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1089ブログ

自然と人とのかかわり ―クリーブランド美術館展 燕子花図屏風

「クリーブランド美術館展─名画でたどる日本の美」は、人と山川、木々、草花といった自然との関係が日本の絵ではどのようにあらわされているのかをご覧いいただこうという展覧会です。

日本で暮らす人々は、春夏秋冬それぞれの季節の中で、自然と密接に生活しています。人々にとって自然は天災をもたらすもので畏れの対象でもありますが、たいへん身近なものともいえます。その心持ちは、絵にもたいへん強くあらわれています。そのことがはっきりと見て取れる作品をあげてみます。


燕子花図屏風 渡辺始興筆 江戸時代・18世紀 

金箔の背景に青と緑の色彩の対比が鮮やかです。
少し画面に近寄ってみましょう。


右隻の右上部分

燕子花の根元は見えず、花が金箔に埋もれてしまっています。現在の照明ではわかりにくいですが、これは水面に浮かぶ靄が燕子花を隠してしまっているのです。
先に1089ブログ「新しいあかりの試み―クリーブランド美術館展 雷神図屏風」でふれたように、現代の「強い」あかりでなく、蝋燭の火のような「やわらかい」あかりでこの屏風をみれば、金箔が透明感を生じて、緩やかに火の光がゆれることで靄が流れていくことでしょう。
また、左右の屏風では花々のグループの配置が異なります。これは花々を見ている人(=絵を見ている人)が首を振ったことで、視線が正面から右へ移った様子が描かれているのでしょう。
平板な絵と思われがちな日本の絵ですが、臨場感あふれる画面となっているのです。

ここから本題です。
描かれた当時、この絵を見た人はたちどころに、平安時代の歌物語「伊勢物語」第9段の「東下り」の一節を想い起します。出版物で広くその物語世界が知られていたからです。
この展覧会では、「伊勢物語」の絵をいくつか紹介しています。それらの魅力ある作品では背景描写をともなってあらわされているので、物語の場面がすぐにわかります。


伊勢物語図色紙 住吉の浜 俵屋宗達筆 江戸時代・17世紀

住吉神社の拝殿と、書き込まれた和歌
「かりなきて菊のはなさく秋はあれと はるの海邊に すみよしのはま」
美しい海辺の景観が目に浮かびます


蔦の細道図屏風 深江蘆舟筆 江戸時代・18世紀
主人公の一行が、東海道宇津谷峠にさしかかる場面

しかし、この屏風では燕子花の花が描かれているだけ。
それでもこれを見た人びとは、物語の場面である八橋(愛知県知立市)に立ち、在原業平といわれる都落ちした主人公の心細い心持ちに感情移入することができたのです。屏風を見る人と物語の主人公が、燕子花という花によって、時空を超えて結びついたのです。それは、あまりにも有名な「唐衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ」(句の頭にかきつばたの五文字)の和歌が人々の心に浮かび上がるからでもありましょう。

古来、日本では和歌や物語のなかで、山川、植物、動物といったものをとりあげ、自らの心情を「ことば」にしています。そのことばが絵にもあらわされていきます。
言い換えると、自然の事物が人の感情をあらわしているともいえるのです。
そして日本の絵は、目に映る草花や山水の風景をただ描いているのではありません。和歌や物語のことばを仲介にしながら、人々の心持ちを自然にことよせているのです。
そうした日本の人々の自然によせる心情が、この燕子花図屏風には色濃くあらわれています。
 

カテゴリ:研究員のイチオシ2013年度の特別展

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posted by 松嶋雅人(特別展室長) at 2014年02月08日 (土)

 

「クリーブランド美術館展」&「人間国宝展」10万人達成!!!

「クリーブランド美術館展―名画でたどる日本の美」「人間国宝展―生み出された美、伝えゆくわざ―」(いずれも1月15日(水)~2月23日(日) 平成館特別展示室)は、2月7日(金)午後に2展合計で10万人目のお客様をお迎えしました。
多くのお客様にご来場いただき、心より御礼申し上げます。

10万人目のお客様は、茨城県よりお越しの梅田良子さんです。
お嫁さんの奈津子さんと2人でご来場いただきました。
梅田さんには、東京国立博物館長 銭谷眞美より、記念品として両展の図録と、ポストカードでオリジナルの画集が作れる
「ポスカホリック」等を贈呈いたしました。


