こんにちは。教育普及室の川岸です。
今日は本館14室で開催中の特集「 日本の仮面 舞楽面・行道面」(2017年5月23日(火)~8月27日(日))で展示している舞楽面をご紹介します。
「舞楽面(ぶがくめん)ってなんだ・・・?」
と思われる方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
雅楽の一種で、舞を伴う「舞楽」に用いる仮面のことを「舞楽面」といいます。
日本には様々な芸能や、仮面が伝わっています。
そのなかでも、誇張した表現や、造形の工夫の面白さでは抜群なのが舞楽面。
伝統芸能で使った仮面なんて格式高そう、と食わず嫌いするのはもったいないもののひとつです。
どんなキャラクターなのかを想像しながら見ると楽しめますよ。
私のイチオシはこちら。「胡徳楽(ことくらく)」。
重要文化財 舞楽面 胡徳楽(ことくらく) 平安時代・永暦元年(1160) 奈良・手向山八幡宮蔵
何とも言えないいい表情をしています。
どんなキャラクターだと思いますか?
こたえは「よっぱらい」。
確かに赤ら顔で、目もとろんとしています。
こんなに気持ちよく酔えるなんて、きっといい人に違いありません。
胡徳楽の造形の特徴といえば「動く鼻」!
鼻を別に作り、紐でつないで動くようにしています。
「胡」とは中国では西方のペルシア人のことを指すとされます。
中国を含む東アジアの人はペルシア人の鼻の高さに驚いたのでしょうね。この面の鼻は誇張し過ぎですが。
酔っ払いらしさとともに、モデルが胡人であることも強調された造形です。
胡徳楽という曲はこの大きな鼻を左右に振り、酔っ払いが輪になって踊る、コミカルなストーリーなんです。
少し、身近に感じませんか?
次にこちら。「陵王(りょうおう)」です。
舞楽面 陵王 鎌倉時代・13~14世紀 和歌山・丹生都比売神社伝来 水野忠弘氏寄贈
頭上に龍を載せ、皺だらけで顎がブラブラしている奇妙な面です。
これは一体・・・?
勇猛な武将でありながら美貌の持ち主だった蘭陵王。6世紀後半の北斉(中国)の王です。
戦いに臨むとき、その美しい顔を隠すために、怪異な仮面をつけたという伝説があります。
美しすぎて、兵士たちが戦いに集中できなくなると困るからだそうです。
これはその蘭陵王役がつける仮面なんです。
実は「舞楽面 陵王」は目が上下に動きます。
そのための仕掛けを展示ではお見せできませんので、写真で紹介します。
両目の裏を、銅製の棒が渡り、その棒の端にはひもが見えます。
この紐は、ブラブラしている顎、吊り顎につながるのです。
つまり、顎が動くと目が動く、という仕組みです。
舞楽図(部分) 田中訥言筆 江戸時代・18世紀
この絵は江戸時代の絵師・田中訥言(たなかとつげん)が、異なる二つの舞楽を描いたもの。
画面左手、右手を振り上げ、左足を踏み上げているのが蘭陵王です。
演者の顎のずっと下のほうに、吊り顎が揺れています。きっと目も動いているはず。
絶世の美男子がつけた奇怪な仮面という設定にぴったりの、変わった表現です。
なぜこんな表現を思いついたのか、不思議ですね。
遠くからでは見えないだろうに・・・
こうして想像しながら見てください。
皆さんの想像を掻き立て、会話が弾む。そんな作品のひとつが舞楽面だと思います。
展示室にはほかにも、これをつけて舞うのはしんどいだろうな、と思わせる、人の顔よりずっとずっと大きな舞楽面や、今日はご紹介できなかった行道面なども展示されています。
あなたが好きなのはどの作品?
楽しみながら、お気に入りの仮面を探して下さい。
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posted by 川岸瀬里(教育普及室研究員) at 2017年06月07日 (水)
夏休み恒例の親と子のギャラリーでは、トーハク所蔵の国宝のなかでも人気ナンバー1の長谷川等伯筆「松林図屏風」とアメリカ・フリーア美術館所蔵の尾形光琳筆「群鶴図屏風」の高精細複製に、ダイナミックな映像をプラスした体験型の展示を企画しています。
「松林図屏風」(綴プロジェクトによる高精細複製品)
原本=長谷川等伯筆 安土桃山時代・16世紀
原本、複製品とも東京国立博物館蔵
「群鶴図屏風」(綴プロジェクトによる高精細複製品)
原本=尾形光琳筆 江戸時代・17~18世紀
複製品=東京都美術館蔵
Facsimiles of works in the collection of the Freer Gallery of Art, Smithonian Institution, Washington, DC:Purchase, F1956.20, F1956.21
ここでひとつ質問です。
みなさんにとって、絵画を見る楽しみってなんですか?
