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黒田清輝の画業─黒田が日本に伝えようとしたこと

黒田記念館の展示や作品貸与の担当を30年以上行ってきた私にとって、このたび、生誕150年 黒田清輝展を黒田にゆかりのある上野で開催することができ、沢山の方に作品を通じて黒田清輝という人を知っていただくことができますことは、深い喜びです。

このたびの展覧会では、沢山の方々に黒田の作品をご覧いただけるということに加えて、黒田が直接に肉声で教えを受けたラファエル・コランやピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ、また、フランス留学中に同時代に生きている作家として作品を見たに違いないクロード・モネ、カミーユ・ピサロの作品も会場に集うこととなり、僭越ながら黒田に対する大きなプレゼントになったのではないかと思っています。


  「フロレアル(花月)」 ラファエル・コラン(画面左)などが並ぶ黒田展会場風景

19世紀後半、まだ近代化の途上にあった日本からフランスに留学した黒田が懸命に学んで得た具体的な絵画思想と技術、そして日本に帰ってから何を伝えようとしたかを、作品を通じて感じていただけましたら幸いです。

黒田は19世紀後半にフランスで行われていた公募展覧会の全てに出品を果して帰国しました。「読書」をフランス芸術家協会展に、「朝妝」を国民芸術家協会展に、「菊花と西洋婦人」を無鑑査展に出品しています。

 
(左)読書 黒田清輝 1891年(明治24) 東京国立博物館蔵
(右)菊花と西洋婦人 黒田清輝 1892年(明治25) 個人蔵


それぞれの展覧会で主流をなしていた画風は異なっており、無鑑査展は最も自由で多様な画風の作品が出品されていました。会場で同じ壁面に展示されている「読書」と「菊花と西洋婦人」を比較していただけましたら、画風の違いをご理解いただけると思います。

黒田の生きた時代は、現代のように文化の多様性を尊重するというよりは、進んだ文化を遅れた地域が学んでいくべきだ、という近代主義が当然とされており、社会経済の分野だけでなく美術や絵画においても欧米に学ぶべきだとされていました。現在の日本でもその枠組みはあまり変わっていないようにも思えます。


黒田清輝のポートレート

その中で、黒田清輝は自分の眼で物を見ること、そして自分の考えを表現することの大切さを絵画・美術を通して人々に伝えようとしたのだということが、黒田のことばや残された資料から伝わってきます。その思いが、本展覧会の作品を通じて多くの方に伝わることを切に願っています。


会場の壁面にある黒田の言葉にもご注目ください

カテゴリ:研究員のイチオシ絵画2016年度の特別展

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posted by 山梨絵美子(東京文化財研究所副所長) at 2016年04月07日 (木)

 

黒田が見た光を再現─グレーの光でやわらかく

現在開催中の特別展「生誕150年 黒田清輝─日本近代絵画の巨匠」(平成館、5月15日(日)まで)では有機ELを用いた照明器具が美しい光を生み出しております。今回は「婦人像(厨房)」の展示照明を一例としてご紹介いたします。


婦人像(厨房) 黒田清輝 1892年(明治25) 東京藝術大学蔵

有機ELとは、LEDの次世代を担うものとして、世界中のあらゆる分野で今最も注目されている最先端の光源です。その最大の特徴は「面発光」。光源が面状をなしているため、発光面積が大きく、従来の光源とは異なり、面で物質を照らすことがとても得意です。 例えば平面状の大きな作品を一様にやわらかい光で浮かび上がらせたい場合には有機ELを用いるのが効果的です。これまでにない効果を期待できる照明器具として我々も注目しております。

「婦人像(厨房)」展示ケース内部には下記の写真のように有機ELのパネルが連なった照明器具を配置しております。


ケース内部に設置された有機EL照明器具(展示作業中)

展示作業の最終段階では、これらの配置や照射角度を変えながら作品が最も美しく見える光環境を作り上げていきます。

照明調整前(写真左)と調整後(写真右)の輝度分布を比較すると、画面全体を均一に照らしながら周囲にかけてやわらかくグラデーションしていくような光環境が得られた事が良く分かると思います。

 
(左)照明調整前の輝度分布 (右)照明調整後の輝度分布。作品全体を均一にやわらかく包む光環境が実現しました

この作品を描いたグレー・シュル・ロワン村(フランス)の光でやわらかく作品を包み込むことができました。こうした効果は写真だけでは十分に実感できないと思います。是非会場にいらして展示をご覧ください。

 

※なお、この展示照明は科研費25282078「中世から近代における日本絵画の受容環境の復元的考察」(代表:松嶋雅人)による助成を受けた研究成果であり、有機EL照明器具は株式会社カネカと株式会社キルトプランニングオフィスの協力によって製作・実現できたものです。

カテゴリ:絵画2016年度の特別展

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posted by 和田浩(環境保存室長) at 2016年04月04日 (月)

 

特別展「生誕150年 黒田清輝─日本近代絵画の巨匠」 開幕!