「クリーブランド美術館展」&「人間国宝展」10万人セレモニー
梅田良子さん(中央)・奈津子さん(左)と館長の銭谷眞美(右)
2月7日(金)東京国立博物館 平成館エントランスにて

東洋・西洋を問わず美術に関心があるという梅田さんは、普段から展覧会の記事をスクラップしているそうです。
「特に竹細工が好きで、人間国宝展を楽しみに来ました。雷神図屏風もぜひ見たいので、
クリーブランド美術館展も合わせて行こうと思います」とお話いただきました。

「クリーブランド展」と「人間国宝展」は、ともに会期終了まで残り2週間ほどです。
過去から現代にいたるまで、日本美術の名品が一堂に会し、美の極致をお楽しみいただけるまたとないチャンスです。
どうぞお見逃しなく!

カテゴリ:news2013年度の特別展

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posted by 高桑那々美(広報室) at 2014年02月07日 (金)

 

トーハクくんの「なるほー!人間国宝展」その2

トーハクくん

ほほーい!ぼくトーハクくん!
今日は学芸研究部長の伊藤さんといっしょに「人間国宝展―生み出された美、伝えゆくわざ―」を見に行くほ。
伊藤さんは陶磁が専門だほ。今回の展示の見どころを教えてくださいだほー!


伊藤さんとトーハクくん


伊藤研究員(以下イ):やあ、トーハクくん。待ってたよ。
今回はね、東京国立博物館では初めて現代の作品にも焦点を当てたんだ。
でも、ここでないと出来ない視点がないと、やる意味がないだろう?
古いものの良さ、そしてそれをコピーしたのでは決してない現代作品の良さ、その両方を感じてほしいねえ。

トーハクくん ほうほう。それぞれに良いところがあるってことだほ。
伊藤さんは、どんなところでそれを感じるほ?

イ:うん。たとえば、ここが分かりやすいかな。


展示風景
(左)重要文化財 志野茶碗 銘 広沢 
美濃 安土桃山~江戸時代・16~17世紀 大阪・湯木美術館蔵
(右)志野茶碗
荒川豊蔵作 昭和28年(1953) 東京国立近代美術館蔵



安土桃山時代から江戸時代初期にかけての桃山文化で、茶の湯がとても盛んになった。
そこで使われた茶の湯のやきものは、やきもののなかでも特別にすごいということで、「桃山茶陶」って言われるんだ。

志野茶碗 銘 広沢

この重要文化財は、桃山時代の名陶だね。
この時代、中国の白磁に代わるものを、初めてこの釉薬が実現したんだ。
でもただの白じゃない。緋色(ひいろ)が混じっている。
完璧な白じゃないのがむしろいいね、と当時の茶人に受け入れられたんだ。

トーハクくん ほー、それはいかにも日本人的な見方だほ。
確かにこの作品がまっしろしろだったら、ちょっとピンと来ない感じだほ。この赤みがほんわか感をかもしているんだほ。

イ:トーハクくん、良いこと言うね。
対して荒川豊蔵の作品を見てみよう。
この人は、美濃の窯跡で志野の陶片を発見する。それまで志野焼は瀬戸焼の一種だと考えられていたので、この発見はとてもセンセーショナルだったんだ。
この人は志野茶碗のことを真摯に研究して、ついに窯まで再現して桃山時代の茶陶を再興しようとしたんだよ。

トーハクくん 窯まで桃山茶陶のころと同じようにつくったほ?!ひょー、大したこだわり屋さんだほ!

イ:そう。でもね、彼は途絶えた技を再現して、同じものをつくるだけに留まらなかった。
荒川さんは、緋色の部分をあえて主役として扱ったんだ。見てごらん、全体的に赤みがあってあったかみがあるだろう?

志野茶碗

これが「荒川志野」と呼ばれるものだ。
彼はこの緋色を突き詰めることで、自分の作品へと繋げていったんだね。
昔の作品は確かに良い作品だ。だけど、20世紀という時代だからこそ生まれる作品を作ることにも情熱を傾けたわけだ。

トーハクくん おお、伊藤さんの語りがアツくなってきたほ!

