このページの本文へ移動

1089ブログ

ギュウギュウな展示を解説しちゃウシ

こんにちは。研究員の高橋です。
特集「博物館に初もうで ウシにひかれてトーハクまいり」も、残すところあと数日。
展示はモーご覧になりましたでしょうか?


牛水滴 渡辺近江大掾正次作 江戸時代・17世紀

じつはこの特集、いたるところにさまざまな小ネタが仕込まれています。
例えば、次の章立てタイトルをよく見てみてください。何か気づきませんか?

第1章 牛にまつわる信仰史
第2章 牛と共同した暮らし
第3章 牛車と王朝の様式美
第4章 描写された牛の姿形

すべて平仮名にしてみるとわかりやすいかもしれませんね。
そう。よく見ると、4つの章立てタイトルすべてに、【ウシ】という言葉がまぎれ込んでいるのです。

信仰史【しんこウシ
共同し【きょうどウシ
様式美【よウシきび】
描写【びょウシゃ】

こんなかんじで、遊び心をふんだんにちりばめた展示ですが、出陳されている作品数もかなりのもの。
広くはない展示スペースに、60件もの牛にちなんだ作品たちが、ひしめきあっています。
(ちなみに「ひしめく」は「犇く」と書きます。牛×3!)


「第4章:描写された牛の姿形」展示風景

とくに、第4章の展示ケースはまさにギュウギュウ。ちょっとですね(笑)
なんと、本来はここに展示予定であった、第4章のメインの作品も並べるのが難しくなってしまいました。
そこで、ちょうど表具の「片輪車」が共通することから、お隣の牛車コーナー(第3章)に移したのでした。


重要文化財 駿牛図断簡 鎌倉時代・13世紀

そのメインの作品というのが、こちらの「駿牛図断簡」(すんぎゅうずだんかん)です。
牛車を引く優れた牛を描いた作品で、元は絵巻だったものが切り取られ、掛軸に表装されています。
後ろを振り返る美しい牛の姿から、名付けたニックネームは「見返り美牛図」!

絶妙な墨の濃淡によって牛の立体感を見事に表し、筆線を引き重ねた細部描写もたいへん緻密です。
数ある牛の絵のなかでも、その優美さはピカイチといってもよいのではないでしょうか。


駿牛図断簡 拡大図

さて、今回の特集は、すべてトーハクのコレクション(収蔵品)で構成されています。
トーハクには膨大な数の収蔵品がありますが、ふだん展示で使用されるのは、じつはそのほんの一部です。
そのなかで、今回のような「テーマ展示」は、収蔵品の新たな活用という面で、有効な切り口となります。

例えば「牛」というテーマであれば、ふだんの名品展とは違う角度から、作品に光を当てることができます。
とくに本展では、これまで一度も展示されていない作品や、出陳履歴の少ない作品を積極的に発掘しました。
そして発掘した作品はなるべく多く出したい!と思った結果、このようなギュウギュウ展示となったのです。


今回が初出陳となる屏風作品
右:四季耕作図屛風(模本) 江戸時代・19世紀 原本:伝狩野元信筆 室町時代・16世紀
左:四季耕作図屛風 江戸時代・17世紀

作品との思いがけない出会いにより、改めてトーハクと縁を結んでほしい、という想いを込めたこの特集。
「密」に対して過敏な昨今ですが、ケース内に密集した牛たちは、じつにほのぼのとした表情をしています。

人の営みを傍らで支え続けてくれた牛のように、本展をはじめとするトーハクのさまざまな試みが、今後の新たな日常を支える、ささやかなきっかけになれば幸いです。

 

博物館に初もうで ウシにひかれてトーハクまいり

本館 特別1室・特別2室
2021年1月2日(土)~2021年1月31日(日)
ウシにひかれてトーハクまいりのイメージ画像

 

 

カテゴリ:研究員のイチオシ特集・特別公開

| 記事URL |

posted by 高橋真作(文化財活用センター) at 2021年01月22日 (金)