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書を楽しむ 第3回「きれいな紙」

書を見るのはとても楽しいです。

より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第3回です。

今回は、紙。

書が書かれた紙のことを、「料紙」と呼びます。
じつは、料紙には、きれいなものがたくさんあって、それだけでも楽しめます。

いま、トーハクの本館3室(宮廷の美術)(~2011年12月11日(日)展示)に、きれいな料紙が並びました。

展示室で一番左は、荒木切(あらきぎれ)。
荒木切
荒木切(古今和歌集) 伝藤原行成筆 平安時代・11世紀 深山龍洞氏寄贈(~2011年12月11日展示)
(注)右画像は上記作品の部分、拡大画像


拡大してみると、お花と葉っぱが見えます。
展示室では、この文様が見えにくいですが、
そういう時は、ガラスに顔を近づけたり、しゃがんで下から見たり、横から見たり。
角度を変えると見えてきます。

二番目は、本阿弥切(ほんあみぎれ)。
本阿弥切
本阿弥切(古今和歌集) 伝小野道風筆 平安時代・12世紀 森田竹華氏寄贈(~2011年12月11日展示)
(注)右画像は上記作品の部分、拡大画像


右の青い方も文様はあるのですが、やはり見えない!
白く見えるのは、花崗岩に含まれる雲母(うんも)です。料紙工芸では、雲母と書いて「きら」と呼びます。
光の加減でキラキラ見えるためでしょうか。

三番目は、巻子本(かんすぼん)。
巻子本
巻子本古今和歌集切 藤原定実筆 平安時代・12世紀 森田竹華氏寄贈(~2011年12月11日展示)
(注)右画像は上記作品の部分、拡大画像


これは、「蝋箋(ろうせん)」と呼ぶ料紙で、中国から輸入されたものです。
つややかで蝋を塗ったように見えるから、この名前で呼ばれます。

四番目は、了佐切(りょうさぎれ)。
了佐切
了佐切(古今和歌集) 藤原俊成筆 平安時代・12世紀 古筆了悦氏寄贈(~2011年12月11日展示)
(注)右画像は上記作品の部分、拡大画像


三番目までの文様は、版木を用いて摺ったものですが、了佐切は、筆で描いた文様のようです。
金色の雲、いかがですか?
じつは、これは後世に描き加えられたものです。

さいごに、通切(とおしぎれ)。
通切
通切(古今和歌集) 伝藤原佐理筆 平安時代・12世紀(~2011年12月11日展示)
(注)右画像は上記作品の部分、拡大画像


右の写真のように拡大すると、あみ目が見えるでしょう。
これ、紙の裏側です。紙を漉くときに、ふるいに布をひいていたため、布の目がついています。

以上のように、文様や絵のある料紙のことを「装飾料紙」と呼びます。
今回は、装飾料紙が5つも並んでいますが、全部『古今和歌集』が書かれています。
花や雲の文様の料紙に和歌を書くのは、平安貴族の美意識でしょうか。


ちなみに!
美麗をつくした装飾料紙といわれる「本願寺本三十六人家集」(国宝)が、
現在、平成館で開催中の特別展「法然と親鸞 ゆかりの名宝」(~2011年12月4日(日))で展示されています!
装飾料紙の代表作ですので、ぜひ御覧ください。
(「本願寺本三十六人家集(素性集・重之集・能宣集下)」は展示替があります。
詳しくは作品リスト のNo.186 をご覧ください。)

書だけでなく、
展示室でしゃがんで見たり、横から見たりして、きれいな紙も楽しんでください!

カテゴリ:研究員のイチオシ書跡

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posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2011年11月09日 (水)

 

書を楽しむ 第2回「いろいろな線」

書を見るのはとても楽しいです。

より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第2回です。

今回は、線を見てみましょう。

トーハクの本館1、3、8室で展示している書のほとんどは、筆に墨をつけて書かれたものです。
筆が太ければ太い線になり、筆が細ければ細い線になります。
同じ筆で書いても、いろいろな線が生まれます。

私は、本館8室の「聚楽第行幸和歌巻(じゅらくだいぎょうこうわかかん)」の中に、いろいろな線を見つけました。

聚楽第行幸和歌巻(部分)
(画像4枚全て)聚楽第行幸和歌巻(部分) 烏丸光広筆 江戸時代・17世紀 (~2011年11月6日(日)展示)