イ:そうだよ、「伝統」がどのように「現代」とつながっているのか、ここが展示の見どころだからね。
ある人はこう言った。

「作品は、時代が作らせている」

トーハクくん おおー!
いやごめん、ぜんぜん意味がわからんほ。

イ:うん。たとえ技術は昔のものを使っても、作っているのは現代人。だから、21世紀を生きている人間のエッセンスが必ず作品に表れる。という意味じゃないかな。

トーハクくん ほー、今日のお話は深いほ、でもなんとなく分かる気がするほ。

イ:それでねトーハクくん、僕はこの作品を見ていて気付いたことがあるんだ。
名付けて「長身的遠視的 人間国宝展のたのしみかた」っていうんだけどさ、それはね…

(ここからの話が大変長いため、今後の伊藤さんのブログにて紹介します。どういう意味なのか、お楽しみに。)

トーハクくん あわわ、伊藤さんのテンションに追いつけなくなってきたほー。


展示風景

トーハクくん ではここで究極の質問だほ。
伊藤さんがキャッツアイ、いや違うほ、ルパンだったら何を盗みたいほ?

イ:ああ…。僕ね、物欲があんまりないんだよね。

トーハクくん うえっ!
(それじゃこの企画が成り立たんほ!)

イ:うーん…困ったな。
あっ、トーハクくん、僕はこの作家と知り合いだったんだよ。


濁手つつじ草花地文蓋物
濁手つつじ草花地文蓋物
酒井田柿右衛門(十四代)作 平成17年(2005) 個人蔵



トーハクくん 十四代の酒井田柿右衛門さん?!すごいほ!

イ:現代の作家とは直接話が出来るから、作品を見るときも作家を思い浮かべながら見ることが出来るのが味わいだね。
この人は「俺は作家だ!」って顔は絶対にしない人でね。窯屋の大将って感じで、すごく優しいんだ。いっぱい、いっぱいお世話になったんだよ。
作品の展示作業をしながらそのことが思い出されて、じわーんときたね。

トーハクくん そうかあ。じゃあ、この作品を選ぶってことだほ?

イ:それでねトーハクくん、この作品は中央を少しずらして展示しているだろう?

トーハクくん 伊藤さん、質問に答えてくれだほ…(こりゃ完全にこのひとの会話のペースに巻き込まれているほ。)

イ:柿右衛門さんは、立体のなかに世界をつくるのがとても上手な人なんだ。
つつじがね、うねるように、そのうねりが続いていくように描かれている。
そんな「うねるように続いていく」感じが一番よくわかってもらえる場所を探して、今のように飾ったというわけさ。

見方1 見方2
ここから見始めて、、、       こういう風にぐるっと角度を変えてみて、、


見方3 見方4
下から見るのもいいねえ、、、      上からも見てみようか!

トーハクくん ぎゃああああす!ボクを振り回さないでー!
ぜえぜえ。じゃあこの作品でキマリだほ?

イ:いや、ひとつ選ぶとしたら、あの作品かな。

トーハクくん えー別の作品なのーーー?!


竹華器「怒濤」
竹華器「怒濤」(生野祥雲齋作 昭和31年(1956) 東京国立近代美術館蔵) の前にて、ゴキゲンな伊藤さん。


イ:これは名品だね!この作品の前にはひれ伏すね。
竹だからこそ出来るしなやかな表現。本当に竹なの?と思ってしまうほど力強い造形力。
壁に映る影の美しさもあわせて、ぜひいろんな角度から見てほしい。

トーハクくん ほんとうに、波がドトーっ!っと押し寄せてくるように見えるほ!すごい迫力だほ!
でも伊藤さん、この作品をお家のなかでどうやって使うほ?

イ:これが家の中に存在するだけで、世界が変わるだろうね。
機能性とか合理的なことだけじゃなく、そこに在ることによって空間が変わる。
存在することに意味があるんだ。
よく「工芸ってどう見たら良いかわからない」って言う人がいるんだけど、難しく考えないでほしいんだ。
こういう作品を見て「すごい!」とか「使ってみたい!」とか、心が動けばそれでオッケーなんだよ。

トーハクくん 「心が動けば、それでオッケー」伊藤嘉章。
格言いただいたほ!かっこいいほ!
伊藤さん、アツいお話をどうも有難うございました!


伊藤さんとトーハクくん
伊藤嘉章(いとうよしあき)学芸研究部長。専門は陶磁です。
伊藤さんのトークの独特なテンポに終始リードされたトーハクくんなのでした。

カテゴリ:研究員のイチオシnews2013年度の特別展

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posted by トーハクくん at 2014年02月05日 (水)

 

トーハクに「白菜」がやってくる!


