こんにちは、平常展調整室の金井と申します。
12月ももう半ば。上野の紅葉は少し遅めでしたが、今ちょうど銀杏が美しく色づいています。
本館外観と当館構内の紅葉の様子
さて今年の9月より、本館2階「日本美術の流れ」の入り口デザインと、
本館の各展示室入口に設置している解説文を順次リニューアルしています。
今回のリニューアル、ポイントは2つあります。
1つめ、文面は昨今の研究状況や当館にいらっしゃる多様なお客様を念頭に、各部屋の展示担当者がすべて新しく書き改めました。
どの解説も日本語に加え、英文、中文、韓文の4か国語表記にしています。
それぞれ言語の文化的背景に合わせて、当館の国際交流室が適切な説明を補足していますので、語学堪能な方は、読み比べていただくのも面白いかもしれません。
2つめはデザインです。
暗いところでの視力が弱い方や、視覚過敏の方にもなるべく読みやすいよう、当館デザイン室のデザイナーが行間やサイズ、レイアウトなどを工夫し、フォントも試験的にユニバーサルデザインフォント(UDフォント)など線の肥痩の少ないものを導入しました。
現在本館2階「日本美術の流れ」はすでに更新完了、1階も来年3月の13室リニューアルオープンに合わせて新しくする予定です。
ぜひみなさまの目で、新しくなった解説パネルをご確認ください!
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posted by 金井裕子(平常展調整室主任研究員) at 2019年12月11日 (水)
国際交流室の李京林(イ・ギョンリム)です。館内のあっちこっちでご覧いただける韓国語の翻訳を担当しています。主に、作品の題箋や解説、そして各サインなどの翻訳業務がメインとなります。
また、海外の博物館等との人的交流のサポートもしており、研究員の海外訪問・招聘において通訳やアレンジを担当します。皆様の目には直接触れない部分もありますが、こういった交流とそこから得た両国間の理解はいずれ展示にも反映される、と考えております。
なかでも今日ご紹介するのは皆様が展示室で目にされるであろう、作品情報(作品タイトル等や解説)の翻訳の仕事です。作品情報の翻訳にあたっては、美術の専門用語はもちろん、キャプションという限られた紙面と基本的には立ち読みする博物館の状況など、実はいろいろな制約や状況を想定します。ですから、「簡潔ながらもわかりやすい」翻訳にするには、場合によってはなかなか苦戦することもあるのです。
たとえば「浮世絵」。版画は世界中にあるものですが、浮世絵はその独特な表現により、日本国外の観客の注目を集めるジャンルの一つでもあります。ですが、日本ならではの風俗を表すものや、比喩、含蓄、言葉遊びなどが多く、直訳ではその意味が充分に伝わらないことも多いのです。
見立黄石公張良 鈴木春信筆 江戸時代・18世紀
(2018年8月28日~9月24日 まで本館10室にて展示)
황석공과 장량의 은유 스즈키 하루노부 필 에도시대・18세기
(2018년 8월 28일~9월 24일까지 본관 10실에서 전시)
8月28日(火)より本館10室にて公開中の春信の錦絵です。「黄石公」と「張良」は古代中国の人物。黄石公が靴を川に落とし、それを張良に拾わせてから彼に兵法を教えたという故事がこの絵の元になっています。しかし、二人は江戸の若い男女に、そして、靴は扇に、その姿を変えています。一見、優雅な美人画に見えるのですが、中国の故事を知っている人にはそれを連想させます。これが「見立」であり、日本の芸術、とりわけ浮世絵では欠かせない手法なのです。
さて、以上を踏まえて作品タイトルの韓国語訳をするのですが、まったく同じ概念は韓国美術では見つからなく、だからといって毎回長い説明を付けるわけにもいきません。なので、訳語においては少し言葉の並びを変え、「황석공과 장량의 은유(黄石公と張良の隠喩)」のようにしました。「隠喩」という言葉には何かを「暗示」するというニュアンスが含まれており、芸術の手法としても知られている言葉のため、最も近い概念として採用しました。
今回この作品には解説はついていませんが、場合によっては30字の簡単な4言語解説がつきます。その場合は、タイトルとは別に、解説の中で補足説明をしたりもします。
これは同じく見立の手法を使用した「見立草刈り山路」という作品とその解説です。
見立草刈り山路 石川豊信筆 江戸時代・18世紀
※ 現在展示しておりません
설화 ‘풀베는 산로’의 은유 이시카와 도요노부 필 에도시대・18세기
※현재는 전시하고 있지 않습니다
「見立草刈り山路」の3言語解説
解説に書かれている韓国語の文章は「元となったのは山路と名乗る草刈りに身をやつした親王の話。その主人公を同時代の若衆に置き換えて描いた作品。」という意味です。少しはわかりやすくなったでしょうか?
