東寺蔵



このウマの左手がなぜ明王の足に添えられているのか、長いあいだ考えていたのですが、これが根拠?、というものを発見しました。それは、空海が私的に中国から持ち帰ったと考えられる、仁王経五方諸尊図(におうきょうごほうしょそんず)に描かれる降三世明王像の足元にありました。シヴァ神の左手が明王の足に添えられているのです。


 
重要文化財 仁王経五方諸尊図 密教図像のうち(部分)
南北朝~室町時代・14~15世紀 京都・東寺蔵(4月21日<日>まで展示)



この絵は、なぜ気づかなかったのか、というほど重要な作品なので失態ではありますが、遅まきながら大発見かもしれません。(もしかしたら、すでに指摘されているかもしれませんが…)

ところで、降三世明王の姿は経典に詳しく記述されますが、大自在王やウマの手についての記述はさすがにありません。仁王経五方諸尊図に描かれていたからこそ、講堂のウマの左手の表現に取り入れることができたのです。空海の言葉は、ここでも生きています。

 

カテゴリ:研究員のイチオシ2019年度の特別展

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posted by 丸山士郎(広報室長) at 2019年04月18日 (木)

 

特別展「国宝 東寺」10万人達成!

特別展「国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅」(3月26日(火)~6月2日(日))は、4月17日(水)午後、来場者10万人を突破しました。多くのお客様にお運びいただきましたこと、心より御礼申し上げます。

記念すべき10万人目のお客様は、東京都豊島区からお越しの田中渉悟さん。田中さんには記念品として、本展図録と絵葉書、マスキングテープなど、本展オリジナルグッズを贈呈しました。


特別展「国宝 東寺」10万人セレモニー
右から、当館館長の銭谷眞美、田中さん、そしてトーハクくんもお祝いに駆けつけました!


田中さんは、日本文化や東洋哲学にご興味をお持ちとのこと。トーハクに何度もいらしてくださっているそうです。今日はお着物でビシッとキメてご来館くださいました!
「両界曼荼羅図を目当てにきました。仏像も好きなので、仏像曼荼羅を見るのも楽しみです」とお話しいただきました。

4月21日(日)まで、重要文化財 両界曼荼羅図(甲本)金剛界 が展示中です。そして4月23日(火)からは、国宝 両界曼荼羅図(西院曼荼羅〈伝真言院曼荼羅〉)が展示されます(5月6日(月・休)まで)。話題の尽きない特別展、どうぞお早めにご来場ください!

カテゴリ:2019年度の特別展

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posted by 小島佳(広報室) at 2019年04月17日 (水)

 

特別展「国宝 東寺」で逢いましょう

春ですね。当館の庭園(5月19日<日>まで開放中)では、次々と新しい花が咲き、彩り豊かな季節を迎えています。
少し暖かくなって、お散歩したり、デートに繰り出すのにはとても良い季節です。
お休みの日に、どこへ行くか迷ったら、3月26日に開幕した特別展「国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅」を見に行きませんか?


平成館外観

少しだけ、展示室を覗いてみましょう。



第1会場 展示室入口

入口からもうすでに有難い感じです。なんとなく高揚してきます。

第1章「空海と後七日御修法」。

ん? ごしちにちみしほ? 儀式の名前のようですが、なんだか難しそうな響きです…。

展覧会公式ウェブサイトには、こう書かれています。
「空海は、正月に宮中で修される後七日御修法を始めました。現在は東寺で行われますが、真言宗で最も重要で、かたく秘された儀式です。」

わかったような、わからないような…。

展覧会図録から一部抜粋すると、
「後七日御修法では国家の安泰とともに、天皇の安穏を祈るために天皇の衣を置いて加持祈祷する。道場内には五つの壇を設け、五大尊像や十二天像を掛けたことが知られる。」(本展図録10ページより抜粋)

うーむ、やはり図録を読んだだけでは、堂内の配置などがよくわかりません。

そこで! 展示室では後七日御修法の堂内の様子を再現しています!



おお! こういう場所で儀式が行われるのね!
なんだか、秘密の空間を垣間見てしまったようでドキドキします。

ちなみに、絵画担当の沖松研究員に聞いたところ、
本章で見逃せないもののひとつは、国宝「十二天像」だそうです。
詳しくは、沖松研究員のブログ(近日公開)をお楽しみに!


国宝 毘沙門天(びしゃもんてん)・伊舎那天(いしゃなてん)・帝釈天(たいしゃくてん)・火天(ひてん)(十二天像のうち)
平安時代・大治2年(1127) 京都国立博物館蔵
(展示期間:3月26日(火)~4月21日(日))


十二天像は、3期に分けて4点ずつ展示されます。
(上記画像右奥に見える、軸装されていないものはパネル展示です。かなり精巧なので、筆者は最初本物と見間違いました(汗)。)


さて、第2章「真言密教の至宝」の見どころは、なんと言っても両界曼荼羅図(りょうかいまんだらず)!

空海は、師の恵果(けいか)から贈られた彩色の両界曼荼羅を日本に持ち帰りました。その重要な曼荼羅図は、損傷が進んでしまったために何度か転写されたといいます。
現在展示中の両界曼荼羅図(甲本)(金剛界。4月21日まで展示)は、その表現様式から第二転写本に相当するものとみなされ、大変貴重なものです。

余談ですが、この展示ケースの右隣に、曼荼羅の配置図を示したパネルが掲示されています。


曼荼羅の配置図パネルと、解説中の沖松研究員

沖松研究員曰く「このパネルを作るのに、こんなにも多くの尊名を正確にパソコンで打ち込んでくださった方に感謝。そして、その校正作業は大変でした…(遠い目)」とのこと。
それだけ多くの尊像が描かれている、ということを物語るエピソードでした。


第1会場を出ると、強烈に惹かれるミュージアムショップが。しかし、通り過ぎてどんどん進みます。


第3章「東寺の信仰と歴史」の見どころは、国宝 兜跋毘沙門天立像(とばつびしゃもんてんりゅうぞう)!