「『トーハクに白菜がやってくる』? あら、ブランド野菜の販売かしら? でも・・・お高いんでしょう?」

奥さん、違います。
この白菜は、世界にひとつしかない白菜なのです。
台北の國立故宮博物院が誇る”神品”「翠玉白菜(すいぎょくはくさい)」がトーハクにやってくるのです。


 
今年6月、トーハクでは特別展「台北 國立故宮博物院―神品至宝―」(2014年6月24日(火)~9月15日(月・祝)、平成館)を開催します。
これに先立って2014年1月29日(水)、平成館大講堂で報道発表会が行われました。

発表会では、まず主催者を代表して、銭谷眞美 東京国立博物館長と、三輪嘉六 九州国立博物館長がご挨拶申し上げました。
また、本展覧会担当の富田淳列品管理課長より展覧会の構成と見どころの解説を行いました。


富田淳 列品管理課長

東京と九州の2会場で行われる本展は、中国歴代にわたるひときわ優れた文化財を多数収蔵する台北 國立故宮博物院の収蔵品から特に代表的な作品を厳選し、中国文化の特質やすばらしさを広くご紹介するものです。
台北 故宮の展覧会はこれまでアメリカ、フランス、オーストリア、ドイツでしか開かれたことがありません。
今回の展覧会は日本、そしてアジアでも初。
これまで台北に行かなければ見ることのできなかった中国歴代皇帝のコレクションを日本で見られる貴重な機会となります。

さらに!
今回は過去の海外展では出品されたことがない、故宮を代表するスーパースターのトップ2が、各2週間限定で来日!
それが冒頭でご紹介した「白菜」こと”翠玉白菜”、そして”肉形石”(九州のみ)です。
どちらも台北故宮を代表する作品であり、来訪者必見の人気者だけに、交渉は難航し出品が決まったのは最後の最後。
まさに奇跡の出品!見逃せません!

素材の美と至高の技が織りなす究極の神品

翠玉白菜(すいぎょくはくさい) 清時代・18~19世紀 
展示期間:6月24日(火)~7月7日(月)/東京のみ 台北 國立故宮博物院蔵
1つの翡翠(ひすい)の色の違いを利用して、巧みに掘り出されています。
宝飾品用としては劣る色の翡翠をあえて利用して表現された白菜は、石から彫られたとは思えないほどのみずみずしさ。
葉っぱにとまったイナゴとキリギリスにも注目!


目でいただく最高のご馳走

肉形石(にくがたいし) 清時代・18~19世紀 
展示期間:10月7日(火)~10月20日(月)/九州のみ台北 國立故宮博物院蔵
バラ肉の赤身と脂身の層が、瑪瑙(めのう)の材のもつ赤と白の縞目をうまく活かして表現されています。
石から彫りだされたものにもかかわらず、とろけそうにやわらかく見える不思議。
瑪瑙ならではの染色技法で表現された角煮の皮の照りは、もう、たまりません。



「じゃあ、見どころは『白菜』と『肉』。 これを外さなければOK?」

奥さん、とんでもない!!
今回、台北からやってくる名宝はこれだけではありません。
中国歴代皇帝のコレクションである故宮コレクションから、さらに厳選された珠玉の作品の数々が出品されます。
当館の研究員による粘り強い交渉と台北 故宮の特別の配慮によって、本展は名品中の名品揃いとなっているのです!
その一部についても富田さんから紹介がありました。


北宋の皇帝・徽宗も愛した青磁

青磁輪花碗(せいじりんかわん) 汝窯(じょよう)
北宋時代・11~12世紀 台北 國立故宮博物院蔵



宇宙を表現した崇高な山水

雲横秀嶺図軸(うんおうしゅれいずじく) 
高克恭(こうこくきょう)筆 元時代・13~14世紀 

展示期間: 6月24日(火)~8月3日(日)/東京のみ) 台北 國立故宮博物院蔵


シルクの国・中国の、幸せを願う刺繍画

刺繍九羊啓泰図(ししゅうきゅうようけいたいず) 
元時代・13世紀
東京のみ) 台北 國立故宮博物院蔵


蘇軾の奥深さ、凄まじさが横溢(おういつ)する傑作中の傑作

行書黄州寒食詩巻(ぎょうしょこうしゅうかんしょくしかん) 
蘇軾(そしょく)筆 北宋時代・11世紀 

展示期間: 8月5日(火)~9月15日(月・祝)/東京のみ) 台北 國立故宮博物院蔵


美の極み、乾隆粉彩の回転瓶


藍地描金粉彩游魚文回転瓶(あいじびょうきんふんさいゆうぎょもんかいてんへい) 
景徳鎮窯 清時代・18世紀 台北 國立故宮博物院蔵



「皇帝の玩具箱」とも呼ばれています

紫檀多宝格方匣(したんたほうかくほうこう)
清時代・17~18世紀 台北 國立故宮博物院蔵



次世代アイドル!「白菜」「肉」につづく故宮の人気者

人と熊
清時代・18~19世紀 台北 國立故宮博物院蔵


なんと豪華なラインナップ!
東京・九州の両国立博物館の研究員が厳選した231件(東京186件、九州110件)。
是非東京と九州の国立博物館をハシゴして、その全てをご覧いただきたいと思います。


