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【国宝 東寺展】世紀の“小”発見?!

「密蔵深玄(みつぞうしんげん)にして翰墨(かんぼく)に載(の)せ難(がた)し。
更(さら)に図画(とが)を仮(かり)て悟(さと)らざるに開示(かいじ)す。」




特別展「国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅」の会場や図録の解説に、何度も引用される空海の言葉で、密教の教えは奥深く、言葉では表せないので、図画を使って説明する必要がある、という内容です。
密教のように奥深いものでなくても、言葉よりも絵の方が説明に適しているということはよくあることです。本展の会場でも、多くの写真パネルを展示しています。会場には運べない建物や行事の写真。出品されない作品や、作品保護のため限られた期間しか展示できない作品の写真などです。


 


東寺では正月8日から14日の間、固く秘された修法が行われています。会場には、その修法が行われる時の堂内の様子を再現しました。





そこに、現在、または過去に修法で使われた絵画作品を展示していますが、作品保護のため展示できないものは、作品と同じ大きさの写真パネルを展示しました。秘密の道場の臨場感が増したと思います。また、床に置いた柱に掲示した、修法に向かう僧侶の行列の写真は、修法の厳粛さを伝えます。





会場には、空海が考えた講堂の立体曼荼羅も再現しています。如来、菩薩、明王の中心となる像は出品されないので、それらも、作品とほぼ同じ大きさの写真パネルを展示しました。空海がつくり上げた立体曼荼羅の様子をイメージしやすくなったと思います。





さて、仏像が置かれている本当の空間を感じていただくのも大切ですが、博物館でなければ見られないものもあります。
立体曼荼羅の一員である降三世明王立像は、4つの顔を持ちますが、1つは後頭部についているのでお寺では見ることができません。じっくり見ていただきたいと思います。

さらに注目していただきたいのは、像の足元です。明王はインドの神であるシヴァ神(大自在王)と妃のウマ(鳥摩)を踏んでいますが、お寺では高い壇に置かれているので、2人の顔は見ることができません。また、明王の足にそっと添えられたウマの、ふっくらとした左手は私のお気に入りで、隠れた見どころです。



国宝 降三世明王立像(部分)
平安時代・承和6年(839)  京都・東寺蔵



このウマの左手がなぜ明王の足に添えられているのか、長いあいだ考えていたのですが、これが根拠?、というものを発見しました。それは、空海が私的に中国から持ち帰ったと考えられる、仁王経五方諸尊図(におうきょうごほうしょそんず)に描かれる降三世明王像の足元にありました。シヴァ神の左手が明王の足に添えられているのです。


 
重要文化財 仁王経五方諸尊図 密教図像のうち(部分)
南北朝~室町時代・14~15世紀 京都・東寺蔵(4月21日<日>まで展示)



この絵は、なぜ気づかなかったのか、というほど重要な作品なので失態ではありますが、遅まきながら大発見かもしれません。(もしかしたら、すでに指摘されているかもしれませんが…)

ところで、降三世明王の姿は経典に詳しく記述されますが、大自在王やウマの手についての記述はさすがにありません。仁王経五方諸尊図に描かれていたからこそ、講堂のウマの左手の表現に取り入れることができたのです。空海の言葉は、ここでも生きています。

 

カテゴリ:研究員のイチオシ2019年度の特別展

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posted by 丸山士郎(広報室長) at 2019年04月18日 (木)