特別展「生誕150年 黒田清輝─日本近代絵画の巨匠」が、桜の開花とともに3月23日(水)に開幕しました!


特別展会場の窓から見える桜です

開幕に先立ち、3月22日(火)には開会式・内覧会を行い、多くのお客様にご出席いただきました。



まず、第1章「フランスで画家になる―画業修学の時代」では、フランス留学時代の作品を展示。師匠のラファエル・コランら、黒田が学んだ同時代のフランス近代絵画も合わせてご覧いただけます。

  

会場を移り、第2章「日本洋画の模索―白馬会の時代」の入口では「舞妓」がお出迎え。この章では、代表作「湖畔」のほか、論争の的となった裸体画の作品なども展示されています。

 
(左)重要文化財 舞妓 黒田清輝 1893年(明治26) 東京国立博物館蔵

続いて、第3章「日本洋画のアカデミズム形成―文展・帝展の時代」の展示室は、華やかな桜色の空間になっています。日本にアカデミズムを確立しようと奮闘した黒田の、晩年までの作品をご覧いただけます。

 

このほかにも、黒田をとりまく近代洋画や、戦災で失われた「昔語り」の下絵やデッサンなど、充実の内容となっています。そして、最後に皆さまをお迎えするのは...せひ、その目で確かめてください!

日本美術の近代化に尽力した黒田の軌跡をたどる本展、会期は3月23日(水)~5月15日(日)です。

今後、黒田展の見どころを、このブログでご紹介していきます。
どうぞ、ご期待ください!

カテゴリ:絵画2016年度の特別展

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posted by 宮尾美奈子(広報室) at 2016年03月24日 (木)

 

特別展「生誕150年 黒田清輝─日本近代絵画の巨匠」報道発表会

来春、トーハクでは、特別展「生誕150年 黒田清輝─日本近代絵画の巨匠」(2016年3月23日(水)~5月15日(日))を開催します!
開催に先立ち、11月17日(火)に報道発表会を行いました。

本展覧会担当研究員・松嶋雅人より「展覧会趣旨」の説明を、東京文化財研究所・山梨絵美子より「黒田清輝、その人と作品について」解説いたしました。

 
(左)当館 松嶋研究員、(右)東京文化財研究所 山梨企画情報部部

皆さんは「黒田清輝」と聞いて、どの作品を思い浮かべますか?
やはり有名な「湖畔」でしょうか。


重要文化財 湖畔 黒田清輝 1897年(明治30) 東京国立博物館蔵
切手や教科書で親しまれています

日本近代洋画の巨匠と呼ばれており、日本の美術界に偉大な功績を残した黒田ですが、その人生は意外にも葛藤に満ちています。封建的な明治の日本社会で、世界に認められる洋画を目指すことは、並大抵のことではありませんでした。

今回の総作品数は約240件(黒田作品200件以上)!
当館の所蔵品に加え、国内外27箇所の機関および個人の方からご出品いただく作品が、トーハクに集まります。
黒田清輝の初期から晩年までの作品を通して、黒田が歩んだ苦闘の道のりを感じていただけることでしょう。

 
(左)木かげ 黒田清輝 1898年(明治31) 公益財団法人ウッドワン美術館蔵
(右)野辺 黒田清輝 1907年(明治40) ポーラ美術館蔵

さて、本展の見どころはそれだけではありません!
黒田が学んだ同時代のフランス絵画を展示。黒田作品のルーツをたどります。


羊飼いの少女 ジャン=フランソワ・ミレー 1863年頃 オルセー美術館蔵
©RMN-Grand Palais (musée d'Orsay)/Michel Urtado/distributed by AMF
オルセー美術館より特別出品!


フロレアル(花月) ラファエル・コラン 1886年 オルセー美術館蔵(アラス美術館寄託)
©RMN-Grand Palais (musée d'Orsay)/Hervé Lewandowski/distributed by AMF
黒田の師、コランの代表作

報道発表会では、本展ゲストキュレーター東京大学・三浦篤教授に説明していただきました。


東京大学 三浦教授

三浦教授の「日本における黒田ではなく、世界における黒田を見直す良い機会」という言葉が印象的でした。

他にも、日本の近代洋画の展示など、まさに黒田清輝生誕150年にふさわしい展覧会です!
観終わった後、あなたの黒田清輝像が変わるかも・・・。


黒田清輝ポートレート

特別展「生誕150年 黒田清輝─日本近代絵画の巨匠」、どうぞお楽しみに!

 

 

カテゴリ:絵画2016年度の特別展

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posted by 宮尾美奈子(広報室) at 2015年11月24日 (火)

 

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