まず、最初に書かれた文字。

聚楽第行幸和歌巻(部分)

これは「行幸(ぎょうこう)」と読みます。
「行」の線は、たっぷりと太くて、勢いがあります。

次は、おもしろい線を発見。



一つの文字の中に、線が2本に見えるところと1本に見えるところがあります。
墨が足りなくなって、筆の先が割れてしまったのでしょうか?
割れた筆を巧みに使っています。
また、真ん中でたてにひかれた線、ゆったりとして、ながーくて、面白いです。

そして、これ。



右の1行は色が濃いですが、2行目から薄い線になります。
変化させるために、墨に水を加えたのでしょうか?
それとも、墨を少ししか擦らなかったのでしょうか?
最初に見たのと同じ字、「行」の字も見えます。
今度も勢いがありますか?

これらは全部、「聚楽第行幸和歌巻」からとった拡大写真です。
太くてたっぷりした線、
細くて二重になった線、
薄い線、濃い線、
勢いのある線、ゆっくりした線。

あらためて全体を見てみてください。
いろんな線がひとつの作品の中におさまって、また美しい「調和」が生まれています。


「聚楽第行幸和歌巻」は、江戸時代、烏丸光広(からすまるみつひろ、1579~1638)が書いたものです。
2011年11月6日(日)まで、本館8室で展示しています。
面白い線をぜひ見つけてみてください。
 

カテゴリ:書跡

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posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2011年10月28日 (金)

 

書を楽しむ 第1回「名前を探す」

書を見るのはとても楽しいです。

私は、書道教室に通ってもぜんぜん楽しめずに上手にならなかった、ごく普通の日本人です。
それが、いつのまにか書の魅力に取り憑かれ、書(字)を見て感激したり、癒されたりしています。
みなさんも、親しい人の字ならば、だれの字なのかわかるでしょう。
また、魅力的な手書きの字に、思わず惹きつけられませんか?

より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズをはじめます。

第1回目は、書の作品から、自分の名前を探してみましょう。

トーハクの総合文化展(平常展)では主に、本館の1室、3室、8室に日本の書の作品が展示されています。
自分の名前が見つかる確率が高いのは、1室から3室の最初に展示されている古写経です。

紺紙金字無量義経(平基親願経)(部分)
(左右ともに)紺紙金字無量義経(平基親願経)(部分) 平安時代・治承2年(1178)  (~2011年10月30日(日)展示 )

小林さん、大崎さん、王子さん、長井さん。
みつかりましたか?

8室では個性的な書風の字が見つかるかもしれません。

和歌屏風
(左右ともに)和歌屏風(部分) 近衛信尹筆 安土桃山時代・17世紀(~2011年11月6日(日)展示)

玉田さん、露崎さん いかがですか?

3室の「関戸本和漢朗詠集切」の中に、私の名前、「えみ」の「み」をたくさん見つけました。

関戸本和漢朗詠集切
(左右および以下画像3枚全て)関戸本和漢朗詠集切(部分) 源兼行筆 平安時代・11世紀
(~2011年10月30日(日)展示 )


でも、この「み」はもう一つです。



次の「み」は、小さめです。



この「み」が、カッコいいです!スッキリした形が私の好みです。



この1枚の中に、いろいろな「み」があります。
ときには小さく、ときにはイマヒトツでも、全体として見たときのバランスがいいです。
この作品はとくに『和漢朗詠集』なので、「和歌」(仮名)も「漢詩」(漢字)もありますが、その仮名と漢字の「調和が美しい」と解説にもよく書かれます。
この「調和」(バランス)の意味がじつはよくわかりませんでした…。
「調和」については、また別の回に考えましょう。

今回は、自分の名前を探してみました。
いい!と思った自分の名前の文字があったら、次に書くときに使ってみましょう。

さいごに必ず、作品の名称と解説の確認も忘れずに。
「関戸本和漢朗詠集切」は、平安時代に源兼行(活動確認期:1023~74)が書いたもので、愛知の関戸家が持っていたため「関戸本」と呼ばれます。
2011年10月30日(日)まで、本館3室(宮廷の美術)で展示しています。
ぜひ見てください。

カテゴリ:研究員のイチオシ書跡

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posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2011年10月15日 (土)

 

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