また、発表会後半では、台北 國立故宮博物院 馮明珠院長のビデオメッセージ放映と一青窈さんの展覧会サポーター就任発表が行われました。


國立故宮博物院 馮明珠院長のビデオメッセージ

本展の出品作品の紹介やご尽力をいただいた関係各所への謝辞をいただきました。



展覧会サポーター・一青窈さん(写真右)
「縁のあるお仕事をいただき光栄です。一生懸命サポートします。」
サポーターとしての意気込みとご自身のお気に入りの作品などについて語ってくださいました。



さっそく銭谷東博館長、三輪九博館長と一緒に本展をPR!

女優としても活躍されている歌手・一青窈さんはお父様が台湾ご出身。
台湾、そして台北 故宮にも足繁く通われており、今後本展のサポーターとしてPR活動等にご協力をいただくことになっています。



世界の広範な地域にわたる数々の展覧会を開催してきたトーハクが、これまで実現できなかったのが、台北 國立故宮博物院の展覧会。本展はトーハクはもとより、歴史や文化に関心を持つ人々にとっての長年の「夢」ともいえます。
ついに実現した「夢の展覧会」!
奥さんにも、いえ皆様にも是非、この記念すべき展覧会の目撃者となっていただければ幸いです!!


最後に、「次世代アイドル」を別アングルで。

人と熊(部分)
清時代・18~19世紀 台北 國立故宮博物院蔵

富田さんは「チョコレートを作ってグッズ展開を。」と語っていましたが、果たしてその夢は実現なるか?


『みんな会いに来てね。』   『来てね~。』

 

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posted by 田村淳朗(広報室) at 2014年02月02日 (日)

 

クリーブランド美術館展 隠れた逸品―「薄図屏風」応援譜―

アメリカ・クリーブランド美術館の日本絵画コレクションの中から、選りすぐりの作品を精選し展示している「クリーブランド美術館展―名画でたどる日本の美」
どれもこれも、魅力ある作品ばかり。それは、どの作品の前でも、たくさんの方々が時間をかけ、じっくりと鑑賞されていることからも分かります。

ただ、今回の展示作品の中で、あまり人だかりのない、みなさんがさらっと通り過ぎてしまっている作品があります。「花鳥風月」のコーナーで展示している「薄図屏風」です。


薄図屏風  Photography © The Cleveland Museum of Art

図版や会場で遠目で見た際には、薄の緑色の葉っぱだけが目に映る、実に地味な屏風。
「はいはい、まあこんな作品もあるのね」
と、みなさん足早に通り過ぎてしまいます。

昨年夏、この展覧会の事前調査でクリーブランド美術館を訪れ、薄暗い収蔵庫の中でこの屏風を見た時の私も、
「えっ、こんなつまらない、もとい、地味な、草ばかりの屏風を展示するのか。。。」
といった、ちょっとがっかりな感想を誰にも言えず、一人秘めていたのでした。
こんな冷たい態度をとったことを、後に私は深く反省することになります。

今年の年明け、まだ松の内にクリーブランド美術館から展示作品が到着し、先方の学芸員と一緒に作品のコンディションチェック(作品の損傷状態などを双方の担当者で点検すること)をしました。

その際にも、緑の葉先に薄の白い穂をようやく確認し、
「なるほど、薄ね。そりゃ穂を描かないと薄じゃないよな。はいはい、次の作品の点検をしましょ」
と、まだまだ愛情のない、実に冷淡な態度を持ち続けていました。


薄図屏風 部分拡大 白い穂が描かれています

さてその後、作品が実際に展示ケースに並び終わり、改めて展示会場をまわってみました。
今回の展覧会は、「日本絵画における人と自然」をテーマにしていますので、多くの屏風作品が会場に並んでいます。
たくさんの屏風を見た後でもう一度、「薄図屏風」の前に立った時の私の感想。

「この屏風、本当はすごい作品なんじゃないか? 冷たい態度をとってごめんなさい」

なぜこんな劇的な印象の変化がおきたのか?