美しい風景を眺めてそこに行った気分になれる、とか
かわいいものを見つけて、ほのぼの幸せになれる、とか
絵に込められた祈りに触れて、敬虔な気持ちになる、とか。
絵によって、また見る人にとって、その喜びはいろいろですが、いずれにしても、自分の目で見て、想像したり、感じたりすることが楽しいのではないでしょうか。
トーハクにはたくさんの絵画作品がありますが、ご存じのとおり古いものばかりです。時代を経たもの、伝統的なものの前に立つと、なぜか緊張してしまって、自分なりに自由に見たり、感じたりすることができなくなっていることがありませんか?
いわゆる「敷居が高い」という感覚です。
そこで、考えたのがこの企画。目的は、皆さんの前にある決して低くない敷居をすべてとっぱらうことです。
第1会場は「松林であそぶ」
くつを脱いで畳の広間にすわって、のんびり松林図を眺めましょう。もちろんガラスケースなしで。
等伯が描いた松林のその向こうにはどんな風景が広がっていたのか?
松林では何が起こっていたのか?
みなさんの想像力を刺激する映像が、松林図屏風を見る楽しみを広げることでしょう。
会場には高さ約5メートル、直径約15メートルの半円形のスクリーンを設置。
ダイナミックな映像をお楽しみいただきます。
第2会場は「つるとあそぶ」
びょうぶに描かれた鶴たちは、どこから飛んできてどこへ行くの?
子どもたちの動きにあわせて鶴が動くインタラクティブな演出も交えて、まさに、絵の中の鶴とあそんでみてください。
このほか、触って楽しむハンズオンコーナーなども企画しています。
詳細は追って、このブログで少しずつ紹介していきます。
この夏はぜひ、お子さんと一緒に、トーハクであたらしいアート体験を楽しんでください。
親と子のギャラリー びょうぶとあそぶ 高精細複製によるあたらしい日本美術体験
本館 特別4室・特別5室 2017年7月4日(火) ~ 2017年9月3日(日)
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posted by 小林 牧(博物館教育課長) at 2017年05月26日 (金)
こんにちは、保存修復室の瀬谷愛です。
特集「幕府祈願所 霊雲寺の名宝」(本館特別2室、~6月4日(日))は、中日の展示替えを経て、残すところあと2週間となりました。
リーフレットを作りましたよ!
この、小規模ながらも史上初の一大企画のために、がんばって8ページ、オールカラーのリーフレットを作成しました。
しかも、無料です!
会場に見本がありますので、ぜひ本館インフォメーションでお受け取りください。
さて。
今回、霊雲寺さんの展示をするためにいろいろと新しいことを知りましたが、最も興味深かったのは、やはり浄厳和尚のことでした。
梵書阿字 浄厳筆 江戸時代・17世紀 1幅 紙本墨書 東京・霊雲寺蔵
一番大事な梵字です。
浄厳は、高野山で修行を始めた若いうちから、梵字研究をとても大切だと考えていました。
梵字は、ただの文字ではなく、この一字一字のなかに、仏とその教えが詰まっている。
形と意義、その力、すべてを理解したうえで真言陀羅尼を唱えなければならないといいます。
なかでも、この梵字。
読みは「ア」、漢字では「阿」と書きます。
「阿(ア)」は、すべての音声、文字、教えの根本となる梵字です。
悉曇三密鈔 浄厳編 江戸時代・天和2年(1682) 3冊 東京国立博物館蔵
浄厳が梵字の発音や文法、仕組みや意味などについて解説したこの本にも、一番初めに「ア」が。
梵字をマスターした浄厳直筆の梵書。
その霊験は計り知れないと、多くの人が求めたことでしょう。
でも、浄厳は自らの梵書を「無料」では配布しませんでした。
さて、代わりに何を求めたでしょうか??