国宝 兜跋毘沙門天立像
中国 唐時代・8世紀 東寺蔵


兜跋というのは、現在のトルファン(新疆チベット自治区)のことと言われています。
兜跋毘沙門天はインドではなく中国で生まれた尊像で、8世紀末に中国でつくられた本像は、日本にもたらされたのち、平安京の羅城門に安置されました。
鎖を編んだ金鎖甲を身に着けていますが、その複雑で精巧な編まれ方に思わず釘付けになります。
本像のオリエンタル・アイズに魅了されてしまう方も多いはず!


そして、キターーーー!!!
第4章「曼荼羅の世界」。


重要文化財 五大虚空蔵菩薩坐像(ごだいこくうぞうぼさつざぞう)
中国 唐時代・9世紀 東寺蔵


東寺の子院である観智院(かんちいん)に安置されているお像で、5体揃って東京で公開されるのは初めてのことです。
獅子・象・馬・孔雀・迦楼羅(かるら)の上に鎮座する珍しい形式で、5体すべてが現存する本像は、制作当時の姿を伝えるとても貴重な作例とのこと。
愛らしい動物の姿に、心がほっこりしてしまうお像です。


さあ、次の展示室へと歩みを進めると…、
つ、遂にお出ましになりました! 「仏像界イチの美男子」で名高い国宝 帝釈天騎象像(たいしゃくてんきぞうぞう)! 2011年に開催された「空海と密教美術」展以来、8年ぶりに東京にいらしてくださいました。(やっと逢えたね、と語りかけてくださっているような…!)


国宝 帝釈天騎象像 平安時代・承和6年(839) 東寺蔵

ここでは、東寺様の寛大なるご厚情により、なんと写真撮影ができるのです!(※個人的な利用目的に限ります。)
ああ、360度どこから拝見しても美しい…! 

でも、写真ばかりに気をとられてはなりません。
帝釈天騎象像と向き合うように広がる仏像曼荼羅のパワーを、じっくりとご堪能ください!

え? 仏像曼荼羅の写真は載せないのかって?
それは、ご自身の目で、確かめにいらしてください!


会期中、一部展示替えがあります。
お目当ての作品、特に絵画と書跡の展示期間の詳細は、作品リストをご覧ください。

カテゴリ:2019年度の特別展

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posted by 小島佳(広報室) at 2019年04月10日 (水)

 

皇后陛下とご養蚕

絹の生産は日本の重要な伝統産業の一つです。明治・大正期には生糸は貴重な外貨獲得のための輸出品として日本の近代化を支える存在でした。
明治時代以降の歴代の皇后陛下は、絹の生産の奨励、振興のために、宮中でご養蚕を手がけてこられました。
皇后陛下によるご養蚕は、昭和後半期に入って日本の養蚕業が急速に衰退してゆく中でも、日本の伝統文化を守るために、連綿と続けてこられました。
現在本館特別4室・特別5室で開催中の特別展 御即位30年記念「両陛下と文化交流―日本美を伝える」(4月29日(月・祝))まで)では、皇后陛下とご養蚕に関わる作品が展示されています。


会場入口



養蚕天女 高村光雲作 大正13年(1924) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 3月31日まで展示


日本の近代彫刻を牽引し、帝室技芸員にも任命された高村光雲(1852~1934)が桜材から彫り出した養蚕の女神の像です。
大正13年(1924)の皇太子(のちの昭和天皇)のご成婚の際に、貴族院より皇太子妃(のちの香淳皇后)に献上されました。
蚕蛾を表した冠を被り、左手で薄衣を軽くつまみ上げ、右手に持った繭を愛おしむように見つめています。
繭は中央が少しくびれており、純国産種の繭である小石丸を表したものとみられます。
小石丸は飼育が難しく、取れる糸の量が少ないため、存続の危機にありましたが、皇后陛下の手によって守り育てられました。
小石丸の細く繊細な糸は、正倉院に伝わる古代裂の復元模造や、鎌倉時代の絵巻物の修復にも用いられ、日本の伝統文化の継承を陰で支えています。


(左)赤縮緬地吉祥文様刺繍振袖 昭和10年(1935) 
(右)黒紅綸子地落瀧津文様振袖 昭和13年(1938) 
ともに宮内庁侍従職所管 3月31日まで展示



さて、日本と同じく絹産業が盛んであったフランスとわが国との間には、浅からぬ縁があります。
近代化の過程で日本はフランスから多くを学びましたが、19世紀半ばにヨーロッパで蚕の病気が蔓延し、フランスの養蚕が壊滅の危機に瀕した際には、日本から蚕種が送られ、フランスの絹産業を救いました。
平成26年(2014)にフランスのパリで皇室と日本の絹文化を紹介する「KAIKO」展が開催されました。
同展に出品された天皇陛下が御幼少時にお召しになった振袖は、本展が国内では初の公開となります。


イヴニングドレス、コート 昭和時代・20世紀 宮内庁侍従職所管 3月31日まで展示


天皇皇后両陛下が、日本の伝統文化の継承と振興に果たしてこられた足跡を、この機会に広く知っていただければと思います。
 

カテゴリ:2019年度の特別展

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posted by 今井敦(調査研究課長) at 2019年03月20日 (水)