30字という短い文章で詳しい知識や背景までをお伝えすることはとても難しいのですが、これについてはお客様自身が調べる楽しみとして残しておく、という側面もあります。
また、より広い紙面を使わせていただけるトーハクのウェブサイトや出版物を通して補足させていただくこともあります。というのも…
東京国立博物館ハンドブック(韓国語改正版)の表紙と中身。9月1日より発行予定。
国際交流室では出版物の翻訳も行っており、このたび約13年ぶりに韓国語版の改正版を出すことになりました。トーハクを十分に楽しみたい韓国の方はもちろん、トーハクを韓国語ではどのように紹介しているのかな、と気になる韓国語学習者の方にもおすすめします。ぜひ手にとってご覧ください!
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posted by 李京林(国際交流室アソシエイトフェロー) at 2018年08月31日 (金)
国際交流室の王蕾(オウ ライ)と申します。私の苗字から、皆様はすぐ気づいてくれたと思いますが、私は中国人です。東京国立博物館で私のような外国人はどんな仕事をしているのだろう、という疑問が出てくるかと思います。今日は、私のトーハクでの仕事をご紹介します。
現在トーハクでは私を含めて、中国(2名)、韓国(2名)とアメリカ(1名)の国籍を持つ職員が働いています。私たちは国際交流室という部署に所属しています。
国際交流室の仕事内容を大きく分けると、国際展覧会のコーディネート、海外博物館・美術館との人的学術的交流事業と多言語対応です。
その中で、現在私が主に担当している仕事は、展示関係の中国語対応です。
トーハクの展示解説は日、英、中、韓の四か国語で表記しています。キャプション(説明文)に書かれた情報は展示室によって、多少違いがありますが、基本的に作品タイトル、時代、作者、作品解説が書かれています。トーハクの作品解説は日本語の場合、119字以下ですが、外国語は、それを圧縮した30字の日本語原稿に基づいて翻訳を行っています。
「褐釉茶入 銘 木間」の四か国語キャプション
美術品の翻訳には語学の知識はもちろんですが、日本美術の知識も不可欠となります。特に鑑賞に使われる専門用語はそのまま翻訳できないものが多く、これらの概念を外国人が理解しやすいように翻訳するのは大変難しいです。例えば、焼き物の解説に使う「景色」です。
日本語のキャプションでは、この瀬戸の茶入を「腰から底部を除いて鉄釉を掛け、その上に灰釉を随所に施して、それが景色となっている」と説明しています。
「褐釉茶入 銘 木間」の日本語キャプション
「褐釉茶入 銘 木間」の英・中・韓国語キャプション
焼き物を愛好されている方はご存じだと思いますが、ここでいう景色は、美しい景観・風景のことではなく、焼き物の見所を指します。
日本の焼き物の見所は、表面にかけた釉の流れ具合や溶け具合、また焼成時の火加減により生じた窯変などがあります。その中で私が不思議に思ったのは、焼き物の釉が流下するところや、長年の使用によるひび割れ、シミなどが鑑賞のポイントになっていることです。
褐釉茶入 銘 木間 瀬戸 江戸時代・17世紀 G-5366
2018年6月19日~9月9日まで本館4室にて展示
点斑文茶碗 唐津 江戸時代・17世紀
※ 現在展示しておりません
焼き物の見どころを考えるとき、中国人の私が真っ先に思い浮かべるのは、白磁や青磁の冴えた釉色、端正な造形や精巧な文様など、精度の側面に注目しがちです。しかし、日本には焼き物が窯の中や使用の過程で生じた不測の変化を焼き物の一部分として愛でる文化があり、人工的な完璧さを美しいと感じる中国とは、まるで正反対の鑑賞の観点と美意識の違いがあるのだと感じました。皆様はどのようにお考えでしょうか?