銭? いいえ。
米? いいえ。
答えは、
「光明真言1日300回念誦すること!」
梵書胎蔵界大日如来真言 浄厳筆 江戸時代・17世紀 1幅 絹本墨書 東京・霊雲寺蔵
皆様ご存知の「ア・ビ・ラ・ウン・ケン」も、浄厳に始まる流派では、五字目に根本の「ア」を混交することで「ア・ビ・ラ・ウン・キャン」と読みます。
こちらの梵書を求める人には、陀羅尼を1日500回課されたそうです。
これはミーハーな気持ちでは達成できませんね。
お金やお米を一度きりで払ったほうがよほど安いような気がします。
しかし、これには浄厳の深い深い想いが詰まっています。
浄厳は常々、次のように語っていたそうです。
「私の恩に報おうとするならば、常に戒律を守って、正しく真言を持誦するように。私の恩のみならず、三世の仏恩、三国の祖師の恩に報いなさい」
と。
そして、真言宗の祖、弘法大師空海も、釈迦が「梵字に通じて自由自在となり、他の者のために解説して、名誉や財をむさぼらなければ、功徳を得るだろう」と言っているので、初心者のために「梵字悉曇字母幷釈義」を著したそうです。
自らが会得したものを、他者に伝え、自らのための見返りは求めない。
というわけです。
「幕府祈願所 霊雲寺の名宝」。
リーフレット、無料です。
名誉も財も、求めません。
ぜひ、霊雲寺と浄厳についてご理解を深めていただけましたら幸いです!
ちなみに、
大阪出身・浄厳ゆかりの文化財が下記展覧会に展示されます。あわせてご覧ください。
1) 「木×仏像 飛鳥仏から円空へ 日本の木彫仏1000年」
4月8日(土)~6月4日(日) 大阪市立美術館
2) 「創建1250年記念 奈良 西大寺展 叡尊と一門の名宝」
7月29日(土)~9月24日(日) あべのハルカス美術館
(浄厳関連文化財は大阪会場のみの展示となりますが、本展は、三井記念美術館〔4月15日(土)~6月11日(日)〕、山口県立美術館〔10月20日(金)~12月10日(日)〕を巡回します。)
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posted by 瀬谷 愛(保存修復室主任研究員) at 2017年05月25日 (木)
平成館企画展示室で開催中の親と子のギャラリー「トーハクでバードウォッチング―キジやクジャク、鳳凰が勢ぞろい―」(6月4日(日)まで)。
この展示は、「国際博物館の日」にちなんで、上野動物園、国立科学博物館、東京国立博物館で行う、国際博物館の日記念ツアー「上野の山で動物めぐり」関連企画です。毎年一つの動物に焦点をあて、「生きている動物」、「標本・骨格の動物」、「美術の中の動物」をテーマに各施設をめぐります。
今年のテーマはキジ。
5月14日(日)、「上野の山でキジめぐり」に、小学校5年生から大人まで、大勢の参加者が上野動物園に集まりました。
まずは動物園からスタート。
動物解説委員の小泉祐里さんと一緒に「生きたキジ類の観察」です。
ひとことで「キジ類」といってもたくさんの種類。大きさや特徴もさまざまですが、どれも華やかなのはオスばかり。それぞれの色や模様を見ながら、どのように美しいかをじっくり観察していきます。
キジの仲間には、クジャクやセイラン、ニワトリも含まれています。
クジャクの羽(左)、セイランの羽(中央)は夏に生え変わります
どのオスも間近で見るととにかく鮮やか…メスのことはすっかり忘れて、続いて国立科学博物館へと向かいます。
科学博物館では、動物研究部の濱尾章二さんから「オスだけが派手な理由」をテーマに、オスとメスの標本を見ながら、それぞれの特徴やちがいの理由を伺いました。
キジの標本を前に、オスとメスをじっくりと観察。
標本だけでなく、キジの鳴き声や子育て、行動の様子を映像で見ながら、ちがいの秘密に迫ります。
休憩のあとは最後のトーハクへ。
「親と子のギャラリー トーハクでバードウォッチング―キジやクジャク、鳳凰が勢ぞろい―」展示室で、博物館教育課の神辺知加さんと作品の中の鳥たちを観察です。
動物園や博物館で見た特徴をヒントに、作品に隠れているキジの仲間をさがします。
美しい羽の模様を丁寧に表現している作品もあれば、デザインとして表しているものも。中でもひときわ美しい羽を持つクジャクは、屏風や着物などさまざまな作品のモチーフになっています。
唐織 紅白段牡丹若松孔雀羽模様 絹製 江戸時代・18世紀
刺繍孔雀図屏風 絹製、刺繍 明治26年(1893)
小泉さんと濱尾さんも交えてあらためて作品の中の鳥たちを観察し、作品の見方がまた広がりました。
上野ならではのこのツアー。来年のテーマは、鋭意計画中です。
どうぞお楽しみに。
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posted by 長谷川暢子(教育講座室) at 2017年05月18日 (木)
こんにちは。博物館教育課の神辺知加です。
季節が春から初夏に移り変わるこの時期、野外では春の訪れを告げる鳥と夏の渡り鳥を見ることができます。上野公園でもメジロ、ヒバリ、ツバメの姿を見かけますし、ゴールデンウィーク明けには森や山でオオルリ、キビタキの美しいさえずりを聞くこともできるでしょう。
そして・・・
ここトーハクではなんとキジ科の鳥がシーズンを迎えています!