実はこの作品、展示する時に困ったことが一つあります。
どちらが右で、どちらが左か、よく分からないのです。
本来屏風は、右から左に季節や物語が進行するのが基本で、右隻と左隻という並べ方が、言わば描かれた段階から決定されています。落款印章などがある場合、それを左右の端に来るよう並べるのがセオリーです。
今回は、クリーブランド美術館の作品番号の順序に従って右と左に並べたのですが、これを逆に並べても何ら問題は生じません。それはこの屏風が、他の屏風のように右と左の置き位置を強いない画面であるからです。


薄図屏風 左右逆にしてみました。違いがわかりますか? Photography © The Cleveland Museum of Art

こうした、左右入れ換え可能な屏風は江戸時代の作例でも多く確認できますが、薄図屏風のように左右に描いているものがほとんど同じというのは、そう多くありません。
そもそも屏風とは、空間を飾り、荘厳する機能とともに、建築内部を仕切る建具、調度品としての機能を持っていました。今で言うアコーディオンカーテン、パーティションのようなものです。こんにち、博物館や美術館では屏風を綺麗に蛇腹状にひろげ、左右に並べて展示していますが、描かれた屏風などを見てみると、直角に並べたり、T字に並べたり、あるいは逆に折ったりと、実に自由自在に空間を仕切っています。


重要文化財 歌舞伎図屏風 菱川師宣筆  東京国立博物館蔵(部分)
第3扇から第6扇が通常とは逆に折られています。


右と左の並べ位置が決まってしまうと、屏風を自由に置きにくくなります。対して「薄図屏風」のように、右左隻の配置が曖昧なことは、どちらに置いても構わないということを意味しています。この「薄図屏風」は、屏風が持つ、建具としての機能を留める、貴重な作例だと改めて言うことができます。

さらに、この「地味な」モティーフも、「建具」としては重要な意味を持っています。
会場をぐるっともう一度一回りして屏風を見てみました。
武家好みなのか、それとも神社への神馬奉納などと関わりがあるのかなと思う「厩図屏風」。


厩図屏風 Photography © The Cleveland Museum of Art

右左隻で作者が異なり、片や鷲が雉や鷺を捕え、片や番(カップル)の鳥をたくさん描く「四季花鳥図屏風」。


四季花鳥図屏風 伝狩野松栄・伝狩野光信筆 Photography © The Cleveland Museum of Art


画面いっぱいに燕子花をこれでもかと描く渡辺始興の「燕子花図屏風」。
これも左右入れ換えても画面は成立しそうですが、落款印章があるため、置く位置は決まってしまいます。


燕子花図屏風 渡辺始興筆 Photography © The Cleveland Museum of Art


近江(今の滋賀県)の名所や、賑やかな街の様子を細密に描く「近江名所図屏風」。


近江名所図屏風 Photography © The Cleveland Museum of Art

そこで改めての感想。

「どれもこれもくどい! でもこの薄図屏風、実にすがすがしい!」

屏風が建具として、部屋の内部空間を仕切るものだったということは、当時の人びとが日常目にするものだったということです。言うなればカーテンなどのようなもの。カーテンの柄として、「薄図屏風」のような「くどくない」、「地味」なモティーフは、面白みはないけれど「飽きのこない」柄なわけです。
「四季花鳥図屏風」のように鷲が雉の首根っこ押さえ、あたりに羽が舞い散るといったカーテンを日常の空間に置くのはやはり躊躇されます。こういった屏風は、この画題を必要とする、特別な場や時に飾られた屏風であったわけです。

建具や調度品として使われた屏風は痛んだりすると捨てられてしまう「消耗品」であり、今日残る作例は多くありません。「薄図屏風」は、屏風が建具として機能していたことを教えてくれる、貴重な「証人」の一人だったのです。

そうしたことも思いいたらず、「薄図屏風」に実に冷淡な態度をとったことを今さらながら深く反省しつつ、この文章を書いています。これをご覧になった皆さんも「薄図屏風」の前でも足を止め、じっくりご鑑賞いただき、ぜひとも「薄図屏風」の応援をともにしていただければと思います。

カテゴリ:研究員のイチオシ2013年度の特別展

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posted by 土屋貴裕(平常展調整室 研究員) at 2014年02月01日 (土)