青磁千鳥香炉 中国・龍泉窯 南宋時代・13世紀 TG-2166
2018年5月22日~9月2日まで東洋館5室にて展示
天藍釉罍形瓶 中国・景徳鎮窯 清時代・乾隆年間(1736~95年) TG-2681
2018年5月22日~9月2日まで東洋館5室にて展示
トーハクでは、日本の美術品だけではなく、中国、朝鮮半島、東南アジア、西域、インド、エジプトなどの美術品も展示しております。皆様はこういった文化の違いを考えながら、各国の作品や四か国語の解説を楽しんでいただければ幸いです。
カテゴリ:トーハクよもやま
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posted by 王蕾(国際交流室アソシエイトフェロー) at 2018年06月29日 (金)
上野の山も春爛漫、美しい春の作品を楽しみにトーハクにいらっしゃる方が多いかと思います。
ついつい、美しい桜の作品に気を取られてしまいますが、それ以外の作品にも目を向けていただきたいと思い私の好きな、伝周文筆、重要文化財「四季山水図屏風」(本館3室にて4月22日(日)まで展示)を取り上げてみたいと思います。
重要文化財「四季山水図屏風」(右隻) 伝周文筆 室町時代・15世紀
重要文化財「四季山水図屏風」(左隻) 伝周文筆 室町時代・15世紀
題名を見ると、どうやら四季を表現しているとのこと、屏風に向かって右から春夏秋冬になっていることから、まずは、「四季」を表すモチーフを探しながら、墨の表現の多様性についてご紹介したいと思います。
まず、季節が分かりやすい左側の冬から始め、右側へ戻り、春→夏→秋の順で見ていきましょう。
向かって左端は、暗雲が立ち込めた空に浮かび上がる雪山。空は他の部分より黒く、季節の差を表しています。白い山は石灰岩の山ではなく、雪の積もった山ですね。画面下の方を見ると、寒そうに身をかがめて歩く人がいます。人の姿があると、見ている人も描かれた場面を体感しやすくなります。
左隻の左側部分。黒い空に白い雪山(写真左)と身をかがめて歩く人(写真右)。
次に、右隣りの屏風へ移動してみましょう。右端は春です。冬と同じようなつるんとした山が描かれていますが、実は春の場面です。では、春を表すモチーフは…
下の方を見ると、うっすらと赤い花の咲いた木、紅梅が描かれています。その奥の方にも、屋外でお茶を飲みながらお花見(梅)をしている人がいますね。外でお茶を飲めるということは、もちろん冬ではなく、暖かい季節だということが分かります。
右隻の右側部分。
視線を左に向けていくと夏の場面へ。手前に描かれている柳の葉。左に向かうにつれて少しずつ緑が濃くなっていきます。右の屏風の最後には、風に揺れる柳の下で、団扇を片手に湖畔を眺める人々の姿が描かれています。日差しの強い夏は、屋内や柳の下で涼をとっています。
右隻の左側部分。
左の屏風に目をやると、画面下方には、漁から戻る人の周辺には、色づいた芦が秋の風に激しく揺れています。初嵐でしょうか。空には満月が描かれ、秋のムードが盛り上がってきます。遠くの山は白く描かれ雪山を表し、冬の訪れを予感させます。
左隻の右側部分。激しく揺れる芦(写真左)と冬の訪れを予感させる雪山と月(写真右)。
絵画作品を見る際のポイントは千差万別、作品に描かれた内容を楽しむ方、その色調に心を楽しませる方、描かれたモチーフの形を楽しむ方、もちろん、全ての要素が複合されて人の心に残っていくわけですが、特に好きなポイントというものは人それぞれ異なるかと思います。
私が一番好きなのは、墨の表現です。
墨の黒々とした色や、線の生み出す抑揚、濃淡のグラデーションを、ただただ眺めるだけでうっとりしてしまいます。
この作品は、画面全体に淡い墨が塗り重ねられて大気を表現しています。画面の大部分を占める山の姿は、ゴツゴツとした険しい山というよりは、霧や靄の中からうっすらとその姿を表すように描かれています。春の大気表現だけ見ても、山間の靄に光が差し、そこに爽やかな風が通っている様子が楽しめます。
同じ墨のグラデーションなのに、春霞となり、夏の湖面からの水蒸気となり、晩秋の湖面に立ち込める霧、そして冬の冷え冷えとした大気の姿を表します。
この霧や霞のおかげで、この絵がとても穏やかで静かな山水風景に見えるのです。そして、四季の移ろいの中で暮らす人々の姿を垣間見る面白さがあります。
この絵が、描かれた時代は、周文の弟子世代の頃と考えられています。時代でいえば、15世紀中葉、ということは、戦国の世へと向かう頃。応仁の乱の頃に描かれたものでしょうか。応仁の乱の前であれ、後であり、なにかと京都の政治が騒がしい時代です。京の市中が騒がしい時代に、この絵の持ち主は、この作品を見ながら、山水の中に心を遊ばせたのかもしれません。
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posted by 四宮美帆子(平常展調整室) at 2018年04月06日 (金)