さっそくウォッチングできる鳥をご紹介します。
キジ科の鳥の代表、日本の国鳥でもあるキジはつがいで見ることができます。キジ科の鳥であるニワトリ、ウズラ、ライチョウも時間帯、天候に関係なく100%の確率で出会うことができます。
つがいのキジ 五代清水六兵衛作 陶製 昭和時代・20世紀
そしてキジ科の中でもっとも美しい鳥クジャクは、アーティストや職人の制作魂を揺さぶるらしくクジャクをモチーフとした美術品は数多く作られています。トーハクの所蔵品にも「孔雀」と名のつく作品は100件以上あります。そのためキジ科の鳥とは分けてクジャクのコーナーを設けて展示しました。クジャクコーナーでは仏さまを描いた絵の中に、仏教の法要でつかう楽器に、刺繍の屏風にといろいろなクジャクを見ることができます。こちらも100%の確率でご覧いただけますし、さらに運がよければベストポジションをキープして観賞することもできます。
クジャクに乗った仏さま 横山大観模写 紙本着色 明治時代・19世紀
シルクロードを通って伝えられたクジャクの模様 中国・ホータン ストゥッコ・彩色 6~7世紀
さて野外のバードウォッチングでは決して出会うことのない、トーハクならではの鳥をご紹介しましょう。その鳥とは「鳳凰」です。きれいな湧き水しか飲まず、数十年に一度しか実らない竹の実を食し、桐の木にしか宿らないというこだわりの鳥、鳳凰。孔子が論語の中で優れた指導者が現れる時しかその姿を現さない鳥と謳った、鳳凰。その鳳凰が今、台東区上野公園東京国立博物館平成館企画展示室に10羽(単位が羽で良いのかわかりませんが)以上も並んでいます。ぜひお見逃しなく。
仏さまの世界の鳳凰 絹製・刺繍 中国・初唐または飛鳥~奈良時代・7~8世紀
布団の図柄になった鳳凰と桐 絹製、友禅染 江戸時代・19世紀
また今回の親と子のギャラリーでは、鳥たちをより身近にウォッチングしていただくためいくつかの工夫をいたしました。
工夫その1:親しみやすい作品名
「小学校高学年や日本美術になじみのない方にもわかる」を意識して作品名をつけました。
工夫その2:単眼鏡
バードウォッチングに必需である双眼鏡の代わりに、「美術鑑賞におススメ」が売り文句の単眼鏡を用意しました。細部までしっかりご覧いただけます。
工夫その3:のぞきケース
小さな作品をぐっと近くでご覧いただけます。
3
工夫その4:キジとクジャクの鳴き声と動画
作品のキジやクジャクの鑑賞の参考にしていただくためご用意しました。動画は上野動物園にご協力いただきました。
工夫その5:露出展示
ガラス越しではなく直にご覧いただける鳳凰も2点あります。そのうち1点は触ることもできます。
この鳳凰についてはあえてここには写真を掲載いたしません。ぜひ鳳凰に会いに会場までお越しください。
おまけ
入口の看板は黄色いシールの上に立つと鳥たちに囲まれた写真を撮ることができます。掌に孔雀を乗せたり、肩にキジを乗せるなど楽しんで撮影していただければ幸いです。
展示情報
親と子のギャラリー「トーハクでバードウォッチング―キジやクジャク、鳳凰が勢ぞろい―」
平成館企画展示室 2017年4月25日(火)~6月4日(日)
関連事業
月例講演会「親と子のギャラリー『トーハクでバードウォッチング―キジやクジャク、鳳凰が勢ぞろい―』の見方と特集展示ができるまで」
平成館大講堂 2017年5月27日(土) 13:30~15:00 開場は13:00を予定
先着380名、聴講無料(ただし当日の入館料は必要)
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posted by 神辺知加 (ボランティア室主任研究員) at 2017年04月29日 (土)