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扁額 「高牖延薫」と神猫図

みなさん、こんにちは。沖縄美ら島財団の上江洲安亨です。先日は、特別展「琉球」Twitter生配信「#MUSEUMonLIVE」でもお世話になりました。
引き続き今回は、特別展「琉球」の展示作品の中から、筆者注目の2作品についてご紹介します。

一つめは、愛知県岡崎市に残された琉球の扁額(へんがく)です。
この扁額「高牖延薫(こうゆうえんくん)」は、かつて首里城正殿の北側にあった北殿という建物にあった扁額です。
 
扁額「高牖延薫」(へんがく こうゆうえんくん)
全魁筆 第二尚氏時代・乾隆21年(1756) 愛知・岡崎市美術博物館蔵
展示期間:通期展示
 
尚穆王(しょうぼくおう)を冊封(さくほう)するため1756年に来琉した全魁(ぜんかい)という人の書を木製の扁額にしたものです。
 
模写復元 尚穆王御後絵(もしゃふくげん しょうぼくおうおごえ)
東京藝術大学保存修復日本画研究室(制作) 令和2年度 一般財団法人 沖縄美ら島財団蔵
展示期間:5月3日(火・祝)~5月29日(日)
 
1853年に首里城を訪れたペリーも、目撃したことが『ペリー提督日本遠征記』の記録と挿絵からもわかります。
 
ペリー提督日本遠征記(ぺりーていとくにほんえんせいき)
フランシス・リスター・ホークス編 1856年刊 九州国立博物館蔵
展示期間:5月31日(火)~6月26日(日)
建物の奥に扁額らしき描写があります。
 
沖縄県設置以降の所在は不明ですが、1905年に来沖した地理学者で政治家であった志賀重昂(しがしげたか)に寄贈されたようで、出身地の岡崎市で大切に保管されていました。
高牖延薫とは、「高い窓から薫る風が招き入ってくる」という意味です。首里城北殿で、音楽の演奏や料理のおもてなしをしてもらった雰囲気を示していると思われます。
 
最近はメディアの発達でそうでもないですが、琉球・沖縄は、「文化の違う遠いところ」という、イメージがあるのではないでしょうか?
それでも、実は、岡崎市の「高牖延薫」のように、みなさんの地域にも、お寺・神社だったり、博物館に琉球人の扁額やお墓、書跡、漢詩集が残っていたりします。
 
徳川将軍や琉球国王の代替り時に薩摩藩の参勤交代と一緒に琉球人使節も江戸までやって来ていたのです。特に鹿児島、瀬戸内の山陽道、大阪、京都、岐阜、東海道沿いには琉球関連の史跡や文化財が、多く残っています。
 
「高牖延薫」の見学をきっかけに、みなさんの地域に残る「琉球」を探してみてはどうでしょうか?
 
 
2つめは、琉球の人々が愛した「ネコ」の絵です。
この絵は、「神猫図(しんびょうず)」といって、1725年、山口宗季(唐名:呉師虔)(やまぐちそうき(ごしけん))という絵師が描いたネコです。
 
沖縄県指定文化財 神猫図〔横内家資料〕(しんびょうず よこうちけしりょう)
山口宗季(呉師虔)筆 第二尚氏時代・雍正3年(1725) 沖縄・那覇市歴史博物館蔵
展示期間:5月3日(火・祝)~5月29日(日)
 
山口は、京都で摂政・関白を歴任した近衛家煕(このえいえひろ)など、作品を京都の公家にも献上していた絵師です。尻尾が黒い長毛種の白猫で、とてもエキゾチックな不思議な描写です。
 
琉球王国には、15世紀の漂着した朝鮮人の記録にネコがいたとあり、グスクの遺構からもネコの骨は出てくるので、家畜としてのイエネコは生息していたと思います。幕末、琉球に滞在した宣教師も王府にネコを飼うことを所望した記録があります。(愛玩用ではなく、ネズミ除けのためですが。)
そんなイエネコも、こんなエキゾチックではなかったと思います。おそらく、瑞祥の生き物、まさに神猫として描いていたのではないでしょうか。
 
王府の絵師たちは、山口だけでなく武永寧(ぶえいねい)筆の同じ神猫図2作品があり、明治に入ってから、王府の絵師だった仲宗根眞補(唐名:査丕烈)(なかそねしんぽ(さひれつ))が山口の神猫をアレンジした「月下神猫図」を描いています。その図像は現存作品3点、古写真1点が今に伝わります。代々、長毛種のネコを描き続けていたようです。
 
(おまけ)
最後に筆者の家にいた「神猫」です。
 
猫の画像
 
山口の神猫に似ていますね。
親類からは、筆者が文化財の仕事をしているから、やってきたのでは?といわれました。
病気で、また天に召されてしまったのですが、いつか、再び現れるのでは?と思っています。
 
特別展「琉球」は平成館2階特別展示室にて6月26日(日)まで開催しています。

【参考文献】 
上江洲安亨「志賀重昂が残した琉球の宝 ~首里城北殿 扁額『高牖延薫』について~」(『琉球の美』 岡崎市美術博物館 2019年5月)
上江洲安亨「呉師虔筆「神猫図」をめぐる一考察」(『國華』第1487号 國華社 2019年9月)
 
 
 

カテゴリ:「琉球」

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posted by 上江洲安亨(沖縄美ら島財団副参事) at 2022年05月24日 (火)